#222 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その二十二 『紫電』
「オラオラオラオラオラァ!!!!」
剣閃が無造作に閃くと、リザード達が瞬く間にポリゴンへと転じる。
技術なんてあったもんじゃない、そんな力任せな振り方であろうと、聖なる焔+【
聖なる焔、残り五十秒。その制限時間までにリザードを処理仕切れなければ、リヴァイアへの火力が不足する可能性が出てくる。
それだけは絶対に避けなければならない。
「【ライトニングスラッシュ】!」
それをカバーするのがライジンの役目だ。
正確さよりもスピード優先である為、当然取りこぼしも出てくる。串焼き団子の攻撃で宙に浮いたリザードを、串焼き団子の後ろを駆けるライジンの手によって、一匹残らず処理していく。
その場その場での対応力の高さは、数多のゲームをプレイしてきたライジンだからこその強みだ。
(流石RTAのWR複数持ちの
リザード達を切り伏せながら、串焼き団子はライジンに対する認識を改める。
VRというジャンルが全盛の現在、RTAというカテゴリも人気ゲームの競技部門に匹敵する程の人気を誇っている。
当然そうなれば人口も多く、我こそはと名乗りを上げて挑む者も少なくない。
そういった背景もある事から、一つのゲームを極めれば尊敬に値するというのにも関わらず、幾つものゲームでWRを保持しているというのは素直に尊敬している。世界全体で見ても指折り数える程しかその偉業を成し遂げた者は居ないのだから。
(こいつの事は気に食わねぇが、背中を任せる上でこいつ以上に頼りになる奴は居ねぇな!)
串焼き団子は微かに口元を緩めると、地面を強く踏みしめる。
地面を蹴り砕きながら跳躍し、迫り来る
そしてそのまま空中床に飛び乗ると、手慣れた操作でアイテムストレージから感応石を取り出し、感応のネックレスに取り付ける。
「ライジンは引き続き取りこぼしの処理を頼む! 俺は前線でリザード共のヘイトを引き受ける!」
「了解!」
串焼き団子は空中床から離脱すると、再び地面に着地した瞬間に装備を変更。背負っていた弓を装備すると背中から光の矢が生成され、射撃と共に放たれる。
リザード達を襲う光の雨。その中をライジンがひた走り、運良く串焼き団子の射撃から逃れたリザードを処理していく。
串焼き団子は視界に映る残りのバフの時間を見ると、一つ息を吐いた。
「残り、三十秒……!!」
リザードの数は先ほどの半分以下にまで減りはしたが、それでもまだかなりの数が居る。このペースで処理すればギリギリ効果終了までに間に合いはするが、問題は先ほど攻撃を加えてから最奥まで後退した
リザード一体分と換算するのには無理がある為、本来ならば残り時間全てを注ぎたいぐらいだが……。
『【
氷塊を降らせ続けていたリヴァイアが別の魔法を展開すると、上空から水の柱が勢いよく射出された。
村人A達が慌てて処理をしようとするが、間に合わない。
「チッ……!!」
リヴァイアも圧倒的な力でリザードを殲滅し続ける串焼き団子を脅威と見たようで、水の柱は串焼き団子を目掛けて迫り来る。
舌打ちを鳴らし、なるべく水の柱を引き付けてから地面へと着弾させる。
ノーダメージで処理する事が出来たが、今の一連の回避で五秒もの時間をロスしてしまう。
「貴重な時間をッ……!!」
その時、串焼き団子の脇腹の辺りに衝撃が伝わる。
リザードの飛ばした毒棘が、串焼き団子の身体に突き刺さったのだ。
「団子君!」
「んにゃろぉ!」
串焼き団子が毒棘の放たれた方向へと弓矢を引き絞ると、即座に射撃。
毒棘を飛ばしたリザードはそれで消滅したが、串焼き団子に刺さった毒棘はそのままだ。
聖なる焔のデバフ無効化によってDotダメージこそ受けないが、このままでは制限時間が切れた後に【猛毒】状態が付与されてしまう。
「串焼き先輩、そこから動くな!」
と、ネックレス越しに声が響き渡ると、後方から青と白の燐光を纏った矢が飛来する。
