#266 だってそこに居たから
「やぁ、余りにも返事が来ない物だから迎えに来たヨ…………って一体何してるんだい君は」
検証を開始して数時間後。
【二つ名レイド】で手に入れた報酬の粗方の検証が完了し、地面で疲れ果てて倒れていた俺を見て、この場へとやってきた厨二が呆れたような視線を向けてきた。
倒れたままの体勢で、どや顔だけを厨二へと向けると。
「何って……検証していただけだが?」
「別に凄い訳じゃ無いからねぇ? 環境破壊も甚だしいよねぇ、この惨状」
「自然愛護団体がこの世界に存在していたら絶対に黙っちゃいないだろうな」
ちょっと熱が入って検証し続けていた結果、周囲の樹木は倒木し尽くしていた。たまたま通りがかったプレイヤー達がギョッとした顔でこちらを見ていたような気もするが、特に迷惑を掛けた訳でも無いので話題になる事も無いだろう。
……話題になってないと、良いな。
俺が遠い目で虚空をぼんやりと眺めていると、厨二が俺の背負う武器を見て「あ」と声を漏らした。
「……その武器って、もしかして二つ名レイドで【
「ああ、そうだぞ」
厨二に見せるようにクリスタライズを掲げる。
水晶の如く透き通るようなフォルムが、夕焼けに照らされてキラリと輝いた。
「俺の他にも武器が【
「うーん、今の所はそんな情報は上がってきていないけどねぇ。でも、【
「そう言えば紅鉄氏が何か知ってそうな雰囲気あったな」
【二つ名レイド】を攻略してから紅鉄氏に会ってないからそれについて聞けてないんだよな。
呼応のブレスレットや感応のネックレスの件もあるし、また近い内にお礼に行きがてら色々情報交換してみようか。
クリスタライズをまじまじと眺めていた厨二が、感嘆のため息を漏らす。
「良いよねぇ、喋る武器なんてロマンがあるよねぇ。僕もいずれは欲しいなぁ」
「まぁ確かに厨二は好きそうだよな、こういうの。まあ、かく言う俺も好きなんだが」
呼び出さなければ出てこないシャドウと違って、武器なら戦闘中でも問題無く会話出来るしな。
多分それを本人?に言ったらシャドウは『心外です!』と言いそうな物だが、実際の所戦闘中に情報を共有出来るアドバンテージはデカい。その内非実体化しながらでも会話出来るようになれば話が変わってくるのだが……。
とと、話が脱線する所だった。
「所で、返事ってなんの話?」
「ああ、やっぱり気付いていなかったんだねぇ。一時間前ぐらいにメッセージ飛ばしてたんだけど、もしかして中身見てない感じだった?」
「え、マジか。普通に気付かなかったわ、悪い」
「こっちもこっちで色々やってたから大丈夫だよぉ」
身体を起こし、慌ててVRデバイスの方のメッセージアプリを起動する。
すると、丁度一時間程前に、厨二からのゲーム招待と共にメッセージが届いていた。
「──Aimsの招待?」
「そうそう。そろそろAimsの世界大会もある事だしねぇ、モチベを上げる為にも一緒にプレイするのもどうかなって」
「なるほど、確かにそれは良いな」
SBOでやる事も一段落した今、Aimsもたまにはやりたいと思っていた事だしな。
あまり長い事やっていないとスナイパーの勘が鈍りそうだし、丁度良い。
「因みに何をやる予定?」
「ボッサンも居るからバトロワかチーデスあたりだねぇ」
「この前ライジン達とバトロワがっつりしたから今日はチーデスかな」
「良いよぉ、じゃあ先に向こうで待ってるねぇ」
そう言って、厨二がウインドウを操作してSBOの世界からログアウトする。
さて、俺もログアウトするか……と思ったが、ふと。
「……これ、ちゃんとマップ修復されるよな?」
周囲を見ながらそんな事を思ったが、流石にマップが修復されないことは無い……だろう。
なんだか後ろめたさを感じながら、俺も追うように、SBOの世界からログアウトした。
◇
最近はSBOばかりプレイしていたからか、たかだか一、二週間ぶりのログインだと言うのに随分と久しぶりに感じる。
遠くまで広がる薄汚れた空、仄かに香る硝煙とあの味の薄い珈琲の入り混じる香りに郷愁染みた感覚を覚えながら、Aimsの世界に降り立った。
「……ん、傭兵? ……なんかこっちでは久しぶりに見た気がする」
と、厨二達との集合場所へ向かおうとした時、見知った顔と遭遇した。
相変わらず眠そうな瞳でこちらをぼんやりと見た後、「ああ」と何かに納得したかのように呟いた
「……さっき厨二を見かけたからこっちに逃げてきたんだけど、そう言う事」
「相変わらずあいつの事は避けてるのな」
「……だって顔を見かけたらすぐに試合したがるんだもの。……厄介事は自分から避けるべき」
あまり感情の起伏を見せないシオンが心底うんざりした様子でため息を吐く。
顔を見かけたら試合を仕掛けてくるのは確かに面倒かもしれないな。実際あいつは強いから一試合毎の消耗も激しいだろうし、逃げる気持ちも分かりはする。
「……そう言えば、チケットの件。……ポンには話した?」
「ああ、取り敢えず聞いてみたら向こうからはすぐOKって来たよ。つかシオンお前、チケットは最初から同部屋だって教えてくれよ……」
「……ん、グッジョブ。……部屋については傭兵は奥手だし平気だと思った」
「おい、一般男子高校生舐めんなよ。俺だって年相応には興味ある」
「……一般の男子高校生はプロチーム相手に無双したりしない」
それって遠回しにお前は普通じゃないって言ってないか? ゲームがやたら得意な男子高校生なんてこの世にごまんと居るだろうが。
まあ、悲しい事にシオンの言う通りになりそうなのは目に見えてるんだけどな。
……あまり会話の主導権を握られ続けるのも癪だ。良い事も思いついたし、反撃と行こう。
「所で、ここに居るってことは休憩中なのか?」
「……ん、さっきまで他プロとスクリムしてた。……世界大会も近いし、少しでも練度は上げておきたいからね」
だろうな、さっきオンラインリストを見たら串焼き先輩もログインしてたのは確認済みだ。
世界大会も近い。……ならば、彼らにとっても有意義な提案をしようじゃないか。
「って事は今フリーだったり?」
「……待って、なんか先の発言が読めた。……失礼、ちょっと用事を思い出したので……」
じり、と後方に後ずさるシオンを逃がさないべく、両肩を掴むとにっこりと微笑む。
「俺達ともスクリムやろうよぉ、シオンちゃん?」
「……なんでよりにもよって厨二の真似ぇ……!!」
涙目になりながら嫌そうにシオンが声を漏らす。
折角の機会だ。
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