#287 怪我の功名


「……大丈夫?」


「腰が逝った以外は元気……」


「……腰からいってたもんね……」


 心配そうにこちらを覗き込んでくるシオンに、地面に突っ伏しながら返答する。

 畜生、あのミミック……! 二連鎖するなんて聞いてねぇぞオイ……!!


 と、先ほどまでミミックが居た位置に目を向けると、そこには宝箱が二つ転がっていた。


「……多分、二体分の判定が出てる。……村人にどっちもあげる」


「……ありがとよ、でも俺が使えないアイテムだったらシオンにやるわ……」


 地面を這いずりながら宝箱に近寄る。……流石にもういいぞ。フリじゃないからな?


「……これは」


「……ポーション?」


 宝箱一つ目からは、黄金色に輝くポーションが出てきた。

 見た目からしてあまり飲む気になれない色なんだが……性能はどうだ?



────

【ゴールデン・エリクサー】レアリティ:レジェンダリー 分類:ポーション 満腹度:200

ありとあらゆる傷を完治する究極の秘薬。服用後、継続的にHPが回復し続け、オーバーフローした分が追加HPとして扱われる。また、満腹度の上限を200にし、5分間状態異常に対する耐性を得る。

その起源は、伝説の魔女が不老不死の為に作成したとされる。そのレシピが後世で発見され、量産化された。しかし、その技術もかつての大戦を機に失われてしまっている為、現存する物はとても貴重。

────



 取り敢えずやべー代物ってのは良く分かったが、その前に気になる事が一つ。


「……てことはこれ、消費期限いつよ?」


「……間違いなく、3000年前に製造されてるぽーしょんだよね」


 回復する筈が腹下さないのかこれ? あ、いや……状態異常耐性を得るって書いてあるから仮に腹下したとしても何とかなるのか?


「……村人、いっき、いっき」


「ばっかお前、こんなの怖くて飲めんわ!」


 とはいえ、これ飲まねぇとまともに立ち上がれやしないから飲む以外の選択肢は無いんだが……。

 クソッ! 死んでしまえば元も子もねぇ! 折角なら試してみるか!! レッツ検証!!


「んぐッ……!」


「おお……!!」


 封を開け、中身を喉に流し込む。強烈な炭酸のような刺激が喉を通り、腹に直撃。

 腹に到達した瞬間に腹を下す感覚が来たかと思えば、全身を貫くような爽快感が溢れ出る。


「……なんだッ……この、なんだッ……!」


「……どういう感情?」


 最悪な感覚と最高な感覚が一瞬にして襲い来るという初めての体験に、感想がまともに出てこない。

 取り敢えず今は有り得ないぐらい体調が良くなったから良いんだが……これ、状態異常耐性消えたら急に腹に来るとか無いよな?


「まあ、普通に立てるようになっただけマシとするか……」


「……それは、その……ごめん」


 腰の骨がバッキバキになっていたせいで地面に突っ伏すしか無かったが、ポーションを飲んだ事で骨が完治したようだ。ポーションを飲むだけで治るというのも中々に怖いものだが。

 さて、こうなってくるともう一つの宝箱も否が応でも期待してしまう。初手からこんなに良い代物が入っているとなれば、きっともう一つも……!


「さて、オープン!」


 ガチャッ! と耳心地の良い宝箱の開封音が響くと、そこに入っていたのは一つの短剣。

 黒を基調とし、所々に銀と白の装飾が施されている見るからに高価そうな代物だ。


「……短剣?」


 ううむ、武器か。ここは苦労して手に入れたアイテムだったから、弓が入っていたら嬉しかったんだが……取り敢えず性能を確認してみるか。


――――――――――


「【黒鉄の灯火】耐久度1500/1500 レアリティ:レジェンダリー 分類:短剣


かつて失われた技術によって製造された、魔法の短剣。その刀身は、魔力を消費する事で一振りで烈風を起こし、二振りで黒炎を纏い、三振りで炎嵐を巻き起こす。必ず三度の工程を経ねばならないが、その分魔法の威力は非常に強力。

とある高名な魔法使いが用いていた武器とされている。その魔法使いは、魔力が尽きようとも最後まで抗う手段として、杖では無くこの短剣を振るい続けていた。


【魔力消費で魔法発動】【炎嵐】


STR+60 INT+60 MP+30 必要STR30 INT50


――――――――――


 灯火って風前のかよ。というツッコミは置いといて。


「……控えめに言って神装備では?」


「……村人、見せて見せて」


 何だこれ、普通にこんなレベルのアイテムがポンポン出るのかよこの迷宮?

