#209 それぞれの決戦準備 sideバトルチームその四
「【灼天・神楽】!!」
スキルを発動すると、ライジンを起点に凄まじい火炎が突発的に発生し、クリスタルリザード達を呑み込んだ。
レベルを上げた事によってその火力と出力が増強され、レベル上げ開始時には苦戦していたモンスター達を一方的に蹂躙していく。
「【斬撃乱舞】!!」
続けてライジンが双剣を振るうと、炎が
軽やかに舞うように放たれる斬撃は、的確にリザード達だけを切り裂いた。
ライジンが選んだ上級職は【
双剣士から派生する特殊な上位職に当たるジョブであり、戦舞と呼ばれる特殊な踊りをこなす事で自己強化のバフを積む事が出来るのが特徴のジョブだ。
「そっち行ったぞ!」
「了解、撃ち漏らしゃしねぇよ!」
強烈な火炎を振りまき続けるライジンの元から逃げ出したクリスタルリザード達の背中に、大量の弓矢が突き刺さる。
一発の撃ち漏らしも無く完璧な射撃を行った射撃の主──串焼き団子は、ふんと鼻を鳴らす。
「撃ち漏らしするなんてまだまだだなライジン!」
串焼き団子が選んだ上位職は【熟練狩人】。
下級職である【狩人】時代のスキルがより強力になり、一撃よりも手数に重きを置いたジョブだ。
正当な上位職である為、使い勝手はほとんど変わらず、シンプルではあるがその分立ち回りの自由度が高い。
手広くカバーをこなす事が出来る串焼き団子だからこそ、その真価を発揮していた。
クリスタルリザードがポリゴンへと変わった直後、すぐさま後続のリザード達が串焼き団子に飛び掛かった。
「うおッ!? わりぃ、カバー頼む!」
「よい、しょおッ!!!」
後方から加速して飛来してきたポンが、串焼き団子に襲い掛かろうとしていたクリスタルリザードを【星降りの贈笛】で叩き潰した。
ポンが選んだ上級職は【花火職人】。
【花火師】の正当進化ジョブであり、相変わらず攻撃に対するコストは据え置きだが、その分下級職時代に比べれば火力は跳ね上がっている。
笛が叩き付けられた地点が派手な爆発を起こし、そのまま周囲に居たリザードも諸共吹き飛ばしたのを見て串焼き団子がぎょっとする。
「
「大丈夫です、イベント装備なので、耐久度無限なんです!!」
「いやそういう問題じゃなくてね!?」
明らかに本来の用途とはかけ離れた使い方をするポンに、思わず声を上げる串焼き団子。
そんなやり取りをしている間に背後に回り込んでいたリザードが飛び掛かるが、全て空中で叩き落される。
「げっ、いつの間に!?」
「ライジンを煽る割に隙だらけだねぇ、串刺しくぅん? 見捨てた方が良かったかなぁ?」
「くっそ……!! 事実その通りだからなんも言い返せねぇ……!!」
にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべながら串焼き団子を煽るのは銀翼だ。
漆黒のステッキを振り回しながら、飛び掛かる敵に目もくれずに正確に叩き落し続ける。
彼のジョブは1st TRV WAR時から変わることなく、【怪盗】のままだ。
本来運営が想定していた使い方とはズレているインチキマジシャンのようなスキル構成の彼のトリッキーさは、プレイヤーだけでなく、モンスターでさえも翻弄する。
「リキャ戻った! 後は俺に任せろ!!【ターントゥアンカー】!」
人間大ある巨大な戦斧を振り回し、地面に叩き付けてスキルを発動したのはボッサンだ。
その場に居た全てのリザードの
「うおおおおおッ!! 【アングリーサイクロン】!!」
真っ赤なオーラを噴出させながら戦斧を振り回すと、リザード達が切り裂かれてポリゴンへと転じる。
ボッサンが選んだ上級職は【重戦士】。
下級職の【戦士】を攻撃に特化させたような性能をしている為、タンクの中でもDPSジョブに匹敵する火力を持っている。
時間制限こそあるが、広範囲のモンスターの
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
と、その時、戦場に特大の咆哮が響き渡った。
上方から出現し、地面に降り立ったのは【二つ名レイド】で遭遇したキングアクアドラゴンだ。
「村人ォ!!」
ボッサンが声を上げて村人Aの方へと顔を向けるが、既に準備を終えているのを見て笑みを浮かべた。
「【
村人Aの放った弓矢が弾丸の形状へと変わり、地面や壁を跳弾する事でキングアクアドラゴンの身体を何度も貫いた。
キングアクアドラゴンは悲鳴すら上げる事も出来ずに、そのままポリゴンとなって瓦解した。
「
そのままリザード達の猛攻が止み、戦闘が終了する。
リザルト画面が出現し、最後のレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。
◇
「お、レベル70になった。……これで上級職、全員カンストしたな」
