#214 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その十四 『名乗りを上げよ』
「一番の懸念事項について、予め打ち合わせしておこうと思う」
レベル上げの合間を縫って行われた、【二つ名レイド】内での動きについての打ち合わせ。
ライジンが切り出した話題に、心当たりがあったので挙手する。
「【海遊庭園】攻略中、もしリヴァイアが攻撃をしてきたら、か?」
「その通りだ。前回、俺達は各々分かれて道を辿った結果、モンスター達の強襲にあった訳だが、今回は極力戦闘を控える動きになる。もし、リヴァイアが攻撃してきて、その対処に追われている内にモンスター達に追い付かれてしまえば、囮作戦は一気に瓦解してしまうからな」
「でもそれって、『ショートカットしたから攻撃された』って結論じゃなかったか?」
「まあ、正直それで合ってるのなら助かるんだけど……。もし、その条件じゃなかった場合、一度壊滅する可能性が生まれてくるからね。回復アイテムの数にも限りがある訳だし、なるべくロスは避けるべきだ」
「確かにその通りだよねぇ。事前に打ち合わせしているとしていないとじゃあ、対応力も変わってくるしねぇ」
ライジンの言葉に、厨二が同意する。
まあ確かに攻撃して来ないと慢心した結果、一度壊滅する事になるぐらいなら、予め対策を立てておくに越した事は無いか。
「でもどうするんだ? 前回、ポンでも反応出来ずに撃ち落とされた訳だ。一発でも被弾したら死ぬぐらいの覚悟で臨まないといけないぞ」
「そうだね。だから、俺が一番先頭を走ろうと思う。だが、もし攻撃されたとなると俺も回避に集中しないといけなくなるから、司令塔は別の人間に変わってもらう必要がある」
「司令塔を変えるっつったって、あの石の仕様上簡単に出来ないんじゃないのか?」
ボッサンの発言に、ライジンは不敵な笑みを浮かべる。
「その点については問題ない。シオンからの情報で、今作っているアクセサリーは簡単に切り替えが可能なんだそうだ。……まぁ、試作段階だからまだ正確な情報じゃないけどな」
「そう言う事でしたか。でも、そうなると誰が代わりになるんです? この中だと……ボッサンとかですかね?」
「ボッサンには、ボス戦……リヴァイアとの戦闘になったら司令塔を頼みたい。ロール的にもタンクの人間が指示を出してくれた方がDPSジョブの俺らは立ち回りやすいし、こっちも火力を出す事に専念出来るからな。……という訳で」
ライジンはそこで区切ると、こちらに顔を向ける。
「村人。お前が道中の司令塔をやってくれ」
「俺?」
まさか指名されるとは思ってもなかったので、目を瞬かせる。
「ああ。だから村人、お前はなるべく中間辺りに居てくれると助かる。走順としては3、4番目ぐらいで、中央から満遍なく指示を出せるようにしてもらいたい」
「別に良いが……なんでまた?」
正直、串焼き先輩の方が適任だと思っていたから、少し驚いてしまった。
ライジンは俺の疑問に対し、人差し指を立てながら説明する。
「このメンバーの中で、俺のカバーを出来る唯一の人間だからだ。高威力かつ高速で放てるスキルを持つお前なら、不測の事態で俺がピンチになっても迅速にカバーがこなせる。そんな訳でお前に司令塔を頼まないと、伝達の時点でロスが発生するしな。……まぁ、一番の理由としては」
ライジンはふっと口元を緩めて。
「お前なら、安心して背中を任せられる。……それ以上の理由が居るか?」
それを聞いて、思わずため息を吐いた。
ライジンの性格は知っているが、こうも正面から素直に言われるとこっちの方が気恥ずかしくなる。
むず痒く感じる、何とも言えない感情を誤魔化すように、頬を掻きながら。
「そんな歯の浮くような台詞をよくもまあペラペラと……まぁ、気分的には悪くねぇ」
ライジンに向けて笑いかけると、胸をどんと叩いて。
「任せろ。俺が生きている限り、お前を絶対に守ってやる」
「……村人クンも大概だよねぇ?」
「うるせぇ!」
◇
(ライジンがリヴァイアのヘイトを取り、自身に集中させるまでがフェーズ1。その後、ライジンがリヴァイアの攻撃を避けつつ、ボス地点まで到達するまでがフェーズ2。……ここまでは順調だ)
短く息を吐いて、遥か先、氷塊の嵐の中をひた走るライジンを【鷹の目】の進化スキル──【千里眼】を用いて監視する。
極力俺の出番が無いように、ライジンは自力で氷塊を回避し続けている。実際に俺がカバーを行っているのは、先ほどのように初見殺し染みた攻撃を放った時のみだ。
「ライジンが次の中間地点に到達。最後方の厨二は次の中間地点まで進め」
「了解だよぉ」
端的に指示を出すと、厨二が動き出す。ライジンに向かっていたモンスター達が最後方に走っていた厨二の下に向かって動き始める。
シオン考案の囮作戦は滞りなくこなせている。これまで、俺達はモンスター達の攻撃を受ける事無く、着実にボスエリアに向けて進む事が出来ている。
それ故に、一人でリヴァイアの攻撃を受け続けているライジンの負担は大きい。自ら志願した事とは言え、ライジンばかり消耗させてしまえばボス戦で確実に影響が出るだろう。
「
そう呟くと、【彗星の一矢】を発動。
