第4話 姿なき友人の声
夜な夜な友人の声が聞こえるという尾道さんの話を聞いて、いよいよカズヤが僕を呼びつけた理由が分かった。
そういう、心霊現象に精通している僕に任せたかったのだろう。
僕は生まれつき霊感がある。
先祖が名のある霊媒師だったらしく、おかげ様で僕も日常的に死者が見える。
見えてしまう。
そのせいで度々厄介事に巻き込まれるのだが。
けれどそれ故に分かる事もある。
死者の訴えが、実態無き証拠として存在するのだ。
「なるほど、非科学的で不確かな話って、警察も範囲外だもんね。相手にもされないだろう」
僕がそう言うと、尾道さんは俯きより一層暗い表情を見せた。
まるで「あなたも信じてくれないの?」と言っているようで。
「一応、僕はスピリチュアルな話も信じるよ。そういうの慣れっこだから」
「はい……それを期待してこの探偵事務所に依頼をしました」
「えっ?」
僕は疑問に思った。
なんで無名の探偵事務所に心霊的悩みを相談出来ると思ったのか分からなかったから。
僕は再びカズヤに視線を向けると。
「ほら、俺らのホームページに付け加えたんだよ」
と、パソコン片手にディスプレイを近づけてきた。
そのトップページ下部には『心霊現象でお悩みの方も解決致します』と小さく書かれていた。
「おい、何勝手に更新してんだよ」
大した実績もない探偵事務所なのに、これじゃあ余計怪しく見えるだろ。
そう思ったが。
「少しでも需要があったほうがいいだろ? おかげで一人、お前を頼って足を運んでくれたんだからさ」
などとカズヤは軽く言うのだ。
たしかに、尾道さんはそのワードにすがって僕たちの元へやって来た。
けど僕はあいにく霊媒師とかじゃない。
マジもんの除霊なんか出来ないのに、よくもやってくれたもんだ。
「あの……それで」
と、そうこうしているうちに、痺れを切らした尾道さんが尋ねてきた。
「ああ……ごめん、そうだね。事件とは別に、君の悩みのほうも聞いていこうか」
まあ、なんだ。
彼女も人に言えない悩みを抱えて来たわけだ。
その気持ちも汲んで、僕に出来る範囲なら協力するべきだろう。
そう思い直し、僕は再び彼女と向き合った。
聞くところによると、尾道さんの友人であるマリさんの声が聞こえるようになったのは五日前のこと。
ちょうどマリさんが失踪した日と被る。
そしてその声は毎晩午前二時を回った辺りで聞こえるという。
丑三つ時にありがちな心霊現象だ。
しかし、妙だ。
霊を呼び寄せる人というのは少なからず反応がある。
対して尾道さんからは一切それが感じられないのだ。
とするとマリさんの声は、尾道さんの精神的不安が生んだ幻聴という線も浮上する。
けど……。
「失踪する前、マリが言ってたんです……。父親がギャンブルで作った借金を肩代わりしてくれる人がいるって。それでマリ、お金のために毒嶋さんとよく食事に行ったり、その……ホテルにも」
彼女の友人を想う気持ちを無下にも出来ない。
可能な限り調べてみる必要がある。
「とりあえず、その毒嶋って人に会ってみようかな」
僕がそう提案すると。
「そう言うと思って、所在地調べておいたぜ」
分かっていたように、カズヤは準備を整えていた。
「じゃあ尾道さん、僕たちこれから調査に行くよ。それからもし今晩も友人の声が聞こえてきたら、僕に連絡してくれる?」
「わかりました。よろしくお願いします」
僕は尾道さんとケータイ番号を交換し、一旦彼女を帰す。
そして僕達も身支度を整え、いざ事務所を出ようとすると。
「……?」
やっぱりというか……白ちゃんが僕の後についてくるのだ。
「白ちゃん……」
「あ? しろちゃん?」
あ、そっか。カズヤには見えないんだった。
「いや、なんでもない。じゃあ行こうか」
こうして彼女を含めた僕ら三人は、目下の手がかりである毒嶋という男性の自宅へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます