#238 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その三十八 『いとも容易く投下される爆弾』
「オッケー、睡眠恩赦ラインは五割で確定ね。出現したら即半殺しで良さそうだな」
「さっきから思ってたけどクリスタル半殺しってパワーワードでは?」
「確かに」
場所は再び【星骸】前、六度目の挑戦ではクリスタルの破壊検証と並行してマップインプットを行った。
出来れば過去フェーズは万全の状態で挑みたいので、二回目のクリスタルを破壊した時点でわざと
「何あの激烈睡魔、リアルでもあんなレベルの眠気来た事ないんだけど」
「絶対に寝させてやるっていう運営の気概を感じますよね……」
「力の入れる所違くない?」
今回【泡沫の夢】なる強制睡眠デバフが付与されたのは串焼き先輩だったので、その感想を聞いたライジンが共感するように深く頷いた。体験してみたいような、してみたくないような。いやしたくはないな。
と、ライジンがふと何かを思い出したかのようにこちらへと視線を向ける。
「そうそう、村人。戦闘中ずっと気になってたんだけど
「ん? ……ああ、ディアライズの事か」
ライジンが指を差したので、ディアライズを持ち上げて見せる。
リヴァイア戦終了後、鳥打の部分に入ってしまった亀裂が、この数回の戦闘を経て更に大きくなっていた。ビジュアル的にも大分よろしくない感じになってしまってきている。
「修理しないのか? 見るからに破損間近って感じなんだけど……」
「んー……。修理したいんだけど出来ないって感じなんだよな」
「修理したいけど出来ない?」
俺の言葉に、ライジンが首を傾げる。
俺も
ウインドウを開き、俺の装備画面を選択。ディアライズの詳細について表示されたウインドウをライジンの方へフリックして飛ばす。
「ほれ、これ今のディアライズの耐久値な」
「どれどれ……。……確かに、簡易修理キットの修理限界ラインの70%だな。でも、ディアライズの状態を見る限り20%切ってそうな感じだけど……?」
「やっぱ70%の見た目じゃないよなこれ……。耐久値自体は回復出来るんだけど亀裂は広がる一方だからなぁ……」
一種のテクスチャバグかな? と思ったがこの運営に限ってこんなバグを放置するとも思えない。まあ俺が初めて発見したなら話は別だが……。
「武器自体に寿命みたいな物が設定されてるんでしょうか……?」
「いやいや、流石にそれはMMORPGとして致命的な仕様でしょ……。少なくとも破損しても素材とお金さえあれば直せるんだし、簡易修理キットで直せる限界とかかな……? いやでもそんな話聞いた事無いんだよなぁ……」
結局この場の誰も分からず、腕を組みながら唸るばかり。
うーん、マジでこれについては分からないんだよな。戦闘終了後に突然ヒビが入ったし、もしかしたら戦闘終了時に一定確率で
取り敢えずは、だ。
「困った時は頼れる相棒に聞くに限る! 頼みますシャドウ先生!」
『かなり久しぶりに呼ばれた気がしますね……。どうも、都合の良い時にだけ呼ばれる
なんか俺のシャドウ、あんまり接していない内にヘラって来てる気がする。一体誰のせいなんだろうね!?(尚、鏡は見ない物とする)
まあ確かに歩くゲームwikiのライジンが居るし、ゲーム内情報は大体ライジンに聞けば解決してるからシャドウを呼ぶ機会が必然と少なくなるんだよな……。しかし、未知の情報はNPCに聞かないと分からない事が多いからね、そう言った点では頼れる存在……やっぱり都合の良い存在だな?
「ディアライズのこの亀裂、修理しても直らないんだが何か知ってる事は無いか?」
まあダメ元で聞いてみるしかない。また領域外の情報云々とか言われる可能性もあるが、聞くだけならタダだしな。
と、シャドウがディアライズをしげしげと眺めると、アイカメラがパチリと瞬いた。
『……驚きました。この亀裂は、単なる戦闘による損傷ではありません』
おっと、まさかの
「と、言うと?」
『武器とは、担い手が自らの一部として扱う物です。この
うーーーーん……? どっかで聞いたような台詞……ああ、二つ名レイド初挑戦前に紅鉄氏が似たような事言っていたような気がするな。……もしかして紅鉄氏が何か知ってたりするのか? メッセ飛ばしてみようか……いや二つ名レイド内はチャットすら出来ないんだった。
「……って事は、取り敢えずは壊れる心配はないと?」
『はい。損傷とはまた別の現象ですので安心なさってください。……それにしても、貴方という人は私という者がありながらよっぽどその武器の方を信頼しているようで……』
「だぁーっ! 悪かった! ちゃんと定期的に呼ぶから!! 要らない子扱いしないから!!!」
『分かれば良いのです』
俺の言葉にシャドウがアイカメラの形を『^^』と変化させる。おうそれ煽りメッセで死ぬほど見る奴だからやめよっか。思わず心が疼いちゃう。
しかしまた謎が増えたな……まあでも見た目程状態が深刻じゃないって知れたのは大きいな。
その後、お役御免とその姿を消そうとしたシャドウだったが。
『ああ。それとですね』
「ん?」
物のついでに、とばかりにシャドウは爆弾を投下した。
『【双壁】ネラルバ・ヘラルバは、貴方達の力を試しています。世界を巻き込んだ大戦を生き延びた代償に、記憶も力も失った貴方達が、それでも尚粛清の代行者に抗える力があるかどうかを……。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
シャドウの言葉にこの場に居る一同……のみならず、ライジンの配信コメント欄諸共にフリーズする。
待て待て待て、お前やっぱり黒だろ!? あれだけ味方です! とか言っておきながらなんで代行者サイドの内情を知ってんだよ!?
