#298 深まる謎
アガレスの大穴へと突入してすぐ、厨二がステッキで肩を叩きながらこちらへと顔を向ける。
「さぁて、村人クン。一階層でやるべき事は何か分かるかナ?」
「一階層……?
「プレイヤー狩り♡」
ああ、と内心ドン引きしながらもその合理的過ぎる思考に変な笑いが漏れる。
一階層。それはアガレスの大穴に突入したプレイヤー達が等しくアイテムを持ち込めない状況にあり、
ランダムドロップ品でも、【黒鉄の灯火】のように強力な効果を発揮する装備は存在する。そう言った強力なアイテムを手に入れる前に、ライバルの数を減らすというのは理にかなっている。
加えて、装備品は持ち込めないと言えど、
転移の巻物はいざという時の緊急脱出に役に立つし、後半二つは言わずもがな、このコンテンツを攻略する上での最重要物資と言っても過言じゃない。
まさに一石二鳥、だがそれは、PVPで必ず勝つ自信があるプレイヤーがするムーブだ。
「鬼だな、お前」
「なぁに言ってんのサ。これはPVPモードだよぉ? 仲良しこよしごっこがしたいのなら大人しくPVEモードに行きなってねぇ」
「ま、それもそうだな」
昨日のデスワさんとの出会いだって、言ってしまえば向こうが白旗上げたから同行したに過ぎないしな。
本来であればこれはPVP。出会い頭に殺されても文句は言えないルールでやっているのだ。
ならば、そのルールに則って極めて合理的なムーブをしたって構わないだろう?
「村人クンも大概悪い笑み浮かべるよねぇ」
「お前程じゃねぇっての」
厨二とそんな会話をしながら、共に迷宮内を探索し出した。
プレイヤーの索敵をしつつ、迷宮内に落ちているアイテムの回収を進めていきながら、情報共有をしていく。
アガレスの大穴で手に入るアイテムの種類は大きく分けて三つあり、一つ目は地面に落ちているタイプの物。これは地面にそのまま直置きされているので回収が楽だ。また、自生している植物なんかもこの種類に該当する。しかし、一見すると罠のようにも見えるので、下の階層に行くにつれて気を付けた方が良いのかもしれないな。
二つ目は宝箱タイプの物。地面に置かれているタイプのアイテムよりもレアリティが高い物が出やすく、中には強力な効果を持つアイテムを入手出来たりする。一応、特殊な例としてミミックが存在するのでこれもまた気を付けなければならない。
三つ目は敵モンスターを倒した時に低確率でドロップするタイプの物。これが一番入手の上で安全だろう。モンスターを倒した時点でその場に落ちるので、罠等の心配は無いしな。厨二曰く、レアリティは上から下まで全ての物がドロップするらしい。
つまり、レアリティだけの面で見れば宝箱>ドロップ>直置きの順になる。
宝箱を見つけた時は率先して開けていきたいし、それこそ厨二が言っていた空腹度減少無効のお守りが手に入れば攻略が格段に楽になる。
敵を適度に倒しつつ、宝箱を探していく方針で進めていくのが基本のムーブだろう。
「村人クン。早速獲物が見つかったよぉ」
曲がり角が正面に見えてきた所で、小声で囁く厨二。視線をそちらへ向けると、丁度そこには二人組のプレイヤーの姿が。
どうやらこちらにはまだ気付いていない。仕掛けるなら今か。
「ま、村人クンは適度に後方支援よろしくねぇ」
「了解、前線は頼むぜ」
敵プレイヤー達の下へと駆け出した厨二の後を追う。
厨二が彼らのすぐ近くまで接近したところで、ようやく気付いたのか慌てて戦闘態勢に入る二人組。
「な、なんだやるのか!?」
「ちょっと構えを取るのが遅いかなぁ。もっと判断を早くしないとネ」
向けられた杖に物怖じせず、厨二は手に持っていたステッキで正面に立つプレイヤーの後頭部をフルスイングする。
スカァン!と心地の良い打撃音が響き、後頭部に一撃を貰ったプレイヤーは【気絶】状態が付与され、白目を剥いた。
「クソッ!」
それを横で見ていたもう一人のプレイヤーが、所持品から転移の巻物を引っ張り出して発動しようとする。
「
「良い判断、でも、
厨二はステッキを両手で握り、鋭く喉に突き刺した。貫通こそしなかったものの、喉を潰されたプレイヤーはその不快感に思わず手に持っていた転移の巻物を床に落としてしまう。
首を押さえて蹲るプレイヤーの側頭部を、厨二が力強く蹴り飛ばすと、床を転がっていく。
余りにも一方的な攻勢に、俺は思わず呟いた。
「……これ、俺いる?」
「打撃系は行けるんだけどさぁ、決定打に欠けてねぇ。村人クンにはトドメの一撃を担当してもらおうかなぁと」
「美味しいとこ取りみたいでなんか嫌だな……まあこのパーティ構成的にそれがベストか」
