#256 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その五十六 『泥沼化』
二度目のアルバート戦を経て、リスポーンした直後の俺達は一度情報共有を兼ねて休息を取っていた。
「……
「多分ネ。そうでなきゃ、あの対応速度は流石にあり得ない。僕の動きを最初から読まれていたんじゃあ避けられる物も避けられないよ」
先ほどの一戦で容赦なく断ち切られた時の事を思い出したのか、首に手を当てながらぼやく厨二。
そんな厨二に、ボッサンが顎をさすりながら問いかける。
「……アルバートもリヴァイアのように、前回挑戦時の記憶を引き継いだ状態で再戦しなきゃならないって事か?」
「そういう事。確かにリヴァイアも記憶を引き継いでいるボスだったけど、初回が即壊滅した上に、一回で踏破出来たからまだ良かったんだよねぇ。何せ、
「って事はつまり……」
厨二の言葉の意味を悟った串焼き先輩が顔を引きつらせる。
そんな串焼き先輩の表情を見て厨二も思わず苦笑しながら、アルバート戦において一番の障害足りえる要素を告げた。
「戦闘中にこちらの行動を見て学習するエリアボスのように、アルバートは挑戦を経る毎に僕達の動きに対応した行動を取ってくるってこと。なまじ頭の良すぎるAIってのも考え物だよねぇ……」
そう、記憶を引き継いでいるという事は、こちらが手札を明かせば明かすほど後々の挑戦が不利になっていくという事に他ならない。
大した策を立てる事無く、むやみやたらに挑戦を続けるだけ、自分達の首を絞めてしまうという訳だ。
頬に手を突きながら、厨二が言葉を続ける。
「一回目のアルバート戦で、僕はあの大剣を奪った。多分アルバート的にもそれが相当煩わしかったんだろうねぇ、背後から出現した瞬間に僕に一瞬でヘイトが向いたのにはビックリだヨ」
「とはいえ、剣を奪わないとあの広範囲斬撃が飛んでくるんだよな……」
「そうそう、だから学習された上で相手の想定を越えなければならない。それこそがこのレイドをクリアする為の前提条件なんだろうネ」
このゲーム、『Skill Build Online』の挑発的な謳い文句……『人の可能性を見せてみろ』という言葉の意味の一端を垣間見た気がする。
人と見紛う程の限りなく優秀なAIを越えてこそ、人の可能性を証明出来るのだ、と。
しばらく考え込む様子を見せていた串焼き先輩が、突破する上で尤も
「アルバートの記憶をリセットする手段は無ぇのか? もしずっと記憶が引き継がれるのなら、後続に挑戦する人間がどんどん不利になるシステムだと思うんだが」
「進行状況のリセットが入れば記憶も一緒にリセットされると思うよぉ。ま、僕らは一度このレイドから退出して再挑戦してるわけだから、リセットしたいとなるとスタートからやり直しだけどねぇ。一から二つ名レイドを再攻略する気があるのなら、オススメしておくけどどうするぅ?」
「うん、それは無しだな。もう一度一からやり直すのだけは無理だ。精神的にも、疲労的にも」
「だよねぇ」
真顔になった串焼き先輩が早口で言い、それに厨二が苦笑する。
もし進行状況がリセットされてリヴァイアが復活するとなれば、また一発で攻略出来る気はしないからな……。
「こうなってくると、さっきの村人が言った【成長進化】で突破する作戦が現実味を帯びてきたな。少なくともその瞬間だけは、アルバートを出し抜ける手段になりえる」
「だがそれも、勝ち筋が見えた上での作戦だ。……今の一戦で、奴に勝てるビジョンが見えた奴は居るか?」
ライジンの問いかけに、その場がしんと静まり返った。
当然だ、俺達は今の一戦で殆ど情報を得ることが出来なかった。不測の事態に対応する前に、圧倒的なステータスを前に蹂躙されただけなのだから。
「まあ、あんまりネガってても仕方ねえし、さっきの一戦で得た情報をまとめようぜ。そしたら何か見えてくるかもしれない」
場の空気を和らげるようにボッサンがそう言うと、歯を見せて笑った。
