#297 臨時攻略パーティ結成と、その背を追う影


「さて、今日も今日とて検証していきますかね」


 本日もやってまいりましたアガレスの大穴。

 検証するだけなら一人でも大丈夫だが、折角なら二人以上で検証できる事も試してみたい。

 そう思い、一応フレンド欄から誘えそうなフレンドを探してみたが、ポンはソロで行動中、ライジンは恐らく動画編集中、シオンと串焼き先輩はAimsの追い込み、ボッサンは多分残業、厨二は既にアガレスの大穴に潜行中、と……。


「となると誘えるのがRosalia氏、デスワさんか……」


 Rosalia氏は多分クランの方の活動があるだろうから気軽に声掛けらんないしな……デスワさんもファイバレルには居るらしいが、どうやらフレンドと居るみたいだし……うーむ、どうしたものか。


「おや、こんな所で会うとは。奇遇だねぇ」


「ん?」


 どうしようか悩んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきたのでそちらに顔を向ける。

 すると、つい先ほどフレンドリストを確認した際にはアガレスの大穴に行っていた筈の厨二がそこに居た。


「あれ、厨二?」


「たった今餓死して来た所サ☆」


「満面の笑みで言うような事じゃないと思うんだが?」


 目の横でピースしながら厨二が言ったので、顔を引き攣らせながらそう返す。

 まだ餓死は経験していないからどんな感覚なのかは分からないが、掲示板の反応をちらっと見た限りあまり経験したくは無い感覚に襲われるという。流石に家事使用人ハウスキーパーに轢かれるよかマシだとは思うが。

 そうだ、忘れかけてたけど食料問題についても解決しなきゃいけないんだよな。今日の検証項目に追加しておくか。


「因みに厨二って何階ぐらいまで行った感じ?」


「んー? 最高で40階だねぇ。この前ライジンと一緒に潜ってた時、そこまでは行けたんだけど……流石に食料が足りなかったよねぇ」


「あー……やっぱそこに行き着くのか」


 ある程度プレイヤースキルがあったり、ローグライクゲーに慣れてる人間はそれなりの階層まで到達出来ているらしいが、結局食料が足りず泣く泣く撤退、みたいな流れになっているらしい。

 厨二達もその例に漏れず、食料問題で撤退する羽目になったのか。それでも40階まで到達しているのは流石のゲームセンスと言うべきか。

 うんざりとした様子で、厨二は肩を竦めると。


「NPCの最高到達階層が50階らしいから早く到達したいんだけどねぇ。まぁ食糧問題については運が絡んでくるから仕方ないかナ」


「なんか対策とかしてんのか?」


「対策と言うか運要素が強いんだけど……村人クンってもう『お守り』は手に入れたかい?」


「お守り?」


 迷宮探索とはあまりにも場違いな単語に首を傾げると、厨二が首を指差す。


「首装備のネックレスみたいな装備なんだけど……その中の一つに、って装備があってねぇ」


「は?」


 いやなんだそれチート装備じゃねえか。アガレスの大穴に挑んでいるプレイヤー達からしたら喉から手が出る程欲しい代物なんだと思うんだが……。


「ま、レアリティがレジェンダリーだからそもそもの入手確率が絶望的なんだけどねぇ。かくいう僕もそれなりの回数潜ってはいるけど、一回しか手に入ってないから、別の手段を考えるべきだと思うよぉ」


「そうか……」


 思わぬ突破口に希望が見えたと思ったが、やはりそう簡単な話では無いようだ。

 肩を落として落胆していると、厨二がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「と、ここで一旦落としておいて、君に良い情報を教えてあげよう」


「ん?」


「僕が40階層に到達してから帰ってきた後にねぇ、迷宮ギルドに寄ったら……面白い情報が貰えてね」


 ふっふっふ、と人差し指を立てながら、ウインクする厨二。


「50階層を踏破出来たら、そうだよぉ」


「……ッ!」


 アイテムの持ち込み許可。その余りに甘美な響きに、思わず生唾をごくりと飲み込んでしまう。

 今持っている装備品の中から一つだけでもアイテムを持ち込めるとなれば……難易度は劇的に変化するだろうな。

 今ある手持ちの中からどんなアイテムを持ち込むのが最適か考えていると、厨二が補足するように。


「前人未踏の50階層以降のフロアは、未だ未知だらけサ。迷宮ギルド側からすれば、少しでも未到達階層の開拓を進めて欲しい訳だねぇ。だからこそ、そこまで到達する実力を秘めている探索者にだけ、所持品の持ち込み制限が緩和されるってワケなのサ。元々、迷宮の持ち込み制限はギルド側が禁止している、って設定みたいだしねぇ」


「でもたった一つだけ……いやでもその一つが大きいんだな。……それこそ、さっき言ったお守りを持ち込みさえすれば……」


「そう、一階層から空腹度を気にせず迷宮に挑戦できるってワケ。ま、当然死んだらロストだから運用素は以前強いままなんだけどネ」


 腕を組んでうんうんと厨二は頷くと、いつもの胡散臭い笑みに変わる。


「という訳で村人君、僕から言いたい事があるんだけどぉ?」


「ま、この話を俺にしたって事はそう言う事だわな」


「うーん話が早くて何より。じゃ、僕ら二人で」


 指をパチンと鳴らし、厨二が笑みを深める。



「──50階層、サクッと踏破しちゃおっか?」


 

 こうして、俺と厨二によるアガレスの大穴攻略が始まった。





 ──同時刻。


 噴水広場にて、二人組の男女のプレイヤーが村人Aと厨二が歩いてこの場を去っていくのを見ていた。


「宜しかったのでしょうか、お嬢様」


「何がですの?」


「彼をお誘いし、あの迷宮に挑戦するおつもりだったのでは?」


「ハァーッ、分かってねぇですわね、爺や。こういうのは簡単に協力するよりも、競合する相手として競い合う方が面白れぇんですわ」


 執事服に身を包んだ老紳士のプレイヤーに、グランデ・スワーヴは不敵な笑みを浮かべながら答える。


「彼らに付いていきますわよ。運が良ければ、どこかの階層で彼らと戦えるかもしれない」


 グランデの言葉に、爺やと呼ばれたプレイヤーは身に着けていた白い手袋をぐいっと引っ張りながら、獰猛な笑みを見せる。


「ふふ、戦い、ですか。──年甲斐も無く、血が騒ぎますな」


「なぁに言ってんですの。爺やはまだまだ現役じゃありませんの」


 呆れたようにグランデがそう言うと、老紳士は獰猛な笑みを潜め、にこやかな表情へと戻る。

 グランデは再び村人達が去っていった方を見ると、スッと目を細める。



「彼らはPVPの猛者。相手にとって不足無しですわ。──爺やによる、させて貰いますわよ」



 ──は悪意では無い。極めて純粋な好奇心が、彼らの背を追う。

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