#255 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その五十五 『圧倒的な差』
▷15回目の挑戦
『彼方ヨリ来タレ! 虚ロナル英雄ヨ!!』
再挑戦開始から二度の全滅を経て、再び第六サイクルへと到達する。
【双壁】が力を行使すると、最終決戦の場である白い大地が生成され、上空に浮かぶ赤い星が砕け散った。
すると、並行世界へと繋がる時空の歪みが虚空に出現した。
「さあ来い……! 今回こそ攻略の糸口を掴んでやる……!」
亀裂が広がっていくと、そこから一人の男が出現する。
【反逆者】アルバート。この世界最強の存在、【二つ名】の一角にして粛清の代行者。
先ほどと同じように、感情の一切を見せない虚ろな瞳のまま、こちらへと視線を向けた。
「総員、散会!!」
ライジンの掛け声と同時に、一斉に六方向に散会し、アルバートの出現と同時に上空に出現したクリスタルに攻撃を開始する。
アルバートは予想通り、ポンの方へと手を伸ばしてそのまま硬直していた。
そして、その手がゆっくりと背に担ぐ真紅の大剣へと動き始めたのを見て、ライジンと串焼き先輩がアルバートの下へと疾走する。
「【エクスブレイド】!!」
「【アサルトエッジ】!!」
ライジンは【灼天】を発動させ、串焼き先輩は第五サイクルを経て発動させた【|殲滅戦果(キル・ストリーク)】を維持した状態で、スキルを交えた強烈な一撃を叩き込む。
アルバートはそれに対し、真紅の大剣を抜刀し、剣の腹で受け止めた。
武器同士の激突による快音が周囲一帯に響き渡る。火花を散らしながら、その状態のまま拮抗する。
「ダメ押しだ……!! 【彗星の一矢】!!」
拮抗する状態を好機とみて、青と白の粒子を纏った、彗星の如き一射を放つ。
放たれた矢は、アルバートとの距離を一瞬にして埋め、大剣へと激突した事で、僅かにアルバートが後方へと押されていくのが見えた。
行ける、押し切れる。そう思った瞬間、アルバートが口を開いた。
「……|空(カラ)」
驚くべきことに、アルバートはその状態のままあの神速の六連撃を放つつもりらしい。
嘘だろう!? と叫びたくなる感情を抑えながら、【|極限集中(ゾーン)】を発動させ、相手の攻撃を回避すべく動き出す。
「……|斬(キリ)」
拮抗していた状態のライジンと串焼き先輩が凄まじい勢いで弾かれ、まるで木の葉のように軽々と吹き飛んでいく。
迫る致死の斬撃。【|極限集中(ゾーン)】によって圧縮された体感時間の中、ギリギリまで拮抗していたお陰で逸れた剣筋を見切り、横に飛び退いて回避する。
「「スイッチ!!」」
「了解!!」
武器で斬撃をズラした事で即死には至らなかったものの、致命傷を負ったライジンと串焼き先輩が同時に叫んだ。
クリスタルへの攻撃を終え、後方から助走を付けて走ってきたボッサンが跳躍し、アルバートを強襲する。
「おおぉぉらァ!!!」
再度、響き渡る快音。巨大な戦斧が真紅の大剣に叩きつけられ、火花が飛び散った。
だが、そんな渾身の一撃に対しても一切表情を動かさないアルバートに、ボッサンは舌打ちを一つ鳴らす。
まるで巨木のように不動を貫くアルバート。その背後に厨二が出現すると、スキルを発動するべく手を振りかざした。
「【|黄昏(トワイ)】……」
「……|それ(・・)は、……もういい」
「ッ!?」
まるで厨二が何をしようとしているのか理解しているかのように、アルバートは厨二へと視線を向けた。
すると、アルバートは真紅の大剣を力強く握り、ボッサンを吹き飛ばしながら横方向に一閃する。
「……【大旋斬】」
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
