#295 ワクワク! 野郎共の尋問タイム
「ライジンに送る情報はこんなもんで良いか」
ARデバイスを操作し、要点だけまとめた情報を送信。
あの考察厨の事だ、きっと情報をまとめ次第有益な情報を出してくれることだろう……と満足していると、先ほど紺野さんに送ったメッセージの返信が返ってくる。
唯『……その、母がご迷惑をおかけしていなかったでしょうか……?』
渚『軽く話しただけだし、外泊許可は貰えたから大丈夫。うちの親は即OK出してきたから安心して行けるよ』
唯『良かった……。週末の旅行、楽しみにしてますね』
渚『うん、楽しみにしてる』
それでメッセージのやり取りが終わると、紺野さんが可愛らしいアニメ調のキャラクターのスタンプを送信してくる。おっ、これ確かボッサンの嫁のしんぼるさんが描いてる奴じゃん。良いね。
と、そこで紺野さんに聞いておきたかった事を思い出して「あ」と声を漏らす。
渚『そうだ。今SBOでアガレスの大穴ってコンテンツに挑んでるんだけど、一緒にどう? やってみた感じ、二人での攻略が一番安定しそうなんだよね』
唯『是非ご一緒したい!……と言いたい所なんですが、実は私の方もやりたいことが出来てしまって……』
渚『やりたいこと?』
珍しい、ポンは大体誘ったら一緒に行ってくれるイメージが強かったんだけど。
でも本人がやりたいことがあるならそれを尊重した方が良いしな。残念だが仕方ない。
ライジン辺りを誘ってみるか……と考えていると、紺野さんからメッセージが返ってくる。
唯『実はとあるクエストを受けてまして……その内容が、他言厳禁なので詳しくはお伝え出来ないんです。他の人に伝えた場合、クエストそのものが消滅してしまうらしくて……』
「なんじゃそりゃ」
ええ? クエストが消滅? なんか知らない内にとんでもないクエストを受けてるな。
でもますます興味が湧いてきた、少し深堀りしてみるか。
渚『因みにそのクエスト、どこで受けたかみたいなのは聞いても大丈夫?』
唯『多分そこまでの制限は無いと思うので……大丈夫かと。場所は、【龍脈の霊峰】の山岳ルートです』
「マジかよ」
【龍脈の霊峰】の山岳ルートと言えば凄まじい気圧と、極寒の環境下での登山を要求される高難易度ルートだ。よっぽどの目的が無い限り、火山内部のルートを通る筈なんだが……。
渚『なんか知らない内にとんでも無い事やってるね』
唯『実は、そのクエストを受けられたのもたまたまだったんです。限界まで加速したらどこまで登れるのか興味本位でやってたら……』
「えぇ……」
なんか検証勢みたいな事してるな。一体誰の影響を受けた事やら……俺か? 俺なのか!?
まずい、ポンは俺らみたいな変人に染まってはいけない……。ただでさえ数少ない良心枠が汚染されてしまう……。
渚『何かあれば手伝うから言ってね』
唯『ありがとうございます! ただ、このクエストはソロでやらなきゃいけなくて……』
渚『マジか、ソロオンリー?』
唯『はい、そうなんです……。私も本当は渚君と一緒にゲームしたいんですが、しばらくソロで奮闘します!』
渚『了解。頑張ってね』
頑張ります!とまたしんぼるさんのスタンプで返信が返ってきたのを見てから、メッセージウインドウを閉じる。
紺野さんも面白そうな事してるなぁ、俺も機会があったら【龍脈の霊峰】の登山に挑戦してみるか。
身体を起こし、一つあくびをしてからそのままVRマシンの方へと向かう。
「フルダイブシステム・オンライン」
結局、その後も夜遅くまでアガレスの大穴の検証を続けるのだった。
◇
次の日。
「よぉ~う日向ァ~! 今日もやってきたぜぇ、誘導尋問の時間がよぉ~!」
「自分から誘導尋問って言うパターン初めて聞いたわ」
「そうやってはぐらかせるのはいつまでだろうなァ~? 今日こそは聞かせてもらうぜぇ~? 紺野さんとの関係性をよぉ!!」
その言葉と共にドン、と机の上に置かれる合計5つの焼きそばパンと3つのかつ丼、そして牛乳(瓶)。
圧倒的炭水化物の暴力に顔を引き攣らせながら、野郎共の方を見る。
「うちの購買と学食、毎日激戦区なのによくやるなぁ」
「へっ、こんなの造作もねぇぜ。裏切り者の口を割る為ならよォ~!!」
「本音は?」
「俺達もあんな美少女とお近づきになれる方法が知りたいんだァ!!!」
わっ!と顔を覆いながらウソ泣きを始める大場達。
こんなだからモテねぇんじゃねえかな、とは口が裂けても言えない。言ったら最後、鼻からかつ丼を食わされる未来が見える。
ため息を吐きながら、机に頬杖を突く。
