#271 VS紫電戦士隊(スクリム) その四


『ポイントAアルファが制圧されました』


 同時刻、ポイントCチャーリーに到達したばかりの厨二とボッサンの前に立ち塞がったのは、既に迎撃準備を整えていた串焼き団子、SAINA、エムゾウの三人と紫電戦士隊パープルウォーリアー側に割り当てられたNPC達だった。

 戦場に響き渡るアナウンスを聞きながら、ボッサンは状況を再確認するように口に出す。


「『地獄の業火ヘルファイア』の炎上効果で通路を塞ぐ事で、こっちにAの奪取を諦めさせる。Aに向かってくる戦力がゼロだと分かっている以上、向かわせるのは少数のNPCだけで十分エリア確保が可能。余剰戦力を全部BとCに回してこのラウンドを全力で取りに来る……中々良い戦略じゃねぇか、団子君」


「どーも、日本最強チームの頭脳にそう言ってもらえるとは光栄だね」


 ボッサンの言葉に、串焼き団子が不敵な笑みを浮かべる。

 第一ラウンドの『花火』が決まった時点で変人分隊側のNPC戦力を大幅に減らされているので、ボッサンと厨二に追従するNPC戦力は微々たる物だ。

 既に相手チームにポイントCチャーリーに入られている以上、人数を減らさなければ変人分隊側はエリアを確保する事が出来ない状況だった。


「世界大会ルール準拠で考えりゃこの試合はBO5最大五ラウンド……このラウンドを勝てばあっという間にマッチポイントだ。だからこそ、このラウンドは是非とも押さえておきたいだろうしな」


「ああ、お前らにリードを許すとそのままの勢いで終わらせてくるだろうからな、このラウンドは俺達が貰うぜ」


「だ、そうだ厨二。……お前の返事は?」


 ボッサンが一つ息を吐き出し、腕を組みながら厨二の方へと視線を向ける。視線を向けられた厨二は、にっこりと笑うと。


「やーだね♡」


「ッ、伏せろ!」


 そう言って、厨二が正面へとスモークグレネードを投げ込んだ。既にピンが抜かれていたそれは、即座に周囲に白煙を振りまき、視界を大きく制限させる。

 手榴弾を投げ込まれたと勘違いした紫電戦士隊のメンバー達は、厨二の行動に対してワンテンポ対応が遅れてしまう。


「ッチ、モク焚かれた! まだ場所はそこまで動いてねぇ筈だ! モクに向けて集中砲火し……」


「アハッ! 遅い遅い!」


 想像とは裏腹に、白煙を切り裂きながら飛び出した厨二。その片手にはリボルバーが握られており、もう片手には注射器。中に入っている筈の緑色の液体は既にシリンジ内部には存在せず、それが意味するのは既にその液体がという事だった。


 AB-NIステロイド。一時的に飛躍的な身体能力の向上を齎す代わりに、効果時間終了後はラウンド終了まで常にスタミナ切れを起こした状態になるというハイリスクハイリターンのガジェットだ。

 効果時間は約1分。短期決戦用のガジェットではあるものの、使い所によっては大きく戦況を覆せるだけの可能性を秘めている。


 不運にも飛び出した位置に居たエムゾウは、咄嗟に手に持っていたARを厨二の身体に押し付けるが、発砲よりも一瞬早く厨二の手に持つリボルバーがエムゾウの頭部を貫いた。

 エムゾウの身体が光の粒子となって砕け散る中、NPCと、紫電戦士隊サイドのプレイヤー二名による銃撃が厨二に迫り来る。

 ガジェットの効果により弾丸がゆっくりと視認出来る状態になっている厨二は、その心地良さに身を任せながら弾丸を避け続ける。


「ッ、化け物……!」


 SAINAが思わずそう呟いてしまうのにも無理は無かった。いくらAB-NIステロイドの効果があると言えど、大量の弾丸を一度の被弾もせずに躱し切るのは至難の業。それはひとえに、厨二の人並外れた動体視力と、卓越したバランス感覚が為せる技だ。

 高速で動き回る厨二の姿を目で追いつつ、正確なAIMで射撃を続けるが、まるで幻でも撃っているかのように当てる事が出来なかった。


「おいおい、化け物とは酷いねぇSAINA。Aims日本大会の時はやり合えなかったからね、存分にやり合おうじゃないか!」


「っく、つくづくこのチームは人間辞めてるみたいね……!!」


 少しでも近づけさせないように、グレネードや射撃を駆使して厨二を遠ざけようと試みるが──死をも恐れず前進を続ける厨二には、ほんの数秒程度しか稼ぐ事が出来ないだろう。

 しかし、距離が近付けばそれだけ回避する為の猶予は無くなる。幾ら身体能力を飛躍的に上げた所で限界はある。それを証明するように、SAINAと厨二の距離が近付く程に少しずつ銃弾の被弾回数が増えていく。


(獲ったッ!!)


