#243 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十三 『血と弾丸と硝煙』
「伏せろッ!!」
「うわぁああああああッ!?」
俺自身はこちらに銃口を向けた段階で咄嗟に地面へとダイブしていた為、被弾する事は無かった。だが、周囲のNPC達は相手の装備について詳しい筈も無く、容赦なく撃ち抜かれていく。響き渡る悲鳴と怒号、先ほどまでの活気に満ちていた状況から一変、地獄へと早変わりだ。
と、弾丸を撃ち切ったのか、銃弾の雨が一旦止んだ。しかし、リロードが終わればまたすぐにこちらへと銃口を向ける事だろう。
「はっ、テクノロジー格差が酷過ぎんだろ……!!」
思わず引き攣り笑いを浮かべながらそう呟く。
銃。人類が生み出した叡智にして、非力な人間でも扱う事の出来る危険な武器だ。
SBOというゲームのジャンルが単なる剣と魔法のファンタジーという訳では無いというのはプレイヤーをサポートするシャドウの存在や、『
そもそも、【龍王】戦ではヴァルキュリアがAimsの
FPS大好き人間の俺としては勿論銃の存在はウェルカムだ。だが今この状況においてはやめて欲しかったと言わざるを得ない……なんせこちらの装備はファンタジー装備一式、テクノロジーの結晶とも言える銃器を相手だけが扱っている今の状況は明らかに武力格差があり過ぎる。
先ほどの死亡フラグ君が言っていた、これだけ人間が居ても絶望的というのは決して過言では無かったんだな……流石に異世界ファンタジーに銃器持ち込みは反則だろう。
それに加えて、だ。
(後ろで控えてるのって……明らかに戦略兵器とかそういう類の……)
まあそりゃ銃器があるならそれを搭載した乗り物も存在しますよね……うん、もしかしなくても多分戦車だよねアレ。いやこれ本当に勝てんの? 完全に絵面が現代(近未来)に転移してしまった異世界人の構図だよなコレ?
と、そう思っている内に推定戦車の砲塔がこちらへと向けられる。
「やっべ……!!」
銃弾ならまだやり過ごす事も可能かもしれないが、流石に砲弾の直撃は洒落にならない。
迎撃するべく【彗星の一矢】を発動させようとしたタイミングで、砲塔が先に火を噴いた。
「マズッ」
「【障壁展開】!!」
後方から声が聞こえてきたと思った直後、突如として空中に波紋が広がった。砲弾がその波紋に触れると、派手な爆発音を鳴らしながら起爆する。
爆炎が立ち昇るが、その爆風と熱風はこちらへと伝わることなく、障壁に沿って不自然に逸れて行ったのが見えた。
「──怯むな! 確かに相手は強力な兵装に身を包んではいるが、こちらは『祝福』持ちの戦士が居る! 奴らのような兵装が無くとも、我らにだって勝機はあるのだ!! 臆せず前進せよ
それとほぼ同時、指揮官らしき人間が声を張り上げると、轟くような歓声が響き渡る。OK、大体クリア条件は把握した。これもしかしなくてもNPC護衛系のタワーディフェンスだな?
となれば、俺が取るべき行動は……!
「おっ、やっぱり村人も同じ結論に辿り着いたか」
護るべきNPC……
パーティメンバーの欄を見る限り、誰も死亡して居なかったからどこかに居るとは思ってはいたが、まさかこんなすぐに遭遇出来るとは。
「ライジン、このフェーズのクリア条件は何だと思う?」
「一定時間の生存、もしくは敵将の撃破……と言った所かな。【双壁】の台詞からして、これは
「同感!」
そう、俺達が最優先にすべきなのは【双壁】兄弟が死なないように立ち回る事だ。
俺達というイレギュラーが干渉している以上、放っておいてもクリアになるという可能性に賭けるのはあまりにも心許なすぎる、というかそれゲームとしてどうなの?って話だしな。
だからあんまり敵陣に突っ込み過ぎるのも良くな……
「おいおいおい、良いもん持ってんじゃねえか!
