#277 第五の街へ


「相変わらず情報量の多い空間だ事で……」


 最果ての地からサーデストのクラン本拠地へと帰還後、すぐ傍に置いてあったソファに身体を預けてから、深くため息を吐き出した。

 この世界の裏側に存在するという最果ての地こと情報統括管制領域アヴァロン。そして、表側に存在する俺達が今居るこの世界……惑星イデアと、それを産み出したという【創世神】イデア。そしてそのイデアこそが相手側の黒幕である【粛清者】であり、俺達が目指すべき最終目標……。


「駄目だ、頭がパンクする……」


「あはは……確かに凄い情報量でしたもんね……」


 提案したのは俺なんだが、もうちょっと余裕ある時に行けば良かったかもな……。スクリムフルで二時間やった後にこの情報量の暴力は普通にしんどい。

 情報の精査はライジンに任せるとして、今回の事はまた後で考えるとしよう。

 各々疲れている様子を見せていたが、一人栄養考察材料を得て元気な様子のライジンは、物凄いスピードでタイピングしながら、声を漏らす。


「これまで不透明な部分が多かったけど、今回の邂逅でこのゲームの世界観が掴めてきたね。うーんどうしよう……この後に取ろうと思ってた配信の枠、考察枠に変えようかな……」


「因みになんの配信する予定だったんだ?」


「本当はそろそろ先の街に行きたいしエリアボスにでも行こうかなって思ってたんだけど……【二つ名レイド】配信が余りにも鮮烈過ぎたせいで、幾らか見劣りしそうで……」


「ああ……」


 苦笑しながらそう言うライジン。

 つい先日踏破した【二つ名レイド】はこのゲームの最終到達点エンドコンテンツなわけで。確かに一エリアのボス戦を配信しても、見劣りしてしまう感は否めないよな。


「先の街……っていうと、第五の街ですかね?」


「そうそう、俺達が【二つ名レイド】に行っている間に到達者が結構増えたみたいでさ。しかも話を聞いてる感じ、これまでの街と違って面白いコンテンツがあるって噂があってね」


「面白いコンテンツ?」


 首を傾げながら問うと、ライジンはニヤッと笑みを浮かべて。



「村人ってローグライクのゲームってやった事ある?」



 ローグライク。


 かなり昔から存在するゲームジャンルの一つで、マップを始め、敵の配置やアイテムなどが毎回ランダムに生成され、プレイヤー自身を強化したり、もしくは何かしらの制約を伴って攻略する必要があったりなど千変万化のゲーム体験が出来るのが特徴だ。

 その性質上、何百回、何千回もゲームが楽しめるので非常に中毒性が高く、ローグライクを好んでプレイするゲーマーも多い。


「……一応、ライジンの配信でちょろっと見た事があるぐらいの知識だけど」


「第五の街は迷宮都市って名称が付いててね。ローグライク要素のある迷宮探索が出来るらしいんだよね。しかも、そこら辺で手に入れられる武器よりもよっぽど強い武器や防具が産出されたりもするらしい」


「へぇ……強い武器とかねぇ……」


 【戦機】ヴァルキュリアに対して、現状では戦力が足りてないと判明した以上、強い武器が得られるのなら、挑む価値は十分にありそうだ。


「それなら俺も第五の街に行こうかな……」


「お、なら一緒にエリアボス攻略でもしに行くか? 一応初見でやりたかったからエリアボスの情報仕入れてきてないんだよな」


「それなら私もご一緒したいです! まだ私も第五の街へと行けるようになるエリアボスの攻略はしていないので!」


「勿論、一緒に行けるなら人数が多いに越した事はないからね」


 ビシッと姿勢良く手を上げるポンに、微笑みながら頷くライジン。


「わりぃ、俺はパスで。少しでもAimsWCSに備えて練習してくるわ」


「俺も明日の仕事があるからパスだな。また今度付き合ってくれると嬉しい」


「了解、二人共ありがとう」


 串焼き先輩は当然として、ボッサンは社会人だから、流石に時間が遅いし駄目か。

 厨二へと視線を向けるが、にこやかに笑いながら手を振る。


「僕はもう攻略済みだしねぇ、折角初見で楽しめるのならそれに越した事は無いし、三人で挑戦してくると良いさぁ」


 となると、三人でエリアボス戦か。ライジン、ポン、俺の三人となると……今度こそマンイーター戦以来の三人で攻略だな。

 一応、ライジンに牽制の意味を込めてジト目を向けておく。


「え、何その目線」


「今回は流石に嵌められないからな?」


「そんな毎回嵌めねーよ!? アレは日頃の鬱憤を晴らしただけであって常にあんな事はしないからな!?」


「ナチュラルにゲス発言すんじゃねえ!」


 この野郎、今度また何かあったら絶対に仕返ししてやるからな……!!

 そんな俺達の様子を見ながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべている厨二。


双剣舞士ブレードダンサー一人、熟練花火師一人、狙撃手スナイパー一人……まあそこまで問題は無さそうかな……?」


「なんだその意味深な発言」


「んー……まあ、実際に体験してみるのが一番なんじゃないかな」


 何だろう、凄く嫌な予感しかしないんだが。


「僕は特等席で眺めさせてもらうとするかねぇ。君達のエリアボス攻略、上手く行く事を願っているよ」


 一向にニヤニヤとした笑みを崩さない厨二の様子に違和感を覚えつつも、俺達はエリアボス攻略に臨む事となった。



!!!!」



 そして、厨二の発言の真意を身をもって味わう事になるのだった……。

 

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