#288 迷宮にて遭遇! Fワードガール!



「そこのお二方、このフ〇ッキン迷宮から脱出するのを手伝って下さいまし!」



 おまわりさんと一緒に同行していたらしい、金髪縦ロールヘアーの如何にもお嬢様ですと言わんばかりの美少女アバターがそう言い放ったのを聞いて、思わず耳を疑う。

 ミミックの影響で耳まで逝かれたか? 目の前の美少女アバターから聞こえてはいけない単語が聞こえてきたような気がするんだが。いや判断出来るのガワだけだから中身知らんけど。


「どうしましたの? 鳩がバズーカ喰らったみてぇな顔してやがりますわよ」


「あ、えっと……さっきの言葉もう一度言ってもらえるか? 良く聞こえなくて」


「そこのお二方、このフ〇ッキン迷宮から脱出するのを手伝って下さいまし!」


「どうしよう、聞き間違いじゃなかった」


「……私も、聞き間違えたかと思った」


 なんで満面の笑みからFワードが飛び出すんだよ。あまりにも爽やかな笑み過ぎて逆にビビるわ。

 どや顔仁王立ちしている彼女を指差しながら、俺はシオンに問う。


「つか、別プレイヤーと協力しても良いのか? PVEオンリーなら分かるが、これPVP有ルールだろ?」


「……ん、こんてんつ突入前から示し合わせた意図的なちーみんぐで、他プレイヤーを襲わなければ大丈夫……な筈。……一応、迷宮内の一期一会もあるから、そこまでは禁止されてない……」


「じゃあ良い……のか?」


「ならご一緒させて頂きますわね!」


 ズイッと距離を詰めてくるお嬢様口調のFワードガール。こうして距離を詰めてきていきなりグサリ……なんてことは無いよな、流石に。ここまで織り込み済みだったら普通にプロの手口なんだよな。厨二じゃあるまいし。

 顎に手を添えて同行させるリスクを少し考えてから、口を開く。


「俺達、用事があるから上層でさっさと引き上げるつもりだがそれでも良いか?」


「構いませんわ。元々ワタクシも爺やが来るまでの暇潰しとして挑戦していただけの事ですので」


 今爺やっつったかおい? まさかこいつガチもんのお嬢様か?


「いや、それは無いな……」


「?」


 本物のお嬢様だったらあんなに自然にFワードが飛び出す筈が無い。あれは普段から言い慣れてる奴が使うような感じだしな。

 Fワードガールは、こちらをしげしげと眺めながら、何やら呟き始める。


「村人A、シオン……ふむ、まさかこのような場所で著名人に出会えるとは思いませんでしたわ」


「ん? 俺達の事知ってるのか?」


 一応、PVP有コンテンツと言うこともあり、位置バレ防止の為か現在プレイヤーネームは非表示になっている。だというのに俺達の名前を言い当てた事に思わず驚いた。


「知ってるも何も、このゲームをやってる人間ならば知っていて当然でしょう。先日のやべープレイも、拝見いたしましたわ」


「あー……」


 まあ1st TRV WARに加えて先日の二つ名レイドの生配信もありゃ、そりゃあ知っててもおかしくはないわな。

 あのハイテンション状態を見られてると思うと羞恥で少し死にたくなったが、全力でエンジョイした結果だ。もう済んだ事はどうしようもない。

 気恥ずかしさを隠すように、探索を再開しながらFワードガールに問う。


「なんであんた、あのプレイヤーと組んでたんだ?」


「あんたはやめてくださいまし。ワタクシにはグランデ・スワーヴという立派な偽名がありますの」


「……グランデスワーム? ……なんか強そう」


「グランデ・スワーヴですわ。なんですの、その虫のような名前」


「プレイヤーネームの事を偽名って表現する奴初めてなんだが」


「世の中の大半は嘘偽りで構成されていまして? 全く、お反吐が出ますわね」


 けっ、と嫌そうな顔でそう吐き捨てるFワードガール……もといグランデ。

 なんかプレイヤーネームから急に話が飛躍したんだが。あと、取り敢えず頭におを付ければ上品になる訳じゃねえぞ。

 グランデは、しばらく不機嫌そうな顔をした後、ふふんと鼻を鳴らしてから。


「それはそれとして。ワタクシ、あの人からを学んでおりましたの」


「えぇ……」


 多分だけど真似しちゃいけないタイプのロールプレイヤーだと思うんだが……。

 まあ、人様のゲームプレイに口出すのもアレだしな。他人に迷惑掛けない範囲なら何でもして良いと思うし。


「その後の経過は先ほどの通りですわ……勝ち目の無い戦いに一人で突っ込んでいきやがりましたので、お二方に投降致しましたの。ワタクシ、負け戦はしない性分ですので」


「まあ、賢明だわな」


 1st TRV WARで準優勝してるわけだしな。流石にそんじょそこらのプレイヤーにタイマン挑まれたとしても負ける気はしない。まあ完全初見殺し技来たら対応出来るかどうかは怪しいが。


