#247 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十七 『降り注ぐ災害』


 今まで断片的に得ていた情報から、ティーゼ・セレンティシアの正体についての予測をしていた。


 一つ、彼女は三千年前の人物であり、初代巫女と呼ばれる存在だった。

 二つ、彼女は特殊な異能を持つ、『異端者』と呼ばれる存在であり、それが原因でユースティア帝国に拉致され、生物兵器にされた。

 三つ、これは先ほどライジンが至った仮説だが……彼女は現である。


 そして四つ。穢れ無き白、純白の極光を纏う戦神と呼ばれる存在となった。そして、世界が崩壊する瞬間、蒼穹を思わせる彼女の瞳を見た。


 ここまで情報が出揃えば、彼女の正体はほぼ確定していると言っても良い。正直、もう断言しても良いのだが……それはこの戦いが終わった後、彼女本人に問うべきだろう。


 意識を戦闘の方へ戻し、現在の時間軸へと帰還した後沈黙を続ける【双壁】に視線を向ける。

 その時、星の海に鎮座する【双壁】の片割れ……『時間』を扱うネラルバが、ヘラルバよりも全身の亀裂が進行している事に気付いた。第4サイクルで力を使い過ぎた代償だろうか。


『彼女ハ、ヤハリ救エナカッタカ』

 

 明らかな落胆の声色。ティーゼを救う為に粛清の代行者になったという【双壁】。今は敵となってしまったが、彼女を救う事が出来るのならばトラベラーに頼る事すらも許容していたのだろう。

 だが、過去に飛ばした結果は救う事なんて出来ず、彼らはティーゼの手で殺された。

 それ故に歴史は変わる事無く、正しく紡がれた。紡がれてしまった。

 その事を彼らがどう思うかなんて、あの光景を見た以上は簡単に予想が付く。


『戦イヲ続ケルゾ、トラベラー。……次ハ、手荒ニ行クゾ!!!』


 だが、戦いはまだ終わっていない。

 来たる第5サイクル。ヘラルバの声を聞いて、各自持ち場へと散開する。

 ヘラルバが鋏を振り上げると、その鋏に極光が収束していく。


『災害級ノ獣達ニ抗ッテ見セロ!!! 【可逆的次元拡張】!!』


 鋏から光が解き放たれると、空間が悲鳴を上げる。

 次の瞬間、空間が無理矢理こじ開けられるような轟音が【星骸】中に響き渡る。音の発生源は台座エリアを除いた各エリア。合計五か所に出現した超巨大な空間の亀裂からだ。

 亀裂が広がっていき、そこから異なる種別のモンスター達が顔を覗かせる。


『キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


『グーココココココココココココココココココココ!!!』


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』


『ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』


『Xixixixixixiiiiiiiiiiii!!!』


 【星骸】中に出現したモンスター達の大合唱が響き渡った。

 俺が担当する森林エリアへと投下され、凄まじい地響きを起こしながら降り立ったのは見上げる程に巨大な植物系モンスター。

 初めて遭遇するモンスターだが、どこか見覚えのあるそのモンスターに対し、はっと笑う。


「誰かと思えば久しぶりじゃねーか……少し見ない間にイメチェンした?」


『キシャァァァァァァアアアアアアアア!!!!!』


 全身斑模様の巨大な食人植物……いや、ドラゴンすら丸呑みに出来そうだから食龍植物か?が耳障りな咆哮を上げる。

 いつか見たそれとは似て非なるその姿から放たれる威圧感は、当時とは比べ物にならない。


「後味悪い過去編見せられた後だ。憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!!!」


 かつて相対したエリアボスである『マンイーター』を遥かに上回る強敵……『エクスポイズン・ギガイーター』……レベル150

 正しく災害級のエネミーを相手に、たった一人で交戦を開始した。





 第4サイクルで『時間』を操作する力を持つネラルバは自身の権能を使

 残り数時間の命を永遠に繰り返す彼らだが、決して無限の命という訳では無い。力を使い過ぎれば自身の身体を巻き戻すだけの力を行使出来なくなる。つまり、自身の命を擦り減らす行いに他ならない。

