#244 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十四 『装甲を貫く手段』


「塵と化せ蛮族共ォ!!」


 背中に搭載された推進装置スラスターによって空高く舞い上がったグラッド将軍は、ミニガンのトリガーを押し込んだ。ミニガンの銃口バレルが甲高い音をかき鳴らしながら高速回転すると、凄まじい勢いで弾丸が吐き出され、地上を薙ぎ払っていく。

 弾丸が通り抜けた先に居たNPC達は一瞬で肉片(ゲーム的配慮で実際には赤いポリゴンしか舞っていないが)と化していた。

 目の前の光景に眉をひそめながら、ぽつりとぼやく。


「その火力でその機動力はチートだろ……!!」


 ただでさえミニガンは重量級の銃器だ。それ故に、本来は軍用ヘリなどに地上掃討用として搭載されている事が多い。実際、生身の人間でも持てる事には持てる……が、重量が凄まじい上に射撃時の反動などの理由からそれを携行しながらの戦闘は現実的じゃない。だと言うのにも関わらず、軽々と持ち上げる所か高速移動しながらぶっ放す事が出来るのは反則レベルの強さと言わざるを得ない。

 と、そこまで考えた所でふと違和感を覚える。


「というかヘルは何してるんだ?」


 いくらグラッド将軍がミニガンを乱射しようが、ヘルの空間遮断能力さえあれば関係無いはずなんだが……。

 ヘルの方へと視線を向けると、荒い息を吐き出しながらへたり込んでいた。どうやら消耗してしまって障壁の展開が途切れてしまっているらしい。


「あーはいはい、イベントシーン突入後は確定ダウンって訳ね……」


 畜生、お約束と言えばお約束だがそのご都合主義が今はいやらしい! それまで無敵だったNPCがボス戦突入後は急に即死するのはゲームあるあるだ、お前らもっとやる気出さない?みたいな所あったりするよね。

 さて、ヘルは使い物にならないとなると……。


(防御面ではグラッド将軍の攻撃を防ぐ手段は無いと考えた方が良さそうだな……)

 

 グラッド将軍が空を駆け抜けながらミニガンをぶっ放す様子を見ながら、奴に対抗する手段を考える。


(あんだけ高速機動されると狙うだけでも面倒だ。狙撃するタイミングはミニガンの弾薬が尽きたタイミングか? ……いや、そもそもあの装甲に攻撃が通るのかって話だよな?)


 オーバーテクノロジー兵器であるあのパワードスーツ相手にこちらのファンタジー装備が通る保証は無い。起動時の機械音声を聞いた限り、あの装備はファンタジー要素も搭載済みのようだし耐性がありそうなんだよな……。

 だが、やっても無い事で最初から諦めるのは論外だな。さぁ、早速検証を始めるとしよう!


「【彗星の一矢】!!」


 高速飛行し続けるグラッド将軍の到達点を予測し、射撃。

 一直線に空を駆け抜けるグラッド将軍に見事直撃させる事に成功するが、ガキィン!と音を立てて矢が逸れて行った。


(やっぱり通らない……が、今の挙動おかしくなかったか?)


 矢が弾かれるというよりも、装甲に沿って矢自体がヌルっと避けたような……。そう、先程ヘルが敵戦車の砲弾を防いだ時の爆風が逸れて行ったような挙動のような。


「ヘルと同じ空間遮断能力……? いや流石に強すぎる、どういうカラクリだ……?」


 もし本当に空間遮断能力搭載型だとすれば、俺達に勝ち目は無い。ならやはり一定時間の生存が条件か? 無からミニガン生成して、高速機動しながら弾丸ばら撒いてくるような相手に?

 いや、待てよ?


「……居るじゃねえか、最強の攻撃要員が」


 どんな防御だろうが蘇生だろうが許さない、最強の攻撃力を持つネルNPCが。

 明らかにヘルだけが目立ってたもんなー。そりゃもう片方にも存在意義を与えてやらないといけないわな。と言う事でネルの利用は確定、と。

 と言う事は……この過去フェーズの突破条件は『ネルを全力介護してグラッド将軍を撃破する』になるのだろうか。

 だが、その条件を達成するには一つ問題点がある。

 

「確かに火力こそ凄まじいが……あの機動力相手にどうやって生身の人間が立ち向かうんだ?」


 あのパワードスーツ……有人装着式強化兵装だったか?の攻撃性能には目を見張る物があるが……それ以上に厄介なのがあの機動力だ。

 恐らく300km/hは優に出ているであろうあの速度を相手に、攻撃を直撃させなければならないという問題点が存在する。全速力のスポーツカー相手に人力で剣を振りかぶって直撃させろと言っているようなもんだ。その前に轢かれて挽肉がせいぜい関の山だろう。


「ヘイトをこっちに向けて上手い事誘導するか……? いや、俺らが反応出来たとしてもネルが反応出来なきゃ意味がねえ……」


 理想系は完全に停止させてそこにネルの一撃を叩き込みたい所だ。

 だが、【彗星の一矢】もまともに当たらないような相手をどうやって停止させりゃ良いんだ……?