ステータスが上がったり、ある程度装備が整えば話は変わってくるが、初期装備の今はその立ち回りが最善だろう。
急所に向けて矢を放ち、プレイヤー達がポリゴンへと変わっていくのを見届けながら、床に落ちたアイテム類を回収していく。
首をポキポキ鳴らしながら、厨二がにっと笑みを見せる。
「食料についてはこれを繰り返していけば暫く何とかなりそうだねぇ」
「……思ったんだが、これ最初で潰し過ぎても駄目なんじゃないか? ほら、他のプレイヤーが居なくなればこの手法は使えなくなるだろ? 序盤で食料を集めまくれてもその後の階層で食料を確保出来なきゃ後で詰まないか?」
「ところがどっこい、マッチングは10階層毎に行われるから新鮮な生贄が補充されるのサ」
「うわぁ……そうなのか」
って事は後半になるにつれてPVP行為は旨味が増していく、と。
うーん上手く出来てるな、このシステム。確かにPVPに自信があるのならこっちのモードの方が安定して攻略出来るのかもしれない。
「自生してる果実の量が限られてる以上、適度にPVPしなきゃやってられないな」
「PVEモードなんか、結局食料問題で揉めて実質PVPみたいになってる、みたいな話もあるみたいだしねぇ」
「容易に想像できるのが怖いな」
所持品にも上限がある以上、食料を分配せずに独占した結果、一人だけ生き残ってアイテム独り占め、みたいな状況も作り出せるしな。PVEなら他人に手出し出来ないから、そうなった時点で詰みだ。
「それに、PVPモードの方が難易度が高い分良いレアリティのアイテムが落ちやすい、みたいな話もあるみたいだしねぇ。PVP畑の人間からしたらこっち一択になるよネ」
「だな」
そんな話を聞いたら余計PVEモードでやる気が無くなるな。PVEモードはPVPが苦手な人向けの救済措置なのだろうし、多分PVPモード限定のアイテムなんて存在しないだろうから、大人数で協力して攻略したい人間はそちらでどうぞ、という運営のスタンスなのだろう。限定アイテムは基本荒れるのが目に見えてるからなぁ……。
「さて、次の獲物を探そうか。彼らが食料を食べてしまう前に狩らないとネ」
そう言って先行した厨二の後を付いていこうとした、その時だった。
一歩足を踏み出した途端、カチリ、と足元から音が聞こえてきた。
「やっべっ!?」
ふと脳裏に過ぎったのはポンが以前使っていた【地雷設置】。
罠を踏んでしまい、そのまま爆発──何てことにはならなかったが、魔法陣が展開されて強い光を放ち始める。
「村人クン、
慌てて厨二がこちらに手を伸ばしたが、時既に遅し。
強すぎる光が周囲を埋め尽くし、俺の視界が一瞬にして切り替わった。
◇
「あっちゃあ……やっちゃったねぇ、これ」
説明するのを忘れてた、と厨二は頭を押さえる。
アガレスの大穴──というより、ファイバレルから連なる迷宮には、地面に設置されている罠が存在する。
低階層ではあまり見ないのだが、まさか一階層から踏んでしまうとは想定外だった。
「転移罠にも二種類あって、一つはモンスターハウスに直接テレポートする物、そしてもう一つが
もしモンスターハウスにテレポートしようものなら、PVP分の経験値しか入っていない彼が勝てる道理はない。だが、まだ厨二の視界には村人AのHPバーが表示されている。
簡単に死ぬような人間では無い事は分かっているが、HPの変動が一向に起きない事から、厨二は感嘆の吐息を漏らした。
「やるねぇ、彼。一発目で隠し部屋を引き当てたかい」
隠し部屋の原則として、そこに置かれている宝箱を回収したら元の場所へと戻ってくる事が出来る。
ならば、今取る選択肢はここで待つ、それ一択だ。
一度だけ隠し部屋を訪れた事がある厨二は、意味あり気に微笑んだ。
「君は
◇
「なんだここ? ……隠し部屋か?」
周囲の光景が切り替わると、そこはこれまでの坑道のようなエリアとは全く異なる、不気味なほどに白い部屋だった。
正面には宝箱。罠か?と勘繰るが、恐らくそれは無いだろうと直感が告げる。
一応、他に何か無いかと辺りを見回すと、白い部屋だからこそ目立つ明らかな異物を発見し、思わず目を見開いた。
「……どういうことだ、これは?」
見覚えがあり過ぎる
触れてみた感じ、材質も間違いなく、俺が
眉を顰め、そこにあった物の名前を口に出す。
「────なんで、ここに
地上にあった天をも貫く巨大な塔──バベルが、アガレスの大穴にも伸びていたのだ。
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