#237 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その三十七 『過去から今へ』


「さて解説のライジンさん、俺はどうして死んだのでしょうか?」


「ド外道奇襲かまそうとした結果、ヘルのヘイト買って空中で圧殺ミンチ


「そっかぁ……俺、これからハンバーグになるのかぁ……」


「食欲無くなるからやめよっか?」


 一秒処理クッキングされた俺の感想に対し、ライジンがジト目を向ける。

 俺自身は一瞬ですり潰されたから良く分からなかったけど、ライジン視点からはそれなりに酷い死に方をしていたらしい。


 今現在の状況はと言うと、ボッサンが結局ネラルバ……もといネルの攻撃によって死亡(なんか知らないけど装甲貫通してた、恐らく劣化【時穿】的な技)。ポンも俺と同じく空中で圧死、串焼き先輩は善戦していた物のネルの攻撃で死亡。

 残る厨二がひたすら回避しまくって何とか生存している、という状況だ。


 二つ名レイドではパーティメンバーが全滅するまで霊体として空中に漂えるようで、上空から厨二の戦闘の様子を眺めながら、次の挑戦の為の作戦会議を行う。


「ライジンが受けた謎デバフ、あれは俺が二つ破壊したからって認識で良いのか?」


「正確には違うと思う。もし村人が破壊した事で強制睡眠を受けるのなら、もう一人……クリスタルが破壊されたエリアに居た串焼き団子さんもデバフを受けないとおかしくないはずだ」


「と言う事は、串焼き団子さんがデバフを受けなかった理由は、デバフを受けない条件を満たしたから……という事ですかね?」


「そう言う事だよな。……しかし、串焼き先輩なんかやってたっけな……」


 腕を組んで熟考してみる。……確かあの時串焼き先輩が慌てたような声を上げてて……。

 ……ん? ちょっと待てよ。もしかすると……。


「……あの時、してたよな、確か」


「おうクソエイムかまして悪かったな」


 串焼き先輩が拗ねたように唇を尖らせる。だがしかし、俺は決して責めるつもりで言ったわけではない。


「嫌味じゃねえよ、むしろナイスだぜ串焼き先輩」


「……どういうことだ?」


 俺が口元を緩めると、串焼き先輩が首を傾げる。誤射した彼の功績の大きさに気付いていないようだ。


「リヴァイア戦ってさ、俺達全員一人一人が聖なる焔を纏って戦った事でHPを削り切れただろ?」


「そうだったな。だけど、それと何の関係があるんだ?」

 

「つまり、二つ名レイドの根本的な部分として『一人でも役割を果たさなかったら突破クリア出来ない』って事なんだと思うんだよ」


「……?」


 俺の伝えたい事がいまいちピンと来ていないようで、首を傾げ続ける串焼き先輩。


「俺がクリスタルを全破壊するの場合、クリスタル破壊フェーズで働くのは俺一人……まあ、ギミック出現の為に演奏しているからポンも含まれるけど、それでも二人だけが働いている事になる。もし、クリスタル破壊にも全員が平等に働かなければ突破出来ないっていうルールが適用されている場合、どうすれば良いと思う?」


「……正規の方法で一人一つずつクリスタルを破壊するのが最適解……が、それだと猶予が短すぎるから現実的じゃない。だからどうにかして村人が全破壊する必要がある訳で……あ、そこでさっきの誤射が出てくる訳か」


「そう、串焼き先輩が誤射したおかげで判明した仕様……HPんだよ。そこの仕様を突けば良いって訳だ」


 クリスタル破壊の役割を平等にするのならば、HPを予め削っておくことで破壊に貢献した、とシステム側に認識させれば良い訳だ。どれだけ削らなければいけないのかは判明していないが、それもまた後で検証してみれば良いだろう。


「まだ実際に試してはないから100%そうとは断言する事は出来ないけどな。だけど、想定解法での攻略をしなくても突破出来るって分かったのは大きい。無理だと判断して諦める事態になりかねなかったからな」


