#249 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十九 『絶死の大輪』


 クソ花の周囲に展開された魔法陣から紫色の光沢を帯びた毒槍が生成され、勢いよく射出された。

 一直線に飛来してくるそれを矢で迎撃しながら、森林地帯を駆け抜けていく。


(クリスタル破壊フェーズまで後何分生き延びればいい……!?)


 クソ花と戦闘を開始して二分、未だ頭上の星は輝かず。

 破壊する順番が分からない以上、このまま耐久し続けなければならないのだが……一度足を止めて休まなければスタミナが限界を迎えてしまう。

 このゲームの仕様上、限界を超えた挙動も可能には可能だが、その分のデメリットも大きい。

 限界を越えて尚動き続けると、強制的に全てのモーションを停止させられてしまい、戦場でぼっ立ちするリスクを抱えてしまう。

 つまり、無闇に動き回ればそれだけ自分の首を絞める事になるのだが……。

 

「休む暇を与えてくれる訳ないよなぁ……!!」


 頭上、斜め上、真横、地中、正面、地中、地中、地中……いや地中多いな!! 攻撃の仕方まで陰湿過ぎるだろ!!

 苦し紛れの反撃に矢を放つが、矢が触れた先からジュオッ!っと音を立てながら一瞬で溶解してしまう。

 身動き一つ取っていない事からも分かるように、クソ花がダメージを負った様子は無さそうだ。


『ギシャシャシャシャシャシャ!!』


「っ、野郎……!!」

  

 抵抗する手段が無い事をまるで嘲笑うかのように耳障りな声を上げるクソ花。その間にも攻撃の手を緩める事は無い。

 真っ赤に染まった毒塊を吐き出すと、空中で炸裂しながら降り注ぎ、大地を溶かしていく。


(地中からの奇襲に加えて上からは毒の雨……!! もうそこら中が穴ぼこだらけだ、足元に気を付けないと一瞬で死ぬ……!!)


 先ほどは何とかリカバリー出来たものの、そう何度も奇跡が続く事は無い。

 間違いなく不利なこの状況、クリスタル破壊フェーズまでにどうにかして打開策を見つけなければならない。

 こいつの妨害を避けながらクリスタル破壊狙撃を行うのは厳しいからな……。


(奴の有効打は何だ? ぱっと思い当たる弱点は火だが……ライジンをここに引っ張ってくるのは不可能だしな……)


 ライジンはライジンでアイスマジロの強化版みたいな奴と交戦しているみたいだし、それの対処をしながらこちらの加勢は望めないだろう。

 触れた瞬間に溶ける毒のせいで物理攻撃もまともに通らないとなると、魔法やボムのようなアイテムで攻めるのが正攻法なのだろうか。


(クソ、相性は悪いがこのまま耐久するしか……?)


 と、視線を向けた先のクソ花が突然停止すると、触手を地面に突き刺し始めた。

 地中からの奇襲攻撃かと警戒するが、触手が飛び出してくる事は無かった。


「なんだ……?」


 クソ花は身体をぶるりと震わせると、ゴボゴボゴボ……と何かが泡立つような音が聞こえてくる。

 荒い息を整えながら視線を向けていると、悪寒が全身を貫いた。


「……ッ!!」


 相手のしようとしている事の意図を察してすぐにその場を離れる。

 クソ花の震えは少しずつ大きくなっていくと、口から真っ赤な液体が滴り落ち始めた。

 一瞬、音が消えたと錯覚したと同時、大きく口を開いた。


『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 咆哮と共に、凄まじい速度で劇毒のレーザーが放たれる。横一線に薙ぎ払い、木々を一瞬で溶解させながら広範囲へと劇毒をばら撒いていく。

 触手を地面に突き刺していたのは、地面へと触手を固定する事で自身の反動を完全に制御する為だったのだ。何度も触手を抜き差ししながら器用に身体の角度を変え続けて俺を追従し続ける。


