#233 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その三十三 『第一サイクル突破』
【双壁】戦、四度目の挑戦が始まった。
今回は三度目の挑戦でポンがクリスタルギミックの解答に気付いたお陰で、ほぼ100%突破出来るだろう、という確信を持って再挑戦に臨んでいる。
「【彗星の一矢】ァ!!」
青と白の燐光を纏った矢が、演奏をしているポンへと目掛けて爆走するモンスター達を複数体射抜き、ポリゴンへと変える。
四度目ともなれば、開幕の【
……まぁ、これがまだ【双壁】戦の序盤だからだろう、という事は考えないようにしよう。
「……さて、そろそろか……?」
雑魚処理も一段落し、落ち着いてきた頃、問題のギミックが始まる。
≪『魂の送り唄』に共鳴し、星々が導を指し示す……≫
システムメッセージがポップし、夜空に浮かぶ色とりどりの星が瞬くと同時に音色を鳴らした。
「黄、桃、水、桃……って事は!」
『村人君!
「了解!!」
呼応のブレスレットから声が聞こえるや否や、すぐに弓矢を装填する。
通常の射撃では、クリスタルを破壊する事が出来ない。
先ほどの挑戦時、一応確認しておいて正解だったなとにやりと笑うと。
「【彗星の一矢】!!」
今度は雑魚処理用では無くクリスタルを破壊する事を目的として、ディアライズのスキルを発動させる。
限界まで引き絞った矢が放たれ、直ぐにクリスタルと激突。
鋭い破砕音が響き渡り、クリスタルが粉々に破壊されると、システムメッセージがポップした。
≪導に従い、クリスタルの破壊に成功した。
「よし……ッ!!」
ギミックが成功した事を確認し、ぐっと小さくガッツポーズをする。
やはり、ポンが出した答えが正解だったんだな……!!
◇
「さて、聞かせてくれないか? さっき死ぬ直前に言った言葉の意味を」
三度目の挑戦で、【
『
ライジンの言葉に、ポンは神妙な顔で頷くと。
「ええ。……その前に、解答へと辿り着いた経緯について説明しますね」
ポンがそう言うと、指を動かしてウインドウを表示させる。
そこに映し出されていたのは、【星骸】の上空──星々が輝く星空の様子だった。
「演奏の最中にある事について思い出したんです。……村人君。歴代巫女の墓で、ティーゼさんに会った時の事を覚えていますか?」
まさか俺に問われるとは思っても無かったので、少し目を瞬かせてから。
「え? ……ああ、ポンが『魂の送り唄』を教えて貰った時だよな。それが何か?」
「『魂の送り唄』は本来、村を訪れた吟遊詩人が唄った物と言っていましたよね。その時、一緒にティーゼさんが教えて下さった詩の一節を覚えていますか?」
「……あ」
そう言われてみれば、あの時ティーゼ・セレンティシアが覚えておくと良いと詩の一節を教えてくれたんだったか。
ええと、あれは確か……。
「“星の輝きは始まりを告げ、その音色は言の葉を紡ぐ”……?」
「それです。その詩なんですけど、あのギミックの状況と酷似していると思いませんか?」
「……!」
『魂の送り唄』を演奏する事で、輝く星々。そして、星が輝くと音色が響き渡る。
まさにあのギミックを唄ったような詩だ。
ライジンがそれを聞いて、顎に手を添えて考え込む。
「つまりギミックを解くキーワードは“始まり”と“言の葉”か」
「ええ。演奏と並行しながら、その詩の意味を考えたんです。その二つの中で特に重要だと思ったのは“言の葉”ですね。音色が、言葉を紡ぐとはどういう事なんだろう? って」
そう言いながら、ポンが先ほど展開したウインドウの表示サイズを拡大する。
そこには、赤、青、黄、黒、白、橙、灰、緑、水、桃の合計十色の大きな星が等間隔に並んでいた。
「……そして、演奏しながら空を見上げた時に気付いたんです。瞬いた星のサイズと同じサイズの星が横並びに
そこまで聞いて、ようやくその意味を理解する。
