#272 VS紫電戦士隊(スクリム) 終幕


(……スナイパーは近接戦闘は圧倒的に不利。凸砂するにしても限度がある……!)


 シオンはそう思考するや否や、AGI極振りのステータスを活かした全力疾走で一気に傭兵Aへの距離を詰めていく。

 傭兵Aの退路を断つべく、NPC兵士達も同時に動かしていく。


「勿論そう来るよなぁ、シオン!!」


 傭兵Aは楽しそうに笑いながら、何かのピンを抜き去ると、シオンへと向けて放り投げた。

 その形状からスタングレネードであると理解すると、シオンは目を閉じながら猛進する。

 直後、閃光と大音量が周囲に響き渡る。両手はSMGを握りしめている為、耳を守る事が出来ず、激しい耳鳴りが襲い掛かるが──問題は無かった。

 システム的な平衡感覚の消失を味わう事にはなるが、それはある程度の慣れで解決出来る。


「ッ!?」


 引き鉄を引き絞り、傭兵Aの居た位置へと弾丸を叩き込むが──手応え無し。

 閃光が止み、通常通りの風景に戻るが、先ほどとは一つ違う点があった。


 A


 今の一瞬で離脱を試みた? いいや、対物ライフルという重量級の武器を装備する為、傭兵Aはある程度STRにステータスを割いている。AGI極振りでもない限り、あの一瞬で姿が見えなくなる程の距離を稼ぐ事は出来やしない。ならば、これは──。

 一秒にも満たない思考の末、シオンはその答えを口に出した。


「……光学迷彩AC!」


「正解!!」


 直後、空間がブレたように動き、弾丸が大気を切り裂いて出現する。

 シオンは恐ろしい程の反応速度で傭兵Aの放った弾丸を避けるが、その弾丸はシオンが本命では無く──周囲に居た紫電戦士隊側のNPC達を跳弾で纏めて始末していく。


 ガジェット、『熱光学迷彩発生装置カモフラマー』。

 防護服に取り付け可能なそれは、ボタンを押すと短い時間、熱源探知すら受け付けない光学迷彩を全身に施す事が出来るという強力なガジェットだ。

 強力ではあるものの──その効果時間は僅か20秒程であり、射撃してしまえば立ち昇る硝煙を隠す事は出来ない。

 奇襲に特化したガジェットだが、千載一遇のチャンスを逃してしまえば途端にピンチへと陥る代物でもある。


 シオンは硝煙の位置から場所を特定し、その場所へと銃を即座に向けて射撃。

 またしても手応えは無かったが……傭兵Aの持っていたゼロ・ディタビライザーが、地面へと転がった。


(……!? 武器を手放した!?)


 『熱光学迷彩発生装置カモフラマー』の弱点の一つである、足音による場所の特定。

 優れたFPSゲーマーは、五感全てを活用して相手の位置を特定する。聴覚など、FPSにおいて特に重要な要素の一つだ。

 普段のシオンならばすぐに位置を特定出来ただろうが──今の彼女は、先ほどの傭兵Aのスタングレネードの影響で、正常な聴覚では無かった。

 それならば、とシオンが周囲に視線を巡らせ、地面の僅かな変化に注意を向ける。だが、次の瞬間、頭部に強烈な衝撃が加わり、地面を二転三転する。


(……飛び回し蹴り……!?)


 地面の変化を悟らせないように、予め宙に飛んで無防備な所に一撃。

 およそFPSでは考えられないような立ち回りを前に、シオンが揺れる。

 『困ったら取り敢えず近接に頼っとけ』──SBOの大会で、彼自身が言っていた言葉だが、それはあくまで最終手段であってこんな前衛的に取り入れる物では無い。

 SBOというゲームを経て、彼は戦術の幅を更に広げている──そう理解し、シオンは立ち上がりながら密かに笑う。


「……やるね。だけど、一方的にやらせはしない!」


 シオンは傭兵Aの次なる行動を予測し、ゼロ・ディタビライザーの転がる場所へと向けてマガジン全弾叩き込んだ。


「流石に読めるか……!」


 すると、幾つかダメージエフェクトが出現し、光学迷彩の効果時間が切れた傭兵Aが出現する。

 今の射撃により、後一、二発でも弾を当てられれば即時死亡の状態にまで陥っていたが、傭兵Aは一切焦る事無く、反撃の射撃を放った。

 シオンはその射撃を最小限の動きで避ける。直後、ようやく回復してきた聴覚が、背後にあった壁が粉砕される音を捉えた。

 ポーチから取り出したマガジンに素早く取り変えながら、傭兵Aとの距離を確実に詰めていく。

 

(……跳弾ルートが甘い、これなら──!!)


 日本大会を経てからも、傭兵A対策の為に、散々跳弾の研究を行っている。

 だからこそ、彼女の直感が告げていた──今避けたばかりの弾丸は、自分とは決して交わらないルートを辿っていると。

 そう確信し、射撃したばかりで無防備な傭兵Aへと、リロードを終えたSMGを突き付けようとするが──。


「……もらっ……ッ!?」


 視界の端に。

 カッ、と閃光が僅かに映った。

 それは、障害物と弾丸が接触……跳弾した際に発生する火花。

 直後、シオンの想定外の方向から、弾丸が迫り来る。

 確信する死の間際、シオンは加速した思考の中で、何が起きたかを正確に理解していた。


(……今しがた発生したばかりの瓦礫を使って──!?)


 一定以上のダメージを受けると破壊されるオブジェクト。対物ライフルという超高威力の武器によって放たれた弾丸は、壁や地面を一撃でこれ以上の破壊が出来なくなる、『破壊不能オブジェクト』へと変える。そして、破壊によって発生した瓦礫も壁や地面と同様に──『破壊不能オブジェクト』の性質を帯びるのだ。そう、『』がそこに出来上がるのだ。

 傭兵Aが行ったのは、最初に通った弾道で発生させた瓦礫が落下している最中に、その瓦礫を跳弾ルートに絡めて跳弾させるという正しく神業に等しい一射。

 シオンの想像の斜め上を行った傭兵Aの射撃は、容赦なくシオンの胴体を貫いた。


 その様子を眺めながら、傭兵Aは対物ライフルを肩に担ぐと、不敵に笑う。


「お前達が成長していくように、俺達だって成長し続けてるんだよ。──弱くなったんじゃないかって不安になってたか? 安心しな。このラウンド以降は、一ラウンドだって取らせやしねぇ」


「……生意気。……だけど、それでこそ。──私が目指すNo.1は、遠いからこそ挑戦し甲斐がある」


 光の粒子となって消えていくシオンは、未だ届かぬ高みを見ながら、微笑を浮かべた。


『ポイントBブラボーが制圧されました』


 そして、シオンの消滅と共に流れたB制圧のアナウンスを聞いてから、静かに呟いた。



標的撃破エネミーダウン



 ──第二ラウンド、Bブラボー争奪戦。勝者、傭兵A。



 相手チームの全滅により、第二ラウンドの勝者は変人分隊の物となった。





 そして、傭兵Aの宣言通り、その後のラウンドも順当に勝利していき──この試合マッチは、3-1で変人分隊が勝利した。

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