#225 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その二十五 『ニュースタイル』




「ねぇ、ちょっといいかい?」


「ん?」


 【二つ名レイド】に備えてレベリングしていた時の事。

 一日のノルマを終え、解散となってすぐに厨二が話しかけてきた。


「村人クン、もしかして行き詰っているんじゃないのかい?」


 厨二の問いに、思わず目を瞬かせた。

 何故急にそんな事を……そう思いつつも、思い当たる節はあったのでゆっくりと頷いた。


「……まあな」


 思わず視線を逸らしながら、厨二に返答する。

 SBOというゲームは、発想力によって自分の強みを最大限に活かす事が出来るゲームだ。

 俺の強みは、狙った標的を確実に仕留める高精度の射撃と、その一撃の火力。

 だが、それはAimsでの俺の役割の話。このゲームでなら、ポンの【花火】やライジンの【灼天】などのスキルを使えば超火力を出す事が可能だし、攻撃範囲も俺よりもずっと広い。

 そう考えてしまうと、俺の強みは薄れていく。ボスエネミーなどのどう考えても一撃で仕留めきれない相手に対しては、確実に当てるだけでは明確な強みとは言えないからな。

 より自分のプレイスタイルを活かした動きが思いつかずに、行き詰っているのは確かだ。


 俺の返答が想定通りだったのか、ふふんと得意気に鼻を鳴らす厨二。


「やっぱりねぇ。火力を出すだけなら誰だって……なんならボクだって出来るしねぇ?」


「え、この流れで普通に嫌味を言いに来ただけとかある?」


 畜生こいつ。まあいつもの事だからそんな気にならないけど。

 ジト目で厨二を見ていると唐突にぷっと噴き出した。


「まぁ冗談はこれぐらいにして。──そう言う事ならこのボクが! 君が成長する為のヒントをあげようじゃないか!」


 全力で馬鹿にするような笑顔で厨二が言うので、思わず顔を引き攣らせる。

 うわぁ、めっっっっちゃ教わりたくねぇ。


「でもぉ、すぐ答えを教えちゃうのはつまらないからぁ……その前に一つ聞こうか。……僕やライジンが、君の跳弾に対してなんで対応出来るかは分かるかい?」


 その言葉の真意を測りかねて、思わず目を細める。

 俺の跳弾に対して対応が出来る理由……?


「あ、おい厨二、まさかお前」


 傍で聞いていたライジンがビクリと肩を震わせる。

 え、なんでライジンがそんなバレたらマズイ見たいな顔してんの?


「村人クン、君の跳弾技術は果てしない努力の賜物だ。数千時間を通して身に付けた君の跳弾技術を、僕らが一朝一夕で完璧に理解出来るものじゃないんだよ」


「さっきの嫌味との温度差で風邪引きそうなんだけど」


 厨二がこんなストレートに褒めてくるのってあんまり無いからなんかこう……裏がありそうだな(失礼)

 わざとらしく厨二は咳払いをすると。


「数十時間かけて君対策を立てた所で、ようやく数回の跳弾を把握できる程度なのが普通だ。……じゃあ、なんで1st TRV WARで僕やライジンが戦えたんだろうか?」


 そう問われて、顎に手を添える。

 少し考えてから、思いついた考えを口に出す。


から……?」


「さっすが村人クン、理解が早くて助かるよ」


 満足そうに頷きながら、厨二は続ける。


「そうサ。僕らは君が思っている程跳弾の挙動を理解している訳じゃない。。射撃の際の、停止した瞬間から計算すれば良いのサ。だからこそ、僕やライジンは君と渡り合えていた。これから相手する実力者たちも、きっと同じ手段を取るだろうネ」


「ああ……バラされちまった……」


「……そう言う事か」


 言われてみれば、簡単な話だ。

 跳弾の挙動は、意外と単純に見えて複雑極まりない。

 厨二の言う通り、跳弾の技術は一朝一夕で習得できないからこそ俺を変態スナイパーたらしめている。

 習得するのは困難。だが、対策を立てるだけの場合はどうだろうか?