 故に、第5サイクルではネラルバが動く事は無い。しかし、その代わりにヘラルバがその権能を行使して一体存在するだけで国を滅ぼす事が可能なレベルのモンスターを呼び寄せた。


 ──【可逆的次元拡張】。


 本来であればその生息域以外では力を発揮出来ないモンスターだったとしても、その場所があたかも彼らの領域であるかのように定義するというヘラルバの能力。

 だからこそ呼び出されたモンスター達は、自分の領域に侵入した挑戦者達を全力で排除する。


 その上、


『逃ゲル事ハ許サナイ。一人デ苦難ヲ乗リ越エテコソ、試練ナノダ!!』


 【双壁】は挑戦者達に試練を課す。

 果たして現在に蘇ったトラベラーは、粛清の代行者を討滅するに足る存在なのかと。

 彼らに与えられた能力を行使し、挑戦者達の実力を見定める。


『──【二つ名アナザーネームド】へラルバ。【セカイ】、開門アクティベート。【双壁】権能、解放』


 世界から名を与えられた存在は理を捻じ曲げる力を行使する。空を隔て、挑戦者達が困難に立ち向かう為の空間を与える。

 それを一人で生き延びてこそ、真の力の証明となるのだから。



『【空断絶ソラワカチ】!』





『キシャァァアアアアアア!!』


 金棒のように鋭利な棘が散りばめられた触手が空気を切り裂いた。

 紙一重で回避し、触手が地面へと叩き付けられるとまるで爆ぜたかのように振動が起こり、地面が隆起する。

 空中に生成した床の上に飛び乗ると、スキルを発動させた。


「【極限集中ゾーン】!!」


 思考が加速し、意識が急速に引き延ばされると同時に、その場を跳躍して触手を回避。

 鞭のようにしなりながら迫り来るそれに迎撃という手段は取らない。

 マンイーターとの戦闘で印象に残っているのは、毒と酸が強烈であるという点だ。

 『エクスポイズン』とわざわざ名前に付いているのだ、それ程までに毒が強力なのだろう。

 もしかしたらあの毒霧だけでなく、全身が猛毒であってもおかしくは無いからな。


「【彗星の一矢】!!」


 相手の熾烈な猛攻の隙間を縫い、反撃の射撃を放つ。放たれた【彗星の一矢】は森林地帯を縦横無尽に駆け回りながらエクスポイズン……ええい長い、クソ花を強襲する。

 数本貫きながらも触手を重ね合わせて自身の致命的な弱点を護るように防ぎ、反撃とばかりに毒の霧を吐き散らした。


「げぇ、伝播してくんのかよそれ!?」


 毒の霧が植物を蝕むと、ドロドロと溶解しながら周囲の植物に伝播していき始める。

 凄まじい腐臭が鼻を突き刺すが、今回ばかりは嗅覚をオフにする訳にはいかない。そこを妥協したせいで澱んだ空気を吸い過ぎて身体に悪影響を及ぼす類の技に気付かずに負けたとなれば洒落にならないからな。

 クソ花は即座に毒霧の範囲から離脱して走っている俺を触手で狙いつつ、口をモゴモゴと動かした。


『ゲボボボボボォ!!』


「うわ音きっしょいな!?」


 まるで嘔吐のような音を鳴らしながら、空中に向かって巨大な毒塊を幾つも吐き出した。

 進行方向に毒塊が降り注ぎ、地面へと張り付くと同時に膨れ出す。


「それは流石に読める!!」


 限界まで膨れ上がった毒塊が爆発し、周囲に劇毒をまき散らした。それに伴い、失われて行く足場。あまり動き回り過ぎても俺の足場が無くなって詰むだけだな……。


(さて、どうすりゃいい?)


