#273 スクリム後の一幕



 変人分隊VS紫電戦士隊パープルウォーリアーのスクリム試合結果。



 一戦目──3-1で変人分隊の勝利。



 二戦目──3-1で変人分隊の勝利。



 三戦目──2-3で紫電戦士隊パープルウォーリアーの勝利。



 四戦目──3-2で変人分隊の勝利。



 五戦目──2-3で紫電戦士隊パープルウォーリアーの勝利。



 計五試合、3勝2敗で変人分隊の勝利となった。






 スクリム終了後、眼がガンギマった串焼き先輩がこちらに詰め寄ってくる。



「もう一戦だもう一戦!! 勝ち逃げはズリーぞ!!!」


「別に俺はしても良いんだけどライジンがこの後用事あるから無理なんだよなぁ……」


「だああああッ!! 畜生、用事ならしゃーねぇなぁ!? 今回は俺達の負けだ!!」


 なんか口調こそ悪いけど、ちょっと人の良さ出てるのおもろいなこの人。

 現実には影響は出ていないだろうが、二時間ほぼぶっ続けでスクリムをやった影響か、心なしか凝った気がする肩をほぐしながら呟く。


「しっかし……やっぱ強くなってるな、紫電戦士隊パープルウォーリアー


「たりめーだ、お前らに負けた上で世界大会に出る羽目になっちまってるんだぞ。スポンサーや応援してくれるファンの期待は裏切れねえ。……これ以上、不甲斐ない結果は残せねぇよ」


 それでも結果としては負けてしまったからか、串焼き先輩は唇を尖らせながらぼやく。

 日本大会ではストレート勝ちとまでは行かなかったものの、あの時よりも遥かに立ち回りの幅が増え、こちらも翻弄される結果となった。

 フルラウンドで戦った試合も何戦かあったし、紫電戦士隊パープルウォーリアーの実力は俺達ともう大差無いのかもしれないな。

 串焼き先輩の後ろに立っていたSAINAさんが、ぺこりと頭を下げる。

 

「悪いわね、用事があるのに付き合ってもらっちゃって。傭兵君のお陰で良い練習が出来たわ」


「いいや、元々ライジン以外は暇だったんで大丈夫ですよ。それに、俺がSnow_menの立ち回りを再現出来たかどうかと言われると微妙な所ですからね……」


「え?」


 少し申し訳なく思い、首の裏を掻きながらそう言うと、ぽかんと不思議そうな表情になるSAINAさん。


「俺としても近づけたつもりでした。ですが、当然事前に分析してる筈なので分かるとは思うんですがやっぱりあの人は別格です。俺が凡ミスした所はほぼ100%通してくると思った方が良いでしょう」


 スナイパーである以上、一度の交戦でのミスが命取りだ。交戦時間が伸びれば伸びるほどそれだけ自分の命を危険に晒す事になるし、出来れば一発で一人持っていくイメージで無いと、フルオート武器を持つ相手に手数で押し負ける可能性が非常に高い。その点で考えれば、保険を何個も切る羽目になってしまった俺はまだまだ至らないという事だ。

 SAINAさんは腕を組みながら、先ほどまでの試合を思い返しているのか、難しい顔になる。


「……そうだったかしら。傭兵君、あんまりミスしなかったと思うんだけど……」


「Snow_menはミスをしない俺みたいな物だと思って下さい。──まあ、単に俺が神格化し過ぎてるだけかもしれないですけどね。一応、彼は憧れではあるんで」


「そうね、彼の熱狂的なフォロワーだからこそそれほどの練度まで跳弾技術を練り上げたんでしょうけど……それでも、あなたの努力は凄いと思うわ。そんなに自分を卑下しないで、私からすれば、あなただって雲の上の存在なんだから」


「……うす」


 そう言って優しく笑うSAINAさんの視線に居た堪れなくなり、思わず目を逸らす。

 SAINAさんとの会話が終わるのを確認したのか、串焼き先輩が俺の肩を掴んだ。


「ライジンの用事が終わったらまたスクリムやってくれねぇか? 大会まで時間もねぇ、お前らの立ち回りが一番HOGに近いから練習になるごふッ!?」


「こら団子君。彼らは私達みたいにいくらでもゲームに時間を割いて良い訳じゃ無いの。それに、団子君だって明日講義あるでしょう? また丸々睡眠する気じゃないでしょうね……!」