「で、その……デスワさんは何が出来るんだ? 俺達、一応前衛と後衛行けるんだが」


「あら、良いですわねその略称。その略称でワタクシを呼ぶ事を許可致しますわ」


 グランーヴだからデスワさんと略したんだが、意外と気に入ったらしく満足そうな笑みを浮かべる。デスワ氏はなんか言いづらい。

 デスワさんはシャドーボクシングしながら、勝ち気な笑みを浮かべる。


「ワタクシ、こう見えて使ですの。ただ、魔法オンリーだと前衛が居なくなった時点でただの的になるのが癪ですので、徒手空拳も行ける性質たちですわ」


「随分とファンキーなお嬢様なこって」


「知りませんこと? 世の中の事は大概拳で何とかなりますのよ?」


 やっぱこいつお嬢様じゃねえな絶対。でもその意見については割と同意。





 アガレスの大穴の、坑道のような道を歩いていく事数分。道の突き当たりに、下の階層へと通じているらしき階段が視界に入る。


「お、あれが階段……か?」


「ですわね、あそこから下の階層に下っていけるようですわ」


「……ただ、タイミング悪くきらーまんてぃすも居る……」


 シオンが目を細めながら階段の傍に居るキラーマンティスを睨みつける。

 恐らくミミックに遭遇する前に俺達が【転移】で撒いたキラーマンティスだろう。俺とシオン二人でパリィした時に付いたらしき傷が見えた。


「どうする?」


「……一応、みみっくでレベル上がってるしやれない事は無い」


「あんまりちんたらしてたらお掃除ロボットが来ますわよ」


 確かに同じ階層に留まり続けるのはマズいんだよな……。まだ挑戦開始からそれほど時間は経ってないが、ミミック程の旨味は絶対に無いから、キラーマンティスに時間を掛けるメリットも無いんだよな。

 どうしたものかと悩んでいると、デスワさんが深くため息を吐いた。

 

「仕方ありませんわね。ワタクシがちゃちゃっと片付けてきますわ」


 そんな勇ましい宣言をすると、ポキポキと拳を鳴らしながら一歩前に出るデスワさん。

 

「まさか一人で行くつもりか?」


「ただの足手まといって訳じゃない事を示す為にも、ワタクシの実力を見せておく必要がありますもの。その代わりさっきのアレ、貸してくれませんこと?」


「さっきのアレ?」


「その短剣ですわ」


 そう言ってデスワさんが指差したのは、先ほど手に入れたばかりの【黒鉄の灯火】だった。

 別に俺としてはそこまでこの武器に愛着が湧いている訳では無いから良いんだが、一応レアリティがレアリティなんだよな。


「持ち逃げすんなよ?」


「流石にそこまで腐ってないですわ。いくら仮想現実とは言えマナーぐらいは守りますわよ」


 Fワードはマナー的にアウトなんじゃねえかな……。

 そう思いつつ、【黒鉄の灯火】をデスワさんに投げて渡すと、片手で掴み取り、構えを取る。


「なるほど……良い武器ですわね」


「お……」


 なんだろう。なんと言うか、様になっている。

 初めて姿を現した時からそうだったが、一挙手一投足の立ち振る舞いが優雅と言うか、本物の上流階級の人間のような所作を感じたんだよな。……俺が庶民だからそう感じたのかもしれないが。

 感心するのも束の間、デスワさんは真剣な表情になると、足に力を込めた。


「グランデ・スワーヴ、参りますわ」


 まるで厨二のような前口上と共に、勢いよくキラーマンティスの下へと駆け出した。

 キラーマンティスはデスワさんの姿を認めると、鎌を持ち上げて甲高い声を上げる。


『ギィリィギリギリギリギリ!!』


「うるっせぇですわあああああああああああああ!!!」


 それに負けじと、デスワさんも咆哮した。

 両者の距離が縮まると、鋭く繰り出された鎌による一閃がデスワさんに襲い掛かる。


「ふッ!」


 それに対し、デスワさんは短剣による突きを選択。

 武器の効果によって突風が発生し、キラーマンティスの鎌が風圧によって跳ね上げられ、無防備な状態を晒した。

 その隙を逃すまいと、デスワさんはキラーマンティスの胴体を斬り付け、そのまま黒炎が短剣から迸った。


「……やるな」


「……ん。……想定以上」


 一切の躊躇いと無駄のない動きに、俺とシオンは賞賛の声を漏らす。

 傷口が焼かれたキラーマンティスが苦し気な声を漏らすが、超至近距離にまで詰めたデスワさんを捕食するべく、大口を開く。


「きったねぇ口の中見せつけてるんじゃねぇんですわよ!!」


 勇ましい笑みを見せながら、デスワさんは捕食攻撃に対して真っ向から立ち向かう。

 短剣を口の中に突っ込むと、周囲が真っ赤に輝く程の強烈な光を放つ。


「【魔法威力増大】!! ぶっっっっ飛びやがれですわ!!!!」

 

 【黒鉄の灯火】の三振り目の効果である炎嵐が発動し、キラーマンティスの全身が跡形も無く吹き飛んだ。

 周囲に紫色の体液が飛び散り、業火の中に佇む彼女は、短剣を鞘に納めるとこちらにブイサインを向ける。


「一丁上がりですわ!!」




 あれ? 正直ただの面白ロールキャラかなと思ったけどかなり強そうだぞ?

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