#216 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その十六 『聖なる焔』
「《空を灼け》────【灼天】!!」
聖なる焔をその身に宿したライジンが、ギミックの都合上本来使用してはならないスキル……【灼天】を使用した。
途端、ライジンの身体が急速に燃え上がった。その身体から発せられる圧倒的な熱量が、彼自身の身体を焼き尽くす……事は無く。
聖なる焔の赤白い炎と、【灼天】の真紅の炎が混在し、その火力を引き上げていた。
「なんで……!?」
ポンが困惑したように声を漏らす。
それもそうだ。【灼天】は使用中常に
ライジンはそんなポンの困惑を察してか、ブレスレットに向けて。
「村人、全員に伝えてくれ。『聖なる焔』に触れた証持ちは、【聖焔】状態が付与される。【聖焔】状態になると、
言いながら、ライジンはポンの爆撃を食らい、未だ動かぬリヴァイアに向かって駆け出す。
「バフの制限時間はたったの
「二分!?」
SBOではボス戦闘時のHPバーは、その姿を視界に納めている間表示されている。
そこに表示されているリヴァイアのHPバーを見てみると、ライジンとの交戦によって与えられたダメージは1ドット程度の物。
それが意味するのは、聖なる焔というギミックをこなさずにリヴァイアを屠るのは不可能だという事の証明だ。
(つまり、さっきリヴァイアが攻撃を受けたのは──)
そこから推測するに──ポンの攻撃を受けたのは、不意打ちで気付けなかったからではない。
──たかが普通の人間の攻撃など、
「悠長に戦闘している暇は無い! バフの効果が切れる前に畳みかける!」
そう判断したライジンはリヴァイアに斬りかかろうとした瞬間、地面が振動し、体勢を崩す。
『今の隙に、聖なる焔に触れたか』
ポンの爆撃によって生じていた煙が晴れていく。
顔を覆う鱗は少しばかり黒ずんでいた物の、ダメージが入っている様子は無い。
煙の向こう、真紅の瞳は静かにライジンを見据えていた。
『聖なる証を持つ者よ。……その焔を以てして、我に力を証明せよ!』
間髪入れず、咆哮。全身を叩き付けるような衝撃波と共に、音の爆弾がライジンとポンの二人を襲う。
反射的に耳を塞いだ直後に、リヴァイアがその大口でライジンを呑み込まんと襲い掛かる。
「【灼天・
すぐさま気を取り直したライジンが勢い良く炎を噴出。地面を融解させる程の強烈な熱がリヴァイアの身体を焼き焦がす。
だが、それでもリヴァイアは止まらない。ライジンは双剣を抜刀すると、吠えるようにスキルを連続発動させる。
「【灼天・
双剣を伝うように赤と白の炎が包み込んでいき、その勢いのまま剣を振るう。
直後、リヴァイアの牙と激突。凄まじい熱を浴びて尚溶ける事無い強靭な牙に、思わずライジンは舌打ちを鳴らす。
「【
と、咆哮による硬直から抜け出したポンが、リヴァイアの顔面に向けて小規模な爆破を連続して起こすスキルをお見舞いする。
一発一発はそこまで火力の無いスキルだが、顔面に直撃を受け、苛立ったリヴァイアの瞳がギロリとポンの方へと向いた。
「ッ!」
ぐりん、とリヴァイアの顔がポンの方へと向き、口元にマナを収束させる。
直後に放たれる極太のレーザー。ポンは【
だが、ポンが身を挺して作り出した隙に、ライジンは離脱に成功した。
「悪いポン、助かった!」
地面へと降り立ったライジンが、【灼天・鬼神】を発動。聖なる焔の効果により、理性値を消費する事無くライジンの肉体が超強化され、双剣をリヴァイアに振るった。
ガイン!と金属音に似た音を奏でると、頑丈な青黒い色の鱗がひしゃげ、そのまま炎で傷口を燃やしながら切り裂く。その攻撃で全く減る事の無かったHPバーが、僅かに減るのを確認した。
──だが。
(聖なる焔込みでもこれだけしか入らないのか!?)