 先ほどヘラルバが【空断絶ソラワカチ】を使用したせいで他エリアとの行き来は不可能になっている。ポンは『魂の送り唄』の演奏を続けているが、まだクリスタル破壊フェーズに突入していない事からも演奏を続ける必要がある。

 今この瞬間にも足場が失われている以上、このままずっと戦闘を続けるのは得策ではない。

 走り続けながら呼応石を取り出し、首に下げたネックレスへと石を嵌め込んだ。

 

「各員、生きてるか!? 状況報告出来たら頼む!!」


『一瞬でも気ぃ抜いたら即凍結アルマジロ!!』


『超巨大な溶岩巨人だねえ、しかも身体を切り崩して分体作るタイプ!』


『死ぬほど気性が荒い全身水晶龍!!』


『無限、虫!!!』


 いや串焼き先輩報告雑ゥ!! まあでもその二言だけで何となく串焼き先輩の所に出現した奴のヤバさは伝わったのでOKとしておこう。

 どこのエリアもとんでもない奴らが投下されたのは間違いない。ライジンが居る雪山エリアを見れば天を貫く程の大氷塊が展開されているし、厨二の居る火山エリアを見ればここからでも見える巨大な人型の溶岩の塊が腕を振り下ろしていた。

 脳トレ運ゲーの次は完全脳筋プレイヤースキルゲーの時間か。良いね、こっちのが俺の性に合ってる!


 触手に生え揃った棘が勢いよく飛び出し、飛来してくるのを地面スレスレで回避しながら。


「こいつら倒せると思うか!?」


『無理!』


『エリアボスの比じゃないレベルだよねぇ!! 下手すりゃリヴェリアクラスかも!』


『何とか耐久出来てるがあんまり続くようならマズイ!』


『切った傍から増殖してくるんだけどこいつら!! 待て待て待て、纏わりついてきた……うええ気持ち悪いィ!!』


 ちょっと串焼き先輩笑わそうとしてくるのやめてくれ。まあでも串焼き先輩の所だけポップコーンとコーラ持って鑑賞したい感はあるから出来る事なら録画しておいて欲しい。

 ハエ叩きでもするかのように叩き付けてくる触手と毒ゲロを回避しながら。


「じゃあどうする!? このままじゃじり貧は確定だ、突破する為の案募集!」


『耐久してヘラルバの耐久切れ待ち! 【空断絶ソラワカチ】が無くならない以上村人のエリア越え狙撃が出来ないからどっちにしろ突破無理!!』


『こいつらまとめて【時穿】で消し飛ばせないかなぁ!?』


『ちょ、余裕無い……!!』


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛ぃ゛!!!』

 

 串焼き先輩、お前ほんとマジ……(笑いを精一杯こらえながら)。

 あぶねえ、触手で死にかけた!! 串焼き先輩は後で跳弾転がしの刑だな。取り敢えず方針はライジンと厨二の案採用!!


「各自そのまま耐久!! 【空断絶ソラワカチ】が切れるまで耐久した後俺がクリスタルを破壊する! その後はネラルバの【時穿】でまとめて消し飛ばす!!」


『了解!!』


『了解だよぉ!!』


『おう!!』


『…………(死んだ瞳で虫を屠り続ける)』


 あれ、串焼き先輩死んだ? いや、パーティメンバーのHP欄見る限り生きてるんだが……ああ、一周回って吹っ切れちゃったのか。


「さて……!!」


 悪かったなクソ花、打ち合わせは終了だ。

 ヘラルバの体力が尽きるまで全力で逃げ回らせて頂くぜ、覚悟しろ!!