 ちょっと効果と性能が強すぎて笑っちゃうレベルなんだが。


「……凄い、二連続れじぇんだりーが出るなんて」


「あのミミックってそういうもんじゃないのか?」


「……いや、最低でもえぴっくが保証されてるだけ。今までえぴっくしか見た事無かったのに……村人、やっぱり運が良い」


「まあ二連続で腰逝った甲斐があったってこった」


 折角手に入れたんだし、これ使えるようにステータスを調整するか。

 ええと、INTが50に、STRが30……と。

 ……む、視界端から魔法発動の気配!!


「ここで会ったが百年目ェ! お覚悟村人A!」


「何奴!」


「幼女、淑女の頼れる味方! おまわりさんさ!!」


 お前いつぞやの女性贔屓野郎じゃねえか!! なんで国家権力が自分から襲い掛かってきてるんですかねぇ!!


「まあ良い試運転!!」


 入手したばかりの【黒鉄の灯火】を装備し、迫り来るおまわりさんに対し勢い良く振るった。

 すると、短剣が緑色に淡く輝き、思わず俺も仰け反ってしまう程の凄まじい突風を生み出した。


「うおッ!?」


「ぐああああああッ!?」


 ビターン!! と気持ちが良いまでの音と共に壁に叩き付けられるおまわりさん。

 そのままズルズルと地面に落ち、瀕死になりながらこっちに手を伸ばす。


「な、なんだそれは……!」


「今出たばかりのアイテム」


「く、宝箱を漁っている最中に襲うのは卑怯と思ったのが敗因か……!!」


 なんで変な所で良心が働いてんだよ。絶対その時に奇襲した方が勝機あっただろうが。


「まあいいや。ええと、二振りで黒炎だっけ?」


 もう一度短剣を振るうと、短剣が黒く燃え出す。握る手すら燃えださんばかりの勢いに思わず驚くが、特に自傷ダメージは発生しないようだった。

 その様子をじっと眺めていたシオンが一言。


「……やっぱり村人、それ欲しい」


「え、急にどうした?」


「……ライジンと御揃い」


 ああ、確かにあいつも【灼天・鬼神】で黒く燃えるもんな……。


「だがやらん」


「……知ってた。……言うだけ言ってみただけ」


 とはいいつつ、少し残念そうにするシオン。そんな表情をされたらあげたくもなってしまうが、これは俺が苦労して手に入れた血(噛まれた時)と汗(噛まれた時の違和感)と腰(直球)の結晶だ。簡単にはやらん。


「さて、言い残す事はあるか?」


「……ふ、やれ」


 なんでかっこつけてんだよ。どう足掻いても今のお前奇襲に失敗して壁に叩き付けられて瀕死になってる情けない奴でしかないんだけど。


「……ごめん、死んで?」


「本望ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 シオンににこやかに言われ、三振り目の炎の嵐の効果でそのまま蒸発していくおまわりさん。

 やっぱあいつ居ない方が、女性の安全が保障されるんじゃねえかな。


「……んで、茶番は置いといて」


「……茶番扱いされるあの人、可哀想」


 一応PKっちゃPKなんだよな。まあこの迷宮自体がPVP有のコンテンツだから問題無いんだけど。


「もう一人、居るだろ」


「……ん、ずっと気になってた」


 じっとおまわりさんが来た方角を睨みつける。

 この【アガレスの大穴】はシステムと言っていた。今回の場合はデュオ……つまり、二人組で無いとおかしいのだ。

 今しがたのおまわりさんの他にもう一人、プレイヤーが居る筈だ。


「仕方ありませんわね、先ほどの相方が突っ込んでいってしまったので、素直に投降いたしますわ」


 美しい声音と共に、しゃなりと優雅さすら感じられる立ち振る舞いで現れたのは一人の少女。

 思わず見惚れてしまいそうな笑顔を浮かべ、少女は元気にサムズアップする。



 

「そこのお二方、このフ〇ッキン迷宮から脱出するのを手伝って下さいまし!」




 なんかまた濃ゆいの来たなあ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る