#286 ……わ、凄い。二連続は見た事無い。


「シオンッ……!! なんだこのクソ難易度ダンジョンは!?」


「……そもそも、この迷宮都市にはいくつもだんじょんがあって、あがれすの大穴に関しては一番難易度の高いだんじょん……らしい。……最初に挑むこんてんつじゃないってことだね」


「それを早く言ってくれ!!」


 巨大カマキリの攻撃を紙一重で回避しながら、シオンに向かって絶叫する。

 いつものステータスじゃないからか、凄く身体の動きが鈍い気がする。悠々と回避したつもりでも、本当にギリギリで回避する羽目になってしまう。

 回避した地点を狙って、カマキリが再び鋭利な鎌を振り下ろす。……回避しきれない!


「シオンッ! カバー頼む!」


「……言われずとも」


 迫り来る鎌に対し、腰に下げていた短剣を抜き放ち、力強く振り上げる。

 そして、それと同時にシオンも刀で斬り上げた。


 ギャリィン!と甲高い金属音を鳴らし、二人掛かりでのパリィに成功する。

 カマキリが大きく仰け反り、致命的なまでの隙を晒した。


「今だシオン、畳み掛け……!」


「……ごめん村人、撤退優先。巻物スクロール発動……【転移】」


「なっ!?」


 しゅるり、とシオンが手に持っていた巻物を解き、声に応じて巻物に刻まれた文字が淡く輝く。

 シオンの身体が粒子となって解ける瞬間、俺の着ていた装備を掴み、その転移の効果が俺にも発動した。





 光が落ち着くと、周囲の光景が一変する。

 戦闘の緊張が解け、荒い息を吐き出して地面に寝転がる。


「……撤退優先するほどあいつってやばいのか?」


「……ん。1Fからきらーまんてぃすに遭遇するなんて運が悪すぎる。……流石村人、とらぶるめーかー」


「うるせえやい」


 好きでトラブルの渦中に巻き込まれてる訳じゃ無いんだわ……。

 俺がげんなりとしていると、シオンは息を整えてから、指を立てる。


「……1Fは最低でも現在れべるから10ぐらい上のもんすたーが出現するんだけど、きらーまんてぃすは20れべるだから……今の貧弱なすてーたすの私達じゃあ、あいてむが無いと戦えない」


「なるほど……さっき使ってたスクロール?って奴もアイテムの一つなのか?」


「……ん。初手詰み防止用に、初期配布されてるあいてむ。村人も多分持ってる」


「え、マジか」


 シオンに言われて確認していると、確かにアイテムストレージに『転移の巻物』と記載されたアイテムが入っていた。それ以外にも持ち込みした食事の他に『大きなリンゴ』が一つに弓矢が20本程……。


「……確かに、あいつとガチでやり合ってたらリソースが尽きてたな」


「……弓使いは特にコスパが悪いから。……村人、転職する気は無いの?」


「ぐっ……!! またこの流れか……!!」


 すげぇ懐かしいやり取りな気がする。あの時はライジンに勧められたんだっけか……まあいつかは弓以外の装備も使ってみたい所ではあるんだが……跳弾を活かせそうなジョブがなぁ……。