【|千剣山(サウザンド・ブレイド)】程の超広域攻撃では無いが、広範囲に渡って円を描くように斬撃が放たれる。
【|極限集中(ゾーン)】を発動していたお陰で、身をかがめる事でやり過ごせたが、虚を突かれた厨二はその攻撃でポリゴンとなって砕け散ってしまう。厨二の脱落によって、アルバートの大剣を奪う手段が無くなってしまった。
「ッ、【ターン・トゥ・アンカー】!!」
地面へと転がっていたボッサンが即座に復帰し、アルバートのヘイトを固定しようとスキルを発動させる。
ボッサンの足元から錨のエフェクトが飛び出し、アルバートに絡みつこうとしたが、触れた瞬間に粉々に粉砕された。
「なっ!?」
リヴァイアにも通ったヘイト奪取スキルの不発に、ボッサンが思わず動きを止める。
その隙をアルバートが見逃すはずも無く、大剣を振るってボッサンの首を断ち切り、ポリゴンへと変換させた。
「……次」
淡々と、流れ作業であるかのようにアルバートがそう呟くと、ポンへと大剣の切っ先を向けた。
空に輝く星は、まだ三つ目に破壊するクリスタルを知らせている最中だ。戦線は既に崩壊しているというのに、演奏の完遂は未だ遠い。
ライジンと串焼き先輩は開幕の斬撃で瀕死で、無傷なのは俺とポンだけ。しかし、ポンは演奏をしなければならないので、実質3VS1の状況だ。
(本当にこいつを越えられるのか!?)
六つのクリスタルの破壊順が確定するまでの耐久戦、そして確定した後のクリスタル破壊。
字面として見れば単純明快だが、そのたかが耐久戦の難易度が高すぎる。
まるで先の見えない道を歩いているかのような絶望感。活路が見出だせない状況に、焦りが生じ始める。
「だが……!」
こいつを越える為の手段を見つけない限り、俺達はこのレイドをクリアすることは出来ない。
既に二人失ってしまっている為、今回の挑戦でのクリアは不可能だ。しかし、次へと繋げる為の足掻きならまだ出来る。
思考を止めるな、一秒でも長く生き延びろ! 相手の動きを、相手の癖を、相手の技を引き出す為に!!
「【彗星の一矢】!!」
ウェポンスキルを発動させ、再度射撃の準備を始める。
倒せないであろうアルバートに攻撃を加えるだけ無駄なのは分かっている、なら次に繋げる為に必要な検証は何か。
演奏している人間と、クリスタルを破壊しようとしている人間。【双壁】の力によって顕現しているIFアルバートは、一体どちらを優先する?
「……させ、ん」
俺の予想通り、アルバートはポンでは無く、俺へと視線を向けた。
やはり、アルバートのヘイトはクリスタル破壊を狙う者が優先されるようだ。
だが、アルバートの斬撃が放たれるよりも早く、俺は【彗星の一矢】を解き放った。
クリスタルの破壊順が分からない以上、失敗しても良い。そう思いながら放った、アルバートの虚を突いた全力の射撃は、クリスタルに到達────
「──遅い」
──する前に、空中で真っ二つに両断された。
剣を振るったアルバートは、些事とばかりに、矢に一瞥もくれる事なく。
かつて、リヴェリアと初遭遇した時のように、目の前に飛んでいた蝿を叩き落すが如く。
容赦なく、途方も無いほどの力の差を見せつけてきた。
「……は」
それを見て、思わず乾いた笑いが漏れる。
余りにも強すぎる。蟻が何匹いた所で象には勝てない。そういう比喩表現が成立してしまう程の力量差だ。
「……期待外れだ」
思考が止まっても、アルバートは待ってくれない。
次の瞬間、アルバートが振るう剣閃が、スキルの発動で硬直する俺の首を吹き飛ばした。
こうして、二度目のアルバート戦は幕を閉じた。
アルバートに勝つビジョンなど、到底見える筈も無いまま。
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