#240 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その四十 『迫り来るギミック』


(過去フェーズを越えたぞ!!)


 過去フェーズを終え、【双壁】との決戦の場……【星骸】へと帰ってくる。

 出現位置は先ほど過去フェーズに飛ばされる際に最後に居た台座エリア。

 【双壁】の攻撃を警戒しようと、視線を前に向けた時に違和感に気付き、目を細める。


「さっきまであんな傷無かったよな……?」


 遠くに鎮座する【双壁】。島にも比肩するサイズのその巨体に、亀裂が生じていた。

 戦闘開始時には無かった筈のその傷が意味する物とは……。


(二つ名レイド名は【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】……。時間経過で傷を負っていると言う事は、やはりこの戦闘は耐久がメインなのか?)


 【双壁】本体に直接攻撃を加えていないので、本来であればダメージは無い筈。

 だというのにも関わらず、傷が生じているという事はクリアに近付いているという事の証明だ。


(と言う事は……勝利条件はほぼ確定だな)


 まず第六サイクルまで耐え切るのが大前提。

 そして、クリスタルを破壊した時にポップしたシステムメッセージから察するに、上空で輝いている【双壁】のコアを破壊する事で勝利となる可能性が高い。


「良いね、進捗が目に見える形になってるのはモチベーションに繋がる!!」


 最初こそはどうやって倒すかイメージすら出来なかったが、明確なゴールラインが見えた以上、そのゴールに向かってひたすら走り抜けるだけだ!

 自身を鼓舞してテンションを上げていると、【双壁】ネラルバがの鋏を振り上げた。

 【時穿】は右の鋏だったから……別の技か!?


『【遅延詠唱ディレイ・スペル】』


 キィン、と鋏から光が解き放たれる。だが、どうやら攻撃では無いようだった。


『【背棘排撃ニードル・リジェクト】』


 っく、ここに来てまた新技か!? 対応をミスると壊滅もありえるぞ……!!

 だが、攻撃に備えたのは良い物の、ただ【双壁】が技名を宣言しただけで、特に何も起こらなかった。

 上空を眺めていたポンが、ぽつりと呟く。


「さん……?」


『【流星群】』


 【双壁】が再び技名を宣言するが、またしても何も起こらない。

 こちらが困惑している中、ポンが再び呟いた。


「いち…………ッ!」


 上空を眺め続けていたポンが何かに気付いたらしく、はっとしたような表情になると、叫ぶように指示を出す。


「すぐにこの場から離れてください!! 一番最初に発動させた魔法は魔法です!!」


「!!」


 その言葉の意図を察し、すぐに俺達は5方向に散開し、各自のエリアへと向かって走り出した。

 それとほぼ同時に、【双壁】の三度目の詠唱が完了する。


『【爆裂泡ニトロ・バブル】……【遅延詠唱ディレイ・スペル】、発動』


 空間に穴が開き、そこから大量の隕石が顔を覗かせた。

 先ほどポンがいちと言っていた、【流星群】が俺達へと向けて降り注ぎ始める。


「うおおおおおおおおおッ!?」


 隕石の落下に伴い、爆発によって炎上する森林地帯を駆け抜けていく。

 木々の隙間から隕石の落下地点を予測し、ポンが居る台座エリアに降り注がないようにエリアの深部へと向かってひた走る。

 数十秒間隕石が降り注ぎ続けると、隕石の落下が止まった。


「次は……!!」


『【爆裂泡ニトロ・バブル】が来ます!』


 ポンの声がブレスレット越しに聞こえてくると同時に、上空から人間大サイズの巨大な泡が降り注ぎ始める。

 空中で破裂し、爆炎と爆風をまき散らしながら襲い来る死の泡を、ひたすら回避し続ける。

 ここに到達するまでに既に見知った技だったが、【流星群】の後に【爆裂泡ニトロ・バブル】が来るとまともに避けられる場所が限られてくるから厄介だな……!