ライジンも微笑を浮かべながら頷くと、ウインドウを開いてコンソールを操作し始める。
「じゃあまずは……ボッサンの【ターントゥアンカー】が弾かれた件について考察しようか。ヘイトを奪えない限り、耐久戦なんてやりようが無いしね」
「デバフ関係、もしくは相手に何かしらの作用を及ぼすスキルや魔法を無効化しているんでしょうか……?」
「んー……対面した感じの予想だが良いか?」
「どうぞ」
ボッサンが挙手し、ライジンが手で発言を促すのを見てから、言葉を続ける。
「多分だが、あいつのヘイトシステムそのものが特殊なのが原因じゃないか? 奴の言動と行動から見て通常時のヘイト最上位者が演奏者……ポンなのは確定だろう。だが、ポンからヘイトを奪えなかった事から、普通の手段では奪うのは無理なのかもしれない。もっと違う視点でアプローチをかけるべきなんじゃないかと思う」
「それに関しては俺も同意見だな。……一応、さっきの一戦で奪う手段を一つは見つけた」
「というと?」
「クリスタル破壊だよ。俺が最後に射撃した時、アルバートは演奏しているポンよりもクリスタルを破壊しようとする俺を優先した。……ギミックを処理しようとする人間を優先するんだとは思うんだが、どういう事か解明出来ればヘイト管理の手段として使えそうじゃないか?」
俺の言葉を聞いて、ライジンは口元に手を添えて、考える素振りを見せる。
そのまま数秒経ってから顔を上げると、口を開いた。
「あくまで仮説だけど」
そう前置きを置いてから、ライジンは言葉を続ける。
「これまでのサイクルだと、クリスタルを破壊した所で呼び寄せられたモンスター達は帰らなかった。それは、あくまで
「……あり得そうだな。あれだけ高性能なAIだ。村人を優先したのも、破壊順が確定していないと言えど、万が一があると理解しての行動とも考えられる。限りなく低い確率を当てて、正解の順番を引き当てた事で突破してしまう可能性も理論上はあり得る訳だからな」
確かに理論上は開幕適当に射撃したとしても、六回連続で正解を引く確率もあるにはあるのだ。……現実的ではないという問題点を除けば。
「ってことは途中で端折ってクリスタル破壊してもワンチャン突破できるって事か?」
「いや、そこで横着してギミックミスになろうものなら目も当てられないので、確実に行きましょう」
「そうだけどよ、五個目が分かればラスト一個は確定になるんだし、時間短縮出来そうじゃないか? 耐久戦の時間を短く出来るのなら、その方が良いと思うんだが……」
「うーん……こればっかりは確証が無いので何とも言えないんですけど、破壊する条件が整っていないまま壊しちゃうのはペナルティがありそうなんですよね」
「あー……」
それこそ『泡沫の夢』デバフのように、とポンが呟くと串焼き先輩が項垂れる。
もし仮にクリスタル破壊に成功したとしても、横着した結果デバフが付いたらその時点でおしまいだ。そうなればアルバート戦もやり直しになるし、確実性を取った方が良いだろう。
「ちょっと話が逸れてきたな。結局アルバートはクリスタル破壊者にヘイトを優先させるってことで良いのか?」
「恐らく。だから、ポンをカバーする時、クリスタルに向かって攻撃するって事も選択肢に入れておいてほしい。勿論、ヘイトが向くからには生き延びるだけの手段を持った状態で、だが」
「一人で抑えきるのは無理だろうから、戦闘中の意思疎通が必要だねぇ」
「OK、じゃあ次のトライで試してみよう。それと、村人。……ぶっちゃけ、一人でクリスタル破壊出来そうか?」
ライジンが、こちらを見ながら心配そうな表情で問う。
先ほどドヤ顔宣言したにも関わらず、あの体たらくだ。ライジンが不安になる気持ちも分かる。
本来であれば六人で一つずつクリスタルを破壊していくというのが運営の想定ギミックだ。俺が全部を破壊する必要は無いからこそ、今が方針を変える最後のチャンスだろう。
だからこそ、俺の本音を告げる。
「……正直、分からない。さっきの一撃は完璧に不意を突いた射撃だったのにも関わらずぶった切られた訳だしな。もしかしたら【
