#269 VS紫電戦士隊(スクリム) その二


「やられたねぇ、まさか紫電戦士隊パープルウォーリアーが『花火』をしてくるなんて……想定外も良い所だヨ」


「完全に紫電戦士隊パープルウォーリアーってチームに対する固定観念に囚われちまってたな。悔しいが、団子君達の作戦勝ちだな」


 ラウンド間のインターバルで、先ほどのラウンドの反省会を行いつつ次のラウンドの準備を行っていた。

 先ほどのラウンド──開幕の『花火』を完璧に決め、正面からシオンの突撃に合わせて、恐らく全力で裏取りを試みていた串焼き先輩の奇襲によって為すすべも無く敗北した。

 串焼き先輩達紫電戦士隊パープルウォーリアーは数々のFPSで頂点に君臨してきた国内トッププロチーム。このゲームにおいては仕様を知り尽くし、極めている俺達に分があると言えど、実力はそこまで差がある訳では無い。

 むしろ、別のFPSで戦えば串焼き先輩達の方が圧倒的に上と言っても過言では無いのだ、策が上手くハマればあっさり俺達が負けてしまってもおかしくはない。


 短く息を吐き出して思考を整理してから、変人分隊のメンバー達を見回す。

 

「気を引き締めろよ、お前ら。あいつらはスクリムと言えど、全力で勝ちに来るつもりだ。これまで勝ってる回数が多いからって舐めてると、足元掬われるぞ」


「少し気を抜いてたのは認めるよぉ……でも、想定以上に楽しくなりそうで、ワクワクするネ」


 先ほどのラウンドでしてやられた厨二は獰猛な笑みを浮かべながら、拳を握る。

 それに笑って頷いたボッサンが、一歩前に出ると。


「次のラウンドはさっきのラウンドの指示とほぼ同じで、ポンは傭兵の方へ行ってくれ。ライジンは裏取りに警戒しつつ、ポンと傭兵で前線をこじ開けろ。次のラウンドは弾薬の関係上、『花火』をやってこねぇだろうし、Aはほぼ確実に取りに行けるだろうよ」


「ああ、二度と同じ無様は晒すつもりはないさ」


 背後からの串焼き先輩に奇襲によって、ライジンは反撃すら出来ずにキルされてしまった。それが悔しかったのか、ライジンは歯噛みしながらもその瞳に闘志を燃やしていた。

 そうしている間に、次のラウンドのカウントダウンが始まる。


「次のラウンドは絶対に取るぞ!」


「ええ、絶対に負けません!」


「後ろは任せろ、二人共!」


「いっちょかましてやろうぜ!」


「ボクが全員の首を取ってきてやるさ」


 各々準備を整え、ラウンド開始を告げるブザーと共に一斉に駆け出した……のだが。


「あ、ちょっと止まってボッサン」


 厨二はAに向かって動き出そうとしていたボッサンを引き留めると、顔の前に人差し指を立てながら、集中するように眼を細める。


「確かにこのゲームモードの仕様上、弾薬補給は出来ない。だからこそこのラウンド以降のリスクに繋がる『花火』はもうしてこない──」


 そこまで言ってから、厨二は口端を吊り上げる。


「──と、思わせてもう一度仕掛けてくる、だろう?」


 その一秒後、視線の先に空中から降り注ぐ大量の榴弾。その悉くが爆ぜ、爆炎が燃え広がった。

 目の前の光景に顔を引き攣らせた二人を余所に、厨二は遠くに居るであろう串焼き団子を思いながら、ほくそ笑んだ。


「傭兵クンからHawk_moonのように立ち回れって指示受けてるんでネ、今回のボクは“読み”に徹させてもらうよ」





「──ッ、読まれた! 団子君、どうする!?」


「慌てるなSAINA。そもそも『花火』は一ラウンド通用すれば良い戦術、言ってしまえば撃ち得なんだよ。残弾もねぇ、すぐにNPCと武器を交換して前線に向かうぞ」


「了解!」


 串焼き団子の指示を受けてすぐ、SAINAはノーアタッチメントのARと取り換え、前線に向かって駆け出した。

 串焼き団子はその後ろを追走しつつ、独り言を呟く。


「裏の裏をかかれたな。先ほどのラウンドで仕掛けてきた上に、今後のラウンドのリスクが高い『花火』はもう仕掛けてこない──そう思わせた所に『花火』による奇襲。それを読まれるなんてな……流石と言うべきか、あの変人共」


