#284 迷宮の注意事項と思いがけない出会い
意気揚々とアガレスの大穴に挑戦しようとしていた俺は、チビッ子のような警備員に止められていた。
チビッ子……恐らくドワーフ?らしき種族の少女NPCが首を傾げながら問う。
「探索者様、探索許可証はお持ちでしょうか?」
「あ、いえ持ってないです……」
「アガレスの大穴を探索する際は、必ず迷宮ギルドでの承認を経て探索許可証を発行してください。迷宮から持ち帰った装備品や道具については探索者様の成果ですので自由に持ち帰って構いませんが、迷宮ギルド内での情報整理の為、獲得品を一度登録する必要がございます。承認を得ずに持ち出すと、迷宮ギルドから指名手配されてしまうのでご注意ください」
「そうなんですね……」
「所持品の持ち込み禁止の規則については、探索者様の身に着けている装備がそのまま迷宮に取り込まれてしまうのを防止する為です。以前、我々の静止を振り切り、かの名工アドミラル氏が打ったとされる世界に数本しか存在しない名剣を迷宮に持ち込み、結果その探索者様が未帰還だった事象がございました。迷宮は、探索者様の死骸や身に着けた装備品を除去する性質を持っているのです。いくら不死と名高いトラベラー様と言えど、その場に落ちた装備品に関しては失われてしまいます。そのため、予め迷宮探索の際は探索に必要な装備品以外は持ち込まないようにお願いしているのです。トラブルに繋がりますので」
「ご丁寧にどうも……」
傍から見たら小さい女の子に叱られてる青年の図なんだが……周囲の目線が大分痛い。
一息に説明したからか、警備員の少女は疲れたようにふぅと息を吐き出してから、こちらの眼をじっと見る。
「何か他にご質問はありましたでしょうか?」
「ア、イエ……大体分かりました……」
あーうん、これクリスタライズ持ち込んで死んだら
マジかよ、このゲーム基本的に
まだ【ファイバレル】に到達しているプレイヤーはそんなに居ないとは言え、このアガレスの大穴を踏破したみたいな報告が無いのは単純に難易度が高いのもそうだが、こういった理由もあるのかもな……。
警備員の少女の元を離れてから、首を僅かに後方に向けて、背負う相棒に声を掛ける。
「だとさ、リヴァイア」
『むぅ……迷宮に置き去りにされても困るのでな、仕方あるまい』
「すまんな、必ず機会はやってくるだろうからそれまでは待機で頼む」
さーて困ったぞ。俺のメイン火力は【ゼロ・ディタビライザー】と【流星の一矢】なんだが、そもそも【流星の一矢】の発生エネルギーを【ゼロ・ディタビライザー】に転用している関係上実質使用不可って事じゃねえか。迷宮探索する上でやっぱ火力枠のスキルを別に作成する必要があるかもな……。
「そもそも迷宮そのものの仕組みが分かってない以上無闇にスキルを作るのも駄目か? 取り敢えずは迷宮ギルドとやらに行かないと……」
『私にお任せください!』
「出たな、ここぞとばかりに」
『ここぞとばかりにとは何ですか!? 確かに相棒枠の危機を感じていましたけども!!』
もう一人?の相棒であるシャドウがぷんすか怒るエフェクトを出しながら抗議する。
まぁ、実際戦闘中はシャドウよりもリヴァイアのが頼りになる……痛い痛い、的確にみぞおちにそのボディを叩き付けるのはやめろ。
「まぁ街中とか探索中ならリヴァイアよりもシャドウのが適任だろうし適材適所って事で頼むよ」
『グッ…………!! 投げやりな態度だけども頼られる事に喜びを覚えている私が居るのが悔しい……!』
「お前マジでその性格どうにかした方が良いと思うぞ。……待て、確かシャドウってプレイヤーによって性格変わるんだったっけ?……もしかして俺が異常なのか?」
それが本当なら俺がシャドウの性癖開拓してる事になるんだが? 勘弁してくれ、俺は至ってノーマル……な筈だ、うん。きっと、たぶん、おそらく、メイビー。
「嫌な気分になっちまった……取り敢えず迷宮ギルドまで案内頼む、シャドウ」
『お任せください!』
ふよふよと浮きながらシャドウが案内を開始する。
その後ろを、とぼとぼと重たい足取りで付いていくのだった。
◇
「…………あれ、村人?」
「ん? ……え、なんでお前こんな所に居るんだ?」
シャドウの案内に付いていき、迷宮ギルドに入るや否や、思いがけないプレイヤーに出くわして目をぱちくりとさせる。
相も変わらず眠たそうな眼をしている少女──シオンだ。
「おま、世界大会の練習は良いのか? もう今週末だぞ?」
「……にぃとSAINAがまだ大学の講義中。……帰り次第練習に戻るつもりだから、それまで息抜き」
「なるほど……てかそれもあるんだがなんでシオンがもうこの街に居るんだ!? 俺達昨日初めて来たばかりだってのに」
「……この先の街、くりえいとに早く行きたいからって数日前に紅鉄達がきゃりーしてくれた。……生産職の本場らしいし、早く行ってみたいから」
「ああなるほど……オキュラス氏んとこか……」
オキュラス氏、あの人対人戦が絡んでくるとどうにも厄介な人物だからなぁ……まぁPVEの範疇なら良識持ってプレイしてるだろう、多分。それに紅鉄氏が居るなら抑止力になってくれそうだし。
「……って事はシオン、この街に詳しかったりする?」
「……街中についてはそこまでだけど……迷宮探索は何度か。……今も探索帰りだし」
「おいおいマジか、なんつー幸運だ」
ほれ、とシオンが何やらアイテムの詰まった袋を掲げる。
先ほど警備員の少女が言っていた、情報登録とやらだろうか。
「……何となく、村人が言わんとする事が分かった。……時間的に、一回だけなら良い」
「マジすかシオンさん助かります!!」
俺が迷宮探索のチュートリアルを頼もうかな、と思っていたのが読めたらしく、シオンが頷く。
「……と言っても、私も低層までしか行けてない。……現状最高記録は NPCの50層らしい」
「50て、一体どこまで続いてるんだこの穴?」
確かに遠目で見ても馬鹿でかい穴だとは思ってはいたが……NPCの記録でそれって事はそこが最下層って訳じゃ無さそうだな。俺が目指したいのは最下層……かつて大戦を終わらせた兵器とやらが目的だしな、目指す目標は中々に遠そうだ。
「……二人で挑む、でゅおもーどがあるからそれで挑戦する。……村人はPVPモードでも良い?」
「勿論。ってかシオンこそ大丈夫か? お前生産職だろ?」
「……大丈夫。迷宮探索は既存のジョブじゃなくて【探索者】って特殊なジョブに切り替わるから。……スキルも、作成したスキルしか使えなくなるし」
「ゲ、マジか」
思っていた以上にルールが複雑そうだな……これシオンが居なかったら挑むまでに大分時間掛かってた可能性も出てきたぞ。
「……取り敢えず挑んでみるのが手っ取り早い。……準備が出来たら早速行こう」
「オッケー。ってなわけでシャドウ。お前はやっぱり案内役になれないらしい」
『あんまりですよ!?』
シャドウが割と本気で泣きそうな声音で叫ぶ。
まぁ、シオンがログアウトしたらその時はお世話になるだろうし……。
こうして、思いがけずシオンと合流した俺は、再度アガレスの大穴へと向かったのだった。
……しかし、なんか忘れてるような。
……………………。
「探索者様、探索許可証はお持ちでしょうか?」
「「あっ」」
迷宮ギルドに行った目的すっかり忘れてたわ。
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