#267 スクリム
「ってなわけで紫音達とスクリムしようと思ってるんだけど今暇だったりする?」
『あー、二時間ぐらいまでなら大丈夫だぞ。それ以上はSBOでちょっと配信する予定だからキツイな』
「十分だ、サンキュー雷人。紺野さんにも声掛けるから準備が出来たらログインしておいてくれ」
『了解、いつもの場所に行くわ』
雷人との通話が切れてすぐ、ソファへと腰掛けると一つ息を吐き出した。
突発的に決まった
「えーっと、紺野さん、紺野さんっと」
メッセージアプリを起動し、紺野さんへとAimsの招待と共にメッセージを入力していく。
メッセージを打ち込んでいる最中に、先ほど送ったAimsWCSの招待券についての話題が目に入った。
「……本当に、どういうつもりなんだか」
正直泊まり込みの大会観戦を紺野さんが即答するとは思いもしなかったからな……。母親と言い、紫音と言い、どうして周囲の連中は俺と紺野さんをくっつけさせようとしているのか……。
俺自身としては勿論嫌じゃ無いし、むしろ好意的に思ってはいるが……そこに彼女の意思があるのかどうかの判断が付きにくいんだよな。周りが外堀を埋めているからこそ、彼女もその気になってしまっているだけなんじゃないか、ってどうしても思ってしまう。
……下手な期待は、勘違いして痛い目を見た時の反動が大きくなるからな。
「駄目だな、このままだと堂々巡りになる」
頬をぱしんと叩いてから、ソファから立ち上がる。
今はAimsについて考えよう。こんな雑念混じりのまま臨めば折角のスクリムも台無しにしてしまう。そうなれば他のメンバー達に申し訳が立たないし、串焼き先輩達に対しても失礼だ。
ここらで一回気持ちをリセットして、
「さて──」
紺野さんにメッセージを送信し終わってから、とある一つの動画を開く。
俺が『跳弾』という技術にハマるキッカケとなった、あの
◇
Aims内ブラックマーケット、珈琲店で珈琲を啜っていると。
「久しぶりね、傭兵君。会うのはAims日本大会ぶりかしら?」
「お久しぶりです、SAINAさん」
こちらに気付き、微笑みながら手をひらひらと振った青髪の女性──SAINAさんに会釈を返す。
暴走しがちなツートップを唯一抑えられる
味の薄い珈琲が入ったカップを置いてから、彼女に近況を尋ねる。
「最近の調子はどうです?」
「取り敢えず直近の大会の成績は上々と言った所ね。団子君達も良い息抜きが出来てるお陰かパフォーマンスも良い感じだし、世界大会で無様な結果は残しそうに無いわ」
「それは何よりです」
彼女はそう言って笑みを浮かべる。
過度な自信は結果次第で今後のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性が高いが、現実的な目線で大会に臨めそうで少しだけ安心した。
紫電戦士隊は国内でこそ最高峰の実力だし、別ゲーでの世界大会での成績もかなり良いが、このゲームの頂点に君臨するプロチーム──HOGと比べてしまうと隔絶とした差が存在すると言わざるを得ないからな。
「所で、傭兵君に頼みたい事があるんだけど……」
「
「さっすが話が早い。あのレベルの跳弾使いとなると君ぐらいだからね、助かるわ」
そう、こうしてスクリムを提案したのは、紫電戦士隊に『Hands of Glory』の主力選手の立ち回りを体感させるといった理由もあったりする。
ただ映像で見るよりかは実際に対戦した方が理解しやすいだろうし、完全な初見殺しで完封されずに済む。隔絶した差を、少しでも埋める事が出来るだろう。
と、SAINAさんが頭に手を当てると、申し訳なさそうな表情を見せる。
「でも……本当に良いの? こっちとしてはAimsの日本最強チームとスクリム付き合ってくれるのは願ったり叶ったりなんだけど、別に対価を要求する訳でも無いなんて。流石に申し訳ないから何かアイテムでも渡そうか?」
「別にそんなに気にしなくても大丈夫ですよ。俺達はただ純粋に対戦したいだけなので。むしろこっちこそ日本トッププロと無償で対戦出来る方がおかしいぐらいですよ」
「それでも……ううん、これ以上は平行線ね。そうね、純粋にこのゲームを楽しみましょうか」
「はい」
こうした割り切りの良さも、彼女の人徳の一つなのだろう。
と、その時、設定していたアラームが鳴った。ちらりと時刻を確認すると、そろそろ集合の時間が迫っていた事に気付く。
「じゃあ傭兵君、また後で。お互い、全力でやりましょう」
「ええ。望むところです」
手をひらひらとしながら去っていくSAINAさんを見送る。
ふと、背後に気配を感じて振り返ると、そこにはポンが立っていた。
「傭兵君、お待たせしました」
「お、ポンか。なんかそのアバターを見るの久しぶりな気がするな」
「あはは……確かに、SBOであのアバターに見慣れてしまうと、どうしても違和感がありますよね。その内、別のアバターも作ろうかな……」
「俺はそっちのアバターも好きだけどな。作り直すのは勿体無い気がする」
「……そういうの、駄目です」
ぷく、と頬を膨らませたポンがジト目でこちらを見る。
リアルの彼女がその仕草をしていればとても可愛らしい物だっただろうが、生憎と今はゴツイオッサンアバターだ。それを見て、思わずくすりと笑ってしまう。
「む」
「いや悪い、そのアバターでその仕草をすると少しシュールで笑っちゃっただけだ」
「やっぱり別アバター作ります!」
不服そうに頬を膨らませたまま抗議するポンを宥めていると、見知った二人組の男女が歩いてくるのが視界に入った。
「よ、待たせたな」
「……ん、待たせた」
「お、串焼き先輩。シオンも来たか」
「まさかお前の方からスクリムの提案が来るとはな……最悪土下座してでもウチとスクリムしてもらおうか悩んでたんだが、手間が省けたぜ」
「え、うわマジか……串焼き先輩の魂の土下座見たかった……!! ……やっぱりスクリム無しにしない?」
「マジで性格悪いなお前!! もうやるって言った以上前言撤回させないからな!!」
「冗談ですよ冗談。分かってますって」
流石にトッププロチーム相手にドタキャンはマズすぎる。
「あ、そうそう。やる前に一つだけ言っておきたいんだがよ」
串焼き先輩はそう前置きをしてから、真剣な声音で続ける。
「世界大会前に俺達の士気を上げる為にわざと負けるとかそういう気遣いは要らねぇ」
「────」
「やるからには徹底的に潰すつもりで来い。……絶対に手ェ抜くんじゃねえぞ」
「──ああ、勿論。最初から手を抜くつもりなんて毛頭無いさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます