#289 ハウスキーパー


 結論から言うと、デスワさんは一人でもやっていける程度には強かった。

 魔法使いだと自称しているのだが、明らかに近接戦闘の方が多い。本人曰く、いつもは後衛しか任されていないので新鮮ですわ! 最高にハイって奴ですわ! と言っていたが、本当にいつもは後衛しているのか?と疑ってしまうぐらいには前線で戦い続けていた。

 前線で戦ってくれるのなら俺も後衛職としてやりやすいし、別に文句は一切無いんだけどな。

 取り敢えずデスワさんに【黒鉄の灯火】を貸したまま戦って貰っているが、魔法関係の効果もあってか非常に大活躍していた。

 そんな調子で順調にアガレスの大穴を攻略していたのだが……。






「3人なら簡単に攻略出来る、そう思っていた時期が俺にもありました」




 現在アガレスの大穴5F。相対するは炎を纏った人型のモンスター……『フレイムマン』という名のモンスターの大群に大苦戦中だった。

 【黒鉄の灯火】を振って突風を起こしながら、デスワさんが吠える。


「現状炎がメインウェポンのワタクシには成すすべもありませんわ! ファ〇ク!!!」


「……うら若き乙女がすぐにそういう事言わない」


「リアルの分をこっちで発散しないとやってられねぇんですわ!!」


 なんか嫌だなぁ、そういう事情があるの。

 実はデスワさんってリアルはおっさんなんじゃねえかな、と思ったんだけどこのゲームって詐欺防止の為に性別詐称出来ないんだよな。それでポンも思い切ってリアル寄りの外見にしたらしいし。

 フレイムマンが飛ばしてくる炎を避けながら、シオンが眠そうな声で問う。


「……どうする? 村人」


「俺達の装備じゃこいつら倒せなくね……? 逃げ一択か?」


 クリスタライズがあれば話は別なんだけどな。あれデフォで水属性の魔法攻撃出来るから通常射撃で倒せるんだろうけど……現状のしょぼい弓じゃあフレイムマンに矢が触れた時点で燃え尽きてしまう。

 デスワさんも水属性の魔法が無い訳でも無いが、ほぼ焼け石に水状態だった。明らかに火力間違えてんだろ、みたいな燃え方してるし。なんか水浴びせたら余計火力上がるし。

 挙句の果てには火属性で上からごり押そうとすると回復するし、増殖するんだよな……。

 俺の提案に対し、シオンは眉根を顰める。


「……でもこいつらを倒さないと階段に行けない……」


 そう、今戦っているフレイムマンの大群は、俺達の目の前にある6Fへと向かう為の階段の前に陣取っていたのだ。

 だが、ごり押して突破するには数が多すぎる。走っている最中にハグされて丸焦げの未来しか見えないから片付けるしか無い。


「と言うかなんでこんなに多いんですの!? 次から次へと……まるでGみたいですわね!?」


「本物のお嬢様ならゴキは見た事ねぇだろ……」


「知識として知ってるだけですわ!!」


 本当かなぁ。


「それは置いといて、多分俺達が来る前にここに来たプレイヤーの影響だろうな」


 周囲の地面に視線を向けると、そこかしこにプレイヤーの死骸……探索ポーチが転がっていた。

 フレイムマンの数がこんなに多いのも、そのプレイヤー達が火系統の魔法を使ってフレイムマンを増殖させてしまった結果なんだろうな。


「で、どうするんですの! このままだとジリ貧ですわ!」


 フレイムマンにハグされそうになっているデスワさんが叫ぶ。確かにこのままだと全滅するな、仕方ない。

 

「一旦飛ぶぞ! 巻物スクロール発動!【転移】!」


 一度体勢を立て直すべく、俺の手持ちにあった【転移の巻物】を使用し、三人で【転移】したのだった。





 地面に寝転がりながら、デスワさんが深々とため息を吐いた。


「あ゛ー…………。最悪ですわね」


「……故意でやってるなら害悪過ぎる」


「もし故意だったら普通に通報案件だろ、嫌がらせの質が高すぎるわ」


 無限増殖する敵を階段前にわざわざ誘導してから増やすのは流石にな……。一瞬でヴァルキュリア呼べそうな案件ではある。……いや、カルマ値の仕様的には上がらない……のか? 一応これPVPだし。

 そう思いつつ、探索ポーチの中身を確認しながら、二人に問う。


「残りの【転移の巻物】は?」


「……私の分は一番最初に使ったから無い」


「ワタクシも最初の方で使ってしまったから無いですわ!」


 となると、【転移の巻物】は残数0と。

 参ったな。次に敵に囲まれたら逃げる手段が無い。再び階段へと向かう道を探さなければいけないし、アイテムの数にも限りがある。

 どこかで都合よくフレイムマンを対処出来るアイテムを拾えれば良いんだが……。


「それよりも……嫌な静けさですわね」


 ぽつりと、デスワさんが呟く。

 確かに、言われてみれば静か過ぎる気がする。常にモンスターと遭遇し、戦闘し続けている訳では無いが、それにしたって妙だ。

 ただでさえだだっ広い坑道なのに、こうまで静かだと薄っすらと不気味さを感じる。


「……


「ん? どうしたシオン」


「……私も、最近挑戦したばかりだからはっきり分かってない……が現れる条件……」


 口に手を添えながら、何かをぶつぶつと呟き続けるシオン。


「……分かっているのは時間。……けれど、それはを基準に? ……ぷれいやーは同時に投入される、つまり…………?」


「シオン、さっきから何を……」



 ──その時、風が吹いた。



 ガジャゴン!!!



 何か巨大な物体が投下されたかのような音と共に、フロア全体が大きく揺れた。

 その音を聞いて、冷や汗をだらだらと垂らし、青ざめた表情を見せる二人。


「やっっっっっっっべぇですわ……」


「……ん、終わった」


「え、どうしたんだお前ら」


 反応を見るに、この異音の正体が分かっているようだが……いや、待てよ。


「おい、まさか……」


「……そのまさかで合ってる」

 

が来ますわよ!」


 デスワさんが短剣を構えながら吠えた次の瞬間。

 ドガガガガガ!!!とまるで工事現場の中心に居るかのような騒音をかき鳴らしながら、は通路の角から現れた。


 迷宮の巨大な通路を埋め尽くすレベルでの、合金で出来た凄まじい体躯。

 地面を均す為だろうか、脚部の前方には巻き込まれたら一溜まりの無い鋭い刃オーガで構成されており、無限軌道と呼ばれるベルト状の走行装置の周囲には鋭利な棘が生え揃っていた。

 ただ掃除をする事が目的ならば不必要な筈の腕部分も存在し、そこには脚部前方同様、回転する刃で埋め尽くされた異様な構造をしていた。

 まるで除雪機レベル100みたいな見た目をした殺戮機械キリングマシーンは、地面を抉り続ける轟音と共に、頭部に付いた赤く輝くセンサーをこちらへと向ける。


『進行方向ニ異物ヲ検知。掃除クリーニングヲ開始シマス』


 その機械の名は、家事使用人ハウスキーパー

 時間をトリガーに、迷宮の異物を排除する最強の敵が俺達の前に現れた。



「逃、げ、ろぉぉぉぉおおおおお!!!!」



 畜生! 結局いつもこの流れになるな!! 俺達!!!


 

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