#253 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その五十三 『勝つ為の手段』


「だああッ! なんだあのぶっ壊れNPC!? 初見殺しも大概にしろよ!?」


 リスポーンしてすぐ、勢い良く跳ね起きる。

 残すはラストサイクルという所まで来て、最悪の初見殺しが待ち構えていた。

 並行世界の大英雄アルバート。戦闘していた時間こそ短かったものの、それでもその圧倒的な強さは十分に体感させられた。


「ああクソ、完敗だ……!! 一矢報いる事すら出来なかった……!!」


 ライジンも悔しそうに顔を歪める。

 アルバートはあの攻防の中、一度たりとも表情を崩す事は無かった。

 それは余裕の表れであり、俺達など取るに足らない存在だと奴が認識している事の証明に他ならない。


「流石にあれだけ強いとなると……これまでのようになぁなぁじゃなく、本格的に奴対策を立てる必要がありそうだネ」


 厨二もまた、浮かない表情でため息を吐いた。

 現状のままでは奴に太刀打ち出来ない事は先の一戦で思い知らされた。だが、奴を越えない限り俺達に勝利は無い。どうにかして、勝ち筋を見つけなければならないのだ。

 ボッサンが恐る恐るといった感じで、こちらに問いかける。


「なあ、さっきのあいつを三人で相手してたお前らに聞きたいんだが……勝てそうだったか?」


 その言葉を聞いて、俺と厨二とライジンは目配せすると、同時に口を開いた。


「無理」


「無理だな」


「無理だねぇ」


「お前ら三人でその評価かぁ……となると、一筋縄ではいかねぇなぁ……」


 俺達三人の言葉を聞いて、ボッサンが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 だって開幕即死6連撃だぞ? あんなのどう初見で回避しろってんだよ。予備動作もほぼ無かったようなもんだし、構えてれば対処出来るかって言われたらあんなの誰だって無理だろう。

 もっと上位のジョブで今よりも高性能なスキルを持っていれば或いは……って感じだけど、上級職の俺達が初見で対処出来るレベルの攻撃じゃなかったのは確かだ。ここで上級職での攻略が裏目に出てしまったな……。


「カテゴリ的にはレイドボスだろうから、ある程度は強いって事は覚悟してたけど……【灼天・鬼神】のフルパワーを片手で軽く塞がれるとは思わなかったよ」


「剣技も異常だし、厨二が言ってたようにSTRが5桁もある以上生身の身体能力も飛びぬけて高い事も分かった。剣を奪った所で殆ど意味が無いってのがな……」


「攻撃されたら終わりみたいな感じだったねぇ。ただの足踏みだけでミサイルが至近距離で落ちたかのような衝撃だったし……正直回避もクソも無いからどうしようもないよねぇ」


 うーん、考えれば考える程奴の異常なスペックしか出てこないな。

 第五サイクルに出現したクソ花も大概だったが、それ以上にあの元英雄野郎は飛びぬけた強さだ。伊達に【二つ名】を冠する存在じゃないって訳か。

 ボッサンが俺達の意見を聞いて、うーんと唸ると。


「ってこたぁ奴に攻撃させないのが攻略の鍵か? 開幕の六連撃は回避がほぼ無理ゲーだ。それなら相手が動き出す前にこっちが仕掛けて相手の行動をキャンセルさせるしか無くないか?」


「俺もそう思う。さっきはまさか【二つ名】が出てくるとは思わなかったから相手に攻撃の隙を晒しちゃったけど、次はもう開幕に仕掛けてくる事が分かってるからね。相手の攻撃のタイミングに合わせてパリィ出来るか試してみようと思う」


 ライジンがボッサンの意見に頷いて肯定すると、言葉を続ける。


「ただ、注意したいのが第五サイクルみたいに運良く討伐出来るとは思わない事だね。俺達がすべきなのはアルバートを全力で足止めし続ける事だ。ポンが演奏を終えて、村人がクリスタルを破壊し終えるまで、な」


「そう……ですね。そもそも私が生き残らないと、クリスタルの破壊順も分かりませんし……」


「やっぱこのレイド、奏者だけ負担が大きすぎるよな……なんかアルバートの奴も、最初ポンの居る方に手を伸ばしてたし、明らかに狙う部位が一人だけ殺意に溢れてたしな」


 最初にアルバートが放った技、『空斬カラキリ』だったか? あの技は俺達は無造作に斬ったように見えたが、ポンだけはしっかり首を狙っていた。

 恐らく奏者にヘイトが固定していると見て間違いなさそうだ。あくまで俺達が斬られたのはもののついでのような気がする。いやついでで全員即死に持ってくのはやり過ぎだけどな……。


「どっちにしろ、アルバートの行動を完封しないと第六サイクル突破は不可能だ。仮にアルバートを越えたとしても、最後に上空に浮かんでる【双壁】のコアを破壊しなければならないんだ。余力を残しつつ越えられるようにならないと……」