「だったら……」
「だが、諦めた訳じゃない。たった一回の挑戦で折れるなんて、検証厨の名折れだぜ。それに、まだ試してない事が沢山あるんだ、やれる限りは足掻いてやるさ」
拳を握りしめながらそう笑いかけると、ライジンも「そうか」と呟いて笑った。
「よし、じゃあそろそろ再開しよう。一歩ずつ、確実に、勝つための情報を得ていこう!」
『おう!(はい!)』
──だが、気合を入れるだけでクリアできるほど、エンドコンテンツは甘くない。
◇
▷17回目の挑戦
アルバートが出現し、各々がクリスタルへと攻撃を加える。
これまでと同じ様に、ポンへと大剣を振り抜こうとした瞬間、ライジンと串焼き先輩がアルバートに襲い掛かる。
「【灼天・神楽】!!」
「【アサルトエッジ】!!」
記憶の引き継ぎを行っている事から、こちらの手札を晒し過ぎる訳にはいかない。
一回目の時点でライジンは【灼天】を使っている事から、少しでも火力の高いスキルを使用し、アルバートの初撃を防ぎに行った。
ライジンの双剣から迸る火炎が、アルバートの身体を容赦なく焼き焦がしていく。だが、アルバートはその身を焼かれて尚大剣を離す事は無く、あの神速の斬撃を放とうとする。
「……
「
先ほどの意趣返しとばかりに、邪悪な笑みを浮かべた厨二がスキルを発動し、アルバートの大剣を奪い取った。
開幕の拮抗。そのタイミングならば、厨二に意識を向ける前に大剣を奪い取れると、そう判断した上での行動だった。
大剣が消え、体勢を僅かに崩したライジンと串焼き先輩だったが、アルバートにそのまま攻撃を加えると、反撃を警戒して即座に距離を取る。
「ナイスだ厨二!!」
「このチャンスを逃さないでよぉ! あいつの手元に剣が戻った瞬間、即ゲームオーバーだからねぇ!」
その言葉に、全員の気が引き締まる。
アルバートの大剣の有無によって、耐久戦の難易度は格段に変わる。
理想は演奏が完了し、俺の射撃が完了するまで大剣を渡さない事だが……それは流石に厳しいだろう。
大剣が奴の手元に戻るまでにどれだけ時間を稼げるか。それがこのアルバート戦の攻略の鍵だ。
アルバートは煩わしそうに僅かに眉を顰めると。
「……正々堂々勝負を、……する気は無いのか」
「こっちは真剣そのものなんだよねぇ! こちとら英雄様と違って勝てれば何でも良いのスタンスでやってるからさぁ! 卑怯とは言わせないよぉ!!」
厨二がそう言いながら劇毒の塗りたくられた短剣を射出し続ける。
アルバートは軽く腕を振るうだけでそれを弾くと、厨二に対して興味無さそうに視線を向ける。
「……なるほど。……ただひたすらに、勝利を目指すもまた……英雄の在り方か」
そう言うと、アルバートは剣へと伸ばしていた手を下ろし、拳を構えた。
「……だが、甘い。……
「ッ!」
その瞬間、がらりと周囲の空気が一変する。
剣を奪えば相手のモーションを減らせるから有利に立ち回れる。そう思い込んでいた俺達を嘲笑うかの如く、凄まじいオーラを迸らせた。
それを見た瞬間、脳内にとある推測が浮かび上がる。
……もし、素手の時でも剣を持っている時と同じぐらいの技が用意されているのだとしたら?
その推測は、すぐに現実の物となる。
「【
アルバートが両拳を打ち合わせると、ドクン!と心臓の鼓動のような音が周囲一帯に響き渡る。
すると、鎧の上からでも分かる程の赤い線が全身に走り、胸元が赤黒く輝き出した。
≪墜ちた英雄がその身に宿すは猛き焔帝≫
不穏なシステムメッセージが出現すると、拳を固く握りしめ、地面へと拳を叩き付けた。
「【
次の瞬間、アルバートの周囲から、ライジンの【灼天】を遥かに上回る強烈な火炎が迸った。うねりながら暴れ狂う炎が、周囲一帯を灼熱地獄へと変えていく。
「ッ!? こんなの聞いてないぞ!?」
「そりゃ完全初見技だからな!! 全員、死ぬ気で避けろ!!」
半ば悲鳴を上げるようにその場から散開し、上下左右から迫り来る炎を回避する。
クソ、これもしかして剣を持っている時以上に厄介じゃないか!?
