第3話 咲き始める恋心

 倫太郎は本屋でバイトをしている。

 書店で本を並べていた。倫太郎は背が高いため、背が低い虎沢とらざわえみから高い本棚に本を入れるように頼まれていた。


「小岡越前の漫画ありませんか?」

 大岡越前のパロディー漫画が人気だ。倫太郎はお客さんに案内をする。

「はい! こちらでございます」


 倫太郎は本屋の店員をしている。すると向かいのお客には虎沢が助けに入る。小さな書店には大岡越前おおかえちぜんの漫画がおいてある。そして、倫太郎は見た。本屋でBL漫画を手にしている女子生徒を見た。あれは……中条遥だった。


(……BL漫画? 衆道の小説を手に取るとはなかなか変わった趣味をなさっている?)


 嬉しそうだ。

 またフフッとはにかみながら、BL漫画を本棚に戻した。倫太郎は思う。なんだか、遥さんはかわいい人だ。


「この漫画を買おうかな〜」

「あ」





 倫太郎が会計のときに居た。

 遥は凍りつく。気まずいまま本を会計した。ブックカバーもつけてくれた。遥は帰り道を行く。菜月は彼氏のところじゃないかな。と言うより、倫太郎が会計をしてくれた。密かに倫太郎にBL漫画を購入したのがバレてしまった。


「バレちゃったかな……」

 今更撤回するのも億劫だ。

 倫太郎は本屋でバイトをする、本が好きな青年。良さそうな人だ。けれど、その時、雅治からメッセージアプリが鳴った。


『今日は花恋が用事ができたから行けなくなったんだ。予定が台無しになってごめんな』


「……いいよって送るか」

 いくら思いを馳せても、無意味なのだろうか。一人暮らしだから、帰ったらBL漫画でも読んで料理作りに徹するか。帰宅すると玄関にお弁当をぶら下げていた青年がいた。五階に上ろうとしていたら、遥の玄関に人影があった。


(……だ、誰?)


 遥は思う。誰なんだ、怖すぎる。変な男は走って、逃げる。勇気を奮って声を掛ける。


「貴方、なんなんですか?」

「……バレちゃったか」


 足が竦む。遥は後退した。


「警察に言いますよ!」

「君にそんな事できるの? 弱虫な子が?」



 倫太郎はようやく仕事あがりになる。

 倫太郎は愛知県から上京して、現在は賃貸の住宅で一人暮らしをしている。帰り道に遥を見た。また危ない。


「中条さん!?」

 倫太郎は一瞬ハッとする。


「この糞女が! 俺に振り向かないから行けないんだ!」

 男は言い始める。

 倫太郎は男に向かって啖呵を切った。


「いい加減にしろ! この女性は嫌がっているだろう?」

「……は?」


「此奴、誰だ?」

「知らない人です!」


「お嬢ちゃんを渡してもらおうか?」

「お前のような者には絶対に渡さん!」


「チッ!」


 倫太郎は自分に降りかかる拳を受け止め、腕をつかみねじ伏せる。顔を見ると本屋でウロウロしている男だった。動機は遥が可愛かったからで、犯人は遥のストーカーだった。


 倫太郎も遥の両親に電話に代わるとすると「金は出すから、今すぐに引っ越せ」と電話越しで言う。遥は震え声で電話をしていた遥の、ご両親の消え入りそうな、心配そうな声が聞こえる。


 数時間後に犯人は逮捕された。

 遥は数日経ったら、引っ越しの日が来る。今日の一件で倫太郎は、ほぼ満身創痍で、放心状態だ。倫太郎はゆっくりと湯船に浸かって、疲れた体を休める。


 ドライヤーで髪を乾かして、冷蔵庫に冷やしてあった牛乳を飲んでソファーでゆっくりする。するとピンポーンと鳴る。


「はい?」


 眼の前に居たのは遥だった。


「り、倫太郎くん?」


「こんな遅くに俺に用事でも?」

「……夜分遅くにごめんなさい。倫太郎くん、今日の事で、すごく疲れたでしょう? あんまり大したものでないけど、これ、どうぞ」


「俺に礼などいりませんが……ご厚意ありがとうございます」

「これから俺は寝ます。おやすみなさい」

「そっか。おやすみなさい」


「倫太郎くん!」

「はい? なんですか?」


「お引越ししても、倫太郎くんにまた会いに来ても良い?」

「……俺に会いに?」


「わたし、勝手に倫太郎くんの顔見たくなっちゃったから……ごめんね、おやすみなさい」


「……?」

 扉をバタンと閉める。

 ベッドで眠っている。そのまま眠りに落ちる。

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サムライ高校生、恋をする。 朝日屋祐 @momohana_seiheki

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