#234 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その三十四 『突破口』


 炎上し続ける森林エリアを駆け抜ける。

 【双壁】の攻撃は一旦止んだようで、空間の亀裂から出現したモンスター達を相手取りながら、第二サイクルのクリスタル破壊フェーズを待つ。


『キシャシャシャシャシャシャシャ!!』


 巨大なスイカのようなモンスターが、牙の生えそろった口内を披露しながら襲い掛かってきた。

 短く息を吐き、即座に射撃。真っ赤な果汁?をまき散らし、モンスターを貫通した矢は、数少ない木を跳弾しながら他のモンスターもまとめて仕留めていく。


(当然っちゃ当然だけど初見のモンスターばっかだよな……最後らへんに出てくるモンスター、ボス級の奴が出てくるとかあり得るんじゃないか……?)


 【水晶回廊】のボスとして設置されていた王水龍キングアクアドラゴンが次のエリアである【海遊庭園】ではフィールドモンスターとして設置されていた以上、その可能性は十分にある。

 ……もし万が一そんな事になれば、中央の台座エリアへの到達を阻むのは相当難易度が高いだろうな。


(まぁその時はその時! 今は一刻も早くこいつらを片付けてクリスタルの破壊に備えないとな!)


 今も演奏を続けるポンの下へ迫り来るモンスター達へと視線を向ける。

 先ほどの【流星群】のせいで森林地帯の大半が焼き払われてしまい、俺の【跳弾】を上手く活かす事が出来ない状態だ。

 【空中床作成】で無理矢理ルートを確立するのもアリだが、MPの無駄な消費は極力避けたい所だしな。


「という訳で新スキルのお披露目ターイム!!」


 実は今回のレイド挑戦に備え、ある新スキルを仕込んできている。

 リヴァイア戦では特に披露する間も無かったからな。

 まぁ言ってしまえばリソース枯渇を避けるための地味スキルなんだけど。


「【マジックアロー】!」


 スキルを発動すると、俺の身体からマナを吸い上げて矢が生成される。

 その矢を引き絞り、更にスキルを発動させる。


「【ドレインショット】!!」


 スキルを発動させながら矢を放つ。

 一直線に飛来した矢がモンスターを貫くと、その身体からマナを吸い上げ、あっという間に絞り尽くした。

 すると、マナで生成された矢が光の粒子となって解け、俺の下へと飛来する。


「うーんこれぞまさに永久機関」


 【ドレインショット】の効果は攻撃が命中した敵のマナを吸い上げ、こちらのMPを回復するスキルだ。

 回復量は丁度【マジックアロー】と【ドレインショット】を消費したMP分だけ回復するので、矢を外さない限りは永久機関が成立している。

 しかし、このスキルと【跳弾】は併用出来ないようで、直線上に敵が複数体居ないと消費分をオーバーして回復出来ないのが今後の改善点と言った所か。

 そのまま永久機関射撃を続けること数十秒。ようやく次のフェーズへと突入する。


≪『魂の送り唄』に共鳴し、星々が導を指し示す……≫


「おっ、来たな……!!」


 雑魚処理も一段落してきた所で、システムメッセージが表示される。

 次の瞬間、夜空に浮かぶ星が瞬き、音色を鳴らしてクリスタルの位置を知らせる。

 しかし、今回は一サイクル目とは少し様子が違うようだった。


『やっぱり……!』


「二個破壊か!」


 一回目の場所を知らせてすぐ、二回目の場所を示す輝きと音色が鳴り響いたのだ。

 流石に第一サイクル同様、一つだけクリスタルを破壊すればそれでOKという訳では無いようだな。

 二サイクル目で二個のクリスタルの破壊を要求されている以上、一サイクル超える毎に一個ずつ破壊しなければならないクリスタルが増えていくのだろう。

 ……恐らく、全部のクリスタルを破壊する六サイクルまでこのギミックが続く。そう考えたら気が遠くなるが、それでも終着点が見えたのは大きな収穫だ。


『【爆裂泡ニトロ・バブル】』


 当然ながら、クリスタルの破壊を阻むべく【双壁】の攻撃が降り注ぐ。

 エリア全体に広がりながらゆっくり降下してくる泡を回避するべく動き出す。


「くそっ、いつになったらこの炎上フィールドは解除されるんだ……!?」


 【流星群】の効果で炎上したフィールドのせいで、回避出来る場所が限られている。

 恐らくあの泡が直撃した時点で死は免れないだろうから、最優先で回避すべきはあちらなのだが……それでもDotのダメージは決して低くないので、無視する事も出来ない。

 隕石が飛来してきた時点で撃ち落とすべきだったか、と一つ舌打ちしてから全力で駆け抜けていると。

 

