#213 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その十三 『氷塊ランナウェイ』
余りにも順調すぎるレイド攻略。
海遊庭園に住まうモンスター達はその仕様を突かれ、広大なフィールドを右往左往させられ、完全に動きを封じられている。
最奥で控える紺碧の巨龍……『五天龍』が一角、【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】はその様子を見かねて、遂に動き出した。
『困難無き挑戦など、英雄の所業に非ず。神を打ち倒す偉業を為すのであれば、この程度の苦難、乗り越えて見せよ。──人間!』
リヴァイアが吠えると、周囲を渦巻く氷塊が、鋭利な刃へと変貌していく。
静かに、だが正確に。先導するライジンへとその照準が向けられ、勢い良く解き放たれた。
『避けられないようであれば、我の前に立つ資格は無い!』
前回の挑戦時、力量を図る目的で放った氷塊は、高速で空中を滑空するポンを正確に射抜き、撃墜させた。
前回から成長していないならば、この氷塊でライジンは消し飛ばされるだろう。
ライジンは、氷塊に気付いた様子は無く、足を止めずにそのまま走り続けている。
(やはり期待外れ、か)
──と、リヴァイアが嘆息した次の瞬間だった。
身体を掠めるぐらいの至近距離で、ライジンは氷塊を見切って避けた。
そのまま足を止める事無く、ライジンは地面を抉りながらフィールドを駆け抜け続ける。
(……ほう? 今のはまぐれか? こちらを見向きもせずに回避するとは)
リヴァイアは目を細め、ライジンを眺める。
攻撃された事で動揺している様子は無く、ただ淡々と自分の役割をこなしていた。
ライジンが再び中間地点に到着し、足を止めたその時。
ライジンは冷めた瞳をリヴァイアへと向けると、片腕を突き出した。
(そんなもんか? もっと来いよ)
人差し指をくいっと曲げ、挑発染みた行動を取る。
そんな彼の様子を見たリヴァイアは、心底愉快そうに口角を吊り上げた。
『クハハ! この我を前にして挑発とはな! だが、その意気や良し! ──大海の覇者と呼ばれた我の実力、存分に味わうが良い!』
◇
再び自分の順番が回ってきて、走り始めたライジンは、冷静に状況を分析していた。
(やはり痺れを切らして攻撃してきたか。……俺が先頭を走って正解だったな。もし串焼き団子さんやボッサンが先頭を走っていたら、今の一撃で吹き飛ばされていただろう)
ライジンが名を挙げた両名は、機動力があるスキルを殆ど持っていない。
FPSで鍛え上げた動体視力があると言っても流石に限度がある。
高速で飛来する氷塊を、スキルを使用せず被弾無しで回避するのは至難の業だ。
幾ら事前に村人の【
(今のはパフォーマンスを含めて至近距離で回避したが、次からはちゃんと余裕を持って避けないとな。無駄な被弾は避けないと、ボス戦の前にアイテムが枯渇しちまう)
ライジンがリヴァイアの放った初撃を視線もくれず至近距離で回避したのは、リヴァイアのヘイトを自分に集中する為なのだ。
お前の攻撃なんて、見なくても躱してやるよ──そういう意図を込めての、
なまじ頭の良いAIだからこそ、意図を汲んでくれる前提の挑発行為だ。
(さて、リヴァイアはどう出る……ッ!?)
ゾクゾクゾク、と悪寒が
スキル【危険探知】──1st TRV WARでオキュラスも使用していた、自分の身に迫る危険を悪寒という形で報告してくれるスキルの効果が発動し、ライジンに危険が迫っている事を知らせる。
それが何度も連続して発動したという事は──。
ライジンが、バッと顔をリヴァイアの方へと向ける。
すると、リヴァイアの周囲に凄まじい量の氷塊が浮かび上がり、その鋭利な切っ先をライジンへと向けていた。
あの量が一度に襲い掛かってくれば、いくらライジンと言えども回避は困難だ。
一瞬だけひくりと頬を引き攣らせるが。
(……はっ! 上等! 元よりそのつもりで挑発してやったんだ!)
ライジンは笑みを作ると、再び足に雷を収束させると、感応のネックレスに向かって吠える。
「リヴァイアのヘイトがこっちに向いた! フェーズ2に移行、
と、ライジンはネックレスに取り付けていた感応石を取り外し、ブレスレットに呼応石を取り付けた。
すると、接続が切り替わり、別の人間が司令塔となる。
『【
同時に、リヴァイアから放たれる氷塊の嵐。
ただライジンだけを狙い澄まし、進行を阻もうと襲い掛かる。
「前回は大人しかったのに今回は荒々しい歓迎だな!」
ライジンは地面を強く踏みしめると、跳躍する。
それとほぼ同時にライジンが居た地面に氷塊が着弾、爆散してそのまま地面を一瞬にして凍結させていく。
その様子を見ていたライジンは、一つ息を吐いた。
(ただ避けるだけじゃ駄目みたいだな。なるべく足場を失わないように立ち回らないと!)
ガン、と【空中床作成】のスキル効果で生み出された床に勢いよく着地し、すぐに飛んで離れる。
一拍遅れて氷塊がライジンが作成した床を破壊し、遥か彼方へと飛んでいく。
次々と飛来してくる氷塊を、ライジンは軽やかに回避し続ける。
地面に一度着地し、再び跳躍、眼前に迫る氷塊を両断。
常に最適解を選び続けながら、ライジンはほぼ無傷で氷塊の嵐をやり過ごしていく。
『ただ徒に放っただけではまともな傷を付けられないか。……ならば、こういうのはどうだ?』
リヴァイアが再び氷塊を作成すると、ライジンに向けて飛ばす。
一見普通の氷塊だが、ライジンは直感的にこのまま受けるのはマズイと判断する。
回避してやり過ごさねば……とライジンがスキルを発動しようとした瞬間、氷塊が爆ぜた。
「ッ!?」
爆ぜた氷塊は液体状──つまり
行く手を阻むに十分すぎる量の水は瞬間的に凍結していき、ライジンを取り囲む即席の檻が形成されていった。
視界的にもリヴァイアの状況を確認する事が出来ない状態で、リヴァイアは一際巨大な氷塊を生成する。
『終いだ』
ライジンを捉えた檻ごと粉砕しようと、巨大な氷塊を飛ばす。
【危険探知】の効果で自分の身に危険が迫っている事は把握していたが、避けようも無いライジンは──あろうことか
「ああ、流石レイドボス。デカいなりして随分器用な真似をしやがる──でもな」
氷塊が、ライジンを捉える檻に着弾しそうになった、その時だった。
「俺には仲間が居る」
遥か後方から、
その生まれた一瞬の隙に、ライジンは氷の檻を両断。危機から抜け出すと、ライジンは自分の代わりに指令塔となった人物に感謝を述べる。
「ナイス援護だ
「任せろ相棒。お前が捌ききれない攻撃は、全部撃ち落としてやるからよ」
ブレスレットから頼もしい仲間の声が聞こえてきて、ライジンはふっと笑う。
ライジンは再び地面へと降り立つと、双剣の切っ先をリヴァイアへと向けた。
「どうしたリヴァイア。もう五秒は過ぎてるぜ。──俺を仕留めるのに時間をかけ過ぎじゃないか?」
『クハハハハハ!! 認めよう、貴様らは我と戦うに値する人間だ! 精々、我の前に辿り着くまでに死ぬで無いぞ!』
リヴァイアが追撃を加えるべく氷塊を作成し始めるのを見ながら、ライジンは再び駆け出した。
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