「流石運営泣かせの村人だな……でもそれって本当に仕様なのか?」


 一応納得はしたものの、串焼き先輩は訝し気な表情になる。もしこれが仮にシステムの不具合だとしたら、それを悪用したとなればプロとしての評価に関わるのだから当然の反応だ。

 だがしかし、これはれっきとした正規手段である事を証明出来る。


「そこに関しては仕様だと思いますよ。システムの悪用でも何でも無く、純粋にジョブ毎の格差を埋める為に運営がそう設計したんだと思います。VRMMOは被弾前提のゲームじゃないですから、極論この二つ名レイドもDPS六人でも構わないのでしょうが……そうなれば必然的にDPS以外のジョブが完全にになってしまう。クリスタルの破壊をするのに火力が足りないジョブはいらない……ってね」


「まあタンクに人権ねぇって言われたら普通にショックだしな……俺、別ゲーでもメインタンクでやってたからなぁ……」


「なるほど……確かに言われてみればそうだな」


 ライジンが俺の言葉に補足するようにそう言うと、串焼き先輩は納得したように頷く。

 ライジンの言葉通り、タンクやヒーラーに該当するジョブは味方をサポートしたりする事に長けている反面、本職のアタッカーに比べたら火力面では幾らか見劣りする。

 だからこその救済措置……タンクやヒーラーのジョブでプレイしているプレイヤーの為に、クリスタルにある程度の攻撃を加える事で、デバフが発動しない仕様になっているのだと思われる。


「だからまぁ、そういう仕様なら悪よ……ごほん、有効活用させて頂きますよぉ……!!」


「村人君、若干本音漏れてます」


 おっといけねえ、素が漏れ出していた。一応配信中だしな、発言には気を付けねば……これで運営が即時対応なんてしてきたら目も当てられない。


「じゃあ次のトライでどれぐらいHPを削れば発動しないかの検証も並行してやるか。さっき、残り4割ぐらいだと発動してなかったよな?」


「はい。確か4.5割ぐらいだったような……」


「じゃあ7割と5割で検証してみよう。多分5割がラインなんじゃないかと思うけど……負担を少なく出来るならどれだけ削れば良いかを知る事は大事だしね」


 そんな感じで、取り敢えずクリスタル破壊フェーズは俺が全破壊する方針で続行、並行してHPをどれだけ削ればセーフ判定が出るかの検証を兼ねる事となった。

 未だこちら死亡サイドへとやってこない厨二の様子を眺めながら、ぽつりと呟く。

 

「このフェーズの突破基準ってなんなんだろうな? やっぱりあの兄弟を倒す事で突破出来るのか?」


「まあそれなら単純明快だから良いんだけどよ……そうもいかねぇっぽいよなぁ……」


「そもそも【双壁】がなんで俺達をここに飛ばしたのか、という所から考察しなきゃだよね。別に戦うだけならさっきまでのエリア……『星骸』で戦闘するだけで良かったはずだ。なのにわざわざこの場所へと連れてきたのには必ず意味があると思うんだよ」


「ここでも謎解きか……」


 確かにわざわざこんな専用フィールドまで用意しておいて、過去の【双壁】兄弟を倒すだけなのは味気ないような気もするな。

 無駄に世界観が凝っているゲームだ、このフェーズにだって必ず意味があるのだろう。


「記憶を失ったトラベラーの為に、過去の自分達と会わせる事で少しでも記憶を取り戻させる為……とかですかね?」


「割とありそうな線ではあるけど、そもそも【双壁】はトラベラーと敵対しているんだぞ? 記憶を取り戻させても【双壁】のメリットは無いと思うんだが……」


「うーん、いまいち【双壁】自体の代行者になった動機が正確に分かってないからなぁ。ポンの意見を完全に否定する事は出来ないよね。ティーゼ・セレンティシアを救う為、という事だけは分かってるんだけど粛清の代行者になる必然性が……」