『最初は串焼き団子さん、次にボッサンの順番で破壊をお願いします!』


 流石ポン。動揺せずにしっかりギミックを聞き取り、正確な破壊箇所を把握していたようだ。

 串焼き先輩は水晶エリアに居たようで、【殲滅戦果キル・ストリーク】の効果で強化されたステータスを以てして軽々とクリスタルの破壊に成功する。

 続けてボッサン……と行きたい所だったが、タンクという事もあり少し出遅れてから破壊に行こうとした所で……。


≪星々は輝きを失い、導は断たれる……≫


『そんな!?』


「ッ! 流石に早すぎるだろ!?」


 串焼き先輩が破壊してから、ものの三秒程での出来事だった。

 。それも、ごく僅かな時間の。

 システムメッセージが出現すると同時にクリスタルは消失し、【双壁】が遠くで極光を生み出し始める。


 冷や汗が頬を伝う感覚がする。

 一つ壁を越えれば、また一つ壁が立ち塞がる……その事実に、思わず頬が引き攣る。


「はっ、上等じゃねえか……! これでこそ最終到達点エンドコンテンツだ……!!」


 鍛え上げた装備。洗練された連携力。難解なギミックを解き明かす頭脳。そして、時の運。

 それら全てを総動員して、ようやくこのコンテンツだからこそ。



「【時穿】」


 

 ────攻略しがいがあるってもんだ!





「ほんっとうに申し訳ない!!」


 パンッ!っと手を合わせて謝罪するボッサン。

 だが初見で誰も分からなかった以上、そのミスを咎める人間など、この場には誰も居ない。


「アレに関してはボッサンは悪かねぇよ。一サイクル毎にクリスタルの破壊個数が増えていくってのは予想できたが、制限時間がああまで短いのは流石に想定外だ……。火力に余裕がある俺がタイミングを調整しなきゃいけなかったんだし、むしろ謝んないといけないのは俺だぜ」


「そうだそうだ!! タイミングちゃんと調整してよねぇ!!」


「そうだぞ謝れよ串焼き先輩!! 折角謝罪すんのなら誠意が見たいなぁ!?」


「なんで俺庇っただけなのに集中砲火喰らってんの? 本気で泣くよ? 見たい? 成人男性のガチ泣き?」


「どちらかって言うと見たいかな」


「ふええ……(戦慄)」


 別に誰も悪いとは思ってないけど、自分からデコイになるんなら俺らは煽り倒すぞ? これが変人分隊ウチのやり方なんでなぁ!!(ゲス顔)

 「もういいもん……」と言いながら隅っこでいじけだした串焼き先輩を余所に、会話を続ける。


「しかし、困りましたね……。二個破壊は良いとして、タンクとDPSではクリスタルの破壊速度に必然的に差が出ると考えると……」


「DPSが全力で攻撃してようやく壊れるぐらいの耐久はあるからな、あのクリスタル。相当バフ盛らないとタンクでは破壊出来ないんじゃないか?」


「そうだよねぇ……カバーしに行こうにも、【双壁】の妨害もあればモンスター達も残ってる。一匹でも逃せば台座エリアへと直行するって考えれば、逃す訳にもいかないし……」


「こればっかりはカウンター前提で組んでる俺のスキル構成が悪いとしか言えねぇな……かといって今から火力スキル作るのにはスキルポイントが足りねぇし……」


 そこで区切ると、はぁ、と皆一様にため息を吐いた。

 先ほどまでのギミックが分からないという問題では無く、単純な火力不足が招いた事態だ。

 もっと後半になってから発覚したわけではない以上、まだ救いはある……そう皆は思っているのだろうが。


 ──


「一つ良いか?」


 手を挙げて、一歩前に出る。

 皆の視線がこちらへと向くのを確認してから話し始める。


「今皆が悩んでるのはクリスタルを破壊した後の制限時間が短い、破壊するタイミングを合わせるのもギミックの都合上苦労する。破壊が遅れても即死攻撃をぶっ放してくる以上、悠長にしても居られないって話だろ?」


「まぁそう言う事だな。今後のサイクルで破壊要求数が増える可能性が高い以上、この問題の解決策を見つけないと……」


「……? ? あるだろ、一つ。超単純で、これ以上ないゴリ押し戦法が」


「……おい、村人。──まさか」


 要するに、だ。


 



「クリスタルの破壊フェーズは俺に任せろ」



 さぁて、変態スナイパーとしての腕の見せ所だ。

 運営の想定を超えて、【二つ名レイド】を攻略してやろうじゃねえの。




────

【おまけ】

不知火「アカンて」

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