#285 挑戦!アガレスの大穴
「さて、気を取り直して挑んでみますか」
再度迷宮ギルドに赴き、探索許可証を発行してから再びアガレスの大穴の入り口へと帰ってきた。
因みに探索許可証の発行についてはトラベラーだからという理由で爆速発行された。
こういう形式的な手続きって行くまでが面倒だけど実際に行ったらすぐ終わるもんなんだよな……なんなんだろうなアレ。
と、そんなどうでも良い事を考えながら、正面に広がる大穴を見据える。
「これ本当に降りられるのか……? 見渡す限りの漆黒なんだけど」
「……迷宮外部からは情報遮断がされてるみたいで、見えないようになってる、らしい」
「んー、まあ入る度に形が変わる迷宮が外から見えた方が問題だしそんなもんか。世界観的にも」
「……それ言ったら元も子もない。……それに、見えた所で底が見えるだけだと思う」
「……ん?
「……迷宮内に入った方が話が早いと思う」
アガレスの大穴の入り口……降下口は大穴沿いに設置されているが、ジップラインでの降下のみの一方通行らしい。
ではどうやって帰還するのか、という話になるが、迷宮内で拾えるアイテムの中に帰還用のアイテムがあるらしく、それを入手するか、特定階層のボスを倒して帰還するか、それとも死に戻りするかの三択のようだ。前の二つは良いとして、最後に至ってはアイテムロストだから意味ないけども。
降下口に設置されているジップラインの順番待ちをしながら、シオンに問う。
「挑戦する前に予め予備知識として入れといた方が良い事とかある?」
「……迷宮で注意しなければならない事は色々とあるんだけど、特に注意すべきなのが二つ。……一つは、
「命取り?」
「……空腹値が限界を迎えると、幻覚に加えて高頻度のDotダメージが発生するようになる。……こまめに確認しとかないと、戦闘中に限界を迎えてそのまま──なんて事に繋がる」
「なるほど……因みに回復手段は? 持ち込みにも限度があるだろ?」
「……初期いんべんとりだと食事は三つまでしか持ち込めない。ただ、それも10層に到達するまでには無くなると思った方が良い……。……肝心の補給手段は、迷宮内に自生している果物を拾うか、
「補給所? ……なんで迷宮内に?」
「……分からない。因みに、まだ遭遇してないからどういう物なのかも良く分かってない……」
「取り敢えず知識として入れておけば良いって事だな。もう一つは?」
「……もう一つは、階層に留まり続ける事をとりがーに現れる、最強の敵──
「
「……ふざけた名前してるけど実際はいかつい見た目してる。もし遭遇したなら、全力で逃走する事をお勧めする。……正直、アレを対処出来る方法は思いつかない」
名前からして全然ヤバそうな気配は感じないんだが……でもシオンがそこまで言うのならそうなのだろう。
「……迷宮が異物を除去する為に存在する
「ここで来たか
とは言った物の、どんな奴なのか自体は気になるからシオンがログアウトした後に一人で検証してみよう。粛清Mobと同じカテゴリの存在なら倒した所で報酬は無いと思った方が良いが、どこまで戦えるか自体も知っておきたいしな。
「次の方、どうぞ」
と、シオンと情報共有している内に俺達の順番がやってきた。
ジップラインの正面に立つと、ウインドウが表示される。
──────
【迷宮・アガレスの大穴】
【挑戦形式】PVP有
【総階層】???階
【特殊ルール】ジョブ固定・生成スキルのみ・食事持ち込み制限・所持品持ち込み制限・レベル1スタート
【挑戦を開始しますか?】
《YES》《No》
──────
「勿論YESだ!」
ウインドウに表示されたYESのボタンをタップすると、ジップラインが作動する。
勢い良く穴の中へと降下していき、やがて視界が光に包まれていく。
◇
▷【アガレスの大穴】1F
光が落ち着き、周囲を見回してみると、そこにはいかにもダンジョンらしい坑道のような地形が広がっていた。
上を見上げてみると、そこには何故か天井が存在しており、ジップライン用に身に着けていた器具も消失していた。……あれ、俺達上から降りてきたんだよな?
「……一応、穴に入った時点で迷宮の階層のどこかにランダム転移させられる。……挑戦者が一ヵ所に集まったらその時点で乱戦が勃発するから」
「ああ……そういう」
俺の思考を読んだのか、隣に居たシオンが補足説明する。
確かに一ヵ所に集まったら今後の事を考えて潰し合いが発生するよな……早い内に芽は摘んどけみたいなアレで。
「でも、あんだけ巨大な穴なのに天井があるのも不思議な話だな? てっきり、穴沿いにある道をぐるぐる周回していくもんだと思ってたんだが」
「……確かに、そう考えるのが自然。……多分、
「って事は今居る一階の時点で相当地下深くに居るって訳か」
「……ん」
なるほど。だからさっきシオンが穴の中が見えても底が見えるだけ、と言っていたのか。
「じゃあぼちぼち探索開始しますか……ッ」
チリ、と一瞬覚えた違和感を頼りに、勢い良くしゃがみ込む。
その一瞬後に、先ほどまで俺の置いていた頭の位置に、鋭い一閃が通り過ぎる。
ズガァン!と派手な音を立てて、通り過ぎた物……鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた鎌のような物体が地面を抉る。
恐る恐る後方を確認してみると、そこに立っていたのは、橙色の巨大なカマキリ。
視界に納めた事で、表示される敵の詳細。『キラーマンティス』レベル20と書かれた敵Mobが、そこには居た。
思わず顔を引き攣らせながら呟く。
「……
「……ん、
あっはっは、冗談だろ。装備制限込みで、スキルも満足に使えない状態で、今レベル1らしいんですけど?
そりゃああの警備員が言ってた未帰還だった探索者とやらも名工の剣持ち込むわな。
「三十六計逃げるに如かずゥ!!」
「……逃げるは恥だが役に立つ」
やっぱ孫子は生きる上で大事な事を教えてくれるぜぇ!!
◇
【おまけ】
Q:ハウスキーパー出る制限時間ギリギリまでレベリングしつつ行けば、時間掛けるだけで深層踏破出来るのでは?
A:んな悠長なことはさせねぇよ、全階層で死闘レベルで戦い抜け。それが嫌なら逃げ続けなさい。
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