「えっ」
声が聞こえてきた先、単身突っ込んでいった串焼き先輩が敵兵士からアサルトライフルをひったくると、敵兵士に向かって乱射を始める。
そのまま敵兵の中を駆け回りながら暴れるものだから、敵兵士も銃口を味方側に向けて発砲する訳にも行かず、大混乱しているようだった。
「…………」
「…………」
「…………ライジン、あれどうする?」
「…………うーん、放置で!」
もうどうにでもな~れ!とばかりに満面の笑みを浮かべたライジンがそう言い切った。
放置ですってよ串焼き先輩。まああの人は一人で暴れてくれてた方が多分戦果上げるからなぁ……。それに、そっちにヘイト向く分に越した事は無いよな。それならそれで俺達は安全な後方で戦場を眺めさせてもらうとしますかね。
「ひゃっほう!! トリガーハッピーしていこうぜ!!」
次から次へと武器を乗り換えながらまるで水を得た魚のように、獅子奮迅の働きを見せる串焼き先輩。鬼に金棒、串焼き団子に突撃武器……。うん、流石トッププロだけあって銃器持たせたら強いわあの人。
串焼き先輩が突撃した甲斐があってか、後続の
「まあいいや、串焼き先輩が数を減らしている間に俺達はヘルの所へ……」
「おい、トラベラー!」
「ん?」
声の聞こえてきた方へ視線を向けると、補給物資をその手に持った男が立っていた。
「何ボケっとしてんだ! あんたが先陣切って暴れてくれないとヘルの体力が持たねえ!! 帝国の連中の武器を防げるのはヘルだけなんだ、ぶっ倒れたら終わりなんだぞ!!」
心なしか見覚えがある男……恐らく【双壁】兄弟の片割れ、ネルがこちらに向かって吠える。
あー、なるほど。後方で芋砂してるだけなのは駄目だよって訳ね……これ遠距離職辛くねぇ? ……尚、現在進行形で遠距離職の筈の男が前線で暴れ回っているのは例外とする。だってあの人だけ別ゲーしてるもんな。
「どちらにせよ時間制限付きって訳ね……なあネル! 相手の指揮官は分からないのか!?」
「は!? ……多分だが、前線に出てくるとすりゃあグラッド将軍辺りかもな! 奴は皇帝を除けば帝国一の武人だ、
おお、意外と聞いてみるもんだな。だがぱっと見件のグラッド将軍とやらがどこに居るかは見当もつかない。というのも、あいつらまるでコピペでもしたかのように装備が同じなんだよな……。
将軍って立場の人間だし、一般兵とまるっきり装備が同じという事も無いだろうし。
「わざわざ前線に出ろって事は敵の数をある程度減らせば出張ってくる可能性が高いと見た」
「そう言う事なら俺は前線で戦うが……村人はどうする?」
「本音を言うと銃器奪って片っ端からインベントリに叩き込みたい……が、下手に突っ込んで死ぬわけにはいかないからな。……という訳でライジン、砂のお土産待ってるぜ☆」
「いやパシる前提かい……まあ別に良いけど」
適材適所だしね、とライジンがそう呟くと前線へと向かって走り出す。
さて、俺はどうするか……このままヘルの所に行っても良いんだが、またネルに何か言われそうだしな……。
取り敢えず、味方の安否状況だけでも確認しておくか。
「えーっと、あっちで爆発しまくってるから多分ポンはあそこで……厨二も串焼き先輩同様暴れまわってるだろうし……」
ん? ボッサンはどこ行ったんだ? ……まあ、あの人の事だから大丈夫か。
「つーか、これ俺の出番無さそうじゃね?」
初見のインパクトこそ凄かったがなんだかんだで対応出来ちまってるんだよな。
というのもヘルの防御能力がチート過ぎるのが原因なんだろうけど。物理的に空間をシャットアウトしてるくさいから当然と言えば当然か。
今でこそあいつらが前線で暴れてくれているお陰で優勢だが、ヘルが消耗して障壁の維持が困難になればそのまま一気に流れは向こうの物となる。
出来れば消耗しきる前に件のグラッド将軍が出てきてくれれば良いんだが……。
「……お?」
視線の遥か先、ユースティア帝国軍兵士達がこぞって道を開ける。
明らかに周囲の兵士達とは格の違いそうな鎧を身に纏った男がこちらへと向かって歩いてくる。
「ようやくお出ましって訳ね……!」
眉間に皺を寄せたイケメンフェイスの男……恐らくこのフェーズの突破に関係しているであろうグラッド将軍だ。
さて、そっちもファンタジー世界に銃器を持ち込んでいるんだ。こっちが奇襲しても文句は言わないよなァ!?
