#254 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その五十四 『成長進化の仕組み』
「【成長進化】……ね」
ライジンが俺の言葉を聞いて、少し表情を硬くする。
俺の身近に居る人間で、【成長進化】を成し遂げたのはライジンただ一人だ。
1st TRV WAR決勝後にライジンと話した時、少しばかりではあるが法則は掴めたと言っていた。
【成長進化】。戦いの最中に、持ち主の願いに応じてスキルが進化するという
「ああ。断定は出来ないだろうが、お前が【成長進化】させた事があるのは紛れもない事実だ。分かる範囲で良いから、進化する為の条件を教えてくれないか?」
「……OK。折角の機会だ、生放送を見てる視聴者にも情報を共有しておこうか」
ふーっと深く息を吐き出したライジンは、天を仰ぐ。
ライジンの傍に浮かぶ配信のコメント欄では『マジで!?』とか『教えてくれんの!?』と言ったコメントで溢れかえっていた。【成長進化】は未だ進化の条件が正確に判明していない特殊な進化だ。そして、【成長進化】によって進化したスキルは通常の進化したスキルよりも強力になる事が分かっている。【灼天・弐式】が良い例だな。
……まあ、戦いの最中に進化するというのは非常に厨二心をくすぐるので、【成長進化】してみたいという考えの人間が大半だろうが。因みに俺は違うよ? ホントダヨ?
「ただ、一つだけ言っておくぞ。【成長進化】だけを当てにした戦法だけは止めておけ。なんせこれから俺が言う情報は全て正しい訳じゃない、憶測で語る訳だからな。最後の一押しで進化してくれれば良いな、程度に考えておいた方が良い」
「ああ、それは承知の上だ」
現状、【成長進化】は謎が多すぎる。するかどうかも分からない運ゲーだけを頼りにするのは心許ないからな。
「なら良い。……じゃあ、俺が予想する【成長進化】の条件を一つずつ語っていこうか」
そう言うと、ライジンは一つ咳払いをしてから指を立てる。
「一つ目。確実だと思うのは『そのスキルが成長限界である事』。所謂スキルレベル10の状態だな。その状態で進化をさせずに使用を続ける事が条件の一つだと思われる」
「通常の進化をするのにもスキルレベル最大にしないといけないもんな。確かにそれは条件としてありそうだ」
『進化』と付いている以上、成長限界である事が一つの条件である可能性は非常に高いだろう。
ライジンも頷くと、二本目の指を立てる。
「二つ目。ここからは憶測になるが、『進化した時のスキルについて、明確なイメージを浮かべる事』だ」
「明確なイメージ……ですか?」
「ああ。このゲームには『スキル生成システム』があるだろ? あれはプレイヤーの思考を読み取って、それを基に物理演算システムが様々な挙動を掛け合わせて最も近い形に落とし込んだ結果、一つのスキルとして誕生するんだ。演出としてはシャドウ経由で生成している訳だけど、多分思考を読み取る事自体は常時可能なんだと思う。要するに、【成長進化】は『スキル生成システム』の
「なるほど……確かに、シャドウは姿は隠しては居ますが、常に傍に居ますもんね。だからこそプレイヤーの思考を逐一読み取っていてもおかしくは無いと」
「そう言う事。俺が1st TRV WARで【成長進化】をした時は、『村人が追い付けない程の圧倒的なスピードで動き回る』事を脳内でイメージした結果、【灼天】の進化の方向性が定まった。結果として出来上がった【灼天・弐式】は、俺の想像以上の産物だったけどな」
確かに、ライジンの【灼天・弐式】へと進化した際の振れ幅は凄まじかった。それこそ、誰もが負けたと思う状況から逆転出来るレベルでだ。
【成長進化】した際にライジンがすぐに使いこなせるようになったのは奴の非常に高いPSもそうだが、予め進化の方向性がイメージ出来ていたからと考えれば納得がいくな。
「問題はここからなんだが……」
ライジンは少し表情を引き締めると、三本目の指を立てる。
