第5話 自宅訪問



 尾道さんと別れた後、僕たちは電車を乗り継ぎとある高級住宅街へと足を運んだ。


「いや、なんというか」


「うん、僕らには一生縁がなさそうな場所だね」


 辺り一面スケールのおかしい家々が立ち並ぶ一角で。

 場違いにも、恐れ多くも、僕たちは高そうなタイルの上を歩いている。


「名立たる成功者たちの巣窟だなこれは」


 カズヤは口を開けたまま呆けたような面をしながら呟く。

 今更ながら僕たちは身の丈というものを理解し。

 これから向かう予定の毒嶋さん宅への足がプルプルと笑ってしまう。


「カズヤ、本当にアポなしで行くのか?」


「しょうがねえだろ。会社に直接連絡するわけにもいかないし」


 一応カズヤは事務所を出る前、毒嶋さんに一報を試みたらしい。

 自宅電話や個人のパソコン、それにどこから入手したのか個人ケータイにも連絡したが返信はなかった。


 散々警察に事情聴取を受けて警戒しているのかもしれない。

 そのうえ職場にまで邪魔をしたら、風評被害を受け、会社経営に障害が生じる可能性もある。

 僕達に権力を行使する力はないのだ。



 そんなこんなで僕たちは毒嶋さんの自宅前まで来たわけだが。


「さてさて、俺達と会話に応じてくれるかどうか……」


 言いながらカズヤはインターホンを鳴らすと。

 程なくして、返答があった。


『はい、どちら様で?』


 それはトーン低めの男性の声。

 声からして僕たちを煙たがってそうな雰囲気だった。


「初めまして。わたくし難波探偵事務所の者ですが」


 と、カズヤが物腰柔らかめに告げると。


『探偵?』


 あからさまに疲れたような溜息と嫌そうな口調で男は返す。


『……帰ってくれませんか。要件は椚木 真理の事でしょ? 昨晩も警察に嫌というほど事情聴取を受けたんでね。もういいでしょ』


 やはりという感じで、まるで僕たちを相手にしようとしない。


「あまりお時間は取らせませんので、少しだけでもお話を……」


 と、カズヤが言い切る前にインターホンは遮断されてしまった。


「ん~やっぱダメかぁ」


 カズヤは首を振りながら毒嶋さんの家を去ろうとすると。

 ふと、白ちゃんは玄関の前に立ち、ジッと扉を見つめる。


 すると突然、扉にかかっていた鍵が解錠されたのだ。


「おっ、鍵が開いた。話を聞く気になったのか?」


 もちろん白ちゃんが勝手に鍵を開けただけだが、そうとは知らないカズヤは息を吹き返したように嬉々として玄関の扉を開けた。


「すいません、お邪魔します」


 すると当然、家の主は予期せぬ事態に慌てた様子で駆けつけるだろう。


「な……ちょっとあんたら、何勝手に入っているんだ!」


 はい、予想通り。


「え、毒嶋さんが開けてくれたんじゃ?」


「そんなわけないだろう! ……誤作動でも起きたのか? いやでもなんで急に」


 ブツブツと冷静ではない面持ちでごちながら。


「とにかく出てってくれ! 君たちと話すことなんてない」


 よほど警察の取り調べが堪えたのか、初見の僕たちを目の敵として追い払わんとする。


 そんな中、皆の横を素通りしてスタスタと家の中へ侵入する白ちゃん。

 そして突き当りまで進んだ後、彼女は僕のほうへ振り返り目を合わせる。

 まるでついて来いと言わんばかりに。

 正直、ここまで積極的な彼女は初めて見た。

 いつも僕の家で引きこもっている子が、今日はやけに行動的だ。


 ……もしかして、彼女は何かを感じ取ったのだろうか。

 この家に何かあると、僕に訴えているのだろうか。


「おい君、聞いているのか? いい加減出て行かないと不法侵入罪で裁判沙汰に――」


 っと、まずはこの状況をなんとかしないと。


「あの、ホントすぐ帰るので少しだけ……10分だけでもお時間をもらえませんか? わずかでも事件についての情報がほしいんです」


 僕は多少強引に彼を説得し。

 しばらく苛立ち混じりの沈黙が流れ。


「……本当にすぐ帰ってくれよ?」


 仕方なくと言った様子で、毒嶋さんは僕たちを客間へ案内してくれた。



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