厨二も得心が行ったように、ああ、と声を出して。
「と言う事は、あのギミックはクリスタルを叩く順番、破壊する順番を教えてるんじゃなくて……
「流石厨二さん。正解です」
厨二が出した解答に、ポンがふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
いまいちピンと来てなさそうなボッサンと串焼き先輩に補足するように、ポンは人差し指を立てると。
「つまり、“始まり”……
「……! あぁ、そう言う事か!?」
「いや言われねえと分かんねぇよ!? 良く演奏しながら気付いたな!?」
詳しく説明が入った事で理解したらしく、ボッサンと串焼き先輩は驚いたような表情を見せる。
ポンはええと、と一つ置いてから。
「因みに先ほどの挑戦時は緑、青、緑、灰……鳴った音階はミ、レ、ド、ド。『
「本当に良くその法則に気付いたな……」
「えへへ……。こういう時、絶対音感持ってて良かったなあって思います。……まあ、気付けたのは本当にたまたまなんですけど」
頭に手を添えながら、縮こまるポン。
いつだったか、ポンの部屋を訪れた時にピアノを演奏していた時から薄々勘付いては居たが、ポンは絶対音感を持っていたんだな。まあ、楽器の演奏が得意な人が持ってるイメージがあるぐらいの適当な考えだけど。
謙遜するポンに対して首を緩く振ってから、肩に手を乗せる。
「たまたまなんかじゃねえ、大手柄だ。もっと誇っていいんだぞ、ポン」
「そうだぞ。ポンがそれに気付かなかったらここで手詰まりだったんだ。本当に助かったよ」
「ッ! はい!」
自分でも役に立てた、そんな様子で満面の笑みを浮かべるポン。
もし彼女に尻尾が付いて居たらぶんぶん振っていただろう。
そんな彼女を微笑ましく見ていると、ライジンがニッと笑う。
「よし、じゃあ早速試しに行こうぜ!」
「おう!(はい!)」
◇
先ほど輝いた星の色は黄、桃、水、桃。
それに伴って鳴った音色はレ、ソ、レ、ソ。
法則に当て嵌めると、答えは『しんりん』。森林地帯にある、緑のクリスタルを破壊しろ、という訳だ。
ポンの気付きのお陰で、完全に手詰まりだったギミックを乗り越えた。
残る雑魚の処理が終わり、すぐさま台座エリアへと向けて走り出す。
走りながら、木々の合間から見える、巨大な白の島……【双壁】へと視線を向ける。
この【星骸】の遠くで、こちらの様子を傍観している【双壁】の視線が鋭くなった気がした。
『……誰ダ。星ノ大海カラ我ラノ邪魔ヲシテイルノハ。……マアイイ、ドノ道辿ル末路ハ同ジダ』
次の瞬間、周囲の空気が一気に重くなる。
実際に重くなっている訳では無いのだが、【双壁】が放つ強烈な殺意が、
【双壁】が鋏を振り上げているのを確認し、台座エリアへと向かう足を速める。
『──【
詠唱と共に、極光が【双壁】の下へと集い出した。
それとほぼ同時に、森林エリアと台座エリアを繋ぐ次元の境界線を跨ぐ。
視線を上げると、ポンが立つ台座の周りに並ぶ、光る貝殻が視界に入る。
「ギリギリ間に合うか……!!」
走りながら【
そのまま突っ込むように貝殻へと入るとほぼ同時に、極光が放たれた。
『【
数秒掛けて、時を穿つ奔流が通り過ぎていった。
轟音が響き、その衝撃で貝殻にヒビが生じ、粉々に砕け散る。
貝殻が破壊されてすぐ、ライジンが声を張り上げた。
「生存報告!!」
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「っしゃあ!!」
「まずは一通り乗り切った!!」
開幕の【
破壊に成功した時のシステムメッセージ的にも、これを何度か繰り返せばいつか【双壁】を攻撃出来るようになる……のだと信じたい。
喜びも束の間、【双壁】の殺意が再び膨れ上がる。
『コレヲ乗リ越エルカ……ナラバ、遊ビハ終ワリニシヨウ』
……おい待て、今あいつ遊びって言った?