その時、アルバートが地面を蹴り砕き、逃げながらも演奏を継続しているポンへと迫り来る。
「させるかよ!!」
ポンとアルバートの間にボッサンが身体をねじ込み、大盾を展開する。
アルバートの拳と大盾が激突し、轟音が響く。あっさりとボッサンが吹き飛ばされるが、ポンは無事だった。
ボッサンがその衝撃に苦悶の表情を浮かべながら、叫ぶ。
「ッ、ポンを守れ!!」
即座に厨二がアルバートの正面へと躍り出ると、黒刀アディレードを抜刀する。
「【絶刀・一閃】!!」
刀が閃き、アルバートの首を断ち切ろうとする。
しかし、寸前で拳によって阻まれてしまい、そのまま弾き飛ばされる。
「スイッチ!」
厨二が叫び、ライジンは【灼天】を、俺は【彗星の一矢】を解き放つ。
アルバートは冷静にそれを拳で撃ち落とすと、再び両拳を打ち合わせる。
それに合わせて周囲に転がっていた礫がカタカタと徐々に浮き上がり始める。
「【
《墜ちた英雄がその身に宿すは疾き嵐帝》
再びシステムメッセージが出現し、腕を振りかざした。
「【
アルバートが力を解き放つと、今度は暴風の領域が展開される。
身が切り裂かれそうな程の強烈な風が吹き荒れ、地面から火を掬い上げながら火炎旋風となって周囲一帯を蹂躙し始める。
「野郎……ッ!? 何でもありか!?」
素の力の時点で既に圧倒的なのにも関わらず、環境を激変するような力も持ち合わせている。
これが、粛清の代行者。人間という器を遥かに逸脱した存在。
どうやら俺達は、アルバートという存在を
剣を奪えばそれで優位に立ち回れる、そんな淡い幻想は容赦なく打ち砕かれる。
クソ、こんなヤケクソ調整染みたボス、どうやって超えろって言うんだ……!?
「──胸元を狙え!!」
と、その時だった。
ライジンが、アルバートを見てそう叫んだ。
視線をそちらへと向けると、先ほどは赤黒い輝きを放っていた胸元が、緑色の輝きを放っていた。
良く目を凝らしてみると、そこにあったのは【蒼天の炉心核】とよく似た形の、緑色の宝玉。
(あれは……!)
【
かつてこの世界で人と龍が争う原因となった、龍の生命の源にして、無限にマナが溢れ出る動力源。
それを自身の体内に埋め込む事で、この環境激変を引き起こしているのだ。
「って事は……!!」
【
つまり、アルバートは、リヴァイアが属していた『五天龍』と呼ばれる、龍王が最初に生み出した龍達の能力を使用している。
恐らくは、アルバートが生き残った世界線で、龍から力を奪い取ったのだろう。
(実質五天龍と対峙してるのと変わりないって事か……!)
先ほどの無造作に解き放った火炎と言い、流石に五天龍程能力に熟知している訳では無いだろうが、それでも一個人が有して良いレベルの能力じゃない。
【双壁】戦における最後の壁はどこまでも高く──こちらの心をへし折ろうとしてくる。
「──上等じゃねえか」
──だが。
どれだけ圧倒的な力を有して居ようと。
この世に、攻略出来ないゲームなんて物は存在しない。
最後まで思考を止めずに、戦い続けた者だけが──勝利を掴み取れる。
「おおおおおおおおおおおッ!! 俺の後に続け、お前らッ!!」
ボッサンが風にその身体を傷つけられながらも大盾で暴風を押し切り、アルバートとの距離を詰める。
厨二とライジン、串焼き先輩もその後ろに回る形で暴風を掻い潜ると、一斉に飛び出した。
「【絶刀・三閃】!」
「【灼天・鬼神】!」
「【シャイニング・ボウ】!」
三者同時にスキルを放ち、アルバートの胸元──緑色に輝く宝玉を目掛けて攻撃する。
「【閃刃旋風】」
「くっ!?」
アルバートが腕を振りかざし、そこから発生した突風と風の刃で大幅に威力を減衰させられてしまう。
しかし、飛び出した三人は風の刃に切り裂かれながらも──確かに自分達の役割を果たした。
「村人君ッ! 5、1、3、4、2、6です!!」
本来の役割──アルバートへの時間稼ぎに成功し、演奏を終えたポンがクリスタルの破壊順をコールする。
荒れ狂う暴風の中、跳弾ルートを即座に算出し、射撃に備える。
(アルバートには、必ず能力切り替えのタイミングがやってくる……! その時に撃てば……!)