 と、そこで何かが引っかかったらしく、ライジンが言葉を止める。

 数秒何か考え込むように黙り込むと、目を細めて。


「……待てよ。ティーゼ・セレンティシアは今、怪物になっている、という話だったよな?」


「ああ。ユースティア帝国軍に攫われて実験材料として使われた結果、人々を虐殺する怪物に成り果てた……って話から推測するに、生物兵器になったって事だよな」


「時を戻す能力でティーゼ・セレンティシアを救う為に実験前にまで時を戻す必要があった……? いや、それが出来ていないからこそ今尚トラベラーと敵対している。……つまり、代行者になったのはあくまで過程に過ぎない……?」


 ぶつぶつと言葉を漏らし続けるライジン。その言葉を聞いている内に、俺の中で渦巻いていた違和感がパズルのピースが埋まっていくかのような感覚を覚える。


「あの計画……代行者……選定基準……あり得ない可能性では無い。……トラベラーは彼女を見捨てた。それは何故か? ……。代行者ならばそれが可能……? ……まさか」


 そこまで聞いて、今まで引っ掛かっていた違和感の正体が浮かび上がる。

 ティーゼ・セレンティシアと接している内に感じていた違和感。彼女の発言の節々から伺える、その正体について。


 

「ティーゼ・セレンティシアの正体は────」



 俺の辿り着いた結論と、ライジンの辿り着いた結論は同じ物だった。





「もし仮にそうだとして、【双壁】がトラベラーに記憶を取り戻させる理由とは関係なくないか?」


「いや、。自身が怪物となる事でティーゼ・セレンティシアを救おうとした。しかし、その対価として『トラベラーと戦う事』を義務付けられた。……それってつまり、どういうことだか分かるか?」


 ライジンが乾いた笑みを浮かべると、ボッサンが神妙な顔で答える。


「ゲーム的な仕様を考えないものとするなら……トラベラーはこの世界において不死の存在。そんな存在とに戦う事を義務付けられた……って訳だな」


「ッ!」


 なんとまあプレイヤー目線からしたら胸糞の悪い話だ。詐欺という言葉が生易しい程、【粛清者】と名乗る存在は質が悪い性格をしてやがる。


「時を超える力を得たのにも関わらず、ティーゼ・セレンティシアを救えないのは何故だ? 過去を改変して、彼女が助かる世界に創り変えれば良いのに、それをしないのは……それがって事だよね」


「つまり、このフェーズでやるべきことは……」


。【粛清者】にとって歴史改変がタブーなんだろう。正史になるように歴史再現しなければならないって事は、二人を倒すんじゃなくて制圧が……」


「あ、厨二がネルの首撥ねた」


「言った傍から歴史改変してるねぇ!?」


 まああいつにこっちの声は聞こえて無いしな、仕方ない。


 視線の先、長らく戦闘を続けていた厨二が、疲労がありながらも達成感を感じているかのような表情を浮かべ、ネルの首を撥ね飛ばしていた。

 その首が床に落ちるとほぼ同時に、システムメッセージがポップする。



≪これは有り得た歴史の一つ。しかし、これは今へと繋がる結末では無い。人よ、思いを繋ぐのならば今へと続く結末を導き出せ≫



 その瞬間、ぶつりとまるでテレビのモニターの電源を落としたかのように、視界が暗転する。

 再び視界が開けると、【星骸】の階段前へと景色が切り替わり、再び身体が生成される。

 全滅ワイプによるリスポーンの現象だ。

 

「あー、そのなんだ。お疲れ様?」


「萎え落ちしていいかい?」


「おい待て思い留まれ」


 厨二、割とガチトーンだった。


 


────

【おまけ】


厨二「(むすっ)」


村人「あー、厨二。不機嫌な所悪いが次の挑戦の打ち合わせしても良いか?」


厨二「端的にお願い」


村人「クリスタル半殺し、過去フェーズは速攻で制圧」


厨二「把握」


ポン「なんでそれで理解出来るんですか……?」

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