『【吸盤爆雷】』
ズドォン!!と地面を突き破るような凄まじい音が鳴ったかと思うと、各エリアから巨大な触手のような物が出現する。
「蛸ォ!?」
「いやあいつヤドカリだぞ!? なんで蛸の触手が!?」
「待てお前ら落ち着け! ポンを巻き込まないようにさっきのエリアに散開……!!」
ライジンが困惑する俺らを落ち着けようと声を掛けた所で、蛸の触手のような物がこちらへと向けて振り抜かれる。
地を揺るがす程の大震動と、衝撃音。間一髪の所で飛んで回避する事に成功するが、地面に着弾した触手がゆっくりと起き上がる。
ぐぽ、と音を鳴らして地面にくっついた吸盤が赤く点滅すると、再び凄まじい衝撃が巻き起こった。
ただでさえ大質量の攻撃だと言うのに、そこから更に爆発までするらしい。
「なんだその見た目ふざけてる癖に殺意マシマシな技ァ!?」
このまま台座エリアに残ると、演奏しなければならないポンまで巻き添えを喰らってしまうので、すぐに森林エリアへと駆け出した。
「どわああああああああああああああああ!?」
その間にも触手は俺を狙い、何度も叩き付け、爆発を起こしながら襲い掛かる。
嫌だ、絶対にこんなふざけた技で死ぬのだけは嫌だ!! 俺のプライドが許さねえ!!
『【流星群】』
畳み掛けるように発動する、【双壁】の魔法。
空に大量の空間の亀裂が出現し、その亀裂から大量の隕石が出現する。
「やりたい放題だなぁ!?」
第一フェーズで【
雑魚処理フェーズも、全然妨害して来ないからおかしいなって思ってたけども……!!
隕石が降り注ぎ、地面へと着弾すると爆発が巻き起こる。
しかも、着弾すると暫くの間Dotダメージのありそうな円形のフィールドが形成されるようだ。
「ああもう、足の踏み場が無いじゃねえか……!」
余りにも大量に隕石が降り注ぐ物だから、まともな足場は点々としか存在しない。
誰だこんな頭の悪い取り敢えずブッパしておけば良いよね!って技考えた
『【大地激震】』
「あっぶねそれはリヴァイアで予習済みィ!!」
【双壁】が鋏で地面を叩き付けると、【星骸】全体が大きく揺れる。
着弾の直前に空中床に飛び乗り、降り注ぐ隕石と触手を回避しながら森林エリアの奥へと向かっていく。
【双壁】の攻撃を避け続ける事数十秒、ようやく第二サイクルへと突入する。
≪次元の境界が曖昧になり、狭間に呑み込まれた者達がこの場に姿を現した……≫
システムメッセージがポップし、再び五つのエリアの上空に出現する雑魚モンスター。
やはりと言うべきか、第二サイクルでは第一サイクルに出現したモンスターの上位個体と思われるモンスターが出現しているようだ。
【双壁】の攻撃で地上が地獄へと様変わりしているのを見て顔を引き攣らせながら、モンスターを撃破する為の矢を装填する。
「ギミックはもう分かった!! こうなったら行けるとこまで行ったらァ!! 片っ端からぶっ倒してやるから掛かってこいやァ!!」
アドレナリンがドバドバ溢れ出ているのを感じながら、第二サイクルの雑魚処理を開始するのだった。
────
【補足】
『音階』フェーズの解答は『五十音』でした。
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