 荒い息を吐き出しながら、【双壁】の方を見ると、背負っている貝殻に生えそろっていた棘が上空へと向けて放たれた。


「……あれが新技か!」


 高速で射出され続ける【双壁】の貝殻に付着した棘。

 空中で不規則な動きをしているが、どうやらこちらへと向かってホーミングしているようで、チッと舌打ちを鳴らす。


「少しは手加減しやがれ……!!」


 【流星群】と【爆裂泡ニトロ・バブル】のコンボによって散々走らされていたせいでスタミナは底を突きかけている。悪態を吐きながらも、流石に直撃を受けてしまうのはマズいので再び走り出した。

 直撃の瞬間に横っ飛びすると、地面に着弾した棘が高速回転しながら地面を抉っていく。あんなものをまともに受けてしまえば、間違いなくR18グロ映像の出来上がりだろう。

 高速飛来する棘を回避し続けていると、上空に浮かんでいる星が輝き始めた。


「……! 第三サイクルは雑魚敵が湧かないのか!?」


 このタイミングで輝き出したと言う事は、クリスタル破壊フェーズに突入したと言う事だろう。

 未だ止む事の無い棘の猛攻を回避し続けながら、ポンの指示を待つ。


『……村人君、3、1、5です!』


「了解!」


 どうやら【背棘排撃ニードル・リジェクト】は止まないようなので、攻撃の合間を縫い、弓を構えて【彗星の一矢】を発動させる。

 弓全体が青と白の燐光に包まれている中、ポンが困惑したような声を出す。


『ちょっと待って……!?』


 その言葉を聞いて上空を見ると、確かにまだ星は輝き、音色を鳴らし続けていた。

 だがしかし、発動してしまったスキルはもう止められない。クリスタルに当たらないように撃とうとしても、再度射撃する準備を整えている内に時間切れになってしまうだろう。

 

……!!』


「……ッ!」


 はんてん……

 恐らくは、『先ほどコールした順番を反転させる』という意味だろう。


「ごめんなさい、村人君……!?」


 ポンの謝る声がブレスレットから聞こえてくる。

 だが、これは彼女の落ち度では無い。3サイクル目だから三回分しか輝かないと思ってしまうのは当然の事だ。

 ましてや、『反転』など初見殺しも良い所だ。人間の心理を突いた、最高の嫌がらせギミック。


「いいや、まだ終わってねぇ!!!」


 ギリギリギリ、と極限まで弓を引っ張りながら、大地を踏みしめる。

 踏みしめた足を軸に、モーションアシストで引っ張られる身体を無理矢理方向転換。

 その間、都合七度の挑戦によって完全にインプットされた【星骸】マップを脳内に浮かべ、5番からスタートする跳弾ラインを即座に演算し、解き放つ。


「ここォ!!」


 ギリギリのタイミングで完璧なラインに射撃。高速で飛来する【彗星の一矢】が、クリスタルを粉砕し、そのまま跳弾。

 指定されたクリスタルを見事全て粉砕し、システムメッセージがポップする。


≪導に従い、クリスタルの破壊に成功した。魔力マナが拡散し、コアを覆う障壁が弱まっていく……≫


「っしゃあ!」


『村人ォ!! よくやった!!』


『ナイスだ村人!!』


『助かりました……!! 村人君、ナイス狙撃です!!』


 【彗星の一矢】の発動硬直を終え、クリスタルの破壊を見届けてガッツポーズ。

 全滅すると思っていただろうライジン達が興奮したのか、呼応のネックレスを起動してまで俺の狙撃を賞賛する。


「だが……油断するにはまだ早い!!」


 その場から即座に離脱して台座エリアへと目指して走り出す。

 これまでのサイクルと同じならば、この後すぐ【時穿トキウガチ】を放ってくる。

 どうやらクリスタルを破壊した時点で攻撃がストップするようで、台座エリアへと繋がる階段が視界に入った、その時だった。


『──【二つ名アナザーネームド。【セカイ】、開門アクティベート。【双壁】権能、解放』


 待て、ヘラルバだと!?

 ネラルバが『時間』関連のギミックを使用してくると言う事は、ヘラルバは『空間』関連のギミックを使用してくる。

 つまり、これは──!!



