#232 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その三十二 『試行錯誤』


「さて、一旦状況を整理しよう」


 再び【星骸】前にリスポーンした俺らは、ウインドウを展開する。

 ライジンがこれまで得た情報をまとめたメモを表示させると、ゆっくり話し始める。


「まず開幕の即死攻撃の回避法は光る貝殻の中に入るので確定。その事から、【時穿トキウガチ】を回避する際は必ず光る貝殻の中に入る必要がある……が」


「さっき全滅した時、光る貝殻は台座エリアに無かったよな?」


「うん。それについてはギミックを解かなかったのが直接的な原因だと思う。もしギミックを解かずともそれぞれのエリアのランダムな位置に貝殻が出現する場合、台座エリアに出現しないのはおかしいよね。と言う事から恐らくクリスタルを攻撃、ないしは破壊する事で回避用の貝殻が出現するんじゃないかな」


「なるほど……」


 まあライジンの考えで正解だろうな。ギミックの失敗=即死に繋がるのは非常に分かりやすい構図だ。流石エンドコンテンツの大本命と言った所か。


「開幕の【時穿トキウガチ】を回避した後は、ポンが台座エリアで演奏を開始。そして残る俺達は五つのエリアに分かれて上空から出現する雑魚を処理しなければならない。一人でも討ち漏らせば台座エリアに居るポンが襲われて、演奏が妨害される。ここまでは良いか?」


「あ、演奏している時に気付いた事があったんですが、良いですか?」


「どうぞ」


「私が演奏している時、モンスター達のヘイトが私に集中していたんですが……その代わり、【。【双壁】がギミック妨害の技を使った時、台座エリアにはあの爆発する泡が降って来なかったんですよね。……普通、妨害するのなら私を狙うのが一番でしょうに……どうしてでしょう?」


「なるほど、ポンに対してヘイトが向かない理由……か」


 ポンの言葉に、ライジンが深く考え込むように顎に手を添える。

 確かに奏者であるポンを狙えばギミックを進行する事が出来なくなってしまうから、狙うならポンに集中砲火すれば良い話だ。

 だが、実際はモンスター達がポンに襲い掛かる代わり、【双壁】自体はポンを狙わない。

 普通に考えたら、逆だろう。


「……ポンのその『魂の送り唄』って、【双壁】に深く関わりがある初代巫女……ティーゼ・セレンティシアから教えて貰った物なんだよねぇ? 【双壁】は『魂の送り唄』を演奏するポンの姿とティーゼの姿を重ね合わせて攻撃する事が出来ない……って事じゃ無いのかい?」


「おお、まさか厨二からそれらしい事が聞けるとは」


「それな」


「あのねぇ、君達僕の事を何だと思っているんだい?」


 ジト目でこちらを見てくる厨二。うーん、日頃の行い……ですかねぇ……?


「そうなると、演奏を止めた場合ヘイトが逆転する可能性があるかもしれないな?」


「うん。だからポンはある程度ギミックが進むまではずっと演奏を続けていて欲しい。雑魚処理でエリア奥まで入り込んじゃうとカバーが間に合わないからね。勿論、危険だと判断したら演奏を中断して雑魚やボスの攻撃を対処してほしい」


