#280 VSアースガーディアン 終幕


『GiiiiiiGoooooooooooonnnnnnnnnnnnnnn!!!』


 発狂モードに突入したアースガーディアンが咆哮すると、六つにまで増やした岩石の掌を滅多矢鱈に振り回し始めた。周囲の岩壁に叩き付けられて発生した轟音が鼓膜を揺らし、衝突による衝撃によって地面が揺れ、思わず体勢を崩してしまう。

 地面に手を突いて振動に耐えながら、アースガーディアンを見据える。


「クソッ! アイスマジロん時みたく上手くはいかねぇか……!!」


 【龍脈の霊峰】のエリアボスであるアイスマジロ戦では、弱点に【彗星の一矢】を叩き込んだ事で発狂モードに突入する事なく仕留める事が出来た。

 今回もアースガーディアンの弱点であるコアに対してライジンの全力の一撃をぶつければワンチャン──と思ったが、そこまで上手い話は無いらしい。


「地面に長く留まり続けるな! 空中床を経由しながら戦うぞ!」


 ライジンの言葉が聞こえるや否や、すぐに【空中床多重展開】を使用して空中に留まる事が出来る足場を展開する。

 そして揺れが収まり始めたタイミングで飛び上がり、空中床に着地し、視線を前へ。


『GiGooooooooon!!!』


 そんな俺の動きを待ってましたとばかりに硬く握りしめた拳をこちらへと向けて飛ばしてくる。大気を切り裂きながら迫り来る拳に、正面から弓を構える。


「【流星の一矢】!!」


 青と白の燐光を纏った矢が、拳を粉々に粉砕し、岩石の破片が地面へと落下していく。

 だがこれも急場凌ぎに過ぎない。瞬く間に再生して、また俺へと襲い掛かってくる事だろう。


(攻略法は依然変わらねぇ、同時破壊しつつのコアへの直接攻撃……!! だが破壊しなきゃならない母数が増えたし、コアを集中的に攻めてゴリ押したい所だが……!!)


 コアへの攻撃を分散出来る特性上、ゴリ押しでも突破出来そうではあるのだが……発狂モードに突入してからはコアの周囲を見るからに硬そうな鉱石でガチガチに固められてしまった。

 多分だけどあれアダマンタイトとか含まれてるだろ……見覚えある鉱石がちらほらあるぞオイ。


「ライジン、鉱石ごと真っ二つとか出来ないのか!?」


「出来ない訳じゃ無いけど、コアの正確な位置が分からない!! 龍脈の霊峰の鉱石は軒並み魔力が含まれてるからそれが邪魔してカモフラージュみたいになってる!!」


「ああそうかい畜生め!!」


 それに運よく真っ二つに出来た所で分体に攻撃を流されてハイやり直し、みたいになりそうなんだよなぁ……。理想はライジンが真っ二つにするタイミングで分体を同時破壊する事だが……!


『ククク、苦戦しておるようだな? 我が主よ』


「わぁビックリした! そういや居たなお前!」


『…………』


 今までずっとだんまりだったから普通に存在忘れてたわ! というかそうじゃん、リヴァイアならもしかしたら……!


「偉大なるリヴァイア先生ならあいつのコア見抜けたり出来るのでは?」


『……だから我はもうリヴァイアでは無いと……』


「じゃあお前は今日からリヴァイアって名乗れ! 以上!」


『……まあ良い、我程にもなれば当然あの程度見抜けはするのだが』


 おっ流石はリヴァイア先輩! 海遊庭園で散々辛酸を舐めさせられただけあって魔力感知能力がずば抜けてるゥ! 早速ご教授──


『……だが、アレを口頭で説明しろと? ?』


「あっ」


 あー……こいつキングダークスチールスライム系かよ。って事は狙ってコアを真っ二つにするのほぼ無理ゲーじゃねーか。

 まあ良いや、その情報を得られただけでもマシだとしておこう。


「二人共、あのボスの核は動き続けてるらしい! だから無意味に攻撃し続けても長期戦になる可能性が高い! ソースはリヴァイア!」


「なんで普通にリヴァイアさんと会話出来てるんですか!?」


「おい村人、この戦闘が終わったら俺もリヴァイアと話させろ!!」


『……もうツッコミ疲れたわ、どうとでも呼ぶと良い……』


 あれー? なんか折角攻略情報教えてるのに若干一名別の興味湧いちゃってない? 


「ちゃんとあいつを仕留めきれたら会話させてやるよ! リヴァイア次第だけどな!」


『クク、主の命であれば仕方あるまいな。この場において武勲を立てた者にのみ我と話す権利をやろう』


「オッケー、残り三十秒で終わらせる!!」


 意外にも乗り気なリヴァイアの反応を聞いて、ライジンのテンションが跳ね上がった。

 その身に電撃を纏うと、迫る岩石を寸前で回避し、【疾風回避】のスキル効果を発動させる。


「こっちは一撃でぶった切る準備を整える! 村人は分体の同時破壊、ポンはコアを覆う鉱石の破壊を頼めるか!?」


「了解です!」


 ライジンの言葉にポンが即答すると、一気にアースガーディアンのコアへと距離を詰める。

 すかさずポンへと向けられた攻撃をこちらで処理すると、彼女はコアを覆う鉱石に直で手を触れていく。


「少しだけカバーお願いします!!」


 器用に【爆発推進ニトロ・ブースト】を使って空中を高速移動しながら鉱石に触れていくポン。

 一体何をと一瞬思ったが、その行動の真意を理解して口角が上がる。


「……か!」


「正解です!」

 

