#278 VSアースガーディアン その一



▷第四の街【フォートレス】 巨壁跡地




 第四の街フォートレスから、【龍王】が封鎖していた例の巨壁が崩れ去った跡地を歩き続けると、第五の街に続く平坦な道がある。

 その道を封鎖するように、エリアボスが待ち伏せているという話を聞いて、俺達三人はこの場所に訪れていた。


「お茶の間の皆~! こ~んばんは~! ライジン+愉快な仲間達だよ~!」


「あはは……こ、こんばんは~」


 ライジンの近くに浮かんでいるウインドウに向けて愛想を振りまきながら挨拶をする。

 配信しようと思っていたのならそのままエリアボス戦も配信で垂れ流してしまえ、という事で俺とポンはライジンの配信に参加する事になったという経緯だ。


「相変わらずコメントの速度凄いですね……」


「流石のライジンクオリティと言った所だな」


 既に深夜帯に突入しそうな時刻だと言うのに視聴者の同時接続数が凄まじい勢いで増えていくのを見たポンが思わずそう呟く。

 改めてライジンの影響力の凄さを再確認しながら、これからの予定を口に出す。


「今回は初見で第五の街の前に立ち塞がるエリアボスに挑む放送だよ! 良い子の皆は応援してね~!」


「なんでお前が取り仕切ってんだ」


 すぱん、と良い音を響かせながらライジンのチョップが俺の頭に突き刺さる。

 呆れたようなため息が背後から聞こえてきたかと思うと、ライジンは苦笑しながらウインドウに顔を向ける。


「はい、と言う訳でいつもの三人でエリアボスに挑んでいく配信です。ネタバレコメや鳩コメは御遠慮願います」


「PK配信者に鳩飛ばしたらライジン君のキッツーイPK狩りが始まるからそこんところ宜しくね~」


 俺の言葉にコメント欄が皆一様に「はーい!」と元気の良い返事で返される。

 ライジンの配信は大手の中でも有数の民度の良さなので、ある程度は大丈夫だと思うが……流石にエリアボス戦後にPKの対処は面倒だからな。釘を刺しておくに越したことは無い。

 まあ、民度が良いと言っても少数のアンチコメントが大多数のファンのコメントで押し流されてるから悪意のあるコメントが流れているだけ、という背景もあるんだけどな。


 配信開始の挨拶も終わり、第五の街へと向けて歩き続けていた俺達だったが……。


「……エリアボス、居なくね? 放送事故説ワンチャンある?」


「おかしいな……先客も居なかったし、CTクールタイム的にももう出現してもおかしくはない筈なんだけど……」


 先ほどまで歩いて来た道とは違い、周囲に岩石や結晶が転がっているという露骨にここにボスが居ますよ、と主張しているエリアに入ったは良い物のエリアボスが一向に出現する様子が無かった。

 何となくだが、レッサーアクアドラゴンの時にもこんな感じだったような……。


「……レッサーアクアドラゴン?」


「ん、どうした急に」


 マンイーターの時こそ分かりやすかったが、レッサーアクアドラゴン、アイスマジロ戦を経てエリアボスの狡猾さが滲み出てきている節がある。

 となると、今回ももしかすれば──。


「ッ、危ない!!」


 何かに気付いたポンが、【爆発推進ニトロブースト】で俺とライジンの身体を掴んで上空へと離脱する。

 次の瞬間、両壁から巨大な掌が浮き上がり、凄まじい勢いで迫り来ると、バゴォン!!と岩同士が衝突し、轟音が周囲に響き渡った。


「あっぶ……!?」


 一息吐くのも束の間、先ほど衝突によって粉砕された掌が周囲の岩石を巻き込みながら再生していく。その後、本体らしき肉体と繋がれていないのにも関わらずが高速で飛来してきた。