「いやいやライジン、あいつ相手に余力とか言ってる程余裕は無いぞ? それこそ全力で掛からないと足止めすら出来ねえよ」


「そうなんだよなぁ……」


 ライジンも分かってはいるのか、困り果てたかのように苦笑する。

 うんうん唸っていても仕方ないと、ボッサンが手を鳴らして注目を集めた。


「まあ辛気臭い面してても進展はしないぜ。一旦、第六サイクルについて情報を整理しないか?」


「賛成だ。余りにも分からない事が多すぎるんだよなぁ。……そもそも、あのギミックはどういう事だ? 次元を捻じ曲げるにしても、アルバートって死んだ英雄じゃなかったのかよ? 俺達を過去に飛ばしたように、あいつも過去から連れてきたってか?」


「いや、奴はIFの世界線からやってきたアルバートだな。少なくとも、この世界でのアルバートは【二つ名】……粛清の代行者じゃない筈だ。黒ローブの言葉を信じるのなら、粛清の代行者はこの世界を滅ぼす為に存在している。リヴァイアが偉大な英雄だったと豪語してたのに、【反逆者】ってあからさまな二つ名は付かないだろ普通」


「IF……なるほど、並行世界か。確かにそう考えれば辻褄が合うな。良く気付いたな村人」


「気付いたのは偶々だけどな。『水晶回廊』のギミックってそういや今考えたらおかしくないか?って思って、そこから派生した感じだな」


「いやあのレベルの相手と戦闘中にそんな事考えてたのかよお前……」


 串焼き先輩が呆れたようにこちらを見るので目を逸らす。

 まあ一種の現実逃避みたいな感じだったしな……。


「それが分かった所で特に突破口が閃く訳でもないけどな。なにせ、リヴァイアと同格以上の存在が更にパワーアップした姿だぞ? 文字通り一人ずつ命を投げ打って、ギミックも使ってようやく勝てた奴より強いなんて、正直悪夢でしかないだろ」


「確かにね……そのレベルの相手に耐久戦を強いられるのはメンタル的な面でもかなり負荷が掛かりそうだ。……しかも、ラストで待ち構えているからこそ余計質が悪いんだよな……」


 そう、問題なのはそこなのだ。

 【反逆者】アルバートは最後の最後……第六サイクルで待ち構えている。

 第六サイクルに到達するまでの道のりは決して楽な物ではない。

 奴と戦闘を重ねる事で相手の癖や動きを覚えようにも、そこまでの道のりが長すぎる為、俗に言う『死に覚え』がし辛いのだ。


「さしずめ運営からの挑戦状って所かねぇ。これぐらい乗り越えて見せないとクリアさせる気は無いってネ。……ふふ、やってくれるじゃないか」


 厨二は再戦が待ち遠しいとばかりに口の端を吊り上げる。

 と、その時何かを思い出したかのように串焼き先輩が「あ」と呟いた。


「なあ、そう言えばあいつ、最後らへんにリヴァイアが云々って言ってなかったか?」


「ああ。『リヴァイアはこの程度の連中に殺されたのか』ってな。……思い出したら腹立ってきたな」


 確かに力の差は歴然だったと言えど、ああもストレートに煽られるとなー……。


「リヴァイア関連っつったらリヴェリアだろ。もしかしたらリヴァイア戦みたいに乱入してきて何とかなるみたいな展開は……」


「……それは無いだろうな」


 そう言うと、リヴェリアを覆う水晶をこんこんと軽く叩いてみる。

 水晶はびくともせず、中に閉じ込められたリヴェリアは一切反応を示さない。


「一応第六サイクルまで追い詰めて、その上でこれだ。【双壁】を倒さない限りは解放されないだろうよ」


「そうか……何かしら関係あると思ったんだけどなぁ……」


 串焼き先輩の気持ちは分かるが、リヴェリアが乱入した所で切り伏せられて終わりな気がするんだよな……。リヴァイアが勝てない相手に、リヴェリアが太刀打ち出来るとは思えないしな。


「となると、アルバートには正々堂々、正面からぶつかるしか無いのか?」


「今の所は。他の手段を探そうにも、情報が少なすぎるからね」


「じゃあ、取り敢えず試行回数を重ねるって感じで良いのか? だが、無策のまま突撃してもまた負けるだけだぞ?」


「……一つ、策が無い訳でもない」


 短く息を吐き出し、俺は視線を攻略の鍵を握っている男に向ける。

 俺達はこのレイドに挑戦する際、持っていたリソースのほぼ全てを注ぎ込んでいる。

 つまり、アルバート対策をしようにも、新しくスキルを作るなどという事は出来ないのだ。


 ……だが。


 一つだけ、誰もが敗北したと思われる状況で、奇跡を起こした男を俺は知っている。


「どうしようも無い状況を打開する為の手段。お前なら知っているはずだ、


「…………」


 先の1st TRV WAR決勝にてライジンが引き起こした、逆転勝利の要因。

 戦いの最中、自身が思い描くスキルへと変化させ、勝利へと導く為の鍵。

 未だ謎に包まれた、の存在こそが、俺達に残された最後の希望だ。



「【】。このレイドの攻略の鍵は、きっとそこにある」




────

【補足】

【二つ名レイド】は『コンテンツ突入時』の数値を参照している。


それはつまり……。

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