 俺が跳弾を使って攻撃する際は、大きく分けて『敵の位置、周囲の環境の把握』→『位置の調整』→『跳弾ルートの算出』→『射撃』の四ステップから構成されている。

 だが、相手の場合は『俺の射撃位置の確認』→『跳弾ルートの予測』の二ステップで対処が可能だ。

 俺の跳弾技術を知っている人間からしたら、ルート算出に必要な条件をスキップする事が出来るので、どの位置から飛んでくるか予想する事自体はそう難しい事じゃない。

 ましてや厨二やライジンなら反射神経が異常なので、見てからでも反応が出来るのだろう。

 まあ、二桁単位の跳弾はそう簡単に対処出来るもんじゃないと思いたいが……。


「じゃあ、それを踏まえて問おうか。なら、どうすれば良いと思う?」


 とどのつまり、停止位置から射撃地点が予想される。

 厨二の問いに対する返答は一つだ。



exactlyその通り!」


 ぱちんと指をスナップさせ、満面の笑みを浮かべる厨二。

 俺は思わず引き攣ったような笑いを浮かべてしまう。


 つまり、厨二が言いたいのは『凸砂の要領で動き続け、更にそこに跳弾も絡めろ』という話。

 簡単に言ってくれるが、難易度は果てしなく高い。

 絶えず動き続ければ、視界に次から次へと情報が入り込んでくる。

 濁流のように流れてくる情報を処理しながら、複雑な跳弾の計算も並行して行え、という事なのだから。


「そこから先は、君にしか出来ない領域だ。空中で相手の頭を撃ち抜く実力者も居るけど、それに跳弾を絡めるなんて前代未聞だ。射撃の瞬間も、跳弾のラインも予測できないとなっちゃあ誰も手が付けられない」


 厨二は両手を広げて、口端を吊り上げると。


「現世界最強のスナイパー、snow_menでさえも、ネ」


「ッ」


 その言葉に、俺は眼を見開いた。

 世界最強のスナイパーと名高い、snow_men。

 跳弾技術の開祖にして、俺の憧れの存在。

 同じFPSプレイヤーとしてこれ以上無く尊敬しているし、いつか公式の場でも戦ってみたいと思っている。

 今の俺が、彼に勝てるとは思っていない。だが、この技術を習得する事で、憧れに少しでも近づけるのなら……。


「まあ、僕のこの理論はあくまで机上の空論でしかない。だって、明らかに人間業じゃない。普通の空中での射撃ですら、かなりの時間を掛けて練習しなければならないのに、そこに跳弾を絡めるなんてね。……でも、僕は確信してる」


 静かに拳を握る俺を見て、厨二は穏やかに笑い、断言する。


「君なら。変人分隊の最強スナイパー、傭兵Aなら出来るってネ」





 スキルの影響で身体が軽い。

 今回新たに作成したスキルである【血盟装甲ブラッディ・アームド】は30秒毎に自傷ダメージを負う代わりに、AGIとSTRにボーナスが付与され、足と腕限定の装甲を纏うスキルだ。

 何故この二部位限定にしたかと言うと、全身の装甲にしてしまうと単純に重くて身動きが取りにくくなる事もそうだが、作成の際のスキルポイントの負担が大きいからだ。

 なら単純に肉体強化のみにしておけばいいのではないか──そう思うかもしれないが、この装甲は言わば衝撃減衰装置ショックアブソーバーのような役割を果たしており、無茶な機動にも耐えてくれる代物なのである。

 そのおかげもあり、着地時の体勢などの無駄な部分に思考を割かずに済んでいる。


『【氷塊飛翔嵐アイシクル・ストーム】!!』


 リヴァイアが氷塊の嵐を飛ばし、一息に始末しようとしてくる。

 小さく息を吐き出すと、空中に作成した床に飛び乗り、すぐさま離脱する。

 まるでピンボールのように高速で跳ね返り続けながらリヴァイアとの距離を少しずつ詰めていく。


『【黒雷波】!!』


 リヴァイアから黒雷が迸るが、それも高速で移動し続けて回避する。


『逃げ回るだけでは我に傷は付けられないぞ!!!』


 リヴァイアが怒りの咆哮を上げながら、水の巨人を生成する。

 生成された巨人が雷槍を構えているのを確認し、俺は矢を引き絞った。


『【巨人の雷槌タイタンズ・トール】!!!』


「【彗星の一矢】!!」

 

 こちらへと向かって投げてきた黒雷の槍を、正面から貫いた。

 雷槍を貫いた矢がそのまま跳弾でフィールドを駆け巡るのを見ながら、暴雨に濡れた口元を拭う。


(風向きの変わり方が余りにも不自然だ。つまり、この嵐は自然現象じゃなくリヴァイアの魔法の一種。……なら、があるかもしれない)


 肌で風を感じ、違和感の正体を断定する。

 もし本当に規則性があるのなら、計算が簡単だ。


(5秒毎に風向きが変動するみたいだな。……このまま駆け回る!!)