確かにこれまでとは違って減りはしたが、たったの二分しかバフが乗らないというのにも関わらず、それでも全体の1%にも満たないダメージ。
もし、リヴァイア戦でのタイムリミットが設定されているとすれば、到底削り切れないだろう。
(スキルで攻撃した訳じゃないとは言え、鬼神が乗ってこれだぞ……!? 通常攻撃じゃあ、絶対に勝ち目がねぇ……!!)
ライジンが上空を仰ぎ、睨みつけた先はリヴァイアの逆鱗。
どうにかしてタイムリミットまでにリヴァイアの体力を削り切るには──龍族共通の弱点である逆鱗に攻撃を命中させなければならないだろう。
だが、それをリヴァイアが許す筈も無く。
『刃の雨に逃げ惑うが良い!【
リヴァイアが魔法を発動すると、瞬く間に暗雲が立ち込める。
ぽたり、と暗雲から雫が零れ落ちると、その勢いがどんどん強烈になってくる。
やがてその勢いは雨粒一粒一粒が地面を穿つ程にまで増し、ライジンへと向けて進行を始めた。
「くっ!?」
【灼天】の炎を振るい、上空から迫る雨を蒸発させる。
それで蒸発出来たのは一瞬だけで、舌打ちを一つ鳴らしたライジンは地面を踏み締めて疾走する。
『【
再び、リヴァイアから放たれる氷塊の嵐。
【
「【
スキルの効果で強化されたボムが爆ぜ、強烈な爆風によって上空に立ち込める暗雲を諸共吹き飛ばした。
続けて、ライジンの前に立ち、残る片腕で拳を構える。
「【水龍爆撃掌】!!」
ポンの拳から放たれる爆発が、飛来してくる氷塊を粉々に粉砕した。
(行ってください!)
ポンが視線でそう言い、ライジンに笑みを向けると、こくりと頷き返す。
(マジでポンのカバーに救われてるな……! このレイドが終わったら村人に労ってもらおう)
ライジンは心の中でポンに再度感謝を述べると、再び走り出した。
「【クリティカルゾーン・改】!!」
効果時間が終了し、消えてしまった陣を再度展開する。
連続で攻撃が当たっている間、クリティカル効果が上昇し続けるというこのスキルは、実はこの【海遊庭園】に於いて有用なスキルの一つだ。
【
【クリティカルゾーン・改】のバフ自体はバフを得た瞬間に効果が消えてしまうが、陣そのものが消える訳ではない。陣が消えない限りは
(効果値を最大にまで引き上げてから弱点に叩き込む! 打ち合わせ通り頼むぞポン!)
聖なる焔関係でバフが得られる事は予め予想していた。
【クリティカルゾーン・改】圏内で、ポンがリヴァイアの胴体に攻撃を開始すると、ライジンの持つ双剣が淡く輝き始める。
ライジンも同じように、一撃を重視するよりも、手数を優先して攻撃を開始する。
『鬱陶しい』
ライジンとポンの攻撃を煩わしく感じたリヴァイアが大きな水玉を二つ生成。
嫌な予感を覚えたライジンとポンは、バフの効果を切らさないようにするべく即座に【クリティカルゾーン・改】の圏外へと離脱すると、一拍遅れてリヴァイアの魔法が発動する。
『【水弾乱舞】!』
水玉が弾け、弾丸のような形状の水滴となり、壁や地面を跳ね返りながら飛来する。
既視感のあるその光景を見て、ひくりとライジン達は頬を引き攣らせた。
「くそ、まるで村人を相手にしてる気分だ!」
迫りくる水の弾丸を、ライジンは空中で回避する。
【空中床作成】で空中に着地すると、追撃を回避するべくすぐに飛び退き、次の足場へ。
『ちょこまかと……!!』
リヴァイアも負けじと即座に水玉を四つ追加生成。
すぐに水玉が弾け、高速の水の弾丸が縦横無尽にフィールドを駆け巡る。
だが、それでもライジン達に当たる事は無い。
(はっ、この時ほど身内に似た技を使う人間が居て良かったと思った事は無いな!)