「っ」


 このままだと劇毒のレーザーが直撃するのが先だ、と思い至り、その場で【フラッシュアロー】を作成して即座に発動。

 一瞬の隙を突いて木の裏に隠れると、俺を見失ったクソ花は、劇毒を見失った地点へと向けて放ち続ける。

 劇毒が一ヵ所にゆっくりと堆積していくと、まるで焼いた餅のように膨らみ始め……。


「ッ!?」


 ドパァン!! と音を立てて炸裂した。

 一拍遅れてエリア全体に降り注ぐ致死の猛毒。見失った地点から近かった影響か、俺の近くで炸裂した劇毒の塊が頬を掠めた。

 それだけで体力が4割減少したのを見て、思わずゾッとする。


「もうちょいまともに浴びてたら全損してた……!?」


 リヴァイア戦も状態異常浴びたら即死だっただけにそれぐらいの難易度は想定してたけどこいつやっぱり単騎で相手にしていい性能してねえ!! くそ、当然っちゃ当然だがこうなってくると上級職の限界を感じてしまう……!!


『ギシャアアアアアアアアアアァァァ……?』


 と、劇毒レーザーという大技を終えたクソ花が周囲を見回し始める。どこに行った、とばかりに触手を適当に薙ぎ払って木々をなぎ倒しながら俺の捜索を始める。

 奴に見つからないよう息を殺しながら、相手の動きを伺う。


『ギギギギギ…………』


 ──訂正しよう、大技はまだ終わっていなかった。


 それは強者故のプライドか、自身の大技を以てしても獲物を仕留めきれなかった事実に腹を立てたエクスポイズン・ギガイーターは……自身の周囲を触手で乱打し始める。

 その致死の鞭の勢いは徐々に増していき、特大の地震となって襲い掛かる。


「まともに動けねぇ……!?」


 そのまま立っている事など出来ず、木を支えにして耐えなければ容易く上空に吹き飛ばされて地面とトランポリンする羽目になる程の揺れに、内心冷や汗を流す。

 人間ですらそうなる程だ、先ほどばら撒かれた劇毒も地面を離れ、何度も地面と上空を反復横跳びしながら、その侵蝕範囲を広げていく。

 数秒間触手の乱打を続け、その触手の動きが目で追えない程高速になった次の瞬間。


『ギジャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


 特大の咆哮と共に、自身の全触手を地面に突き立て、エリア全体に触手が一斉に飛び出した。

 上空へと高々と吹き飛ばされた俺は、地面から飛び出してきた触手に片足を貫かれてしまった。


「ッッ!!」


 痛みの代わりに走る痺れ。地面からは上空から真っ赤な劇毒が降り注ぐが、触手に付着していた毒の影響で身体が思うように動かない。上から迫る劇毒と、下で待ち構える劇毒

 迫り来る死のサンドイッチに、これは詰んだかと歯を食いしばったその瞬間。



「よぉ、困ってそうだな村人ォ!! 大ピンチの所悪いが、トレイン失礼するぜェ!!」



 雷光の如く隣のエリアから駆けてきた串焼き先輩に、俺は救出されたのだった。



────

【補足】

Q.これ(トレイン)運営の想定解法なの?

A.いや一人一つのエリアのクリスタル破壊担当しないといけないんだから想定な訳ないじゃん、なにしてくれてんのこいつら???


絶死の大輪デス・ブルーム


エクスポイズン・ギガイーターの大技。劇毒ビームを乱射した後、触手で地面を叩き付けて毒の範囲を広げてから触手を地面に突き立ててエリア全体を攻撃する。

どれだけ立ち回りに気を付けていても毒の範囲が滅茶苦茶広がってしまう上、上下両方で劇毒が待ち構える事になる死のサンドイッチ攻撃が非常に厄介。

大咆哮の後、地上にある毒は花の形となり、周囲にある植物を腐食させ、大気汚染する。

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