「あのなぁ……俺だって紺野さんがあんな美少女だとは知らないで今まで接してきたんだぞ。リアルの姿を知ったのだってつい最近の話だ」
「やはりネットなのか!? 今の恋愛はネットで出会うのが主流なのか!?」
「主流なのかは知らんし、そもそも紺野さんとはそういう仲じゃねぇ」
そもそもただのゲームのフレンドだぞ。出会い目的で知り合った訳じゃ無いし、それは紺野さんにも失礼な話だ。
呆れながらそう言うと、尋問部隊の一人がガッツポーズする。
「なら俺にもワンチャンあるのか!? 超絶美少女と付き合える世界線が存在するのか!?」
「馬鹿が! 抜け駆けは許さねぇ、俺が先に告る!!」
「はっ、これだから甘っちょれぇガキはよぉ。こういうのは引いて向こうから来るのを待つのが“大人”なんだワ」
「「「怖気づいて告白できなくて気付いたらカップルになってるのを3回も見てきた男が何言ってんだ」」」
「ぐはッ!?」
なんか飛び火してんぞおい。まあ見てる分には愉快だから良いけど。
「あー、そういうグイグイ来るタイプの奴は紺野さん苦手だから辞めといた方が良いぞ」
「かぁーッ! 出ました『俺だけは彼女の事を分かってるんだぜ』面! たかが数ヵ月ぐらい先に出会っただけでこれですかぁ!?」
「まあ確かに二年でその人の事を完全に知る事は出来ないわな」
「にににににに、二年!? 二年と申したでござるか!?」
なんでござる調になってんだよ。
紺野さんが花好きなのを知ったのだって、つい昨日の事だしな。彼女の人となりは知ることが出来ても、趣味とかそういった面を知るにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
俺がぼんやりとそんな事を考えていると、野郎共は戦々恐々とした様子でこちらを見ていた。
「なんだ、この日向の圧倒的余裕……!! 普通の奴ならもっと狼狽えても良い筈なのに……!!」
「狼狽えるも何も、最初から言ってるじゃん。ただの知り合いだって」
牛乳瓶を開けながら、そう言い切る。
……まあ、本当にただの知り合いなら週末に二人きりで旅行なんて行かないんだけどな、と心の中で思う。
それを言ったらマジで断頭台行きしてもおかしくはない。絶対に口を滑らさないようにしないと。
牛乳をぐびぐび飲んでいると、大場がパンと両手を合わせて俺に頭を下げる。
「頼む日向ァ! どうすれば女の子と親しくなれるか教えてくれぇ!!」
「取り敢えず所構わずトライしに行くの辞めたら?」
「ぐはッ!?」
「「「大場ァーッ!!」」」
極めて直球に伝えたつもりなんだけどな……大場の悪い癖。
こいつ、彼女欲しさに下心全開で女の子と接しようとするからいつまで経っても彼女が出来ないんだぞ。
「真面目な話、紺野さんとはどこまで進んでるんだ? 他の人は苗字呼びなのに日向だけ渚君呼びはもう別格だろ」
「そうだな、確かに気になる。内容によってはこうだが」
野郎共の一人が親指で首を掻っ切るジェスチャーをした。
それを見て乾いた笑いと共に顔を引き攣らせながら、思考する。
「んー……」
どうするか、あんまり嘘を吐き続けると露呈した時の反動がデカいだろうし、ワンチャン紺野さん経由でバレる可能性もあるにはある。
隣の部屋に住んでる、ぐらいなら羨ましいぐらいで済むかもしれないが膝枕で爆睡したなんて言おうものなら死刑判決が下されてもおかしくはない。
と、悩んでいると丁度飲み物を買って教室に戻って来たらしい紺野さんがこちらの姿を見てぱぁっと顔色を明るくする。
「あっ、渚君!
誰もが見惚れる満面の笑みでそう言い放った紺野さんの言葉に、その場に居た全員が硬直する。
俺はじんわりと掌に浮かぶ汗を感じながら、ゆっくりと足と手に力を込める。
「……一緒に……?」
「作ったァ……???」
「裁判長、判決を」
「判決:死刑・執行猶予無し。即実行を許可する」
「はっはァー!! 捕まえられるもんなら捕まえてみな非リア共がァーーー!!!!(ヤケクソ)」
「日向が逃げた! 追え!! 生かしては帰すな!!」
「あいつは身体能力が貧弱だ! どうせすぐに捕らえられる!!」
「ならば行けぃ! 体育会系!! 奴を捕らえて詳細を吐き出せ!!!」
「「おうさ!!!!」」
「廊下は走ると危ないですよ~」
こうして、ただでさえ騒がしかった教室が更に騒がしくなってしまった。
結局逃亡劇は数分しか持たず、俺は尋問の末泣く泣く情報を吐く羽目になったのだった。
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