#281 第五の街、迷宮都市【ファイバレル】


「次の質問だ。リヴァイア、君みたいに武器に生命が宿る事は往々にしてあるのか?」


「我の場合が特殊であるが、そうだな……ある程度世界に認められ、“名”を冠する存在に近ければ、討った相手を認める事もあろう。往々にして、では無いがな」


「次の質問だ。世界に認められるとは一体どういう事だ?」


「この世界は元より一定の法則が定められており、ある建造物によって情報が統制管理されている。であろう? 我も実際に目の当たりにしたのはつい先ほどの事だったがな。一定以上の功績、あるいは爪痕を残した者に与えられる祝福のような物だ」


「次の質問だ、武器以外の、例えば防具にも……」


「……あの、ライジンさんの質問攻めはいつになったら終わるんでしょうか?」


「考察厨に隙を与えたのが間違いだったか……」


 耳打ちしてくるポンに対して、ため息交じりに答える。

 やる気を出させる為に提案した事だったが、まさかこんな事になるとは。

 頭を少し描いてから、リヴァイア──もとい、クリスタライズをライジンに手渡す。


「おいライジン、リヴァイアは預けるからそっちで楽しんでてくれ」


「おっマジ? サンキュー!」


『……主の命とは言え、我にも拒否権はあると思うのだが?』


「安易に引き受けたお前が悪いしライジンの実績を認めたお前も悪い。街に着くまでの間、その考察厨の相手をしてやってくれ」


 そう言ってからエリアボスが撃破された事で開けた道に向かって歩き出す。

 すぐ隣にポンが歩いてくると、微笑みながら話しかけてくる。


「改めて、村人君。お疲れ様でした」


「おう、お疲れ様。悪いな、最後囮みたいな役割させちゃって」


「いえいえ、あの場では私が一番適任でしたから。むしろ、変に飛んで村人君の射線の邪魔になっていたか心配でしたから」


「そんなことは無いさ、ポンは完璧な仕事をしてくれたよ。やっぱ連携取れる仲間が居るだけでやりやすさが段違いだな」


 アイスマジロ戦ではソロ討伐を余儀なくされた(ライジンの故意であり俺の不本意だが)為、今回はそれほど疲労感を覚える事も無くボス戦を終わらせる事が出来た。


「村人君、この後ってどうします?」


「あー……後数時間後には学校行かないとだしな……ま、第五の街を見てから落ちるかな」


「ですね、私もそうする予定です」


 俺の返答に、ポンが苦笑しながら答える。

 スクリムに最果ての地にエリアボスにと色々やってはいたが、一応明日(今日)月曜日なんだよな……我ながら怠惰な日常生活を送ってるな。

 流石に一時間は寝ないとマズイ、いやどうせ授業中寝るんだろうけど。


「因みにポンも第五の街は初見?」


「はい。情報は小耳に挟んではいるんですが、実際に見るのは初めてですね」


 確かローグライク要素のある迷宮探索がどうの、みたいな話をしてたな。

 折角だし、まとまった時間が取れる時にでも挑戦してみるか。


「あっ、見てください村人君! 街が見えてきましたよ!」


 ポンが指を指して、駆け出した。その後ろに付いていくと、無骨だった渓谷を抜け、視界が開ける。


「ッ────」


 その光景に、思わず息を呑んだ。

 天を貫く程巨大な螺旋状の黒の塔と、都市の中央に位置する巨大な穴。

 穴の周囲に寄り添うように巨大な街が築きあげられており、遠目から見ても分かるサーデスト規模の巨大な街の異様な迫力に圧倒される。


「あれが第五の街、迷宮都市ファイバレル。と呼ばれる巨大な黒の塔と、アガレスの大穴と呼ばれる地下に広がる広大な迷宮が特徴の街だ」


 ようやく問答が終わったらしいライジンがクリスタライズをこちらに渡しながらそう言ってくる。

 後ろに配信ウインドウが開いていない事を確認し、現在は配信外である事を認識する。


「バベルの塔って、なんか聞いた事ある単語だな」


「神話とかでは結構有名どころだからね。神に至らんと考えた人間が、天高くそびえる塔を建てた──が、それに怒った神が傲慢な人間達に罰を与えた、みたいな話さ」


「なるほど……少し前に聞いてたら、ふーんで終わったかもしれないがそれは……」


「やっぱ村人もそう思うよな」


 神に至らんと考えた人間。その単語と結び付けられるのは、このゲームにおけるラスボス的存在──【創世神】イデア。かつて起きたとされる大粛清、その決戦に挑んだ際に用いられた建造物なのでは無いのか……そう考えるには十分過ぎる情報が揃っている。


「それに、初代トラベラーが言ってたよな。かつての大戦に終止符を打った兵器を望むならを目指せ。……この街に隠されている情報は、俺達の想像以上に多そうだな」


 ライジンが巨大な穴──もとい迷宮ダンジョンを指差しながらそう呟く。

 神との決戦を終わらせた兵器。本当にそんな代物がまだ存在するのであれば、粛清の代行者との戦いにも非常に役に立つだろう。

 【戦機】ヴァルキュリアとの戦いに備え、少しでも戦力を増強するに越したことは無い。


「近々、2nd TRV WARもある。今後はこの迷宮都市を拠点に活動するのがベストだろうな」


「だな。……俺個人としても、ちょっと気になってる事があるし」


 かつてのこの世界は、今の世界よりも文明的に発展していたと言っていた。

 その一因となっている、ロッド・アグニの存在、そして【双壁】との戦いの最中に見た、帝国軍が用いていた武器。

 神との決戦を終わらせた兵器が未だ現存しているとするのであれば、もしかしたら──。



 あの迷宮に眠っているのでは? 銃器。

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