#212 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】その十二 『攻略再開』


「はいどうも、皆さんこんばんは! ライジンです!」


 二つ名レイドに突入し、【海遊庭園】に到着した一行は、すぐに攻略を開始せず──を開始していた。

 配信スマイル全快で愛想を振りまくライジンは、視線を他のメンバー達に向ける。


「今回ゲリラ生配信という事で、事前告知一切無しで放送しています。そういう背景もあり、視聴者の皆さんも配信に参加しているメンバーも分からないと思うので、予め紹介させて頂きます。二つ名レイドに挑戦するメンバーは、FPSのゲーム、『Aims』で一緒にチームを組ませて頂いている変人分隊のメンバー+プロゲーミングチーム、『紫電戦士隊パープルウォーリアー』のリーダー、串焼き団子さんを加えて挑みます」


 ライジンはそう言うと、他のメンバー達の方へとカメラを向ける。

 カメラを向けられたメンバーは会釈したリ、笑顔を見せたりと各々違った反応を見せる。

 だが、彼らには浮ついたような気持ちは無く、カメラが離れてから集中した表情でエリアの先──【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】の控えるボスエリアを見据えていた。


 一通りカメラを向け終えると、ライジンはこほんと一つ咳払いして。


「さて、紹介はこのくらいにして本題に入ります。俺らのクラン【変人連合】は、『気楽に楽しもう』をモットーにゲームをプレイしている訳なのですが……」


 と、そこで区切ると、配信用の笑顔が消える。すっと目を細めて、真剣な表情に変わったライジンは静かに宣言する。


「今回は本気で行かせてもらう──つまり」


 ライジンはそのまま、次の言葉を紡ぐ。


「この放送で、二つ名レイド【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】を攻略する」


 確固たる信念を秘めた宣言。

 真面目なライジンの様子に困惑したような視聴者達のコメントを見て、ぱっと表情を和らげると。


「多分放送を見ているSBOプレイヤー達は、そういう事なら攻略法を見せて大丈夫なのか、と思うかもしれませんが別に構いません。この配信を見ながら後追いトレースで攻略しようが何しようが結構。……俺らがWorld 1stを取るという結果は揺るがない」


 大胆不敵過ぎる宣言とは裏腹に、少年のような笑みを見せるライジン。

 そして、カメラに向かってぱんっ!と両手を合わせると。


「ですので、集中して攻略に臨みたいので今回の配信ではコメントの返信等が出来ません、ごめんね。──まあぶっちゃけた話、この放送は今回参加出来なかった大事な仲間に見せる為の配信なんでね」


 そう、この突発生配信には一つの意図があるのだ。

 前回【二つ名レイド】に参加したが、今回ベストなメンバーで臨む為にメンバー離脱を余儀なくされてしまった彼女シオンがその結末を見届ける為だけにライジンが提案したのである。


 ライジンはひっそりとシオンから届いたメッセージを確認すると、ウインドウを閉じる。


「さて、挨拶もこれぐらいにして、そろそろ攻略に臨みたいと思います」


 ライジンは最後にそう締めると、準備を終えて待っていた他のメンバー達の方へ顔を向けた。


「じゃあ、皆。準備は良いか?」


 ライジンの掛け声に対して頷くと、各々感応石と呼応石をアクセサリーに装着する。

 アクセサリーが淡く輝き出したのを確認してから、ゆっくりと歩き出した。



「──さぁ、行こうか!」



 クラン【変人連合】、【海遊庭園】攻略開始。





 【海岸の主、未だ双壁に傷を負ず】における主要テーマは大きく分けて二つだ。


 『時間』と『空間』。


 二つ名、【双壁】はこの二つの概念に干渉する事が可能であり、その能力を用いてギミックという形で牙を剥いてくる。


 このエリア、【海遊庭園】もその例に漏れない。

 【海遊庭園】における『時間』のギミックは、『トラベラー限定の体内時間加速』。

 これは、実質的な継続性のバフ等の使用禁止、そして継続ダメージのあるデバフ=即死に繋がってくるという凶悪なギミックだ。

 

