#248 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十八 『vsエクソ花』
エクスポイズン・ギガイーター。
毒々しい見た目の斑模様の斑点が散りばめられた、見上げる程に巨大な花型のモンスターだ。
名前や姿からして関連があるのだろうが、マンイーターの超上位互換と言っても過言ではない。毒霧散布や広範囲に届く触手攻撃がかなり厄介だったが、その性能を更に凶悪化させた上に新規に習得した技を並行して連打してくるようになった事で、更にクソモンスター度合いが増したと言えるだろう。
戦闘が開始して一分が経過した。
依然として奴の攻撃は緩まず、一瞬でも気を抜けば棘の生え揃った触手に横殴りにされて全身穴空きチーズと化すか、毒塊を頭から浴びて一瞬で溶解させられるかの二択を常に迫られている。
そして、何よりも厄介なのが。
「マジで嗅覚機能切らなくて良かった……!!」
クソ花から吐き出される毒塊が爆ぜる毎に鼻を突き刺す刺激臭が周囲を漂う。どうやらあの毒塊爆破には大気汚染効果もあるようで、その場の空気を吸い続けると種類豊富な状態異常が付与されてしまう。そのおかげで危うく死にかけた。
だがまあ一度付与されると分かってしまえば対処はそう難しくない。口内に『解毒の丸薬』を仕込む懐かしの戦法で対処出来るからな、やっぱ経験って大事。
三本同時に襲い掛かってきた触手を回避し、地面に手を付きながら相手の動きを伺う。
(マンイーターはギリギリまで削らなければ足を生やさなかった筈だ。なら距離を置いて戦うのが正解か?)
触手攻撃にも射程があったはずだから、遠距離攻撃しかしてこなくなるというアドバンテージを得られるのは大きい。
毒塊も厄介には厄介だが、回避が容易くなるに越した事は無いからな。
そう思い至ると、即座にその場を離脱。触手の届かないであろう距離まで離れてから。
「さて、どう動く?」
えーっと? 地面へと触手を突き刺して? 上半身を持ち上げて? 地面から露出した足を……っておいおいおい!?
「お前最初から足生えてんの!?」
『キシャシャシャシャシャシャシャ!!』
俺の表情を見てか知らないが、ニヤァと醜悪な口を大きく歪めながら、巨体らしからぬ俊敏な動きで大跳躍した。
勿論行先は俺の真上、自身の体躯を存分に発揮したボディプレスが強襲する。
咄嗟に【血盟装甲】を発動。落下地点からギリギリの所で横っ飛びで避けると、地面が大きく揺れる。
ズズゥゥン!!
砂ぼこりをまき散らしながら着地したクソ花は、視界不良の中でも正確に俺を狙い澄まして触手を放ち続ける。
「そういやサーマルビジョン標準搭載してるんだったなお前……!!」
畜生、厄介度合いが尋常じゃないなこいつ!? 最初から足が生えてるとなると、逃げようものなら全力で追いかけ回されるのは目に見えてるし、視界を塞いでから一方的に攻撃してくることも可能ときた。
それに加えて大気汚染するレベルの毒も吐いてくるし、毒は時間経過で足場も侵蝕していくから戦闘可能エリアも限られてくる……あれ? こいつ控えめに言ってクソボスなのでは?
しかも、先ほどから奴に攻撃を加えてはいるものの、全く体力が減っている気配が無い。このまま単騎でレイドボス級の相手をしなきゃいけないのは流石に無理ゲーだ。
「となると……」
やはりネラルバの【時穿】で消し飛ばすルートが正規ルートか? クリスタル破壊の時間制限も考えれば、こいつをソロ討伐するのは不可能に近い。ラストサイクルでも無いのにこのボリュームのボスに毎回挑戦させられるのはきつすぎるからな。
『キシャァアアアアアアアアア!!』
と、クソ花が金切り声染みた声を上げると、自身の周囲に魔法陣を展開し、そこから鎖の形になっている茨が飛び出した。それに合わせて自分の触手を地面へと深々と突き刺すと、地面が振動を始める。
一拍置いて大地を捲り上げながら飛び出してきた触手と、空中から迫る茨が俺に襲い掛かる。
「なんだその超立体攻撃ぃ!?」
すかさずバックステップして回避しようとするが、後ろからも触手が飛び出してくる。
やべっ、死…………!!
「んで堪るかぁああああああああああああ!!」
フラッシュアローを生成、そして即座に発動!!
凄まじい熱と光源が周囲を塗り潰し、奴の熱源探知が機能しなくなる一瞬の隙に、バックショットを地面に射撃、ノックバック効果で一気に真上へと離脱!!!
茨や触手が身体を掠めながらも致命傷を負う事は無く、九死に一生を得る。
「っぶねぇ……!!」
一瞬でも判断が遅れれば死ぬ所だった。口内に仕込んだ解毒の丸薬を噛み砕き、触手攻撃で負った【猛毒】の状態異常を回復する。
安堵するのも束の間、再び魔法陣から茨が飛び出してこちらへと向かってくる。
「どうせそれまともに受ければバインド効果でもあるんだろ……! だがな!」
空中床に着地、そして矢筒から矢を取り出して番える。
「立体攻撃はお前の専売特許じゃないんだぜ!」
【彗星の一矢】+【
1st TRV WARでは偽装射撃に用いた俺の切り札の一つだが、今回は足を着いた状態での射撃だ、反動もある程度制御出来る!!
眼前にまで迫り来ていた茨を切り裂き、放たれた二本の【彗星の一矢】はそのまま木々を跳弾して触手もまとめて貫いていく。
『ギシャアァァアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
初めて聞くクソ花の悲鳴。HP総量は全然減ってはいないが、相手に悲鳴を上げさせるには充分なダメージを与える事は出来たようだ。
その隙を見計らって地面へと降り立ち、次の矢を装填しながら。
「さて、そろそろ二分ぐらいか……っ!?」
と、ここで唐突にクソ花の動きが止まる。ぶるりと身体を震わせると、全身が紫色のオーラのような物に包まれ、触手の色が真紅に染まっていく。
と、真紅に染まった触手から赤色の液体が溢れ出し、地面へと滴り落ちるとジュワッ!と溶解音が聞こえてきた。触手本体の攻撃を食らわずとも、あの液体に触れるだけで危なそうだ。
『ギシャシャシャシャシャシャ……!!』
カチカチカチ、と牙を鳴らしながら確実に殺すとばかりに黒い毒煙を口から漏らすクソ花。
マジかよ、時間経過で強制発狂モード突入なのかこいつ。
この様子だと他のエリアの奴も発狂モードに突入してそうだな。
「尚更撃破の線は薄くなってきたな……良いぜ。命がけの鬼ごっこと洒落込もうぜ!!」
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
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