串焼き団子に飛びつこうとしていたリザードがその矢に貫かれると、そのまま空中に生成された床によって跳弾し、その後もリザード達を屠り続ける。
一射だけでリザード達を何体も処理した村人Aは、串焼き団子に問う。
「毒棘は抜けるか!?」
「駄目だなこりゃ、奥深くまで突き刺さってやがる。バフが切れたらそのままリタイアだな」
串焼き団子の言葉に、村人Aは後悔するように顔を歪める。
だが、串焼き団子はにやりと笑うと、矢を装填する。
「安心しろ。ちゃんと俺は役目を果たしてからリタイアする。……
串焼き団子が再び矢を放つと、リザード達は抵抗する事も出来ずにポリゴンへと変わる。
後悔している暇は無い。雑念を切り捨て、先ほど以上の処理速度でリザード達を屠り続ける。
それから十秒程が経ち、遂に残っていたリザード達の処理が完了する。
「残り十秒! ラストは──」
ライジンが顔を上げ、最後に残った王水龍へと視線を向ける。
彼我の距離、およそ200m。とてもじゃないが、今から全力で走っても間に合う距離ではないし、それから交戦するのは不可能だ。
王水龍は安全圏から大量の水の剣を生成し、ボスエリアで戦闘を続ける串焼き団子達へと刃を向けていた。
「クソ、流石に無理か……!?」
聖なる焔のバフが無くなってしまえば、王水龍を処理するのには時間が掛かる。
リヴァイアとて、それを黙って見過ごす筈が無い。今は海遊庭園のフィールド外から攻撃を加えてきているが、このエリアに戻ってくるのも時間の問題だ。
リヴァイアが居ない今が、雑魚処理のラストチャンスだと言うのに。
「団子さ……」
ライジンが言葉を発するよりも早く、既に串焼き団子は動き出していた。
一歩ごとに加速し、ボスエリアの足場ギリギリまで到達すると、大跳躍する。
「無理? 不可能? ──何勝手に決めつけてやがる!!」
空中床を踏みしめると、串焼き団子が腰に下げていたとある短刀を抜き払う。
刀身が露わになると、海遊庭園に差し込む光によって紫色の輝きを放った。
「良いか、良く聞け変人共! プロゲーマーってのはなぁ!!」
短刀から迸る紫色の雷が串焼き団子を包み込むと、王水龍へと迫る串焼き団子の身体を更に加速させる。
空中に描かれた紫色の軌跡は、瞬きの内に王水龍の手前まで到達する。
「誰もが不可能だと思う事を可能にする、最高の職業なんだよ!!!」
彼の妹であるシオンが串焼き団子の為に槌を振るった、紫色の短刀──その名も。
『
「【紫電一閃】!!!」
ズバァンッ!!
串焼き団子の放った閃光の如き一閃が、王水龍の首を両断した。
一瞬にして駆け抜けた空間に、遅れて紫色のプラズマエフェクトが大量に発生する。
展開されていた水の剣が消失し、王水龍は最後の断末魔を上げるとそのまま大量のポリゴンとなって爆ぜた。
ポリゴンの雨を浴びながら、串焼き団子は呟く。
「
次の瞬間、聖なる焔のバフの効果時間が終了する。
そして、それと同時に──彼の身体に刺さった毒棘により、【猛毒】が付与。ギミックが発動し、状態異常が加速する。
HPバーは一瞬にして真っ黒に染まり、その身体がボロボロと崩れ落ちていく中、串焼き団子は満足気に吐息を漏らした。
「俺は俺の仕事を果たした。──後は任せたぜ、変人共」
『串焼き団子』脱落。生存メンバー、残り四名。
◇
同時刻、【海遊庭園】より20km地点。
『──ようやく見つけたぞ』
星海の海岸線、海洋地帯。複雑な地形によって隠された秘境、【海遊庭園】。
そこへと向けて、何者かが凄まじい勢いで迫り来ていた。
────
【補足】
『雷刀紫電』
シオンが串焼き団子の為に打った一振りの短刀。
元々、シオンが戦闘の時に使用していたメイン装備である刀を分解し、それを元にアダマンタイト等の上質な素材を混ぜて作成した武器である。
AGIを瞬間的にブーストし、その実数値の分だけ強力になるアクティブスキル【紫電一閃】が使用可能。
共に戦えなくとも、心は傍に。
きっとその武器に、彼女の思いは受け継がれている。
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