「おいおいおいおい!?」


「ッ、村人、片方頼む!!」


 まるでハエ叩きでもするかのように、掌が空中に居る俺達を的確に平手打ちで落とそうとしてくるのを【流星の一矢】で迎撃する。

 もう片方の手もライジンが斬り砕き、何とか圧死は逃れるが……またしてもすぐに再生してしまった。


「野郎ッ……!」


 再び【流星の一矢】を発動し、再生し続ける掌を破壊するも、その間にも再生した別の掌がこちらへと襲い掛かってくる。


「やべぇコイツ攻撃通らねぇ!!」


 どうしようも無い現状に、思わず叫び散らす。

 恐らくだがこの掌は広義の意味での物理無効属性であり、俺達物理アタッカーに対してめっぽう強いタイプのエリアボスだ。

 厨二が言っていた意味深な発言はこれが理由か。なるほど、腹正しい。

 このまま壊し続けても埒が明かない──そう判断し、打開策を模索する。


「【弱点看破】!!」


 こちらへと再び攻撃を再開しようとしている掌を見ながらスキルを発動。【狙撃手スナイパー】のスキルの一つである【弱点看破】は、視界に捉えた相手の弱点を見抜き、ハイライトするというスキルだ。

 物理的に破壊しても再生され続けるという事は、何か別に弱点がある筈──そう推測した俺の考えを裏切るように、『』という現実を突き付けてくる。


「ッ! マジか……!!」


 【空中床多重展開】を使用し、地上へと駆け下りる。

 【弱点看破】を習得した際、検証した事があるが……『弱点無し』というのはその敵の身体が本体でない場合にも『弱点無し』という判定を受ける事が分かっている。

 だから、今俺達を襲撃しているあの掌の形をした岩石は、敵の本体で無く魔力か何かで形成した物であり、アレを相手し続けるのは無意味な行為に過ぎない。


「こういうタイプは……さっさと本体を見つけ出すか動かなくなるまで壊し続けるのが鉄板っぽいが……!!」


 このエリアボスエリアは岩石と鉱石の宝庫であり、動かなくなるまで壊すとなればエリアを崩壊させるレベルで破壊させないとならないだろう。そんな暇をエリアボスが与えてくれるとは到底思えないので、さっさとエリアボスの本体を見つけるべきか。


「私に任せてください!」


 本体を見つけ出す手段について、どうするべきか決めあぐねていると、ポンが動き出した。

 彼女が拳に纏うはレッサーアクアドラゴンの素材で作成された籠手──『水龍籠手アドベント』。

 青白い輝きを一際強く放つと、ポンは地面に向かって拳を打ち込んだ。


「【爆発加速アクセラブースト】──【水龍爆撃掌】!!」


 爆発系のスキルによって限界以上に加速した拳が、【水龍爆撃掌】の威力を更に引き上げ、周囲一帯に凄まじい爆発を齎す。

 伝播的に地面に亀裂が広がっていき、盛大な音を立てて割れると、は地面の中から姿を現した。


『GiGOGOGOGOGOGOGO……』


 耳障りな金属質な鳴き声を漏らしながら現れたのは、岩石に身を包んだ球体状の生物。

 HPバーの表示と共に、『アースガーディアン』というボスの名が判明する。


『GiiiiiiiiiGaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


 本体が炙り出された怒りからか、先ほどまで二つしか出現させていなかった掌の数を四つにまで増やし、圧倒的質量と物量でこちらを責め潰そうと攻撃を再開する。


「こういうシンプルなのが一番攻め辛いんだよ……ッ!」


 ライジンやポンのように前線で身体を張れるタイプのジョブなら良いが、俺のような中遠距離職は、近距離戦は不得意だ。ここに来て俺の選択したジョブのデメリットが足を引っ張ってるな……!

 だが、こっちで引き付けられているのなら、それを逆手に取ってしまえば良い。


「ライジン! こっちがヘイト買ってる内にお前が本体を……!」


「駄目だ!」


 俺の言葉に、即座に返答するライジン。

 掌の隙間から、その先の景色が視界に入るが──そこに居たのは、『アースガーディアン』本体に刃を叩き付けているライジンの姿だった。

 そして、それと同時に──1、エリアボスの体力も視界に入る。


!!」


「ハァ!?」


 参ったな……少しばかり舐めて臨んだエリアボス戦だったが、泥沼臭がプンプンしてきたぞ。

 

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