 

 

 長いようで短い、リヴェリアクラスの相手に三分間の耐久戦が始まる。



────

【補足】


第5サイクル各エリア出現モンスター


森林エリア……『エクスポイズン・ギガイーター』

水晶エリア……『クリスタルエンペラードラゴン』

火山エリア……『タイタニス・ラーヴァヘルム』

雪山エリア……『アルマディロス・コキュートス』

砂漠エリア……『ディヴィジョン・セルワーム』


こいつらはエリアボスの『強化種』の『変異種』達、普通にプレイしている上では滅多に遭遇出来る類のモンスター達じゃない。……が、とあるユニーククエストを受ける事で再戦可能。


『エクスポイズン・ギガイーター』

あのR18人食い花が害悪要素を大量搭載して帰ってきた!! 口から吐き出す毒霧は植物すらも蝕み、ドロドロに溶解+伝播させていくぞ!! ゲロ爆弾(直喩)を放つ事が出来るようになり、一定時間後に爆発して尚且つ大気汚染するぞ!! 更に触手も金棒みたいに棘が生え揃った上にスピードも桁違いに早くなり、AGI偏重ステータスじゃないとまともに回避出来ないぞ!! 何?回避が出来ない? なら被弾覚悟で頑張って触手を切り裂くしかないよね!!! 尚、もれなく全身穴空きチーズになる模様。

マンイーターあの甘ったれと違って初手から足が生えてるから逃げようものなら全力で追いかけてくるから覚悟しろよな!!! 


『クリスタルエンペラードラゴン』

王は民を護る為に死力の限りを尽くした。だが、死闘の果てに全てを失った。そうして一人残された王は敗北の屈辱から力を欲した。自身の糧になるならと弱者強者、種族を問わず襲い掛かるようになった。その牙は過程こそ違えど同族である者達へも向いた。水晶を纏った同族を屠り、喰らい続けた果てに到達したのは何者にも脅かされない強さだった。

度重なる死闘に肉体が限界まで削げ落ちた事で肉体の大部分がクリスタルに置換され。水晶を喰らうだけで肉体のダメージを急速に回復する事が可能になったというコストパフォーマンスに特化した個体。それ故に継戦能力に特化している為、一ヵ月単位での戦闘継続が可能。


『タイタニス・ラーヴァヘルム』

全長50mにも及ぶ溶岩巨人。全身が溶岩で構成されている為、物理攻撃は効果がほぼ無い。武器は溶かすし切り裂いても総量は減らないしで完全物理職殺し。本体が気まぐれで溶岩で出来た腕でフィールドを薙ぎ払ったり口からレーザーぶっ放したりする他、自身の身体を切り崩し、大量の分体を生成して襲い掛かってくる。

あれ?このパーティ純魔居ましたっけ?


『アルマディロス・コキュートス』

中々ゴツイ名前をしているけど実際はアイスマジロが住処を追い出された結果、あらゆる環境に対応する事が出来るようになった個体。分かりやすく言うとイ○ルとかバ○ルとかみたいな感じで色んなエリアにひょっこり現れる感じ。

あらゆる物質を冷却器官で氷へと変換させる事が可能になった為、溶岩に拘らなくなった結果化け物が誕生してしまった。住処から追い出した奴の責任問題。

因みに真正面から挑む場合、氷耐性装備で固めなきゃまず勝ち目が無い、それが出来ないのなら自分が炎にでもなれば良いんじゃないですかね?(どこかの誰かを見ながら)

……僕はただ美味しい食事(溶岩)を食べて惰眠を貪りたいだけなんだけどなぁ……うーん……もうなんか色々めんどくさいから全部僕が住めるおうちにすれば良いやぁ……(歩く公害)(劇的ビ○ォーアフター)(環境を激変させる程の絶対零度で差を付けろ)


『ディヴィジョン・セルワーム』

無限増殖型ミミズ、この中で一番質が悪い。切った先から増殖、叩き潰した肉片の細胞から増殖、焼かれた皮膚の残った部位から増殖などなど。唯一の対抗手段はこいつを丸ごと一気に叩き潰す事。まあ、全長30mはあるから全身が露出したタイミングを見計らって頑張ろう。尚このモンスターの性格上生きる為なら手段を選ばないタイプなので全身を露出する事はまずない。

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