#264 先行き不安
▷9月2日 渚宅
「ライジンがほとぼりが冷めるまではログインするのを控えた方が良いかも、って言ってたのはこう言う事ね」
紺野さんにAimsの世界大会の観戦チケットについての連絡を行った後。
ソファに寝転がりながら、先日行われたSBOの公式アップデート生放送の詳細を確認する。
どうやら、俺達が攻略した【二つ名レイド】の影響で、skill build onlineというゲームの世界は大きく変化していたらしい。
まず第一に、第五の街以降の街が解放された。
とは言っても、第五の街から繋がる各エリアの敵が強く、エリアボスを攻略出来たという話は上がってきてはいない。
もしかすれば、情報の独占の為に情報をわざと流していないという線もあるが……。
第二に、【ワールド・エンド・カウントダウン】なるものが起動した。
タイムリミットを迎えると、現時点でのラスボス枠と思われる【粛清者】との最終決戦が強制的に始まるのだとか。
突如として起動したこのカウントダウンには、ユーザーの意見が二分した。
片方は、タイムリミットがある分やる気が出る、と。
もう片方は、折角楽しくなってきた所なのに二年という期限付きなのは如何なものか、と。
両者の意見に納得出来るし、俺もそのカウントダウンについては色々と気になっていた。
そんなユーザー達の意見を予め読んでいたらしく、それに対する運営の回答が──。
「プレイヤー・コンバート・システム……なるほど、所謂操作キャラの鯖変更みたいなもんか」
今回の生放送が行われる事になった理由であり、ユーザー達の注目の的であった、『プレイヤー・コンバート・システム』。
ワールド・エンド・カウントダウンの影響で、今俺達がプレイしているサーバーのタイムリミットが二年となってしまった。
一切前情報も無くそんな事をされてしまっては、少なからず不満も出るだろう。
そこで、運営が提示したのは『並行世界サーバーの設立、及び稼働』だった。
ざっくり説明すると、元々、俺達がプレイしていたサーバーは巨大な一つの世界だった。
だが、その世界に全てのプレイヤーを収容するとなると当然各エリアは人でごった返す事になる。それを防ぐ為にフィールドインスタンスが導入されており、アルファベットの名を冠したサーバーで各エリアを管理していた。
今回運営が発表したのは、これまで用いてきたサーバーとは異なるサーバーを用いて、進行度の異なる世界を提供するという物だった。
一例を挙げると、俺達が現在プレイしているサーバーでは【双壁】が討滅されているが、新しく稼働するサーバーでは【双壁】が復活する、といった感じだ。
当然、そうなれば新しく稼働するサーバーではカウントダウンは起動していない訳だし、二年という時間制限が無い状態でのプレイが可能となっている。
それに加えて発表された『プレイヤー・コンバート・システム』は、新設されるサーバーに、現在使用している操作キャラクターの情報を保持した状態で移動出来るというシステムらしい。
ただし、一つだけ注意点があり、新規ワールドでプレイを開始するユーザーとの公平性を保つ為に、『1st TRV WAR』などのイベントで得た報酬や、【二つ名レイド】で獲得した報酬に関しては、サーバー移動をする際にサーバー側に一時保管されるのだとか。
一時保管されたアイテムについては、再びそのサーバーに帰ってきた際に自動で返却されるようになるらしいので、良い塩梅だと思う。
「サーバー解放に伴って、初回コンバート時は無料で利用可能……なるほど、これなら確かに変な反感を買う事も無いだろうな」
これで初回から有料だったら更に燃料投下して燃え上がっていただろうなと内心苦笑する。
サーバーを移動する為にキャラクターのデータを消去する事は無く、デメリットは公式イベント系列の報酬がサーバー側に一時保管されるだけ。
この短期間で、よくもまあ上手い着地点を見つけたものだ。
「……これなら大手を振ってログイン出来そうか?」
こうして退避先が出来た以上、『お前らが【二つ名レイド】をクリアしたせいで二年しかこのゲームをプレイ出来なかった』と言ってくるような厄介プレイヤーは現れない……だろう。
こっちだってまさかそんなカウントダウンが存在するとは思って無かったし、そう言われても『知らんがな』としか言いようが無いんだけどな。
まあ、これで厄介事に巻き込まれる確率が下がったのは良かった。
「と言っても、AimsWCSが近いから串焼き先輩がSBOにログイン出来ないんだよな……」
ううむ、と腕を組んで唸る。
今回の【二つ名レイド】によって得た報酬の中に、あの黒ローブからの依頼の達成報酬も含まれていた。
いつだったかのPVで語られていた『最果ての地』。取り敢えず入手したアイテムのテキストだけ確認してみたのだが、どうやら使用した瞬間にその『最果ての地』へと飛ばされるようだ。
恐らくだが、1st TRV WARの時に報酬で手に入れた文字化けアイテムも、これと同じアイテムだったのでは無いのだろうか。