シャドウはその間に姿を消し、再び呼び出そうとしても姿を現す事は無かった。
「思わせぶり発言してから消えるのやめてくれませんかねぇ!?」
「村人、
「本音と建前が逆ゥ……!! 駄目だ、後にしろ……ああでも畜生、確かに気になって集中できる気がしねぇ……!!」
最近あんまり呼んでなかった腹いせだろ絶対……!!
サポートAIならちゃんとそこら辺の事情も詳しく解説して欲しいんだが……!! ええい【
「流石の僕もビックリしたけど……雑念は攻略の邪魔になるしひとまずそれは置いとこうか。まぁ、村人クンのディアライズが壊れないって知れただけでも良かったんじゃない? 戦闘中に急に壊れでもしたら、完全にお荷物だったからねぇ」
「ひでえが否定出来ないな……。ディアライズレベルの弓装備、他に持ってないからな……」
正直【彗星の一矢】を打つ度に粉砕しないかどうか心臓に悪かったんだよな。
コンテンツから抜け出せばまた最初からリスタートだし……装備無いから攻略諦めるか! なんて口が裂けても言えねえし。
「そうだね……確かに今は二つ名レイドに集中するべきだよね。厨二の言う通りだ、気を引き締めないと」
「とか言いつつ顔こっちに向けながら片手で高速タイピングしてんのやめろ」
ブラインドタッチは俺も出来るけど片手でなんでそんな器用に高速タイピング出来るの……? こうさつちゅうこわい。
「この数回の挑戦である程度慣れてきてる事だし、詰めれるとこは詰めていこう。……ポン、クリスタル破壊エリアの呼び方だけど……」
「真顔でタイピングだけはしっかり続けてるの軽くホラーなんですが……」
そんなこんなで、数分間の打ち合わせの後、七度目の挑戦を開始した。
◇
『村人君、
「了解!」
第二サイクル、クリスタル破壊フェーズ。新しくクリスタルの位置の呼び方を変えたポンの指示に従い、【彗星の一矢】を放つ。
今回から、中央エリアを含めた六つのエリアを数字で識別するやり方へと変更した。何故わざわざエリアの名称では無く、数字へと変えたのかと言うと、『もし
ただ、そのやり方に変えた事でポンの負担が増えてしまっている感は否めない。逆に俺は言われた数字の順番に目掛けて矢を放つだけで良くなったので実質負担が減ったのだが、演奏と並行して破壊場所を覚える彼女にこれ以上負担を増やしたくはない所だ。
俺が放った矢が、予めHPが削られているクリスタルを二個続けて破壊する。破壊場所に関わらず、クリスタルが出現した段階でHPを削っておく作戦は上手く行っているようだ。
『全体即死攻撃が来ます! 皆さん、中央に!!』
「了解!」
クリスタル破壊フェーズを初めて全員で突破し、その先に待ち受けるは突破方法不明の過去フェーズ。
【時穿】を貝殻の中で回避し、【双壁】の視線がこちらへと向けられる。
『遥カ過去、出会イノ時マデ時間ヲ戻ソウ!! 【時空超越】!!』
さぁ、いざ過去フェーズ攻略へ!!
◇
確かに人間離れした能力を持っていると言えど、過去の【双壁】兄弟自体はただの人間だ。
つまり、何が言いたいかと言うと……
「わッ!?」
「ぐえッ!?」
過去フェーズ突入後、人間メテオでネルとヘルを圧死させてしまわないよう減速してから上から覆いかぶさるように奇襲する。
甲板へと叩き付けられ、突然の出来事に困惑を隠せない様子の二人。それもそうだ、だってネルとヘルに乗りかかっている俺と串焼き先輩は
そして、一拍置いてから一人の男が船へと降りてくる。
「な、何者だ!?」
じたばたともがくネルを抑え付けながら、今しがた降りてきた男……ライジンへと期待の眼差しを向ける。
さぁ頼むぜライジン。本職MMORPGゲーマーの渾身のロールプレイ、見せてもらおうか!
────
【補足】
シャドウのあの台詞は前話にてライジンがあの結論に辿り着いたからこそ解禁された台詞、地味にタイムリーだったりします。
紅鉄氏案件については彼女はまだぼんやりとしかあの現象について知らない、けれど配信でシャドウの台詞を聞いてマジで?とはなってる。
エリアを判別する為の数字についてのイメージとしては
1
2 3
4
5 6
みたいな感じだと思って下さい。
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