「【彗星の一矢】!!」
グラッド将軍目掛けて【彗星の一矢】を解き放つ。
戦場を横断する青と白の燐光を帯びた矢が、一直線にグラッド将軍に飛来する……が。
直撃する寸前、ガキィン! と甲高い音を鳴らして矢が弾かれてしまう。
「うぇッ!?」
明らかに不自然な挙動に、思わず変な声が漏れる。
絶対に直撃したと思ったんだが……もしかして
グラッド将軍がこちらを一瞬ちらっと見てからふん、と鼻を鳴らすと。
「使えんゴミ共め。誇り高きユースティア帝国の兵であるというのに、この程度の蛮族共に苦戦するなぞ恥を知れ!」
わぁ、見事なまでの傲慢系将軍じゃん! コッテコテだけどそこが良いよね!
と、グラッド将軍が首に下げていたネックレスらしきアクセサリーを取り外した。
……なんだあれ? なんかアクセサリーにしてはやけにメカメカしいというか……。
「蛮族共、この私が出たからには生きて帰れるとは思うな」
やけに自信たっぷりだけど、こういう台詞を言う奴って大体かませの法則あるんだよな……。煽り散らかして速攻で退場すると何ともいえない物悲しさがあるよね。
と、グラッド将軍が先ほど取り外したネックレスを高々と掲げ、声を上げる。
「試作型・有人装着式強化兵装【
えっ何そのなんか厨二心くすぐる単語!!
グラッド将軍の声に応えるように、何も無かったはずの空間に突如として灰色の装甲が出現し、その身体を覆うようにして装着されていく。
全身の装着が完了し、頭部に搭載されたアイカメラがブンと音を立てて輝くと、男性らしき機械音声が聞こえてきた。
『強化兵装の起動を確認。
──バイタルチェック・異常無し。
──
──AGN・
──物質構築プログラム・アクセス可能。
──マナ粒子ジェネレーター・正常稼働。
──魔力運用バッテリー・残量100%。
──システム・オールグリーン。
有人装着式強化兵装【
バシュウ、と背中に搭載された排気筒……
「物質構築プログラム起動──『掃討用兵装』
パワードスーツを身に纏った男が手をかざすと、周囲の空間から可視化されたマナ粒子が収束し、そこに一つの武器が生成された。
連なる六つの長い銃身が後ろへと伸び、見た目からして明らかに重量がありそうなフォルム。
通常のマガジンとは異なり、細長いベルトフィードが背中に出現したパックへと繋がっているあの銃器の名は。
「マジかよオイ!?」
「我が名はユースティア帝国軍第一部隊将軍、グラッド・イグニス!! 帝国に仇なす者は殲滅する!」
7.62mm口径の機関銃……通称ミニガン。携行武器にはおよそ適さないその武器を構えながら、高速機動で襲い掛かってきた。
────
【補足】
▷試作型・有人装着式強化兵装【
正式名称は対使徒決戦用・高機動型戦闘兵器『有人装着式強化兵装【識別名】』
来るべき戦いに備えてとある異邦の科学者が開発した魔法と科学の融合技術の結晶。所謂パワードスーツ。起動前はメカメカしい見た目の指輪やネックレスなどのアクセサリーにしか見えないのだが、それは平常時、装甲がアクセサリー周辺に非物質化されている為である。識別名まで読み上げる事で起動し、アクセサリーの所持者を覆うように装甲が展開される。装甲のサイズは所有者の情報をアクセサリー越しに読み取る事で物質化した際に可変する。
起動の原理としては、多数の魔法を一つの魔法に圧縮する技術によって生み出された大魔法がアクセサリー本体にプログラムとして刻まれており、識別名まで含めた名前を告げる事で魔法発動のトリガーとしている。
■■■が開発したAGN・
機体や装着した人間の負担を考慮しない
『試作型』という名の通り、【
また、有人装着式強化兵装にはAIが搭載されており、使用者の脳から発信された情報を元にアクチュエータの微調整などを行ってくれる為、装甲によって拡張された部位すらもまるで自分の身体のように動かす事が可能。量産型でもある試作型はそこまで高性能なAIを搭載している訳では無いが、戯言にもちゃんと反応して会話出来るぐらいには知能がある。一人の作戦でも寂しくないね!!
外部装甲には規定値以上のマナに対して斥力を発生させる特殊な金属を用いている為、マナを用いた攻撃は全て外側に逸らされる仕組みになっている。ただし、許容上限を超える攻撃に対しては防ぐ事が出来ないので、完全に無敵と言う訳では無い。
装甲の他にも銃器や弾丸等の武装を周囲のマナや兵装自体のジェネレーター、もしくは装着者本体から出力されるマナを変換して物質構築する事が可能。おや、この技術どこかで……?
【
理不尽な暴力には理不尽な暴力で対抗するしかない。それこそが世界の真理であるが故に。
────アトラス・アームズ・コーポレーションは非力な貴方を応援します。
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