 と、対抗策を考えていると、地上から上空に向けて攻撃が放たれる。

 その攻撃の殆どは解放軍レジスタンス側が放った魔法、そして少量は串焼き先輩か厨二が放っただろう弾丸。

 魔法が直撃する瞬間、やはり【彗星の一矢】と同様に装甲に沿ってぬるりと逸れて行った。

 それが分かり切っていたのか、見せつけるように動きを止めて攻撃を受けて見せたグラッド将軍だったが……。


(……今、避けた?)


 魔法攻撃に対して攻撃が通じない事をアピールする為にわざと受けたのは分かる。

 だが、何故弾丸に対してという行動を取ったんだ?

 別に弾丸も直撃した所で逸れていくのであれば魔法同様わざと当たって見せつければ良い話だ。その方が、よっぽど攻撃する側の心が折れるだろうに。

 もしかして、弾丸の場合は攻撃が通る……?


「魔法……彗星の一矢……MP…………?」


 断片的な情報から、パズルのピースを当て嵌めていくように奴の装甲のカラクリを暴いていく。

 【彗星の一矢】と、解放軍達が放った魔法の共通点は、と言う事。

 だが、弾丸は……撃針が雷管を叩いて発火し、発生した燃焼ガスによって押し出されているだけに過ぎない。

 つまり、マナという異世界特有の超物質を用いない完全物理攻撃なら、あの装甲に通用する?


「……試してみる価値は十分だな」


 呼応のネックレスに呼応石を嵌め込み、他のパーティメンバーとの連絡を試みる。


「あのミニガン乱射野郎の装甲について分かった事がある」


『なるだけ手短に頼む! こいつらボスが出てきてから敵味方問わずぶちかますようになりやがった!!』


 串焼き先輩の切羽詰まったような声と激しい銃撃音が聞こえてくる。どうやら相手もなりふり構わず暴れるように思考ルーチンが変わったらしい。


「奴の装甲は恐らくマナに対して耐性がある。つまり、完全物理攻撃しか通らない可能性が高い」


『了解、ならこの兵士達の装備をかっぱらうのが最短ルートだわな!』


「串焼き先輩はそのまま邪魔が入らないように兵士達の殲滅を頼む。ただ、あれだけの高機動で動き回れる相手だ。一発二発じゃ絶対に撃墜は無理だろう。だから、一撃で確実に仕留めに行く」


『……ネルを使う気だな?』


「流石ライジン。そう、俺達がしなければならないのはネルの援護だ。だが、確実に攻撃を当てる為にはどうにかして相手を停止させなければならない」


『あの、私の攻撃で怯ませてみましょうか? 多分爆発なら通りそうだと思うんですが……』


「ポンの爆発はスキル準拠の爆発だから、マナを使うだろ? 多分さっき開幕にヘルが砲弾を防いだ時みたいに衝撃や爆風が逸れていく可能性がある。だが、恐らくミニボムやボムとかのアイテム類なら通るだろう。隙があれば、容赦なく叩き込んで欲しい」


『了解です!』


「所で厨二とボッサン、生きてる?」


『生きてるよぉ。ふふ……ちょっとあのパワードスーツがかっこよすぎてさぁ……スクショ撮りまくっちゃったよぉ……あ、反応出来なくてごめんネ』


「絶対そうだろうとは思ってたから良いけど……ボッサンは?」


『おう、生きてるぞ! ただもうちょっとだけ時間をくれ、あの野郎に一発ぶちかませるんだが……!』


 おおう、ボッサンもしかしてを奪ってたのか……。そりゃ姿が見えない訳だ。


、期待してるぜ。ボッサン!」


『おう! 任せとけ!!』


 ボッサンの快い返事に、思わず口元が緩む。Aimsで普段プレイする事が多いゲームモードではそもそも登場しないことが多い兵器ビークル類。ボッサンは元々コントロールポイント専の人間じゃない。もっと多人数が入り乱れる『ドミネーション』などの兵器ビークル類が登場するゲームモードを好んでプレイしていた人間だ。全盛期にはさっき俺が言っていたように全ビークルでの合計キル数世界三位の腕前を誇り、今では高速移動式棺桶と言われるまでナーフされた戦闘機ですらも使いこなし、一試合に三桁キル取るプレイングは圧巻の一言だ。

 そんな彼が出来ると言ったんだ、それだけで信頼に値するだろう。


「さて、俺も動くか」


 方針は伝えた、後はネルを護衛して奴の下まで送り届けるまで。

 その前に、もう一人の護衛対象の様子を見に行くか。


「大丈夫か?」


「……すこぶる気分は悪いかな。……でも、僕がやらなきゃ皆が……!」


「お前は自分の安全だけ考えてろ。無理してぶっ倒れたらより犠牲が増える。……俺はこれからネルを連れてあのミニガン野郎の下まで行く。ある程度体調が回復したら援護してくれると助かる」