となると、このアイテムはあの黒ローブの下へ飛べる直通アイテム……あの世界の根幹に迫る上には必須と言っても良いアイテムだ。
串焼き先輩とも一緒に【二つ名レイド】を攻略した訳だし、なるべく全員が揃ったタイミングで最果ての地とやらに行きたいしな。
それはそれとして色々SBOでやりたい事もあるし……うん、そうだな。
「……悩んでても仕方ない、ちょっくら【二つ名レイド】報酬の装備検証でもするか」
取り敢えず大本命の招待状については串焼き先輩がログイン出来るようになったタイミングで使うとして。
別に手に入れた報酬の検証するぐらいならば問題無いだろう。
思い立ったが吉日。ソファから起き上がると、真っすぐにSBOの世界へと向かった。
◇
「やっぱ検証と言ったらここだよな」
SBOにログインし、やってきたのは【フェリオ樹海】。
初期の頃から随分と検証でお世話になっている場所であり、それなりに複雑な地形をしている事もあって人目に付きにくいというメリットがあって好んで来ている場所だ。
「シャドウ。周囲に他のトラベラーは居るか?」
『確認いたします。──探知完了。半径200m以内に他トラベラーの存在は検出されませんでした』
「了解、ありがとな」
『いえ、この程度お安い御用です。また何かありましたらお呼び下さい』
それを最後に、シャドウが溶けるように消えていく。
よし、確認も取れた事だし、安心して検証出来るな。
「さて、と。まずはステータスでも確認するか」
ウインドウを操作して、久方ぶりに自分のステータスを確認する。
────
PN:村人A
メインジョブ:
スキルポイント残量:700
スキル生成権:5回
ステータスポイント:0
所持金:3000000マニー
HP:420/420
MP:180/180
STR:210(+300)
DEF:20(+160)
INT:20
MGR:20(+190)
AGI:200(+70)
DEX:185(+120)
VIT:90
LUC:100
スキル:【狙撃手Lv10】【近接格闘術Lv10】【跳弾・改Lv10】【千里眼Lv10】【遠距離命中補正Lv10】【戦線離脱Lv10】【バックショットLv10】【野生の心得Lv10】【チャージショットLv10】【不屈の闘志Lv10】【ランナーLv10】【跳弾Lv10】【フラッシュアローLv10】【自動装填Lv10】【極限集中Lv10】【狩人の意地Lv10】【処刑人Lv10】【格上殺しLv10】【空中床・多重展開Lv8】【矢・形状変化Lv10】【爆速射撃Lv10】【終局の弾丸Lv5】【運命の鎖Lv5】【二連射Lv10】【狩人魂Lv10】【弱点看破Lv10】【一射必滅Lv10】【マジックアローLv10】【ドレインショットLv10】【
装備
武器:『彗龍奏弓クリスタライズ』(STR+300)(DEX+100)
頭:『戦迅帽【水冥】』(DEF+50)(MGR+80)(AGI+30)
胴:『狩人の装束』(DEF+40)(MGR+40)(AGI+10)
腕:『処刑人の手袋』(DEF+10)(MGR+10)(DEX+20)
脚:『クリスタルリザード・トラウザー』(DEF+50)(MGR+50)
足:『アイシクル・ブーツ』(DEF+10)(MGR+10)(AGI+30)
アクセサリー1:『感応のブレスレット』【破損済み】
アクセサリー2:『呼応のネックレス』【破損済み】
────
わあ、なんかとんでもないことになってら。
「ほぼ全部のスキルがレベル10ってマジか……」
経験値とか出てなかったから貰えて無かったのかなと思ったけど、実際には入っていたみたいだな。【空中床・多重展開】なんて、成長進化したばかりだった筈なのにもうレベル8だもんな……【二つ名レイド】ってもしかしてレベリングにも最適なのか?
「その他にも、スキルポイントと生成権が貰えてる感じみたいだな」
確か高難易度コンテンツとか公式イベントとかで生成権が貰えるとは聞いてたけど、スキルポイントまで貰えるのはありがたいな。また今度、新しくスキルでも作ってみるか。
よし、現状のステータスも確認出来た事だし……!!
「さてさて、お待ちかねの報酬性能チェックタイムと行きますかね!!」
じゃあまずは手に入れた武器から確認と行こうか!!
ウインドウを操作し、装備している武器をクリスタライズから変更──ん? なんか装備出来ないぞこれ?
「まさか……」
ある可能性が頭を過ぎり、顔を引き攣らせながら、慌てて武器の詳細を確認する。
【星穿弓オリオン】耐久度15000/15000【Limit】
かつて星を穿った偉大な狩人が使っていたとされる巨弓。しかし、未だその輝きを宿すに至らず。
【
STR+750 DEX+300 必要STR500 VIT200 DEX300
──あれ? なんか急に不安になってきたぞ。
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