#270 VS紫電戦士隊(スクリム) その三


 立て続けの散弾銃による三連射を、遮蔽物と身のこなしを駆使して回避する。

 アッドマン氏が持つ散弾銃は最高レアリティエキゾチックの銃、【三弾銃トリニティ】。一発分の弾薬消費で三連射を可能にするというコストパフォーマンスに特化した武器だ。

 エキゾチックウェポンには派手な効果を持つ武器が多いので、効果こそ一見地味に見えるが、ラウンド移行で弾薬数が引き継がれないこのゲームモードでは非常に優秀な性能である事には変わらない。


 Bブラボーに点在する遮蔽物に身を隠しながら、勝つ為の作戦を考え続ける。


(啖呵切ったのは良い物の、武器相性的に近距離戦闘を挑めば俺は圧倒的に不利……! が、距離を離そうにも逃がしてはくれないだろうなぁ……!)


 狙撃銃スナイパーライフル散弾銃ショットガン。当然ながら現在の状況は向こうに利がある為、俺がすべき行動は逃げの一択。だが、

 逃げる時間がそのままこのラウンドの勝敗に直結しかねない。ならば、逃げるのでは無く──逆に必要がある。


 即ち、狙撃銃スナイパーライフルの一撃の高火力に物を言わせ、至近距離で無理矢理戦うという戦法。ある程度の練度が無ければロマン戦法の域を出ないが、確実に当てる事が出来れば理論上全距離対応可能な武器に変貌する。


 そしてそれは──俺の憧れであるSnow_menの得意とする戦法の一つでもある。


(俺が成長したか試すにゃ丁度良い──なにせ最近凸砂の練度を上げてきたんでね!)


 SBOでのリヴァイア戦攻略の際に練度を上げた凸砂の技術。移動しながらの跳弾は計算要素が膨大に膨れ上がる為、困難を極める。

 だが、跳弾地点を予想されれば対処されてしまう以上は、その技術を習得する事を強いられた。


「おいおい、さっきの威勢の良い発言は何だったんだ? 隠れてばっかりじゃ勝負になんねえぜ?」


「んな挑発に乗る程馬鹿じゃないっすよ……!!」


「だよ、なッ!?」


 遮蔽に身を隠しながら、聞こえてきたアッドマン氏の声から位置を逆算して射撃する。

 地面を、壁を経由して狙い済ませた一射は、残念ながら仕留めるには至らなかったようだ。


「っぶねぇ!? 油断も隙もあったもんじゃねえ! どんな精度してんだ本当に!?」


「俺がSnow_menなら今ので終わってましたよ……!」


「マジかよ、このゲームのトップ層はイカレた連中が多すぎだろッ……!?」


 言うが早いか、次弾を装填する為にコッキングしながら遮蔽物から飛び出した。

 敵の位置を目視で確認し、向こうが反応する前にもう一度トリガーを引き絞る。射撃の際の爆音が周囲に響き渡り、元より対物用に製造されている弾丸は、周囲のオブジェクトを容易に破壊不能レベルにまで陥らせる。


(読みが正しければ、この一撃で終いだ)


 アッドマン氏が即座にこちらに散弾銃ショットガンを向けたが、それは悪手。俺はアッドマン氏を撃ち抜く為に、先んじて手を打ってある。

 その直後、跳弾してきた弾丸が散弾銃ショットガンの銃身に命中し、弾け飛ぶ。その衝撃でアッドマン氏の体勢が吹き飛んだ。


武器破壊ウェポンブレイク。どれだけ弾持ちが良かろうと、そもそもの武器自体が破損しちまえばこのラウンド以降のその武器の使用を封印させるってだ。もし同じ戦法を取るってんなら、Snow_menは決めてくるだろうな」