「……取り敢えず探索しよう。迷宮内は意外とアイテムが落ちてたりするから見逃さないように進もう」


「了解、前衛頼むぜ」


「……がってん」


 ぐ、とサムズアップしながら答えるシオン。

 再び敵に遭遇しないよう、警戒しながら進んでいくと、部屋の中央に宝箱が置いてあるのを見つけた。

 それを見て立ち止まると、シオンがこちらへと振り向き、宝箱に向かって指を指す。


「……村人、あいてむ」


「いやいやいやいやいや、明らかに怪しすぎるだろ!? 流石に初見の俺でも分かるわ、アレ絶対ろくでもない奴だって!!」


「……ち」


 おい今舌打ち聞こえたぞ。あんな分かりやすい罠に引っかかる奴なんて相当な馬鹿でも無いと……


「おいっ! なんかこんな所に宝箱あるぞ!」


「マジじゃん! 早いもん勝ちな!」


「あっ」


 その時、マッチングしたらしき、別のプレイヤーが姿を見せた。

 俺達の姿に気付いていないらしく、宝箱に駆け寄ると、ウキウキした様子で宝箱を開け──


 バクリ。


「……………………」


「……………………」


 駆け寄ってきたプレイヤーが二人共まとめて宝箱に呑み込まれ、上半身が見えなくなる。


 バキベキゴキべキョリ。


「……………………」


「……………………」


「……………………あの、シオンさん」


「……………………何?」


「……………………大分えっぐい死に方したけど?」


「……………………凄いね」


 いや凄いんだけど。凄いんだけど言いたいのはそうじゃねえんだわ。お前普通にアレを俺にやらせようとしたって事だろ? おいこっち見ろ。


「………さて、はいえなしますか」


「は?」


 捕食中の暫定ミミックに対し、シオンが刀を抜刀し、上から思い切り突き立てる。

 宝箱の外装を貫通し、びくん!と大きく一回震えると、捕食した体勢のままミミックは絶命し、光の粒子となって消えていく。


「……ぶい」


「お前人の心とか無いんか?」


 別のプレイヤーを囮にして楽々討伐って……いや理には適ってるんだけどもうちょっとこう……手心と言うか……。

 シオンをジト目で見ていると、シオンが再び指を指す。


「……村人村人、本物の宝箱出た」


「うおっマジじゃん」


 サンキュー! さっきの野良二人! お前らの雄姿は三十秒ぐらいは忘れない!

 ウッキウキで宝箱を開けようとすると、宝箱の縁に何か見え…………え、牙?


「おいシオンおま」


「……は捕食中防御耐性0になるから……少しだけ我慢して」


 なんか言ってるのが聞こえてきたが、その前に俺の視界が真っ暗になる。


 バキべキゴキベキ!!!


「あああいやあああ!!! なんか俺の身体から聞こえちゃいけないタイプの音が聞こえてくる!!! シオン!! ハリーアップ!! 早急にヘルプミー!!」


 次の瞬間、視界が明るくなり、地面へと投げ出される。


「……倒した……よ?」


「はあ……はあ……はあ……そりゃどうも……」


 クソッたれが、二段構えなんて思う訳ないじゃねえか!!! こういうのって倒したら本物の宝箱が出るってのがお約束じゃないのか!?


「……村人は違和感に気付くべき。戦闘が終了したら経験値が入るはず」


「あ、確かにそうだわ……ましてや、今レベル1だしすぐレベル上がる筈だしな……」


 特殊なコンテンツだからか、バトルリザルト自体は表示されなかったが、確かに経験値が入ってきていた。どうやら今のマトリョーシカミミック?とやらを倒した事で一気にレベルが12に……12!?


「なんでこいつそんな経験値貰えんの!?」


「……一人だと実質詰みレベルで強い、もんすたーだから。二人ぱーてぃなら、一人を囮に簡単に倒せるんだけど」


「初見殺しも甚だしいな……」


 まあ実際に遭遇出来て良かった。この後一人で挑戦する時に遭遇してたら絶対死んでた。

 一回倒しても中からまた出てくるってのを知れたのも大きいな。大分痛い目見たけど。


「……ほら、村人。今度こそ本物」


 シオンが指を指した先には、再び宝箱。

 経験値が貰えたから、今度こそ本当の宝箱なんだろうが……流石に今のがトラウマになりかけているので、恐る恐る近寄る。


「……身体張ってくれたから、村人にあげる」


「ありがとよ……まあそんなに嬉しくは無いんだが……」


 先ほど犠牲になったプレイヤー達の手荷物から回復ポーションを抜き取り、先に飲んでおく。

 流石に無いとは思うが……一応、念の為な。


 HPバーが全快したのを確認してから、宝箱の縁に手を掛ける。


 さて、俺のアガレスの大穴の初成果の中身は如何に────!








 バクリ。


「……わ、凄い。二連続は見た事無い」


「感心してないで早く助けてくれませんかね!?!?」


 俺このダンジョン嫌いだぁ!!


【おまけ】

【マトリョーシカミミック】幻想種

宝箱擬態型モンスター。迷宮と言えばお馴染みの存在という人々の認識から産まれた魔物。

通常のミミックと違い、倒しても中から同個体が出現する。低階層では二体固定だが、深層に行けば行くほど個体数も増えていく。また、中から出現する個体の数に応じて討伐後に出現する宝箱の中身が豪華になる。通称ガチャミミック。


因みに討伐後に出現する宝箱からも超低確率で出現する可能性があり、これを引き当てた村人は大変運が良い。悪い方向だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る