 高速で移動を続けながら、跳弾に必要な計算を続ける。

 狙うは一撃必殺。

 余計な思考を削ぎ落し、ただその一撃の為の準備を整え続ける。


『【暗天冥淵】!!』


 リヴァイアが魔法を発動させると、何もない空間に真っ黒な穴が出現する。

 そこから幾つもの腕が出現し、俺を捕まえようと凄まじい速度で飛び出してきた。


「ここに来て新技はタチが悪いな!」


 そう言いながらも、腕の隙間を掻い潜って移動を続ける。

 腕が絡まる様に移動し、初見で完封すると、リヴァイアは休む間も無く連続で魔法を使用する。


『やるな、村人A!【水弾乱舞】!!』


 巨大な水玉が弾け、水弾が海遊庭園中を駆け巡る。

 その行動は跳弾使いの俺にとっちゃデレ行動だぜリヴァイア、俺のターンと行こうか!!


「【彗星の一矢】!」


『その攻撃が当たるとでも?』


「ちっ」


 俺の放った矢はリヴァイアに向かって真っすぐ飛来するが、横にズレるだけで躱されてしまう。

 聖なる焔の残り時間は1分。それまでに、リヴァイアに命中させなければならない。


『クハハハハハ!! このままでは我に攻撃を当てる前に聖なる焔が燃え尽きてしまうぞ?』


「安心しろ、ぜってぇぶち抜いてやる!!」


 リヴァイアの煽りに対し、笑みを浮かべながら返答する。


『ならば、その前に貴様を潰して見せよう!!』


 リヴァイアが大口を開けてこちらへと襲い掛かる。

 すぐにその場から離れると、停止していた水の巨人が再び雷槍を構えようとしているのが視界に入った。


『【巨人の雷槌タイタンズ・トール】!!』


「っぶねぇ!!!」


 紙一重で雷槍を回避し、続くリヴァイアの噛みつき攻撃も避ける。

 まだフィールドをランダムに跳ね返り続ける【水弾乱舞】を鬱陶しく思いながらも、矢を構える。


「【彗星の一矢】!」


 再び放った【彗星の一矢】は、リヴァイアから大きく外れて飛んでいく。

 それを見たリヴァイアは、呆れたように。


『どうした? 動き疲れて射撃が定まってないぞ!!』


 リヴァイアはそう言いながら、頭上に巨大な魔法陣を展開する。


『我が奥義で葬ってやろう!! 【冥王水刃葬】!!』


 魔法陣から出現するのは、剣や槍、斧などの武器を模した水弾。

 埋め尽くす勢いで出現したそれを見て、冷や汗を垂らしながらも気を引き締める。

 ここが勝敗を分ける正念場だ!!


『避けれる物なら避けてみるが良い!!』


 幾百もの武器が次々と打ち出され、迫る脅威を前に口端を吊り上げる。

 懐に忍ばせておいた、スタミナを一時的に消費しなくなる『秘伝の丸薬』を噛み砕き、再び移動を開始した。

 空中床を展開し続け、器用に回避する俺を見て、リヴァイアは笑う。


『いつまで持つかな、貴様の体力も!!』


「残念、ドーピングのおかげで俺の気力が続く限り無限大さ!!」


 一度生成した床を再度使いながら、海遊庭園中を駆けていく。

 俺を仕留めようと飛来してくる武器に矢を放ち、跳弾で消し飛ばしながら、に向かって走り続ける。

 二十秒にも渡る逃走劇。障害物などを活用しながら回避しきるが、俺はそれでも尚足を止めずに走り続けていく。──リヴァイアの居る位置とは、反対方向に。


『敵前逃亡とは見損なったぞ!! 村人A!!』


 リヴァイアの激怒が遠く離れた位置に居る俺にまで伝わってくる。

 おいおい怒るのは早いぜリヴァイア。まだ気付かないのか?

