#283 何事も事前情報だけで全てを理解したと思わない事が大事
「じゃあ、その日程で動こうか」
「了解です。すみません、渚君。色々手配して頂いて」
「いやいや、俺から誘ったんだから当然だよ。そんなに気負わんで大丈夫だから」
家に帰ってから、俺の部屋で旅行時の計画を打ち合わせる事一時間弱。
当日の動きを決め、ARデバイスにメモとして打ち終わり、ウインドウを閉じる。
「しかし……凄いですね。関係者とは言え、一般のお客さんを高級旅館に無償招待だなんて」
「まあ折角の国内開催だしなぁ……Aims運営も気合の入れようが違うって事じゃないか? 細かい所で手を抜いて悪評に繋がるってのはままある事だしな」
と言いつつも、改めて紫音から受け取ったチケットを確認してため息を漏らす。
チケットに記載されていた旅館は、世界大会の会場からそれなりに近い高級旅館だ。
先ほど調べてみて分かったが、動画投稿者としてある程度の収益を得てはいるものの、ライジンみたいに馬鹿みたいな金額を稼いでいる訳では無い。金銭感覚がバグってない俺からしたら、ちょっとやそっとじゃ手を出せないような金額の宿泊費には目を剥いた。
普通にこの旅館目当ての旅行と言ってもおかしくはないレベルなんだが……迷惑のお詫びとは言え、本当にタダで貰って良かったのだろうか。
まあ、それはそれとして。
「紫音の話によると大会出場の選手もこの旅館に泊まるらしいんだよな。もしかしたら生Snow_menに会えるかもしれないと思うとワクワクしてきた……!」
「あはは……そこでHawk_moon選手じゃなくてSnow_men選手な所が渚君らしいというか……」
確かにHOGの選手で一番有名どころはHawk_moonだもんな。一度たりとも大会で王座を引き渡した事の無い絶対王者。そのリーダーともあれば知名度は恐ろしいものだ。FPS界隈のみならず、VRゲーム業界においては名を聞いた事が無い人は居ないレベルだしな。
「俺にとっては跳弾を使うキッカケになった憧れの人だしな。一言ぐらいは交わしたいもんだけど……流石に無理かなぁ……」
プライバシー的な面でも大会出場選手に直接会いに行くというのは良く無いだろうしな。旅館側がそこを配慮していないとは思えないだろうし、そもそもSnow_menの
「ま、そんなことより世界レベルを体感しに行くって大事な目的があるしな。今後の為にも……敵情視察するに越したことは無い。楽しみつつ、やるべき事はしっかりやろう」
「……ですね!」
ポンが変人分隊に帰ってきた以上、世界を目指さない理由が無くなった。次回の日本大会ではガチで日本一位を取りに行き、世界大会へ進出するつもりだ。俺達の実力が世界ではどこまで通用するかは分からないが、世界の頂点を目指す以上はHOGともいずれぶつかる。その時の為に、少しでも情報を多く仕入れる必要がある。
話に区切りが付き、紺野さんが荷物を持って立ち上がる。
「渚君、この後はどうするんですか?」
「んー、飯食って風呂入ったらちょっとSBOやろうかなって考えてる」
「それなら、今日は私がご飯作りますよ。買い置きしてる食材があるので」
「いつもお世話になっております……!!」
ぱん、と両手を合わせて紺野さんを拝む。
紺野さんは俺を見てふふっと微笑むと。
「良いんですよ。一人分を作るのも二人分作るのも、そう大差無いので。それに、渚君は本当に美味しそうに食べてくれるので、作り甲斐があります」
「紺野さんの手料理はガチで美味いからな。毎日でも食べたいぐらいだしな」
「……」
俺の心の底からの言葉に対し、ぷくっと頬を膨らませる紺野さん。
何か気分を害しただろうか、と思いつつ首を傾げる。
「……? 別にお世辞でも嘘言ってる訳でも無いんだけど?」
「……知ってます。知ってるからこそと言いますか……」
ぷいっと顔を背けた紺野さんが何かしら言葉を続ける。
だが、小声だったので、何を言ったのかまでは聞き取る事が出来なかった。
「……まあ良いです。食材とか調理器具を持ってくるので、渚君はソファに座って休んでいて下さい」
「いやいや、折角作ってもらうのに何も手伝わないのは流石に。俺に出来る範囲の調理工程は手伝うよ」
「そうですか? ……それなら甘えても良いでしょうか?」
「勿論。ま、あんまり料理作るの慣れてないから多少の不格好ささえ許してもらえれば」
「大丈夫ですよ、最初は誰だってそういう物ですから。では渚君、付いてきてもらっていいですか?」
その後、紺野さんと二人で協力しながら料理を作り、見た目も味も完璧な肉じゃがを作る事が出来た。
……まあ、ほとんど紺野さんのお陰なんだけどな。……少しは自炊で練習するか……。
◇
「あー美味かった……」
仮想世界、SBOの内部でお腹をさする。本当に紺野さんには頭が上がらない。遠慮する彼女に食費の半額を払ってはいるが、なんなら全額以上渡したいぐらいだ。
最近は食生活も改善してきているからか、以前よりも良く頭が回る気がするんだよな。やはり食生活を見直すのは大事なんだな……。
「さて、と」
すっと視線を前に向ける。
目の前にあるのは、昨日ログアウトした場所……迷宮都市ファイバレルの入り口だ。
学校にいる間、ネットで少し情報収集してみたが、【アガレスの大穴】と呼ばれる迷宮探索型ローグライクコンテンツはかなり評判が良さそうだった。
探索する度にその姿を変える迷宮、迷宮探索によって得られる装備品やアイテムを駆使して何度も挑戦していくゲームシステムは、古き良きローグライクゲームの醍醐味だろう。
完全PVEとPVPありの二つのモードがあり、後者の方が難易度が高い分、迷宮探索で落ちているアイテムや宝箱に入っているアイテムが豪華だったりするらしい。
また、ソロで突入する場合はソロプレイヤーのみの迷宮に放り込まれ、パーティの場合はパーティのみが存在する迷宮に放り込まれるシステムのようだ。
対人要素が苦手な人でも挑戦できたり、ソロプレイヤーに優しい設計なのが人気を経ている一因となっているのだろう。
さて、肝心の俺が気になっている要素は、と言うと……。
「まだ銃器の類は見つかってない、か……」
迷宮から産出される産物は、迷宮探索ギルドの承認を経て外部へと持ち出し可能だ。
色々な武器やアイテムが現時点で見つかっているが、その中でもまだ銃器の類は観測されていない。
まだ低層までしか攻略出来ていないからなのか、それともそもそも存在していないのか……そこについては分からないが、地下の深奥には強大な兵器が存在していると分かっているので、挑む理由にはなる。
それに、個人的にローグライク要素やハクスラ要素のあるゲームは好きだしな。Aimsにもあるし。
「なら、俺が第一発見者になるしかないな」
『クク、我も力を貸してやろう。貴様と我で、前人未踏の領域へと至ろうぞ』
「ああ、望むところだ! 待ってろまだ見ぬ装備達!!」
にやりと笑みを浮かべ、ファイバレルの街中へと駆け出していく。
そのままの勢いで、意気揚々と大穴探索へと乗り込もうとした俺達だったが……。
「大変申し上げにくいのですが、大穴探索の際は所持品の持ち込みは禁止となっております……」
「What's?」
いきなり出鼻をくじかれました。あれぇ?
───────
【おまけ】
「なんでこう、渚君はストレートに好意をぶつけてくる癖に私の気持ちを察知する方面においては鈍感なんでしょうか……」
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