 ヘルに死なれちゃ恐らくミス判定で強制全滅ワイプだ。今も頑張って戦っている解放軍レジスタンス連中には悪いが、君達がどれだけ命を失おうがミス判定にならない以上俺達の最優先事項はヘルの生存だ。

 ヘルは目を瞬かせ、訝し気な瞳で問う。


「兄さんを? あそこまで? ……出来るのかい?」


「出来る、出来ないじゃねえ。やるんだよ」


「ふふ、そうだったね。君はそういう人間だった」


 今この瞬間にもミニガン本体から排莢された薬莢の雨が空から大量に降り注ぎ、金属音を鳴らしながら地面を跳ねる。

 うわっ、あれ当たっただけでも痛そうだな……。こっち側に来ない内に移動しとこ……。


「じゃあ、行ってくるわ。余裕がありそうなら他の連中も守ってやれ」


「……すまない、トラベラー。兄を頼んだよ」


 なんかヘルの態度に対しての違和感が凄いな……。【双壁】戦前の正論パンチするなら巫女全員ぶっ殺しまーす!宣言していた奴と同一人物にはとても思えない。

 正史世界線のトラベラーはティーゼ・セレンティシアを見捨てた結果好感度が最底辺まで落ちたみたいだが、余程のバッドコミュニケーションを引かない限りあそこまで行かないだろ。もしやギャルゲ下手か? ……いや、ギャルゲ下手は俺も人の事言えねえな。ライジンをドン引きさせるレベルには酷かったからな……。おっと、思考が変な所に飛んでたな。


 足早にネルの下へと近寄ると、気さくに手を挙げて声を掛ける。


「ようネル。さっきぶりだな。なんか暇そうだし、ちょっとあいつに一撃ぶちかましに行かね?」


「お前この状況見てよく暇そうだってほざけたな?」


 前線で戦う味方達に渡す補給物資をせっせと運んでいたネルがジト目でこちらを見る。お前、完全に宝の持ち腐れ状態じゃねーか。


「なんでこの戦いの主戦力だろうお前が後方で控えてんだよ。お前の祝福?の力が必要なんだ、一緒に来い」


「確かに俺の『祝福』が当たればどんな奴だろうが消し飛ばせるが……帝国の連中の武器が見えねえのか? 俺が近寄る前に殺されるっての。そもそも、あんな早い奴相手に攻撃を当てられる訳ねーだろ」


「それを俺達がどうにかしてやるって言ってんだよ。……まさかビビってんのか?」


「ハァ!? ビビってる訳ねえだろうが! 相手が油断した時に出撃出来るように後方で待機してんだよ……!!」


 それをビビってるって言ってんだけどなぁ。

 さて、このままだと何かと理由を付けて動きそうに無いし……こうなったら。


「ポン」


『はい?』


「ポンタクシー一名様ご案内だ、お迎え宜しく頼む」


『あっ……りょ、了解です』


 俺の言葉で状況を把握したらしい。それから数十秒して、俺の目の前へと降り立つポン。


「えっと、どうすれば良いでしょう?」


「このチキン野郎をロープで縛って楽しい楽しい空の旅へご案内だ、その後隙を見てミニガン野郎に一撃叩き込んでやれ」


「お、おい? 何をするつもりだ? おい!?」


 ネルに有無を言わさず、無言でロープで縛っていく。

 流石に剣が振れなくなっちゃ駄目だからな。腕だけは拘束しないで、と。

 ん、とポンにロープを手渡すと、苦笑いしながら。


「本当に良いんですか?」


「ちんたら歩いてミニガンに撃たれるよか成功率は高いだろうしな。さて、ネル。お前乗り物酔いとかって大丈夫なタイプ?」


「は? 何を言って」


「すまない、時間だ」


「では、行きます!」


「うわああああああああぁ!? トラベラーお前、覚えてろよおおおおおおおぉおぉぉおぉおぉおお!?」


 おお凄い、見事なドップラー効果だ。ポンの事だし、ネルの事を振り回したりしないだろうから空中で虹が舞う事は無い……と思いたい。

 さて、ネルはポンが連れて行ったし俺はどうするか……。

 

「村人!」


「お、ライジン。どうしたんだ?」


「ほら、さっき言ってたお望みの品だ」


「マジか! ナイスタイミング過ぎる!」


 そう言ってライジンが手渡してきたのは俺がさっきお土産に欲しいと言っていたボルトアクション式のスナイパーライフルだった。おお、これがSBOのスナイパーライフル……ッ!!


「インベントリに入れられなかったから手持ちで持ってきたんだけど……聞いてる?」

 

「……はっ! あぶねえ、トリップする所だった」


「愛でるのは結構だが今は戦いに集中してくれよ。マナを使わないこれならあのパワードスーツ相手でも攻撃が通るだろ? 頼んだぜ、変態スナイパー!」


「任せろ。ライジンは串焼き先輩と一緒に地上の奴らを頼む」


「了解!」


 ボルトを動かして弾丸を装填すると、スコープを覗き込む。


「さぁて、空中でブンブン飛んでるうっとおしい蚊トンボでも落としに行こうか!」


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