 

『……? まさか…………貴様ッ!!』


 リヴァイアが遠くに居る俺……つまり、事でその事実に気付き、驚愕に目を見開いた。


!!』


 魔力を探知出来るリヴァイアだからこそ、その不自然さに気付いたのだろう。

 空中床は同時作成数に限度があるから、逃げ回るのなら一度消してまた生成すれば良い。

 なのに何故、一度使用した足場をずっと残し続け、再度使用しながら逃走していたのか。


 だって、そもそもそれは──のだから。



「──



 最高速度を維持しつつ、振り向きながら跳躍する。

 その状態で矢を極限まで引き絞ると、青と白の燐光に、聖なる焔が入り混じった。


(風速25m/s、3秒後南南西から南西に風向きが移行、リヴァイアの位置予測開始────)


 澄み渡る思考。

 その瞬間、時間がゆっくりになったかのような錯覚を覚える。

 俺の脳は、これまでのゲーム人生の中でも最高クラスにフル回転していた。


(湿度、気温、重力、偏差、跳弾角度────計算完了オールコンプリート


 その身で感じる五感全てを総動員し、逆鱗までの跳弾ルートを導き出す。

 指を離すその瞬間まで、一片たりとも集中力を切らさない。


「これで決める!!」


 舞台は整った。

 この戦いを終わらせる為の、最後の一撃を放つ!!!



「【聖焔せいえんの一矢】ァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」



 吠えると同時に、矢を解き放った。

 俺の身体を纏う聖なる焔が全て矢へと乗り、聖なる焔のバフが消失する。


 瞬く間に海遊庭園を駆け巡る赤色の流星。

 俺が移動してきた足場全てを使い、三度の射撃で破壊する事で作り上げたフィールドを跳弾していく。



「ぶち抜け!!!」



 通算25回目の跳弾で、こちらへ襲い掛かろうとしていたリヴァイアの逆鱗に矢が突き刺さり、聖なる焔がリヴァイアを貫いた。



『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』



 リヴァイアが上げる断末魔の如き咆哮。

 HPバーが減少していき、ゆっくりと0へと向かっていく。

 もしや途中で止まるのでは……と思ったのも束の間。確かにリヴァイアのHPバーは底を突いた。

 

 その瞬間、嵐は止み、リヴァイアの身体が地響きを立てながら地へと伏した。


 それを見届け、地面へと降り立つと、達成感に息を吐き出した。

 


標的撃エネミーダウ……」



≪英雄を前に、冥王龍リヴァイア・ネプチューンが最後の力を振り絞る……≫



「ッ!?」



 そこまで呟いたその時、リヴァイアの身に異変が起きた。

 HPが0になり、息絶える筈だったリヴァイアからドス黒いオーラが溢れ出ると、腕を振り上げたのだ。


(まだギリギリ残っていたのか!?)


 リヴァイアを注視し、HPバーを確認してみるが、確かにHPバーは0を示す漆黒に染まっていた。

 振り上げていた腕が勢いよく地面へと振り下ろされ、盛大な地響きを起こすとゆっくりとその身体を起こしていく。



 俺は、いや俺達は誤解していたのだ。

 作戦を立てた当初から、海遊庭園における最大のミスを犯している事に気付いていなかった。



『見事だ、英雄トラベラーよ』



 最大のミス、それは。


 ──退──その考えだった。



『ならば、我も全身全霊を以て応えよう。万物万象を灰燼に帰す、我がにて』



 死の淵に立っていたリヴァイアの瞳に、業火の如き輝きが灯り出した。

 すると、漆黒に染まったHPバーが再び色を取り戻し、10%まで回復する。

 正真正銘、死力を尽くす冥王龍リヴァイア・ネプチューンの最後の足掻き。

 聖なる焔が消えた今、そのたった10%が絶望的な壁となって立ち塞がる。


「嘘、だろ」


 思考が停止しかけるが、リヴァイアは止まってくれない。

 リヴァイアが大口を開き、そこに尋常で無い量のマナが収束し始める。

 この空間のリソース全てを喰い尽くすのでは無いかと思える程の膨大なマナが、一つの球体を生成した。

 