「く、そッ……!? 俺にだって、プロの意地が……!」


 すぐに体勢を持ち直して、せめて俺に一矢報いようとしたアッドマン氏に迫り来る影。

 勝負は一瞬。散弾銃ショットガンを穿ち、そのままエリアを駆け巡った銃弾は的確にアッドマン氏の頭部を撃ち抜き、血の花を咲かせた。


「俺はプロを甘く見てるつもりは無いですよ。今回のあんたの敗因は洗練されてる動作だからこそ予測できたからに過ぎない。それに──アマにだって、これまで積み重ねた時間の分、矜持プライドってもんがあるんすよ」


 B争奪戦、アッドマンVS傭兵A──勝者、傭兵A。





「……やるね、ポン」


「ギリギリ、ですが……!」


 ポンを確実に仕留める為に近距離でSMGの弾丸を叩き込もうと試みているシオンだが、ポンの繊細なグレネードランチャーによる誘導によって距離を保ち続けていた。

 勿論、ポンはシオンを仕留めるつもりで放ち続けているが、その悉くを予測されて回避され続けている。AGI極振りの軽量ビルドの利点を最大限に活かしている彼女に対し、今一歩詰め切れない状態でいた。


(これ以上の遅延は望めない……! しかも、シオンちゃんは私を直ぐに倒すんじゃなくてこっちの弾薬数を減らすつもりで仕留めに来ていない……!)


 心の内を支配し始める焦燥。だが、手を止めたりすれば即座にキルしに来るのは目に見えている。だからこそ絶えず撃ち続ける事を強いられているが……その結果辿る末路はジリ貧だ。


「……向こうは終わったみたい……こっちも終わらせよう」


 アッドマンがキルされたログが流れ、シオンが更に加速する。

 地面すれすれを滑空しているかのようにあっという間に距離を埋め、ポンの正面へと躍り出た。


「させるか!」


「……ごめん、ライジン……邪魔」


 ポンを討たせまいとライジンが正面に来たシオンへと銃口を向ける。

 だが、既に銃口を向けていたシオンがライジンの身体に容赦なく弾丸を叩き込んだ。


「ッぐ、ポン! !!」


 ライジンの言葉の意図を汲み取り、ポンはライジンに向かって銃口を構え、トリガーを引き絞った。

 ポンの持つ【ギャラルホルン】から擲弾が射出され、ライジンの身体を呑み込んで爆炎が燃え広がり──視界端にキルログが二つ表示される。


「やった……! …………え?」


 だが、そこに表示されたキルログはライジンの物と──もう一つは、紫電戦士隊パープルウォーリアーNPCの物。

 先ほどポンを守る為に正面に出てきたライジンのように……思考操作によって後方に控えていたNPCをシオンの盾として動かしていたのだ。

 黒煙を切り裂いて飛び出した紫色の閃光が、ポンとの距離をゼロにする。


「……相打ち覚悟も当然想定済み。……さっきの花火でNPCが減らされていたから戦術の思考が狭まってたね、ポン」


 返答を聞く間も無く、マガジンに残る弾丸を全てポンの身体に叩き込むシオン。

 ポンの体力は当然の如くゼロとなり、ポリゴンとなって砕け散った。


「……ふぅ」


 高度な並列思考によるNPC操作。いくら自分の思ったようにNPCを動かせると言えど、あのタイミング──ライジンの身体でNPCの姿が見えなくなった瞬間を突いた一瞬の隙を通してみせたのは、シオンの技量に他ならない。


 紫電戦士隊の核となる天才兄妹。その片割れである彼女は、


 静まり返るポイントBブラボー。各々の勝負を終えた者達は、連戦の準備を整える。

 シオンの眠そうな瞳の下に隠しきれない程の闘志を宿しながら傭兵Aを捉えると、僅かに口角を上げた。


「……やろう傭兵。……強くなったおにゅーな私を見せてあげる」


「おいおい最高かよ……良いぜ、見せてみろシオン! 叩き潰してやる!」



 第二ラウンドBブラボー争奪最終戦、傭兵AVSシオン、開幕。

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