「分かりました!」


「本気でマズイ状況になったら、ボッサンがスイッチする感じで。ボッサンはそれでいい?」


「おうよ! 任せとけ、Arcadia仕込みのヘイト管理見せてやるからよ!」


「そこに関しては信頼してるよ。何度も世話になってるからな」


 ボッサンが胸をどんと叩いて笑うと、ライジンが微笑を浮かべる。

 そう言えばボッサンとライジンって、別のMMORPG時代からの仲なんだっけ。初めてライジンを紹介した時、大層驚いてた記憶がある。

 と、話がひと段落した所でライジンがこほんと一つ咳払いをしてから。


「さて、話を戻そうか。今俺達が直面している問題なのが……」


「空に輝く星と、上空に出現したクリスタルのギミックだよな。アレは何なんだ?」


「壊す順番……ってのは単純すぎる気がする。そんな簡単なギミックならエンドコンテンツに相応しくねぇよな。……アレについてなんか分かった奴居るか?」


 ボッサンが周囲に問うが、誰一人として答えが出てこなかった。

 まあ、あれを初見で解くのは不可能に近いよな……。

 ライジンがウインドウを操作すると、いつの間にか撮っていたらしいスクリーンショットを表示させる。


「一度そこについても整理してみようか。正式名称が分からないから仮名称だけど……演奏する為の台座エリアと雑魚敵が出現する五つのエリア……砂漠エリア、水晶エリア、火山エリア、森林エリア、雪山エリア。その合計六つのエリアの上空に、システムメッセージがポップしてからクリスタルが出現した。台座が紫、砂漠が黄、水晶が青、火山が赤、森林が緑、雪山が白のクリスタルだった訳だが、光った順番を覚えてる奴は居るか?」


「ええと、確か……黄、赤、黄、緑、赤の順番に光ってたよな。光った色的にはクリスタルの色と一致しているから、その順番に破壊しても良いような気もするが……」


「問題はって事だよな。破壊したら再生するとは限らない。……その順番に攻撃する事でギミックが進行する、とかか?」


「まぁそれが妥当だよねぇ。一回、それで試してみるのも良いかもしれないヨ」


「そうだな、一度それでやってみるか。……エリアについてはさっき散開したエリアで良いか? 下手に動かして雑魚処理が漏れるのは良くないと思うし、各自の持ち場に慣れる方が良いと思うんだが」


「賛成だな。まあ、さっき上げた中で一番森林エリアが俺に合ってるってのもあるけど」


 他のエリアだと障害物が少なさそうだし、【空中床作成】で無駄にMPを消費せずに済むのならそれに越した事は無い。

 どうやら他の皆も賛成のようで、小さく頷いた。


「よし、じゃあ早速三回目の挑戦と行きますか!」


『おう(はい)!!』





(……何だろう、私の中で、何かが引っかかってる)


 再び【双壁】へと挑戦しようと階段を歩きながら、ポンは一人思考に没頭していた。


(確かにあのギミックが水晶を攻撃する順番って話は整合性が取れてるように見える。……だけど、なんでだろう? 気がする)


 あの時、『魂の送り唄』に共鳴し、夜空に輝く星が瞬くと同時に音色を鳴らしていた。

 もし、攻撃する順番だとした場合、


(私はこの状況について、何か知っているような気がする。絶対に、どこかで聞いた事があるはずなんだ。……もう少しで、思い出せそうなんだけど……)


 と、ポンが答えに行き着きそうになった所で、【双壁】の前へと辿り着いてしまったのだった。





 三回目の挑戦が始まった。

 開幕の【時穿トキウガチ】を回避し、各自の持ち場へと散開する。

 森林地帯を爆走してくる植物系のモンスター達を攻撃しながら、視界に時折入ってくる水晶を見て目を細めた。


(よく見たら森林地帯にも所々『音吸水晶』があるせいで会話はやっぱ呼応石頼りなんだな。……まあ、距離的に見ても声が届かないし、どっちにしろそうしないといけないんだが)


 地味だが中々厄介なギミックだ。このレイドに挑む前、【星海の地下迷宮】で沢山予備の石を拾ってきておいて良かったが、それでも回復アイテム同様数には限りがある。

 それにギミックの都合上、ゲーム内チャットも禁止されているので、呼応石が尽きた時点で連携が取れなくなってしまう。……そうなれば、事実上の“詰み”を意味する。


(こういう精神面での動揺を誘うのが運営の狙いっぽいよな。……確かに、こりゃエンドコンテンツに相応しいわ)


 謎解き要素を含めた複雑なギミック、鍛え上げた装備を一撃で粉砕してくるボスの火力、そして入念な準備を以てしても不足していると感じられる程の一回のトライの重さ。

 トライ&エラーを前提とした難易度だからこそ、

 

(だが寧ろこの難易度の高さが。一ゲーマーとして、これほど楽しい時間はねぇな!)