 目を瞑り、一つ息を吐き出した串焼き団子だったが……すぐにその口端が吊り上がる。


「……だが、決まったとしても決まらなかったとしても、この作戦は使った時点でこっちにがあるんだよ。精々に苦しんでると良いさ」






「──マズいね、今回の彼……かなりみたいだねぇ」


「……だな、さっきのラウンドは即デスしたからこそ気付けなかった要素だ。一人でも生きてれば気付けたんだが……向こうの作戦はかなり周到だな」


 串焼き団子の作戦に勘付いた厨二は『花火』の着弾地点を眺めながら、眉をひそめた。

 そこには、辺り一面の業火が燃え広がっており──


 ──グレネードランチャーの最高レアリティ武器エキゾチックウェポン、『地獄の業火ヘル・ファイア』。


 その効果は、着弾後に一定の周囲に業火を起こし、一定時間その勢いを増し続けながら燃え広がるという物だ。広いマップであるのならば『それなりに強い』で留まる武器だが──この【ドストン戦線】というに於いては無類の効果を発揮する。


 例えば──数発分の弾が一ヵ所に集中して着弾すれば、


「着弾後の炎上効果は永続じゃない、ある程度待てば消える物だけど……このモードに於いてはその消えるまでの時間が命取りだ」


 コントロールポイントというゲームモードは、AアルファBブラボーCチャーリーの3エリアの制圧、もしくは全敵プレイヤーの殲滅が勝利条件だ。そしてもう一つ例外として──一ラウンドの制限時間である10分が経過した場合、より多くのエリアを占領し、その占領時間が多いチームが勝利する。

 厨二の目の前に広がる通路は、変人分隊側のリスポーン地点からAアルファに繋がる重要な通路。ここが封じられるとなると、Bブラボーを経由してAアルファに向かわなければならない。この致命的なタイムロスによって、相手側のエリア占領のチャンスを与えてしまっているのだ。


(二重三重にも策を重ねてきてるって訳ね……良いネ、だ)


 ボッサンに目配せし、お互い一つ頷いてから、当初の予定を変更しCチャーリーへと向かって駆け出した。





 Bブラボー前へと進んでいた俺達は、敵サイドのスポーン地点に繋がる通路から走る人影を視認した。


「正面から2名、シオンちゃんとアッドマンさんです!」


「了解、シオンはまた正面から仕掛けてくるだろう、すぐに対処を……ッ!」


「……先手必勝」


 視線の先、既にシオンは助走を付けて動き出していた。

 そして先ほども見たAGI極振りによる地形無視機動を駆使しながら、俺達へと迫り来る。


「だらだらしてっとシオン一人に殲滅されるぞ! ポン、確実にシオンの首を取りに行く!」


「了解です!」


「……ん、簡単に取らせやしない」


 こちらに撃ち抜かせまいとシオンが不規則に動き回り始める。

 無茶苦茶な動きをしながらも、合間にこちらへと射撃するそのエイムは正確な物であり、少しでも油断すれば即デスに繋がりかねない。

 シオンの射撃を回避しながら、ゼロ・ディタビライザーを構えた瞬間。


「おっとっとぉ。俺も居る事、忘れて貰っちゃ困るんだよね」


 ゾクリと背筋を伝った悪寒を頼りに、横っ飛びに回避する。

 先ほどまでいた空間に散弾銃ショットガンの弾丸が通り過ぎ、一秒でも判断が遅ければ俺の身体はハチの巣になっていただろう。

 即座に弾丸が飛んできた方向に視線を向けると。


、未だに夢に見るんだよなぁ……お陰で散々ネットで叩かれたもんだぜ、紫電戦士隊パープルウォーリアーの面汚しとまで言われたさ」


 硝煙が立ち昇る散弾銃ショットガンを肩に担ぎながら、その男……アッドマン氏は鋭い目つきでこちらを睨みつけていた。


「見返す為の観客ギャラリーは居ねぇ、だがそれでも俺にとっちゃ都合の良いリベンジのチャンスなんだ。このチャンスをふいにするつもりはねぇぞ、変人スナイパーさん」


「俺だってあんたを狙いたくて狙ったわけじゃないっすよ……!」


 日本大会でのアレとは、恐らくというか十中八九開幕スポーンキルの件だろう。……あの大会まで俺が隠し通していたからこそ通じた戦法なのだが、観客からすればそんな事実は知らないだろう。

 それは、結果こそ全てのプロの世界では汚点に繋がる。落ちてしまった信頼を取り戻すには、勝利という結果で挽回する他無い。


 ……どうやら、俺は知らず知らずの内に産み出していた因縁を晴らす必要があるようだ。


「それなら正面から叩き潰して──スポーンキルなんかしなくたってあんたの敗北は必然だったって証明してやるよ!」


「言うねぇ変人スナイパーさん! ならやってみろ!」

 


 第二ラウンド、Bブラボー争奪戦は激化する。

 

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