#268 VS紫電戦士隊(スクリム) その一


紫電戦士隊パープルウォーリアーとのスクリムだが、ゲームモードはコントロールポイント、世界大会公式ルールで設定するつもりだ」


「世界大会想定スクリムだもんな、当然っちゃ当然か」


 いつものカフェに変人分隊全員が集合してから、俺達は打ち合わせを行っていた。

 突発的な提案ではあったが、全員が乗り気であった事に嬉しく思う。……紫電戦士隊パープルウォーリアーに世界大会の出場権を丸投げした事に少なからず負い目もあったのだろうが。

 それに、ポンが復帰すると決めた以上は、次回開催の日本大会では俺達も世界大会の出場権を全力で勝ち取りに行かなければならない。そういう意味でも、このゲームにおける勘を鈍らせないのは重要だ。


「あ、そうだ厨二」


「なんだい?」


「お前、Hawk_moonの再現って出来たりする?」


 優雅に珈琲を堪能していた厨二にそう問いかけると、普段自信に満ち溢れている表情が僅かに曇り、困ったように頬を掻いた。


「おいおい、言ってくれるねぇ。の模倣をしろって、僕は天才であっても万能じゃないんだよ?」


 生ける伝説。そう厨二が形容したのはHawk_moonの戦績に由来する。

 彼、もしくは彼女がHands of Gloryに加入してからの公式戦のチームの戦績は脅威のであり、1on1における個人の戦績は指折り数える程しか負けた事が無いという化け物染みたFPSプレイヤーだ。

 厨二も大概チート染みたレベルではあるが、Hawk_moonはその上を行く。模倣するにしても限度がある、というのが厨二の言い分だ。

 

「再現できるレベルで構わない。串焼き先輩達に世界レベルを体感させたいだけだしな」


「なるほどねぇ。つまり、君も……」


「ああ、俺も模倣するつもりなんだ。……出来る限りあのプレイスタイルに近付けてみる」


 HOGの常勝を支える副将──世界最強の狙撃手、Snow_men。俺の憧れの存在であり、跳弾スナイパーという変態プレイの開祖。唯一俺が勝っている点があるとすれば、跳弾限界射撃だけであり、射撃の精度、命中率、跳弾の正確性で見れば俺の方が明らかに劣っている。

 何より、Snow_menはが上手い。この間バトロワでマッチングした時に見せた、乗り捨てられたバイクを駆使した跳弾などが最たる例だ。


「私達もHOGの誰かの再現をした方が良いんでしょうか……?」


「いや、ポン達はいつも通りで大丈夫だ。持てる限りの力で暴れてくれ」


「ま、お前ら二人と違って再現できるプレイヤーが居ないしな! がっはっは!」


「予め言ってくれればBeckさん辺りの立ち回りを勉強してきたんだけどな」


「突発的に決まったし、お前にそう言ってたら数日掛けて仕上げてくるつもりだろうし冗談でも言えねえよ……」


 俺と厨二は近いプレイスタイルのプレイヤーが居るから再現をするつもりだし、無理矢理再現するよりも、いつも通りのプレイスタイルで戦った方が圧倒的に強いだろうしな。下手すれば手を抜いていると思われかねないので、そこはきちんとしておくべきだ。


「最後に、一つだけ。向こうからも釘は刺されてるけど、手を抜く事は一切許されない。いつも通り、気楽に楽しみつつ──ぞ」


「当ッ然、串焼き君が引退したくなるレベルで完膚なきまでに叩きのめすさぁ」


「あはは……でも、シオンちゃん達も世界大会に向けて仕上げてきてそうですし、楽しみです!」


「おう、公式戦のつもりで全力でやってやろうぜ!」


「勿論、足手まといにならないように全力を尽くすさ」


 変人分隊の全員の士気が高まったのを見て、小さく頷いてから、ウインドウを操作してプライベートマッチを作成する。

 紫電戦士隊パープルウォーリアーの面々を招待してから、俺達は戦場へと身を投じた。





 【ドストン戦線】。


 Aims日本大会決勝で紫電戦士隊パープルウォーリアーとのマッチでピックされた因縁のあるマップだ。

 塹壕や壁が多く存在するのが特徴であり、一直線の通路が多いので純粋な撃ち合いのレベルやどの通路から相手エリアへの繋がる道をこじ開けられるかの戦略性が試されるマップでもある。

 遮蔽物が多く、跳弾リスキル対策の為に運営が作成したと言われているが、俺は既にこのマップでのリスキルラインを把握しているし、当然相手側も警戒している事だろう。


「傭兵君、花火はやりますか?」


「うーん、流石に同じ手は食わないだろうし、初手花火はやめとこう。……もし不意を突けそうならやる価値はあるかもしれないけどな……」


「それに、HOGは花火なんてしてこねぇだろうしな。本来奇策みてぇなモンだし、ポンはいつも通りの立ち回りが良いんじゃねえか?」


「それもそうですね。最近はグレポン以外の武器も練習してるので、適宜NPCの武器と入れ替えてみます」


 拳を握って意気込むポンに一つ頷いてから、ボッサンの方へと向く。


「じゃ、ボッサン。一ラウンド目の指示を頼む」


「OK、じゃあ最初のラウンドは俺とポン、厨二でAアルファを取りに行く。ライジンと傭兵はBブラボーに取りに行ってくれ。目標のポイントが取れ次第、Cチャーリーの奪取に向かう。接敵した場合はなるべく敵の排除を優先しよう。人数有利でエリアが取れそうなら膠着状態のままキープしても構わない」