 試行錯誤を積み重ねた先に、クリアが存在する。明確なゴールラインが存在する以上、それに向かってひた走るだけだ!!


≪『魂の送り唄』に共鳴し、星々が導を指し示す……≫


 テンションが最高潮に達した頃、雑魚処理フェーズが一段落し、上空にクリスタルが出現する。

 さて、今回の色は……?


「……緑、青、緑…………グレー!?」


 待て、グレーってなんだ!? さっきライジンが言っていたクリスタルの中にそんな色は存在していなかったよな!?

 だが、攻撃しない事には始まらない。俺の居る森林地帯は緑のクリスタルだから、一番最初に攻撃しなければならない筈だ。取り敢えず、上空のクリスタルに向かって弓矢を放ってみる。


 少し経って、キンッ!っと甲高い音を鳴らして、弓矢が弾かれた。

 今攻撃を加えた事でクリスタルのHPバーが出現したが、一割程度しか削れていなかった。


 ……攻撃するだけでは何も起こらないようだ。


「……全部攻撃しなきゃ何も起こらないのか? いや、そもそもグレー……灰色のクリスタルなんて存在しないよな?」


 白と黒のクリスタルを同時攻撃する事で灰と見なすのかもしれないが、そもそも黒のクリスタルが存在しない以上はそれは無いだろう。

 ますます深まる謎。だが、このまま終わる訳には行かない。


「……取り敢えず、破壊してみるか!」


 このまま行けばまた【時穿トキウガチ】に呑み込まれて全滅するのは確定している。なら、少しでも爪痕を残すのが最善だろう。


「【彗星の一矢】!!」


 一拍置いて放たれる破壊の射撃。青と白の燐光を纏った矢がクリスタルに直撃すると、鋭い破砕音を鳴らしながら粉々に破壊された。


「さて、どうなる……!?」


 もし破壊が前提であるのならば、緑のクリスタルは再生される筈だ。

 だが、そんな俺の考えを嘲笑うかのように、システムメッセージがポップする。


≪星々は輝きを失い、導は断たれる……≫


 そのシステムメッセージがポップした事で、ひくりと頬を引き攣らせる。

 ……これが答えじゃない……!? じゃあ、どうすれば良いんだ……!?


『──【二つ名アナザーネームド】ネラルバ。【セカイ】、開門アクティベート。【双壁】権能、解放』


 その時、無慈悲にも【時穿トキウガチ】の詠唱が始まる。

 これ以上はどう足掻いた所で全滅は確定しているので、その場で立ち尽くしていると、呼応のブレスレットから声が聞こえてきた。



「……皆。私、あのギミックの答えが分かったかもしれません」



 【時穿トキウガチ】に呑まれる瞬間、続けられた言葉は俺達を驚愕させるものだった。




────

【補足】

次回答え合わせ


『前提条件』

雑魚処理フェーズ中、『魂の送り唄』を演奏し続けていると、■■フェーズに突入します。

■■フェーズに突入すると、台座エリアが紫、砂漠エリアが黄、水晶エリアが青、火山エリアが赤、森林エリアが緑、雪山エリアに白のクリスタルが出現します。

そして、それに伴い■■フェーズ中、彼らの頭上にある赤、青、黄、黒、白、橙、灰、緑、水、桃の星がある規則に則って瞬きます。

そして、星が瞬くと同時に音色が響きます。この音色は、五つの音階で構成されています。


さて、この条件から導き出される答えはなんでしょうか?



ストックがそろそろ無くなってきたので、今日から一日一話更新に変更します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る