 そして遂に、厨二の動きを先読みし、置きAIMしていたSAINAは決定的な瞬間を捉え、トリガーを引き絞──



 ──る事は、出来なかった。


「な……ッ!?」


 その時、死角からの散弾銃ショットガンにより、SAINAの身体に風穴が空いた。白煙の向こうに居たのは、熱源探知サーマルゴーグルを身に着けたボッサンだった。

 初手に焚いたスモークグレネードは、ただ厨二が距離を詰める為だけに使ったのではなく──突っ込んでいった厨二を陽動として、死角からSAINA達を仕留めるチャンスを狙う為でもあったのだ。

 SAINAの身体が光の粒子となって砕け散っていく。一仕事終えたボッサンは、そのまま串焼き団子の姿を追うが──。


(──居ない? いや──上か!!)


 違和感に気付いたボッサンは、即座に上へとばっと視線を向ける。

 そこには、SMGを構えた串焼き団子が白煙を切り裂きながら現れた。


「やってくれるじゃねえか、ボッサン!」


「流石、対応が早えな……!!」


 SMGが唸りを上げると、ボッサンの身体に容赦なく弾丸が突き刺さる。

 致死量の弾を浴びたボッサンは、そのまま光の粒子となって消えていった。


「残りは傭兵と厨二……!!」


 ボッサンが身に着けていた熱源探知サーマルゴーグルを取り付けると、厨二の姿を目視した串焼き団子はSMGのトリガーを引き絞る。

 その正確無比な銃撃は素早く移動を続ける厨二の右腕を正確に捉え、吹き飛ばした。


「おや、避けたつもりだったんだけど……やっぱり君、やるねぇ」


「こっちは即死に持ってくつもりで撃ったんだけどな……!!」


 右手に握られていた【最後に立つ者ラスト・スタンド】という名の回転式拳銃リボルバーが地面を転がる。それを拾っている時間は無いと判断した厨二は、即座に近接武器であるコンバットナイフを抜き払い、串焼き団子に迫る。

 目前にまで迫り、コンバットナイフを振りかぶったタイミングを見計らって、串焼き団子はSMGのトリガーを引き絞った。小気味良い音を鳴らしながら放たれた弾丸は、厨二の持つコンバットナイフを粉砕し、武器破壊ウェポンブレイク状態に陥らせる。

 

「詰みだ厨二ィ!」

 

 右手に握っていた回転式拳銃リボルバーはその腕ごと地面を転がり、左手に握っていた近接武器も破壊された状態。

 客観的に見ればまず間違いなく撃ち負ける要素の無い状況であるが……串焼き団子は確実に仕留めるべくSMGの銃口を厨二の頭へと動かしていく。

 だが、厨二は一切速度を緩める事無く──口の端を吊り上げながら。


「ボクはロマンを重視する派なんだよねぇ、そこに実用性があるのならなお良い」


 AB-NIステロイド効果時間終了まで残り三秒、厨二は絶体絶命の状況下でありながらも、不敵に笑う。

 そして、厨二は串焼き団子の射線から逃れるべく、身体をねじりながら、空中へと踊り出た。

 残るは拳のみで一体何故空中に──そう考えた串焼き団子の視界に映ったのは、厨二が身に着けているガンホルスター。


 そしてそこに納められていた──もう一つのリボルバー


「ッ!!」


「さぁ、早撃ちと行こうか!! 串焼き君!!」


 初手で焚かれたスモークグレネード、そしてAB-NIステロイドで残像が見える程までに加速していた影響で気付く事が出来なかった厨二の武器構成。

 メインウェポンに回転式拳銃リボルバー、そしてサブウェポンにも回転式拳銃リボルバー


 即ち──二丁ダブル回転式拳銃リボルバーという


 その事実に気付けなかった串焼き団子に迫るは、脅威の早撃ち。

 閃光のように左手が閃き、時間にして僅か0.015秒のクイックドロウから放たれた弾丸は、串焼き団子の胴体と頭部を、正確に撃ち抜いた。


「だぁ……!! クソッ……!!」


 致命的なダメージを負い、抗う事すらも許されずに串焼き団子の肉体が爆散する。

 厨二は着地し、リボルバーを器用にガンスピンさせた後、ホルスターへと納めた。


「ええと、こういう時、確か彼はなんて言うんだっけ……ああそうそう、標的撃破エネミーダウン、ってネ」


 AB-NIステロイドの効果時間終了と共に、第二ラウンドCチャーリー争奪戦の幕が閉じる。


 



────

【補足】

AB-NIステロイド(Archi Bald - NITROステロイド)通称 A(あ)B(ぶ)N(な)I(い)ステロイド


アーチボルド社が開発した超短期決戦用筋肉増強剤。接種から一分間の間、比類なき身体能力を得る他、体感時間の圧縮などの副作用を起こす。ただし、効果時間終了後は数日~数ヵ月単位で全身の筋肉が衰えてしまうぞ!(ゲーム内フレーバーの為、実際はラウンド終了まで) 明らかにやべーブツなので、原材料に何が入っているかは知らない方が身のためだぞ!

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