#220 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その二十 『プロゲーマー』
厨二のデスポーンと同時に【
最奥の壁へと激突すると、まるで巨大な爆弾でも落としたかのような轟音が海遊庭園中に響き渡る。
リヴァイアのヘイトを一身に引き受けていた厨二の甲斐あって、他のメンバー達は間一髪の所で安地に到達し、回避する事に成功していた。
息も絶え絶えになりながら、すぐに全員の安否を確認する。
「全員無事か!?」
「何とか……」
「流石に厨二はあの状況から救出出来なかったけどな……」
串焼き団子がボスエリアを見ながらそう呟くと、ボッサンは目を閉じ、頭を緩く振った。
「……だが、厨二のおかげで大幅にリヴァイアのHPを削れた。当初の作戦通りではある」
現在のリヴァイアの残りHPは42%。ボッサンの言った通り、当初の想定よりも大きくHPを削る事に成功している。
だが、今までが上手く行っていたからと言って、今後もそれが続くとは限らない。
その事を思い知らしめるかのように、彼らの視界にポップアップが表示された。
≪Caution! 【
そのポップが表示されると同時に、パァン!と鋭い破裂音が下方から聞こえてくる。
【
ライジンはその光景を眺めながら、苦い表情を浮かべる。
「想定していた中でも一番最悪な展開だな……」
これまでのリヴァイアとの戦闘はリヴァイアのみと戦闘していたからこそまともに渡り合えて来た部分もある。
しかし、安全地帯が消滅した今、海遊庭園に生息するモンスター達とも同時に相手しなければならなくなってしまった。
それに加えて、もう一つの大きな問題にも直面している。
「
ボスエリアがギミック無効のシャボン玉に包まれているとは言え、もしボスエリアだけその効果の適用範囲外だったらリソースの無駄だ。不要な
しかし、シャボン玉が破裂した今、道中で苦しめられてきたギミックがボスエリアでの戦闘でも容赦なく発動するようになったのは確実だろう。
バフ無効に加え、デバフ加速……それを気にしながら戦闘しなければならない。
今この時点を以てして、リヴァイア戦の難易度が急激に跳ね上がってしまった。
しかし、一概にも悪い事ばかりが起きている訳ではない。
『時間が巻き戻り、空間が再構築されていく……』
キィン、と甲高い音が鳴り響くと、続けて時計の針がチクタクと動くような音が響き渡る。それによってリヴァイアの攻撃によって破壊され尽くした地形が修復されていく。
ボスエリアは再び広い地形へと戻り、攻撃を避けるのに十分な障害物も再生された。
「流石にこの大技後には救済措置があるみたいだな。これで地形元通りじゃなかったら戦闘どころじゃないし……」
「【空中床作成】の連続生成回数にも限界があるしな。こればかりは運営の温情に感謝だな」
幸い、【
割れた瞬間に地獄へと変貌するのだが、この時間だけは、彼らに与えられた数少ない休息の時間だ。
≪ここに証は示された。聖なる焔は受け継がれる……≫
システムメッセージがポップし、次なる聖なる証のプレイヤーが選定される。
聖なる証が付与されたプレイヤー……串焼き団子は、「お」と声を漏らす。
「俺が聖なる証持ちだな。付与タイミング的には完璧だな」
にやりと笑った串焼き団子に対し、ボッサンがほっとしたような表情で頷く。
「確かにここで串焼き君が選ばれたのはラッキーだったな。村人か俺が付与されてたら目も当てられなかった所だ」
「ボッサン酷くね? 俺が証持ちだったとしてもちゃんと活躍する気はあるんだが?」
「村人はどっちかって言うとボス特化だろ。お前さんの腕前はチームメンバーだから良く分かっているが、それとこれとは話が別だ。第一、
「ぐぬ、跳弾使えば何とか行けたり……」
「無理。いや、やれなくはないだろうけど流石に対多数はポンとかの方に分があるから」
「ぐぬぬ……」
「まあそういうこった」
残念ながら誰一人として味方してくれない状況に村人Aはふてくされたようにそっぽを向いた。
そんなやり取りに柔らかく笑みを浮かべていたポンがふと違和感に気付く。
「……そういえば、ボスはどこに?」
ポンの呟きを聞いたメンバー達が下方へと視線を向ける。
しかし、そこには既にリヴァイアの姿は無く、その事に気付いて直ぐに警戒態勢を取る。
「一体いつの間に移動したんだ!?」
「落ち着け、あの図体のデカさだ! きっとすぐに見つかる……!」
しかし、いくら探せどもその姿は見つからない。
まさか、今の【双壁】の巻き戻しの力で、リヴァイアも最初の状態に戻されたのか?