「いだだだだ! 悪い! 悪かった!! でも、もう時間が無いから……!!」


 そんなやり取りをしているSAINAさんと串焼き先輩を見て、シオンがててっと近寄ってくると、徐に背伸びをし、串焼き先輩の肩を揉み始めた。


「……にぃ、ちょっと肩の力抜こう」


「おっふ……!? し、シオン……!? 愛しのマイシスターの肩揉みなんて何年ぶりだ……!? お兄ちゃん感動で泣きそうだァ……!!」


「串焼き先輩、今のあんた人に見せちゃいけない顔してるぞ」

 

 シオンに肩を揉まれた串焼き先輩は、泣き顔のまま満面の笑みを浮かべるというとんでもない表情を浮かべていた。

 妹に肩を揉まれてここまで顔がぐちゃぐちゃになるのなんて世界広しと言えどこの人ぐらいなんじゃねえかな……。

 見ろ、シオンの奴なんて、普段感情薄いからあまり顔に出ないのに心底引いてる顔してるぞ。

 シオンが手を離し、ジトッとした目で串焼き先輩を見ながら言う。


「……根を詰め過ぎ。……焦った所で結果は変わらない。……今日はもうずっとAimsに籠り切りでしょ。……少し、息抜きしてきなよ」


「息抜きなんてしてる暇は……」


「……駄目。……それでぱふぉーまんすが落ちてもチームに迷惑が掛かるだけ。……妹の我儘だと思って聞いてくれると、私は嬉しい」


「はいッ!! 喜んでェ息抜きさせて頂きますッ!!」


 SAINAさんに視線で『いつもこんな感じなんですか?』と聞いてみると『その通りよ』と呆れたようにため息を吐いた。マジでシオンが絡むと話がスムーズに進むな串焼き先輩……。


「そうね、団子君はちょっと息抜きしてきなさい。別ゲーでもして頭リセットしてくると良いわ」


「そうするかぁ……」


 別ゲー……別ゲーね。……あ、そうそう。


「そう言えば丁度良い用事があるじゃん。……まぁ、大丈夫だとは思うがライジンに先に聞かないといけないんだけど」


「?」


「SAINAさん、スクリム前に言ってた対価云々の話、この後串焼き先輩を一時間ぐらい借りるって事でも良いですか? 串焼き先輩を連れてやりたい事あったの思い出したんで」


「そう? なら、そうしてくれると助かるわ」


「やりたい事ってなんだ?」


「それは行ってからのお楽しみって事で」


 ラッキー、Aims世界大会まで串焼き先輩が拘束されているのなら出来ないなと思っていた用事を消化出来そうだな。

 遠くで紫電戦士隊パープルウォーリアーのエムゾウ氏、アッドマン氏と談笑していたライジン達を見つけると、手を振って近寄る。


「おーどうした傭兵?」


「いや、なんか串焼き先輩が思いがけずフリーになりそうでな。丁度良いタイミングだと思って」


「丁度良いタイミング?」


 何の事だろうか、と言った風に首を傾げるライジン。


「この後お前、SBOで配信するんだろ? その時間、ちょっとずらせたりするか?」


「まあ別に構わないけど……一体何するんだ?」


「次全員揃うタイミング分からねえし、折角なら【二つ名レイド】攻略メンバーで【最果ての地】に行ってみないか?」


「ッ!? 行こう!!!」


 想定通り、俺の提案に対し、考察厨のライジンは二つ返事で了承する。

 そう、俺の用事とは、【二つ名レイド】の報酬──【最果ての地への招待状】を使用し、【最果ての地】へと足を踏み入れる事だ。

 もやもやした気持ちを抱えたまま世界大会観戦に行きたくなかったし、本当に丁度良いな。


 こうして、俺達は【最果ての地】へと向かう事になったのだった。

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