切り替え時にロス無く射撃を放つ為、予め空中床を展開しておく。
アルバートは俺の行動を勘付いたのか、空中床を生成した方角へと一瞬視線を向けるが、それ以上の行動はしてこなかった。
そして、風の勢いが徐々に止み始め……両拳を持ち上げた。
(来たッ!)
アルバートが両拳を打ち合わせると、胸元の白い輝きが黄色い輝きへと変化する。
《墜ちた英雄がその身に宿すは眩き雷帝》
システムメッセージが出現した瞬間、それに合わせて【彗星の一矢】を発動させる。
これ以上無い完璧なタイミング。アルバートは先ほどの挑戦と違い、まだ剣は手元に戻っていない。奴に、俺の射撃を撃ち落とす手段は──。
「【
「なッ!?」
アルバートが能力を切り替えると同時に迸った雷が、俺が予め設置していた跳弾ルート……空中床を貫き、粉砕する。
その一瞬後に放った矢が空中床のあった所へと到達し、跳弾する筈だった場所を通り抜けてそのまま彼方へと飛んで行ってしまった。
(奴には俺の空中床が見えてる……!? リヴァイアと同じ魔力感知か!?)
MPを使用しているスキルである以上、魔力を感知出来る相手には確かに弱い。
だが、あの一瞬で俺が生成した跳弾ルート用の床を、全て正確に撃ち抜かれるとは思いもしなかった。
ギリ、と歯を食いしばり、雷を放った後余裕そうに佇むアルバートを見据える。
(跳弾でのクリスタル破壊が出来ないとなれば、俺達に勝ち目は──)
これから通常攻略に切り替える? いや、アルバートに対して耐久するのもやっとなのに、他のメンバー達の負担をこれ以上増やす訳には行かない。
俺がクリスタルを全破壊し、それ以外の余力を全てアルバートに捧げる。それぐらいの配分でないと、勝てるビジョンなど到底見えっこない。
「──そろそろ、終わりにしよう」
いつの間にか──恐らく、風の能力を放った際に引き寄せてたのか、アルバートの手元へと真紅の大剣が戻っていた。
そして、アルバートは赤の粒子を収束させ、世界を呑み込む斬撃の準備を開始する。
(クソ、進展が、進展が無さ過ぎるッ……!! 圧倒的な力で蹂躙されて終わりなのはさっきと全く同じだ! 何か、今回のトライで得た情報は──)
アルバートを中心として暴風が吹き荒れ、それに耐えるべく地面に手を着きながら、思考を回し続ける。
ゆっくりと赤の光が収束していき、アルバートが剣を振るう直前。
「──あ」
これまでの情報を脳内で整理する中で、とある一つの案が浮かび上がった。
か細い糸ではあるものの……確かに、アルバートを出し抜きうる手段が。
「──見えた、勝ち筋」
目の前から迫る赤色の光が世界を呑み込む最中、ある一つの突破口を見出す。
そうだ。
壊された上でそれをどう活用するか。それこそがこのアルバート戦攻略の鍵だ。
もっとも、その方法は現段階では実行不可能で、それ以外にももう一つ、大きな問題も抱えているのだが……。
(だが、この勝ち筋は──どうしても試行回数が必要になってくる。その上、試行回数を重ねる中で──その案の成功率を引き上げる手段を見つけなければならない)
大きな問題。それは、どれだけ万策を尽くしても、アルバートの身体能力はそれを力づくで捻じ伏せてくるポテンシャルを秘めているという事だ。
ならば、こちらも策に策を重ねなければならない。
(それに──
正直な所、この案を通すのは綱渡り過ぎる。
何故なら、この案は使えるとしても一度きり。一度アルバートに見せてしまえば、もう二度と通用しなくなってしまう手段なのだから。
アルバート戦での三度目の死を実感しながら、俺は思考を回し続けるのだった。
◇
だが──その案を実行するに値する手段。それが一向に見つけられないまま、これまで順調だった攻略は泥沼の一途を辿っていく事となる。
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