『【冥星】』




 リヴァイアがその技を放った瞬間、海遊庭園に静寂が訪れた。

 まるで冬の夜空のような美しい漆黒の球体が、周囲の音すらも呑み込み、ゆっくりと降下を始める。

 その球体を視界に入れた瞬間、本能が全力で警鐘を鳴らした。



 あ れ は 、 駄 目 だ。



「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」



 あの球体は、いかなる回避手段を用いたとしても回避しようのない、強制全滅ワイプ技。

 リヴァイアを時間内に削り切る事が出来なかったのが原因で発動した技だろう。


 吠えながら、思考を回し続ける。

 どうすればここから勝てる?

 聖なる焔はもうその効力を失った。聖なる焔無しで、リヴァイアのHPを10%削り切るのは不可能に近い。いや、逆鱗に命中させても不可能だろう。

 なら再び聖なる焔を纏って攻撃するか? いや、そもそも聖なる証を持っていない状態での焔の取得は出来ない。


 考えろ、今の状態でリヴァイアの体力を削り切る方法を。

 考えろ、あの球体の対処方法を。


 考えろ、考えろ、考え続けろ────。


 

 ──本当にここで、終わりなのか?



「まだだ!!!」


 矢を引き絞り、リヴァイアの逆鱗に狙いを定める。

 最初から終わりだって決めつけるんじゃねぇ! 最後まで足掻き続けて、それでも無理だった時にだけ手を止めろ!!!

 

 そう思い、【終局の弾丸ゼロ・ディタビライザー】の詠唱を始めようとした次の瞬間。




『よくぞ、ここまで耐えた』




 静まり返った海遊庭園に、その声は良く響いた。

 聞き覚えのある声。だが、この場所に居る筈が無いと脳が否定する。

 信じられない気持ちで振り返ると、俺の想像通りの存在が飛び出した。



『【冥】!!!』



 乱入者の放った球体が、リヴァイアの放った【冥星】を呑み込み、激しくスパークを起こした。

 激しい力と力のぶつかり合いが、衝撃波となって周囲に拡散していく。

 そうして数秒が経ち──エネルギーを消費しきった球体は消滅した。


 思わず思考が止まる中、乱入者がこちらへと顔を向ける。



『間に合ったようだな。まさか、このような遥か遠い地に居たとは。……おかげで、到着するまでに時間が掛かったわ』



 その乱入者──は愉快そうに笑う。


「お前────」


 なんでここに。そう言おうと思った瞬間、ディアライズが淡く輝いた事で気付く。

 先ほど厨二がスキルの効果で姿を隠していた時に、リヴァイアは魔力探知によってその居場所を暴いてみせた。

 リヴァイアの血縁であるリヴェリアならば、同じ能力を持っていてもおかしくはない。


 つまり──予めリヴェリアが自身の素材を俺達に託し、装備の強化に使わせたのはこの時の為だった、という事か。


 その事実を認識し、思わず乾いた笑いが漏れる。


『……生き残っていたのは貴様一人か。だが……』


 リヴェリアが視線を俺から逸らすと、リヴァイアへと向けた。


 産まれてから現在まで会っていないと言っていたので、実に三千年ぶりの邂逅。

 自身の産みの親であるリヴァイアを前に、リヴェリアは何を思うのだろうか。

 満身創痍の状態のリヴァイアを見て、リヴェリアは静かに目を伏せた。


『……それでもあの五天龍をここまで追い詰めるとはな。……やはり私の眼に狂いは無かったようだ。トラベラー、貴様らならばきっと……』


 リヴェリアはそう言うと、顔を上げる。

 その瞳に迷いは無く、自らの望みの為、戦う決意が漲っていた。



『──共に行くぞ、トラベラー!! 我が父を超え、あの兄弟の下へと辿り着いて見せるぞ!!』


「──ああ!!」



 絶望的な状況を覆す、思わぬ助っ人に再び闘争心が蘇る。

 聖なる焔はもう纏えない。だが、まだ終わった訳ではない。

 最後の最後まで、俺は戦い続けてやる!!





 再び矢を装填した俺の視線の先に──最後の希望赤白く燃える焔が、逆鱗の下で静かに揺らめいていた。


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