「了解。ライジン、よろしくな」


「ああ、背後は任せとけ。お得意の跳弾射撃で全員ぶっ倒しちまえ」


 ライジンと腕を軽くぶつけ合い、笑い合う。

 向こう側の準備も整い、ラウンド開始を告げるカウントダウンが始まった。


「さてさて、紫電戦士隊パープルウォーリアーはどれだけ腕を上げてきたか──お手並み拝見と行こうじゃねえか!」


 ラウンド開始のブザーが響き、全員が一斉に動き出す。

 Bブラボーへと向けて走りながらどの場所で狙撃をしようか考えていると──俺は、上空から想定外の物が飛来している事に気付いた。


「──ッ! ボッサン!」


 俺がAアルファへと向かっている三人に叫ぶと同時に、爆発音が響き渡った。

 そして、視界端に、ボッサン、厨二、ポンの三人のデスを告げるキルログが続けざまに流れた。


 ──『』。


 ポンが最も得意とする技であり、今回は相手が警戒しているだろうから使わないように控えておいた戦略の一つ。

 それをまさか、堅実なゲームプレイをモットーとする紫電戦士隊パープルウォーリアーがやってくるなんて、想像すらしなかった。

 そして、今の花火によってボッサン達に付けていたNPCの大半が死亡してしまい、ラウンド持ち越し出来るNPCの数も大きく減らされてしまった。


「おいおい、傭兵……! これは……!」


「……マジかよ、紫電戦士隊パープルウォーリアー……!!」


 発汗機能をオフにしているのにも関わらず、背中に冷や汗が伝う感覚を覚える。

 恐らくだが、Aims日本大会での映像からポンの『花火』の射線を脳に叩き込み、それを再現したのだろう。……そう考えると、このマップにしたのは得策じゃなかったかもしれない。


「いいや、マップが悪いは言い訳にならねぇよな。……向こうはちゃんとマップに応じた戦略を取った、俺達はそれに見事にハマった、それだけだ」


 首を振って、素直に紫電戦士隊パープルウォーリアーを賞賛する。

 敗北を糧に、相手チームの立ち回りを学習して強くなっている。敵チームではあるが、その成長に思わず胸が熱くなる。


 そしてそのままBのエリアへと到着すると同時に、相手エリア側から走ってくる人影が見えた。

 走ってきたプレイヤー……シオンは、相変わらず感情の薄い顔でこちらに質問してくる。


「……ん、日本大会のリベンジ。……今どんな気持ち?」


「花火やられた側ってこんな気持ちなんだってよーく理解させられたよ……!」


 ラウンドに持ち越せる弾薬の数が限られる以上、非常にリスクの大きい技だが、やはり得られるアドバンテージは大きい。あの厨二でさえ予想だにしていなかった紫電戦士隊パープルウォーリアーのこの立ち回りは、天晴と言わざるを得ない。

 人数不利が勝敗に直結するこのモードでは、3人の喪失は痛すぎる。今後のラウンドを見据えた上で、少しでもNPCの数を減らすべきと判断し、シオンに付いて来ていたNPCに向かって跳弾射撃を行い、確実に数を減らしていく。

 こちらの意図を察したシオンは数を減らさせまいと、こちらに向かって走り出した。


「……2v5。……エリアアドバンテージ的にもこっちが圧倒的に優勢。……でも、傭兵はそれを覆せるだけのPSがあるのは知ってる……だから」


 シオンが力強く地面を踏みしめると、眼光を鋭くする。


「……こちらから仕掛ける」


 次の瞬間、シオンの身体がぐんと有り得ない加速をし、一筋の閃光となった。


(速っ───!?)


 まるで跳弾しているかのように、縦横無尽に戦場を駆け回るシオン。

 AGI極振り特有の地形無視機動。このゲームにおける物理演算の仕様は勿論、このマップの構造の全てが頭に叩き込まれていなければとても真似出来ない芸当だ。

 

「だが──!」


 どれだけ無茶苦茶な動きをしようとも、予測し撃ち抜くのがスナイパーである俺の役目。そして、これぐらい撃ち抜けないと、には到底及ばない。

 シオンの軌道から跳弾予測をしていると、一瞬だけシオンの持つSMGの銃口がこちらへと向けられた。

 一拍置いて、マズルフラッシュが視界に映る。の弾丸が射出され、シオンに狙いを定めていたスナイパーの銃口に直撃した。

 

「ッ!? ──やろっ!?」


「傭へッ──」


「後ろがお留守だぜ、お二人さんよぉ」


 僅かにずらされた銃口を再び修正しようとしたその直後、背後に迫っていた串焼き先輩に銃身を踏み抜かれる。地面へと叩き付けられた銃身を持ち上げる事は敵わず、即座に腰に下げていたコンバットナイフを抜き去り、迎撃を試みる。だが、それすらも封じられ、口内に銃口を突っこまれて地面へと叩き付けられた。


「あが……!」


「──そんなもんかよナンバーワン」


 串焼き先輩が俺を踏みつけながら見下ろし、冷ややかな声音で言葉を続ける。


「確かに俺達はあの大会でお前らに惨敗したし、そので世界大会の出場権も得た。……だが、例えおこぼれであろうと俺達が日本を背負って世界に挑戦するって事実は変わらねえんだわ」


 そう言いながら、ひた、とトリガーに指が添えられる。徐々にトリガーを押し込みながら、串焼き先輩は不敵な笑みを浮かべると。


「別ゲーやってる内にたるんじまったか? ──全力で来いよ日本最強。てめえらを叩きのめしてこそ、清々しい気持ちで世界大会に臨めるってもんだ」


 乾いた音が響くと共に、ラウンド終了を告げるブザーの音が鳴り響いた。


 

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