青と白の光が発生し、弓と矢を包み込む。矢を握る手に、モーションアシストが発生し、ギリギリギリと力強く矢を構える。
矢を解き放つと、豪快な風切り音を鳴らしながら、ライジンの下へ飛来していった。
「ライジン、俺が動かない間はお前の援護に回る。極力消耗は抑えてくれ」
俺が放った矢は氷塊を粉砕し、そのまま跳弾した。
次々に飛来する氷塊をまとめて破壊すると、ライジンから驚いたような声が聞こえてくる。
「はは、また腕上げたか? 頼もしい事この上無いな。この調子なら楽々踏破出来そう……だ!」
ライジンが地面を踏み締めると、より一層加速する。
スキル【雷鳴疾走】……天から落ちる雷の如く、その凄まじい衝撃を一度だけ自身の足に宿す加速特化のスキルを使用し、中間地点との距離を一気に埋める。
通算五度目の中間地点の到達。次が【海遊庭園】のゴール……リヴァイアの控える、最奥のエリアだ。
「次でラストだ。村人、援護頼むぜ!」
中間地点の障害物裏に隠れて氷塊をやり過ごすと、ライジンが再びスタートした。
リヴァイアとの距離が近づくにつれ、その猛攻が激しくなっていっている。
一つのミスが死に繋がる、そんな状況の中で、ライジンは
『見事だ、人間。……流石の我もここまでの進行を許すとは思いもしなかった』
リヴァイアがゆっくりと身体を起こす。
これまで、周囲に巨大な水の塊を浮き上がらせ、それを氷に変えて攻撃してきたが、今回は少し趣向が違うようだ。
『出来ればあやつの力を借りたくは無かったが……仕方あるまい』
極小の水の粒を大量に浮き上がらせて、それを氷の礫へと変化させる。
一粒一粒自体は大したダメージにもならないような攻撃、だが。
『デバフが一瞬で加速する』この空間において、一番最悪の攻撃だ。
「ライジン!」
「……これじゃあ村人の援護があってもどうしようもないな」
ライジンも現状をすぐに認識したのか、そう言葉を返す。
これまでは、氷塊を飛ばしてきてくれたおかげで、何とかなっていた。だが、あの粒一粒にでも直撃すればその時点で身体の一部分が凍結し、瞬く間に全身が凍結してしまうだろう。
あまりにも理不尽過ぎる、回避しようの無い攻撃を前にライジンは。
「悪い、村人。予定変更だ」
ただ淡々と、自らがすべき事を導き出していた。
「
ライジンが何事か呟くと、地面を踏み締めた瞬間にバチィ、と雷が迸る。
それと同時に、氷の礫がまるで猛吹雪のようにライジンへと襲い掛かった。
「──【夜天・
【灼天・弐式】の派生。夜天の力を使い、ライジンは自身の身体を雷そのものへと転化させた。
ライジンの身体が閃光と化し、猛吹雪の中を一瞬で駆け抜けると、リヴァイアの真下へと到達する。
「くらいやがれ!!」
ズガァン!!!
そのまま無防備なリヴァイアに、一撃叩き込む。
直撃させた部分の青紫の鱗が黒ずみ、僅かながらにでもダメージが入っただろうが……リヴァイアは平然とした様子で佇んでいた。
それを見て、ライジンは吐き捨てるように呟く。
「はっ、本気で叩き込んだんだけどな。流石に一撃だけじゃまともなダメージにすらならないか」
『……ふむ、自身の身体に甚大な負荷が掛かる技と見たが。……何故生きている、貴様?』
「俺達トラベラーは見かけによらず頑丈なんでね」
そう言って、ライジンが手にしていた札のようなアイテムを投げ捨てると、そのまま燃え尽きる。
『身代わりの護符』……一度だけ自分の代わりに『死』を肩代わりしてくれるという、レアアイテムだ。
吹雪が直撃すれば確実に死ぬと悟ったライジンは、どうせ死ぬならと【灼天・弐式】を使用した。
当然、この【海遊庭園】のギミックである『トラベラー限定の体内時間加速』が発動し、自傷ダメージですぐさま死に至ったのだが……その一瞬で、リヴァイアとの距離を詰めたのだ。
一度限りの特攻染みた強硬策。だが、その目論見は見事成功し、リヴァイアの下へと辿り着けた。
ライジンは一度リヴァイアから距離を置くと、双剣を構える。
「どうせ仲間が集まるまで待ってくれないんだろう? ならそれまで俺と遊ぼうぜリヴァイア。退屈させるつもりは無いぜ?」
『……良いだろう。矮小なその身でこの我に立ち向かうと言うのであれば。全力で応えてやるのもまた強者の務めだ』
喉を鳴らしながらリヴァイアが首をもたげると、咆哮する。
ビリビリと大気が震え、その圧倒的な存在感を持って威圧するが──ライジンの瞳は揺るがない。
前回とは違う確かな闘志を感じ取ったのか、リヴァイアは獰猛に笑う。
『──名乗りを上げよ、小僧』
「……ライジン。トラベラーだ」
『ライジンか、良い名だ。我が名は冥王龍、リヴァイア・ネプチューン。【龍王】ユグドラシルの眷属にして、この大海を統べる覇者である!』
リヴァイアがその巨躯を動かすと、大地が鳴動し始めた。
その巨大な牙を剥き出しにし、真紅の双眸がライジンを捉える。
取るに足らない獲物から、警戒するに値する強者として。
『我が守護するは、深海に灯る聖なる
レイドボス【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】と、ライジンたった一人の戦いが幕を開ける。
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