 この時点で十分難易度的に高いのだが、もう一つのテーマである『空間』のギミックも忘れてはいけない。

 【海遊庭園】の『空間』のギミックの一つは、追跡範囲が異様に広いリザード種達のヘイト切りの為の空間が用意されている、という単純な物だ。

 どちらかと言えば、プレイヤー寄りの優しいギミック──と思うかもしれないが、実際の所そうでもない。

 何故かと言うと、隔離空間──つまり、シャボン玉の外に一歩でも足を出した瞬間、【のヘイトが集中するのだ。

 そう、真に注意すべき『空間』のギミックとは、──どの場所にいようが、敵に捕捉されてしまうという物なのだ。


 これらのギミックをこなしながら、スタート地点からボスエリアのあるゴール地点まで渡り切らなければならない。


 だが、ここのエリアの攻略法は、前回の攻略の際にもう編み出している。


「打ち合わせ通り行くぞ!」

 

 まず、一番最初に出発したのはライジンだ。

 予めバフを盛っておく事で、最初の一歩で凄まじい加速のままスタートダッシュを決める。

 外の空間に出た次の瞬間、ギミックが発動し、バフの効果は一瞬にして消え去ってしまうが、加速した勢いは衰える事は無い。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 途端、大気が震える程の大合唱が【海遊庭園】に響き渡る。

 【海遊庭園】の至る所からモンスター達が顔を覗かせ、ライジンに向かって進行を開始する。


「来いよ、蜥蜴共」


 ライジンは加速した勢いを落とさないように、足を緩めずに走り続ける。

 バチィ、とライジンの足元に雷が発生し、踏み込んだ足が地面を抉る。


「【雷鳴疾走】!」


 ズガァン! と落雷のような音を響かせ、ライジンは疾走する。

 一歩一歩、地面を抉りながら疾走し続けるライジンは、あっという間に第一中間地点に到着した。

 ライジンは短く息を吐くと、間近にまでモンスターが集まってくるのを見届けてから、中継地点のシャボン玉内に入っていく。


「ポン、スタートだ」


「はい!」


 ライジンは淡く輝いているネックレスに言葉を投げると、ポンからの返事が返ってくる。

 と、同時にスタート地点で爆発が巻き起こる。

 

 二人目の出発者はポン。

 ライジンの下に集ったモンスター達は、今度は一斉にポンの下へ走り出した。


 ギミックの影響を受けない爆発による加速で、フィールドを一気に駆け抜けていく。

 遠距離攻撃をしようとしてきたモンスターを見て、ポンがブレスレットに向かって声を上げる。


「ライジンさん!」


「了解!」


 粗方ポンの方にモンスター達が向かったところで、ライジンが動き出した。


 すると、モンスター達は突如として出現したライジンの気配に、思わず足を止めた。

 このままポンの下へ向かうべきか、それともライジンの下へ向かうべきか──その葛藤が生じてしまった一瞬の隙を突いて、ポンは中間地点へと滑り込んだ。

 モンスター達はポンの気配が消えてしまったので、ライジンの下へと再び動き出す。


 前回の、圧倒的な物量による猛攻撃に苦戦していたのが嘘のようなスムーズ過ぎる攻略。


 これが、シオンが編み出した【海遊庭園】の道中安定攻略法──である。

 

 攻略法を要約すると、基本的にシャボン玉外に出るプレイヤーは一人のみ。

 すると、シャボン玉外に出ているプレイヤーのみにヘイトが集中する。モンスター達を引き寄せ終わったら、次の人間がスタートする。

 後はその繰り返しをするだけで、安定してゴールまで辿り着く事が出来るという方法だ。


(見てるかシオン。俺達は無傷でボスまで辿り着いて見せるぞ)


 俺は目の前の光景を見ながらにやりと笑うと、スタートの準備を始めるのだった。





『……ふむ、少しは知恵が回るようだな』


 【海遊庭園】最奥。

 巨大な岩にとぐろを巻いてライジン達の様子を眺めていたリヴァイアは、静かに呟く。


『だが、それだけで我の下へ簡単に辿り着けると思っているのか? ……フフ、精々楽しませてくれよ、人間』


 ゆっくりと巨大な氷がリヴァイアの周囲を漂い始める。

 その氷は鋭利な刃の形へと変わっていくと、先頭を走るライジンへと照準が向けられた。


『……さぁ、行くぞトラベラーよ。この困難を超えて見せよ』

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