ウインドウを確認し、にっと笑いを浮かべるボッサン。その言葉を聞いて、ボッサンと厨二以外の全員がその場にへたり込んだ。
「つ、疲れました……。 まさかレベリングだけで四日も使う事になるとは……」
「しかも時間合わせて、その時間まるまるこの地下迷宮に籠りきりでこれだからな……。シオンに回復アイテムとかを集めてもらうのを頼んどいて良かったぜ……」
「全くだ」
串焼き先輩の言葉に同意する。【二つ名レイド】の進行状況リセットの期限まで後一日だ。明日、再び【二つ名レイド】に突入しなければまた『水晶回廊』からやり直す羽目になる。
【龍王】との戦いで回復アイテム類は買い占められていたので、相場が乱高下してしまっている現在、安く購入する為にマーケットに張り付く訳にも行かず、シオンに頼り切りになってしまっていた。
「何とか期限に間に合って良かったな。後はシオンの進捗だが──」
「シオンの方も完成したみたいだぞ。だけど、性能を上げる為にまだ改良してる最中だそうだ」
「なんでライジンの方に連絡が行って俺の方に来ていないんだ!? 何故だマイシスター!?」
この世の終わりとでも言いたそうな表情を浮かべて吠える串焼き先輩。
多分だけど、あんたに対して返信がめんどくさいからだと思うぞ。
「それなら上々。この後はどうする?」
「各々好きなように、だね。連携自体はこのレベリング期間でかなり良くなったし、シナジーとバースト合わせのタイミングも完璧だ。……後はしっかり身体を休めて、明日に備えよう」
「了解。じゃあ俺は少し寄りたい所あるからそこに行ってから落ちるかな」
「……アラタ君の所に行くんですか?」
「ん、いや。アラタには【双壁】を倒すまで会わないつもり。今会ったら、嘘付きだって言われそうだしな。……ちゃんと、ラミンさんを連れ戻してから会いに行こうと思う」
少なくとも、『海遊庭園』までのエリアで巫女が囚われているような形跡は無かった。
コンテンツ攻略に並行して、ラミンさんの捜索も行わなければならないな。
「私もそれが良いと思います。……となると、歴代巫女の墓とかですか?」
「正解。何か双壁攻略の手がかりが無いかって最後のダメ押しにさ。ポンも行くか?」
「そう言う事ならお供します」
そう言ってポンがニコリと笑う。俺一人だと発見できる物も発見できなかったりするだろうし、助かるな。
「串焼き先輩は?」
「俺はこのままプロの練習の方に合流するかな。結構無理言ってスケジュール調整してもらってるし、早く戻るに越した事は無いしな」
「なるほど。厨二は……」
「僕はスキルの調整とかするよ。……極端にプレイスタイルを変えるような事はしないから安心してネ」
「マジで頼むぞ、お前の気まぐれで立ち回りが変わるのだけは勘弁だからな……!」
厨二の言葉を聞いて、串焼き先輩が真顔で両肩を掴む。
それを見て「え~? どうしよっかなぁ?」とにやにや笑いを浮かべる厨二だったが、流石にそんな事はしない……と思いたい。
「ボッサンはどうするんだ?」
「しんぼるの手伝いに行く予定。今、マンイーターを裸ソロ縛りしてるから観戦しに来い、だそうで……」
「相変わらずだなしんぼるさん……」
しんぼるさんはどちらかと言うと普通のプレイじゃ飽き足らず初見ですら何かしら縛りを加えてゲームをやる人だ。
シオンが最近ソフトをあげたって言っていたから始めたばかりだろうに、もうそんな変態プレイしてるのか……。
最後の一人、ライジンが自分には聞かないのかとこちらをじっと見てくるので、一応聞いてみる。
「ライジンも一緒に来るか?」
「うーん、一緒に行きたい所だけど……」
ちら、とライジンがポンの方に向くと、ポンが首を傾げる。
「いや、辞めとくよ。他にやらなきゃいけない用事あるしな」
「そうか。まぁ、一応何か気付いた事があれば連絡するよ」
「了解。何か気付けたら些細な事でもいいから教えてくれ」
「そう言って深読みしまくった挙句考察のし過ぎで寝れなくなるとか勘弁だからな?」
「あっはっは、流石にそんな事しないよ」
ライジンはそう言って笑うが、実際にあった事だから心配してるんだけどな。本番に遅刻とか洒落にならないからな……(自分への戒めも込めて)。
「それじゃあ、これで解散で。皆、お疲れ様!」
「お疲れ様でした!」
「おう、お疲れ!」
ライジンの解散の合図で、各々散っていく。
「では村人君、行きましょうか」
ポンの言葉に頷き、俺達は歴代巫女の墓へと移動したのだった。
────
【補足】
下級職はレベル50カンスト、上級職はレベル70カンストです。
ちなみに、彼らが普通に会話出来ているのは、周囲の音吸水晶を破壊してあるからです。
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