 1st TRV WARでポンと1on1した時にも披露した、ポンの【地雷設置】。

 地面や壁に対して触れる事で、アイテムボックスに収納されているボム系統のアイテムを設置する事が出来るというポン謹製のスキルだ。

 確か生物に対しては直接設置する事は出来ないと言っていた筈なのだが……。


「……そうか、外殻は後から取り込んだ物だから生物判定されてないのか……!」


 アースガーディアンが発狂モードに突入した段階で周囲の鉱石を取り込んで外殻を形成した。てっきり外殻も生物判定されている物とばかり思い込んでいたが、その外殻鉱石は生物由来では無く環境由来の物。

 したがって、外殻に対して地雷を設置する事が出来るって事か。


「良く気付いたな!」


「半分勘でしたけどね!」


「勘で結構! 思い立って即行動、トライアンドエラーは検証の基本だ!」


 百点満点花丸だ、ライジンが【灼天・弐式】の準備を整えるまでに外殻を剥がせなければ戦況はあちらが優勢のまま。

 少しでも火力を底上げする為に取ったポンの行動は、今出来る行動の内最適解と言っても良いだろう。


「ライジンさん、タイミング指示お願いします!」


「ああ、十秒後に一気に仕掛ける! 村人も頼むぞ!」


「了解!」


 となれば俺がやるべき事は分体の同時破壊をポンの爆破と同時に達成する事。高速移動し続ける物体を跳弾で粉砕するのも手慣れたものだ。


「さて……やるか」


 この短い戦闘の中で分かった事が一つある。

 奴の分体のヘイトは、に周囲に居るプレイヤーに対して優先順位が付けられている。

 度々俺の方にヘイトが向いているのは高速移動し続けている最中に、俺の傍を通りがかった時にヘイトが持ってかれているからだ。通り魔かよ全く。

 とは言え現状パーティにタンクは存在しない。ボッサンや厨二のようにヘイトを奪い取る手段も無いとなれば……。


「ポン、そのまま分体を引き付けてくれ!!」


「ッ、分かりました!!」


 ヘイトを一点集中、後は起爆を待機するだけの状態のポンに避けタンクとして動き続けて貰えればいい。


「二秒垂直、その後大きく右に旋回!!」


 そう叫ぶと、ポンは一つ頷き指示通りに空中を爆走する。

 俺の想定通り、ライジンの周囲に纏わりついていた分体も含め、計六つの分体がポンに追従していく。


「長くは持ちそうにありませんっ……!!」


「安心しろ、すぐにぶち抜く!!」


 ポンの誘導のお陰で六つの分体が同時破壊圏内に入った。

 クリスタライズを力強く引き絞り、【流星の一矢】を発動。青と白の粒子が周囲に溢れ出し、番えた矢を覆い始める。


「今だ、ポン! 起動しろ!!」


「はい!! 【地雷掃討マインスイーパー】!!」


 俺が叫ぶと同時に射撃。凄まじい勢いで放たれた矢が、空中床を伝い分体を一気に破壊していく。

 そして、ポンがスキルを発動させると、アースガーディアンのコアを纏っていた鉱石が爆発した。

 非常に硬い鉱石群で構成されていた外殻も、外部からの強い衝撃に一溜まりも無く粉砕され、コアが外気に晒される。


「今だ、ライジン、トドメを──!!」


 ──その時だった。


『Gigooooooooooooooooooooooon!!』


 アースガーディアンのコアから甲高い金属音のような咆哮を上がると、破壊された筈の分体が瞬く間に再生されていく。

 恐らく、六つ同時破壊された時の特殊行動、一度限りの

 トドメを刺そうとした人間に鉄槌を下す、正真正銘最後の足掻きだ。


「ライジンッ!?」


 マズった、まさかそんな隠し玉を残していたとは思いもしなかった。

 クソ、このゲームは初見殺し要素が多いから先に予想しておくべきだった!!


 再生された掌はトドメを刺そうとしていたライジンに迫ると、その勢いのまま圧殺しようとする。


「いいや十分だ、二人共。残り二つでもお釣りが来る」


 ライジンが一言呟くと、叩き潰される直前に空中を踏みしめて、アースガーディアンのコアの目前に現れる。

 それを可能にしたのは月光を浴びて輝く、一つの腕輪。


 【転瞬ブリンク】。空中を足場にし、瞬きの間に空間を駆け抜ける事が出来るスキルの効果だ。


「【紫電一閃】!!」


 そして最速の抜刀から放たれる、短刀による紫電の煌めき。

 目にも映らぬ速度で放たれた斬撃は、コアを両断し、そのまま空中で爆ぜた。

 そして、ボスの周囲に漂っていた再生したばかりの巨大な掌は、主を失った事で地面へと墜落していく。


 宣言通りキッチリ三十秒で仕留めて見せたライジンは、地面に着地して短刀を納めると、こちらに向けてにこやかな笑みを浮かべた。


「GG、二人共」



────────


【Battle Result】


【Enemy】 【アースガーディアン】

【戦闘時間】 12:40

【獲得EXP】 30000EXP 【経験値上限の為、蓄積されます】

【獲得マニー】 15000マニー

【ドロップアイテム】 【大地の守護者の岩石殻】x5 【大地の守護者の岩石眼】x1 【大地の守護者の岩石鋼】x2 【アダマンタイト】x1 【ダマスク鉱石】x5 【オクラット鉱石】x10 【伝達魔力媒介】x3 


特殊戦闘による称号を獲得しました。


【大地の守護者を倒した者】【一撃粉砕】


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