そんな最悪の状況が頭を過ぎったその時だった。
彼らの頭上……アーチ状になっている天井部分から、気泡の音がゴポリと聞こえてくる。
「上か!!」
バッと自分達の頭上へと顔を向ける。
それから間もなく、リヴァイアの影が視界に映った。
『クハハハハハハハ!! 良いぞ、良いぞ! それでこそ、神を打ち倒さんとこの場に集いし者達よ!! ならば、この困難も超えて見せよ!【アイシクル・バースト】!!』
頭上から響き渡るリヴァイアの笑い声。
続けて、巨大な氷塊が安全地帯の上空に出現すると、勢いよく射出される。
弾かれたようにその場で散開すると、氷塊が一瞬でシャボン玉を割り、安全地帯の地面を粉々に粉砕した。
「くそっ……!?」
体勢を整える間も無く、空中に放り出される。
【空中床作成】で足場を展開して落下の衝撃を緩和しつつ、ボッサンが吠えるように指示を出す。
「各自このまま散開して的を絞らせるな!! リヴァイアの攻撃を避けながら聖なる焔の奪取に向かえ!」
『了解!!』
短い休憩の時間は終わり、緩みかけていた気を引き締め直す。
次々と上空から氷塊が降り注ぎ、それを回避しながら聖なる焔へと向かう。
『流石にこの程度では仕留められぬか。ならば、行け! 我が配下達よ!! 庭園を穢す侵入者共を轢き潰せ!!!』
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
リヴァイアの号令と共に、海遊庭園に響き渡る怒号。
弱肉強食の世界で生きてきたリザード達は、その頂点である王の命令に従い、命を賭して侵入者へ牙を向ける。
クリスタルリザードを始め、レッサーアクアドラゴンのような強敵、果てにはキングアクアドラゴンまで。
まさしく地獄を体現したかのような集団が、一斉に彼らの下へと押し寄せる。
「流石にこの数はマズイ……ッ! 幾ら団子君でもこれはッ……!!」
一人で処理できるレベルを遥かに超えている圧倒的な物量を前に、思わずボッサンがそう口にする。
「団子君、どうする!?」
だが、それを聞いた串焼き団子はすっと目を細め、真剣な声音でボッサンへと返答する。
「違うだろ。今回の
「……ッ!」
ボッサンは思わず串焼き団子の方へと顔を向ける。
細められた串焼き団子の目に宿る闘志。これだけの大群を前にしても一切怯むことなく、むしろ楽しんでいるかのような彼の表情を見て、苦笑を一つこぼす。
「……分かった。団子君、いや。
串焼き団子の意図を理解したボッサンは、静かに首肯する。
現役FPSプロゲーマー、串焼き団子。
その男の可能性に賭ける事にした。
「迫り来るリザード達を殲滅しろ!!」
「了解」
その声に一切の迷いは無く、ただ課された
串焼き団子は高台から飛び降り、聖なる焔の前に降り立つとそっと一つ息を吐き出す。
そして聖なる焔に手を伸ばし、身体が赤白い炎に包まれた串焼き団子は、ボスエリアへと迫り来る大軍勢に身体を向けた。
「さぁて、前回はよくもだっせぇ死に方させてくれたな? こちとらお前らにリベンジする為に牙を研ぎ続けてきたんだ。ようやくリベンチマッチが出来ると思うとワクワクが止まらねぇ」
矢筒から矢を複数抜き取り、弦に矢を番えると、不敵に笑った。
「良い機会だ、変人共。プロとアマの違いって奴を見せてやる」
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