「三つ目。……正直、これは半信半疑だが、『現状ではどうしようもない相手、またはその状況』に加えて『成長進化したスキルを用いて相手に勝利する明確なビジョン』だ。ああしたい、こうしたいと妄想を膨らませたとしてもそれが結果的に勝利に繋がらない物であるのなら、システムは進化を許容しない……のだと思う。もし仮にこの条件が必要な場合、一番の鬼門はこれだ。……何せ、現状全く勝てるビジョンが見えない相手に対して【成長進化】で立ち向かおうとしてる訳だからな」
なるほど、確かにそれは……。
「……もし【成長進化】を駆使して勝つ戦法を練る場合、アルバートに対して何かしらの勝ち筋を見つけなければそもそも話にならないって訳だな?」
「ああ。たまたま進化してアルバートに勝てた、みたいな展開にはならないと思った方が良い。だから、俺達がまず最初にすべきなのは『アルバート戦を越える為の手段』を模索する事なんだよ」
厨二がそれを聞いて、一つため息を吐く。
「となると、結局最初に戻ってきちゃうんだねえ。……明確な突破口を見つけるまでは挑み続けるしかないって事で良いのかナ?」
「そうみたいだな。まあ対戦相手の研究は日常茶飯事だし構わねえけどよ。どういう立ち回りで行けばいい?」
「クリスタルを一人で破壊してしまった時のデバフ……『泡沫の夢』もあるから、それぞれ半分以上クリスタルのHPを削らなければいけないよね。だから開幕、クリスタルが出現した時点で半分削りにいく。そしたらすぐにポンの演奏のカバーに入ろう。機動力がある俺と串焼き団子さん、そして遠距離攻撃が出来る村人で最初の攻撃をキャンセルさせよう」
「了解」
「その後ボッサン、厨二にスイッチする。ボッサンはタンクだから多少なりとも耐久出来る筈だ。ボッサンがヘイトを受け持っている内に、厨二はあの武器を奪うスキルを使って欲しい」
「ステータスが高すぎて剣を持ってなくても十分化け物なんだが、奪って良いのかよ?」
串焼き先輩が訝しげな表情でライジンに問うと、首肯した。
「確かにあの異常なステータスから繰り出される近接攻撃も脅威ですけど、剣を持っている時の方が攻撃のレパートリーが多そうですからね。【
「そういう事なら納得だ。まあやるだけやってみるか」
「ポンはクリスタルの破壊順が確定するまでは演奏して、途中からクリスタルを破壊する村人のカバーに参加してもらう事になる。責任重大な役目だが、大丈夫そうか?」
「はい。最後の最後で足を引っ張るような真似はするつもりはありません。精一杯頑張ります!」
先ほどの自信を失っていた表情に比べたら、顔付きが良くなった事に、ライジンは笑みを浮かべながら頷くと、こちらへと顔を向ける。
「そして村人。俺達がアルバートを足止めしている間にクリスタルを全て破壊するのがお前の仕事だ。お前の射撃の腕次第でこのレイドがクリア出来るかどうかが掛かっていると言っても過言じゃない。行けるか?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ? 天下の変態スナイパー様を舐めんな。ここまで全部破壊してきたんだ、たかがクリスタル一個増えた所で変わらねえよ」
「自信たっぷりな返事が聞けて何よりだ。さて、最後にだが」
ライジンは表情を引き締めると、真剣な声音で。
「幸い、回復アイテムを大量に残したままクリア目前まで来ている。だが、アルバート戦がこれまでで一番の難関なのは間違いない。これまでの比にならないレベルでリトライする事になるだろう。だから、ここからは根気がいる戦いになる」
そう言うと、ライジンは拳をぐっと握り、笑みを浮かべた。
「少しずつ、勝つ為の作戦を模索していこう。大丈夫、俺達ならきっと勝てる」
「……それ負けフラグでは?」
「ライジンくぅーん、縁起でもないんだけどぉー?」
「茶化すな茶化すな。ライジンも変な顔しない」
引き攣った顔を無理矢理直そうと苦心するライジンの顔を見て、ボッサンが宥める。
数秒経ってから、ライジンが気を取り直したように一つ咳払いをすると。
「じゃあ、攻略を再開しよう!」
『おう!!』
そうして決意を新たに、【双壁】戦攻略を再開した。
◇
──それが地獄の入り口であるとは、この時の俺達はまだ知らない。
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