#279 VSアースガーディアン その二


 本体も物理無効持ち──ライジンから聞こえてきたその単語に、思わず顔を引き攣らせる。

 俺達のパーティは三人共純粋な物理アタッカーだ。となれば、目の前に居るこの『アースガーディアン』は俺達にとって最悪の相性の敵と断言出来るだろう。

 厨二の野郎、こいつのどこが『そこまで問題は無さそう』だ。絶対相性悪い事を知っててああ言ったんだろうが……!! 絶対後でボコす。


「兎にも角にも打開策が分からない事には話が進まねぇ……!」


 高速で迫り来る岩石で構成された掌を回避しながら、再び【弱点看破】を発動。

 やはり本体が弱点である事には変わりないのか、球体状の身体のほぼ全てが弱点として浮かび上がった。だが、先ほどライジンが本体に攻撃出来ていた物の、HPバーに一ミリたりとも変動が生じていなかった。

 このにこそ、何かしら突破口が存在するのだろう。


(名称から推測してみるか……アースガーディアン……『大地の守護者』と言った所か? 名前通り、周囲の地形を活かした攻撃を多用してくるボス……か)


 思考を巡らせながら迫り来る掌に対し、迎撃と回避を続ける。減り続けるスタミナゲージに意識を割きながら、荒い息を漏らす。


(周囲のリソースが尽きりゃ沈黙もするだろうが……ただ正面から破壊するのは駄目っぽいな、壊れた岩石すらも巻き込んで再生し続けてる。やるんなら粒子すら残らないレべルで消し飛ばさなきゃならない。それに、ここはだだっ広い渓谷だ。やろうと思えばどこまでも修復出来るだけの材料が揃ってる)


 これまでのエリアボスも周囲の環境に適応しているタイプのエリアボスが多かったが、この『アースガーディアン』は群を抜いて厄介だ。環境を用いて攻撃出来る他、再生の手段としても使える事が出来るという万能タイプ。【龍脈の霊峰】のエリアボスである『アイスマジロ』と似た系統ではあるが、こいつは正当進化のような強さだな。


(メタ的な意味で考えりゃ一見無敵のようでも必ず突破出来るカラクリがある……あの【双壁】ですらそうだったんだ、本体以外にも弱点があるのかも……)


 と、目の前の迫り来る巨大な掌に矢を向けた瞬間、急に亀裂が入り、そのまま飛散した。

 面で対処出来ないから更なる物量でごり押してきたのか──いや違うな。

 俺を攻撃する為にわざと飛び散らせたのでは無く、外部の影響により破壊された、そんな風に感じた。となれば、ライジンかポンがカバーしてくれたのか……そう考えるのが自然だが。


(ポンもライジンも近くには居ない、どういう理由わけだ?)


 彼らも各々で飛来してくる掌の対処を続けながら、時折本体に攻撃を加えている。だが、相変わらず『アースガーディアン』のHPバーは変動している様子は無い。

 急に掌が崩れたのには必ず理由があり、それこそが突破口なのかもしれない。であるならば、その理屈を埋めていく!


「ライジン! あの魔力マナ見れるゴーグルみたいな装備あるか!?」


「急にどうした……っ! ……ああなるほど、大体分かった!」


 余りにもゲームIQが高すぎるだろ、俺の意図をそれだけで察しやがったぞライジンの奴。伊達に数多のゲームをプレイしているだけの事はあるな。

 ライジンが魔力を可視化出来るゴーグルを装備し、アースガーディアンへと視線を向ける。そして、それによって知り得た情報を俺達に対して声高に伝える。


! だから肉体的な構造は無視して自在に操れているみたいだ!!」


「やっぱりか……!」


 何となくそれについては推測出来ていたが、どうやら正解だったらしい。掌に対して物理で攻撃しても意味が無い、というのはそもそもその掌自体が周囲の環境によって生成された代物だからであり、これは魔法で攻撃したとしても結果としては同じになるのだろう。

 そしてそれは。物理で攻撃したとしても、魔法で攻撃したとしても、そのカラクリを解き明かさない限り奴に対しては一ミリもダメージが入らない。つまり、奴の本質は『物理無効』なのでは無く……!!


「奴は本体に対する攻撃を、事が出来る! 恐らくそれがボスにダメージが通ってないカラクリだ!」


「「っ!!」」


 【流星の一矢】を発動し、本体に命中させると、ライジンに向かって飛んでいた掌が崩れ去った。

 やはりHPバーに変動は起きていないものの、その光景を目の当たりにして、俺の仮説が現実味を帯びた。


 先ほど俺へと迫り来ていた掌が急に飛散したのは、あのタイミングでポンかライジンのどちらかがボス本体に攻撃を加えた瞬間に、ダメージを流していたから起きた出来事だ。

 本体が弱点であるというのにダメージが通らないというのは、それが理由なのだろう。


 あの二人がその事に気付けなかったのは当然だ、何故なら俺は本体よりも目の前に迫る掌の迎撃で手一杯だったからこそ、気付く事が出来た。

 ライジン達はどちらかと言えば本体の方を優先して意識しながら動いているだろうし、本体に攻撃したタイミングで掌がどうなっているかなんて気付く方が難しいよな。


「つまり、こいつを倒すには……!」


「ダメージを流させないように掌を壊してから本体を殴る、ですね!」


「もしくは分体全部ぶっ壊す勢いで本体を攻め倒すのどちらかだ!」


 後者は余りにも脳筋過ぎてスマートな攻略法じゃないが、極論その手段でも良いのだろう。

 こちらがエリアボス攻略の糸口を掴んだからかは分からないが、突如として宙に浮かんでいたアースガーディアン本体が落下を開始する。


「なっ!?」


『GiGOGOGOGOGO……!!』


 そのまま地面に溶け込むようにして、本体が地面へと同化する。

 余りにもタイミングが良い……! 裏でボスを操作してるんじゃねーかってレベルで厄介な動きをしてきやがる!!


『GiiiiiiiiiGaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


 再び耳障りな金属音のような鳴き声を響かせると、地面が鳴動する。

 そして次の瞬間、地面の形状が変形し、先端の尖った石柱がこちらへと襲い掛かってきた。


「村人、お前は掌の方を頼む!!」


 まるで生き物であるかのように、地中と地上を往復しながら迫り来るそれを、ライジンが横から叩き切った。

 そして、ゴーグルを着けながら視線を動かし続けるライジンは、何かを思案した様子を見せると。


「ポン、使ってくれ!」


「うわっと!?」


 ライジンがそう叫ぶと、身に着けていたゴーグルをポンへと放り投げる。

 放り投げられたポンが思わず落としそうになりながらもそのゴーグルを受け取り、装着する。


「なるほど、そう言う事ですか。……分かりました!」


 ゴーグルを身に着けたポンがそれだけ呟くと、【水龍籠手アドベント】がポリゴンとなって消失し、その代わりに装備されるは巨大な法螺貝。

 【星降りの贈笛】──【二つ名レイド】のMVP報酬として手に入れたそれを、ポンは構える。


「【船出の唄】……!」


 戦場に高らかに音色が響き渡り、俺とライジン、そしてポン自身に対してSTR、AGI、VITに対してのバフが付与される。

 ポンの演奏の邪魔をさせないように、彼女に迫り来る石柱と掌を撃ち落とし続ける。

 演奏を続けていたポンが口を離すと、スキルの名を高々と宣言する。


「【やまびこ】!!」


 ──それは、【双壁】戦において、最後の一撃を放った際にも発動した規格外スキル。

 あの時の彼女の言動から察するに、放ったスキルを発動するというぶっ壊れスキルだ。


「私が本体を地上に引っ張り出します……! お二人は攻撃の準備を!!」


 地中内で動き続けているらしいアースガーディアン本体を追いながら、ポンが駆け出した。

 正確な位置を特定出来るのは今この場において彼女だけだ。ならば、俺達が出来る仕事はそのタイミングに合わせられるよう、予め分体を破壊しておくこと!


 ポンが【星降りの贈笛】を地面に引き摺っていくと、火花が散り、笛の先端が赤熱化していく。

 そしてそのまま、ある一点に向かって笛を大きく振りかぶった。


「【流星の一矢】!!」


 そのタイミングに合わせて、四つの掌を破壊できる跳弾ルートを計算、射撃。

 蒼天の如き輝きを纏った矢が掌の悉くを破壊していく中、ポンが【星降りの贈笛】を思い切り地面へと叩き付ける。


「【メテオストライク】ッ!!」


『Giiiiiiiiiiiiii!?』


 地面が一度大爆発を起こし、そして更に【やまびこ】の効果でもう一度爆発。

 広範囲に対する爆撃にアースガーディアン本体も巻き込まれ、ポンの攻撃によってそのHPバーが大きく削られる。


「【灼天・炎天神楽】!!」


 そして、その黒煙を切り裂くようにしてライジンが炎を纏いながら現れると、その手に握る双剣を力強く本体へと叩き付けた。

 赤白い炎が双剣を包み込むと、アースガーディアンの本体に亀裂が生じていく。

 そのまま押し切れる──そう思った瞬間、アースガーディアンの全身が突如として震え、周囲に衝撃波を拡散させる。


「うぉッ!?」


「きゃぁッ!?」


 ライジンとポンが吹き飛ばされ、地面を転がる。

 二人の強烈な攻撃を直に浴びたアースガーディアンの体力は残り一割を切っていた。だが、ここからがエリアボスの本領発揮。

 本体を包んでいた脆い岩石が崩れ落ちると、先ほどの大爆発によって露出していた鉱石群を本体へと引き寄せ、外殻を再形成していく。

 そしてその上から、分体として出現させていた掌同士を合わせて覆うように隠し、外殻の層をより厚くしていく。

 それに伴って減った掌の数を埋めるように、再度掌を形成、その数を六つにまで増やして臨戦態勢を整えていた。


『GiiiiiiGoooooooooooonnnnnnnnnnnnnnn!!!』


 無機物染みた生命体ではあるものの、確かな怒りを感じ取れる大咆哮が周囲をビリビリと揺らした。


 生命燃焼活性──通称『発狂モード』。ボスが瀕死に追い詰められた時に発揮する、最後の命の輝き。

 アースガーディアン戦、最後の交戦が始まる。

 

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