村人Aの跳弾は、正確無比に相手を狙い撃つ技術を持ち合わせているが、リヴァイアのこの魔法はただ悪戯に放っているだけに過ぎない。
跳ね返りの挙動は、見慣れているからこそ回避するのは容易かった。
水弾の中を掻い潜り、ライジンとポンはリヴァイアに着実に攻撃を加えていく。
バフの効果値が最大に近づくと、ポンは【星降りの贈笛】へと装備を切り替え、演奏を開始する。
「【アパッシオナート】!!」
戦場に音色が響くと、ライジンの身体が光に包まれた。
それと同時に【クリティカルゾーン・改】の効果が最大まで到達し、神々しい光に包まれたライジン。その状態での攻撃を警戒し、リヴァイアは上方を向き、口元にマナを収束し始める。
(今だ!!)
リヴァイアの特大の隙に、ライジンは【雷鳴疾走】を使用し、加速しながら跳躍する。
だが、それこそがリヴァイアの狙いだった。
『あっさり食いつくとはな』
リヴァイアが口元に収束させていたマナを保持したまま、顔をライジンへと向けると、巨木のような腕を振り上げた。
既に足は地面から離れ、止める事は敵わない。
(──まずい、釣られた! くそ、止まれ止まれ止まれ……!!)
ライジンの視界に迫るリヴァイアの爪。被弾してしまえばデスポーンこそしないものの、その時点で【クリティカルゾーン・改】のバフ効果が消されてしまう。
バフの残り時間も少なく、再び【クリティカルゾーン・改】の効果最大値まで盛るような時間も無い。
脳内であらゆるシミュレーションを敢行。しかし、どの手段を取ったとしても、被弾は避けられない。
歯を食いしばり、甘んじて攻撃を受け入れようとしたライジンに、一つの声が届く。
「
端的に告げられる、村人Aの音声。
リヴァイアのヘイトを向ける目的のフェーズ1。道中ライジンをサポートしながらボスエリアへと到達するフェーズ2。そして、リヴァイア戦において重要な役割を果たすフェーズ3は……。
次いで、村人Aが使用していた感応のネックレスの接続が途切れ、新しい接続が割り込んできた。
「──こっちを向きやがれ!! 【ターントゥアンカー】!!」
『ッ!?』
リヴァイアの視線が、このボスエリアに到着した新たなプレイヤーへと向けられる。
スキルの効果で強制的に身体を向けさせられたリヴァイアは、ライジンの身体を捉える事が出来ず、空振った腕は地面へと叩き付けられた。
その隙を、ライジンは逃さない。
「ナイス、ボッサン!」
口元に薄っすらと笑みを携えながら、ライジンは体勢変更の為に作成した空中床を踏み締める。
【聖焔】バフが切れるまで残り十秒。【灼天】の残る全エネルギーを集中させると、双剣が白と黒の炎に包まれた。
【クリティカルゾーン】の最大値、そしてポンの【演奏家】のスキルによって得られたバフが乗った双剣を強く握りしめ、交差させると。
「【聖焔双撃】!!!」
『グオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』
ザンッ!! と派手な斬撃音を響かせ、リヴァイアの弱点、逆鱗をX字に斬り払った。
初めて聞くリヴァイアの悲痛な絶叫を聞きながら、ライジンは高らかに宣言する。
「反撃開始だ!!」
レイドボス【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】。残存HP、残り78%。
絶望的な実力差を覆し、反撃の狼煙が上がる。
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