『【空断絶ソラワカチ】』



 ヘラルバが鋏を振り上げ、極光が解き放たれる。

 次の瞬間、エリア間を挟む巨大な障壁が展開され、他エリアへの行き来が不可能になった。


「なッ……!? うごッ!?」


 台座エリアへと続く階段の手前で急減速。

 減速しきれず、障壁に激突するがただ壁に激突した程度の物で、ダメージは少ない。


「いってぇ……マジか、ここで分断だと……!?」


 てっきりクリスタルの破壊で3サイクル目は終了だと思っていたので、この展開は予想外だ。

 しかし、障壁を越えない事には台座エリアへと帰る事が出来ない。

 もし越えられなければ……【時穿トキウガチ】で全滅する。


「【彗星の一矢】!!」


 矢を装填し、即座に【彗星の一矢】を発動。

 青と白の燐光を纏った矢が放たれ、障壁と激突する……が。


 ギャリィィィン!!


 甲高い金属音が響き渡り、障壁に紫色の波紋が広がっていく。

 そこから推測するに、どうやらあの上空に浮かぶ【双壁】のコアを覆っていたのはヘラルバの【空断絶ソラワカチ】という技だったようだ。

 つまり……打開策は再びクリスタルを破壊する事しか無い、と言う事。


「参ったな……エリア間を覆う障壁が展開されたって事は……!!」


 台座エリアへと向かう手段が無くなったのもそうだが、今の俺達の攻略パターンにおいて最悪の展開だ。

 

 今の俺達を狙い澄ましたかのような、致命的なギミックだ。


 だが、俺達の絶望とは裏腹に、で予想を裏切られる形となる。


『【空間ディメンション・交換シャッフル】』


「!?」


 ヘラルバが鋏を振り上げ、魔法を発動。

 周囲の景色が一変し、に転移する。

 エリア出口から遠ざかったが、その代わりにエリア間を覆う障壁が消え去った。


「これは……!?」


 先ほどまで【双壁】は右方面に見えていたのに、今は左方面に見える……と言う事は!


『皆さんの居たエリアの位置が入れ変わっています!! が来ました!!』

 

 ポンのコールを聞いて、にやりと笑みを浮かべる。

 想定通り……クリスタル破壊フェーズを数字コールに切り替えた真の目的、『エリアの位置が切り替わった時の為の対応』だったのだが、まさかドンピシャでギミックが的中するとは思わなかった。

 【双壁】の位置から、現在位置を特定し、すぐに台座エリアへと走り出す。

 このギミックの意図を理解すれば、この後……!!


『【二つ名アナザーネームド】ネラルバ。【セカイ】、開門アクティベート。【双壁】権能、解放』


「やっぱ撃ってくるよなぁ【時穿トキウガチ】!!」


 恐らく、自分の立ち位置を変えられた事で混乱している最中に【時穿即死攻撃】を放つ事で全滅させる、というのが運営の想定ギミックなのだろう。

 だが、この展開は予め想定していたので対処は容易い!!


 台座エリアへと続く階段を駆け上がっていき、遠くで極光を収束させる【双壁】の姿を見る。

 即行動に移す事が出来たおかげか、まだ猶予はある。


『っ、全員、すぐに貝殻の中へ!!』


「了解!!」


 階段を登り切ったタイミングで、他のメンバー達も台座エリアへと到達。

 各自自分の一番近い貝殻へ飛び込んだタイミングで、【時穿トキウガチ】が放たれる。

 数秒を経て貝殻が粉砕。ポン以外の全員がスタミナが底を突き、荒い息を吐き出しているが、その瞳は爛々と輝いていた。


「3サイクル目初見突破ァ!!」


「よし!!」


「ナイスだ皆、この調子で行くぞ!!」


 これまで色々なギミックで足止めを食らったが、このペースで攻略出来ている事実に全員の士気が上がる。 

 遠く、【時穿トキウガチ】を放った体勢のまま硬直している【双壁】の身体に亀裂が更に広がっていく。

 その双眸が怪しく輝くと、うっとおし気な声音で告げる。


『シブトイ奴ラダ……次コソハ確実ニ仕留メテ見セル』


「やってみろ! 俺達はそれすらも越えてやる!!」



 ──4サイクル目、開始。

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